VS魔王 Ⅰ
「イリスはリアに事情でも聞きつつ待っててくれ」
「いえ、私も露払いくらいはしますよ」
イリスは疲れているのかよろよろしながらついてくる。
「それは頼もしいな」
「そりゃ、SR神官ですから」
が、その途端にドカーン!というひと際大きな音が響いたかと思うと、「壁が破れたぞ」という叫びが聞こえてきた。
「ついに来たか」
俺たちが音のした方に走っていくと、赤黒い肌をした角の生えた二~三メートルほどもある巨人たちが巨大な棍棒を振り回して防壁を破壊したところだった。巨大な防壁だったが今では大きな亀裂が入り、近くに破片が飛び散っている。兵士たちは逃げ去るか瓦礫の影に身を潜めているだけだった。
「グォオオオオオオオ!」
巨人たちは咆哮を上げながら防壁の割れ目に手をかけて割れ目を広げようとしてくる。それを見たイリスは真剣な表情で詠唱を開始する。
「我、神に願う。邪悪なる者どもを殲滅し我らの秩序を守らんことを。エクスキューション!」
瞬間、イリスの体から前方に白く光る衝撃波のようなものが放出される。その先にいたのは先ほどの巨人たちである。しかし衝撃波の直撃を受けた巨人たちは体を粉々に粉砕され、さらに衝撃波は後続の魔族の軍勢たちを蹴散らしていく。強靭な魔族たちをいともたやすく吹き飛ばす魔法に改めて俺は驚きを覚える。この一撃で魔族の軍勢の一角に切り込みを入れたパイのように隙間が出来た。
「ご武運を」
「ありがとう」
俺はそう言ってイリスが作ってくれた隙間に向かって駆けだす。当然魔族たちもそんな俺を袋叩きにするため群がってくる。
俺はメテオストライクを使うか考える。すると昨日レベルアップした影響なのか、メテオストライクの範囲と威力を調整出来るような気がした。簡単に言うと範囲を狭めて威力を増すことが出来る気がする。ということは魔王以外を普通に倒せば魔王に超強力な一撃を当てられるということだ。俺は杖を顕現させる。
「シューティングスター」
レベルが上がったせいか通常攻撃も強化されていた。杖ではなく空中から現れた星たちが魔族軍の上に降りそそぐ。俺の周りでは小さな流星が降り注ぎ、次々と魔族の悲鳴が響いた。そしてそのたびに俺は自分のレベルが上がっていくのを感じる。
「ち、やはり雑魚じゃ勇者の相手にならねえか。俺は魔王軍四天王、怪力のゴルド」
周りの魔族が次々と倒れていく中、流星を受けても倒れない巨漢が現れた。トロールの進化系なのだろう、身長は二メートルほどとそんなにでもないが、血まみれの重装鎧を身にまとい、手にした棍棒はそいつの身長ほどもある。ちなみにSRだ。
「流星よ、降りそそげ」
俺は散発的に降り注いでいた流星を全てゴルドに向ける。ゴルドは物も言わずに向かってくる流星を棍棒で叩き落す。
「ふん、この程度が通用するのは雑魚までだ」
「そうか、ならさっき使えるようになった新技を見せてやる」
俺は杖から一つの光の球を生み出す。サッカーボールほどの大きさで、ふよふよと飛んでいる。周囲にはちりのようなものが舞っている。そんな光の球は周囲に舞うちりや小石とともにゴルドの方へ飛んでいく。
「何だこれは」
ゴルドはいぶかしみつつも棍棒を振り降ろす。とりあえず全部殴っておけばいいと思っているだろうお前。ゴルドの棍棒は城壁すらも一撃で吹き飛ばしそうな勢いで光の球に迫る。
棍棒が光の球に触れた瞬間、光の球はまばゆいばかりの光を発して爆発した。
「ぐあっ」
爆発に巻き込まれたゴルドも木っ端微塵も消し飛ぶ。ついでに近くにいた雑魚魔族も数匹ほど消し飛んだ。
「見たか、超新星爆発だ」
ゴルドはあの世に行ったから答えようがなかったが、俺を囲んでいた魔族たちもさすがに動揺を隠せないようだった。基本的に魔族に恐れの感情は希薄だが、四天王の一人が一撃で消し飛ばされたことはさすがにショックだったらしい。俺の周りの魔族たちが遠巻きになる。
「お見事お見事」
すると、そんな魔族の間から手を叩きながら一人の男がやってきた。男は人間のような平凡な体躯をしていた。身長も二メートル未満だし角も牙も翼もない。服装も黒いローブに剣という普通の人間とそんなに変わらない。
にもかかわらず圧倒的に他の魔族とは格が違った。こいつはSSRだ。
俺も緊張しつつ杖を構える。こいつは他の魔族と違って、普通の攻撃では一撃で葬ることは出来ない。直感的に俺はそれを悟った。相対したときの緊張感がまるで違う。俺の身体からじっとりとした汗が噴き出す。
ここまでSR以下の相手には適当に戦っても勝つことが出来た。しかしレアリティ差が一つでは万に一つもということはある。
「お前が魔王か?」
「いかにも、人間からはそう呼ばれている」
魔王ですらSSRでしかない。
次回、格下の魔王が格上の主人公相手に知略を巡らせて逆襲する!?