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VS魔王 Ⅱ

「おぬしが今回の勇者か。残念ながら伝説の勇者よりも格上のようだな」

「そうだな。お前は伝説並みか?」

 伝説の勇者がSSRである以上魔王も同格ぐらいだろう。

「そうだ。だが、お前は所詮強さだけがSSSRの戦闘人形に過ぎない」

「魔王にだけは言われたくないんだが」

「そうか? 余も一応思想を持って人間と戦ってはいるんだがな」

「おいおい、まさか最近はやりの『実は人間が悪で魔族が善の存在だった』オチにするつもりじゃないよな?」

 正直ここまで魔族を虐殺してきたのでそのオチだと非常に嫌な気持ちになる。そしてこの期に及んで俺はレアリティというよく分からない概念が引っかかってきた。大丈夫だよな? 人が作ったレアリティとかいう負の呪縛を魔王が打ち壊して世界に自由を取り戻そうとしているとかじゃないよな? 俺は急に不安になる。


「いや、善悪について論じるつもりはない。魔族と人間の対立はただの対立だ。人間のお前が人間に味方するのも無理はないこと。ただ、最近一つ気になることがあってな」

「何だ?」

 魔王の術中に嵌まっているような気がしなくもなかったが、思わず俺は尋ねてしまっていた。レアリティという存在。概念魔法。この世界は一般的なファンタジー世界とは少し違う。それに俺も引っかかりを覚えていた。だから魔王の言葉にもつい耳を傾けてしまう。


「人間が“集合生命”に手を出そうとしていることだ」

「“集合生命”?」


 聞きなれない言葉だ。

「まあ、それは余がそう呼んでいるに過ぎないのだがな。簡単に言えば、人間は個人と集団では違うということだ。例えば善良な者でも悪い組織に入れば悪人になるし、逆もまたしかりだ。それはつまり、個人としての存在よりも集合としての……」

 魔王の話が佳境に入って来たときだった。


「死ね!」

「ぐはっ!」


 突然俺は背中に激痛を感じる。見ると胸元から剣の刃先のようなものが飛び出していた。正直めっちゃ痛いが、痛みに耐性のない俺がめっちゃ痛いで済んでいるのはこの圧倒的レアリティのおかげだろう。

「……くそ、完全に不意を撃ったはずなのに。これがSSSRか」

 俺は後ろに手を伸ばすと俺を貫いた剣を握っているクソ野郎の手首を掴む。ただの不健康大学生だが、SSSRの加護があるのでいくら相手が暴れても振りほどけない。痛みが大したことないと分かると俺はふつふつと怒りがこみあげてくる。


「てめえこの糞魔王! よくもこんな卑怯な手を!」

「別に余が命じた訳ではないのだが、戦場で警戒を怠る方に問題があるのでは?」

 魔王に論破された。確かにその通りではあるが。悔しくなったので振り向きもせずに手の中に魔力を込める。

「シューティングスター」

「ぎゃああああ!」

 至近距離から流星の直撃を受けた暗殺カス野郎の悲鳴が聞こえ、掴んでいた手首から力が消える。俺は痛みに耐えながら体を貫いていた剣を抜いてぽいっと捨てた。くそ、めっちゃ痛いし失血で意識がもうろうとしてくる。

「人間たちはすでにこの集合生命を……」


「いや、なかったことにして話続けてるんじゃねえよ」

「SSSR勇者にはかすり傷だろう?」

 魔王は別に煽っている訳でもなくそう言った。確かに魔王のように常に戦いの中に身を投じている者からすればこれぐらいかすり傷かもしれないが。とはいえ魔王への怒りを差し引いても、回復魔法は使えないのでこの傷を放置して話を聞く訳にはいかない。

「超新星爆発!」

 俺は魔王に向かって先ほどの光の球を発射する。すると魔王はふっと姿を消した。光の球は魔王がかつていた辺りでむなしく爆発する。

 何かかなり重要なことを話していたような気もするが仕方ない。そう言えば魔族軍が本教会に奇襲したと言っていたし、テレポートのような力を使えるのだろうか。

「最近の勇者は怖いな。いきなり襲い掛かってくるとは」

 今度はちょっと煽り気味に魔王は言った。しかしいきなり襲い掛かってきたのはどう考えても相手である。


「シューティングスター」

 今度は広範囲に流星を降らす。そしてその間にメテオストライクの調整を脳内で始める。あまり範囲を絞りすぎるとテレポートで逃げられる可能性がある。とはいえ、ここで魔王が逃げおおせても残った魔王軍が壊滅すれば一日回復を待って魔王にもう一度撃ちこむだけである。となれば魔王もそんなに遠くには逃げないはずだ。

 魔王は無言で黒い盾を展開すると流星は全て防がれる。そしてお返しとばかりに黒い球のようなものを発してくる。俺は杖を振って小さい流星を生み出し、黒い球にぶつける。球は流星とぶつかっては爆発した。辺りにきらきらした光の欠片のようなものが飛び散る。


「さすが勇者殿。レアリティに差がある以上普通にやり合っては勝てぬな」

「うるせえ暗殺糞魔王!」

 俺の罵倒の語彙は貧しい。幸いにも誰かを本気で罵倒するような機会はただの大学生活にはなかなかなかった。

「では行くか」

「させるか」

 が、そこで俺は体の自由が利かなくなったことに気づく。まるで周囲の空間が固まったかのように。魔法を使おうにも周囲の魔力も硬直しており、発動しない。

「危なかった。いくらレアリティが高いと素の能力は高いようだが、魔法をかけてしまえば変わらないものだな。威力系の魔法では死にそうもないからテレポートで地下一万キロぐらいに埋めておくか。勇者さえいなくなれば教会から光の環を……」

 魔王は恐ろしいことをぶつぶつと言いながら歩いてくる。俺は一瞬死を覚悟した。が、すぐにとどめを刺さなかったのが魔王の敗因となった。


 突如、空がぴかっと光ったかと思うと物凄い勢いで何かがこちらに迫ってくる。

「ん?」

 魔王が異変を察して空を見上げる。そしてその顔から血の気が引いた。そう、メテオストライクは宇宙から隕石を落とす魔法。発動から命中までにタイムラグがあるのだ。そして一度発動してしまった魔法を止めることは出来ない。

「ダークシールド!」

 慌てて魔王がバリアを展開する。しかしレベルが上がり、範囲を狭めて威力を高めた俺の魔法は即席のバリアで防ぎきれるものではなかった。即席とはいえ、イリスが展開したバリアと変わらぬほどではあったが。

 あれ? そんな攻撃が命中したら魔王だけでなく俺も死ぬのでは? だが、一度発動してしまった魔法を止めることは出来ない。特に術者が動きを封じられている場合は。


ドオオオオオオオオオオオオオオン


 凄まじい轟音とともにメテオストライクはダークシールドを破壊して俺と魔王に直撃した。その記憶を最後に俺の意識は途絶えた。

罵倒の語彙ぇ……

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