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001.『いつもの目覚めは』

 ちちちち、と小鳥が高らかに歌う。うとうと微睡む耳には心地良い。薄いカーテン越しに朝日が差し、目を瞑っていても瞼越しに朝の訪れを感じる。


 男はベッドから上体を起こそうとし、そして気付く。


「また入り込んできたか」


 全く仕方ないな、と苦笑する。男一人で寝るには大き過ぎるサイズのベッドをわざわざ買ったのはその為なのだが、それも昔の話だ。改めて小さい一人用のベッドを買おうかと思った時もあったが、次の日には結局重さに耐え切れずに壊れてしまいそうな気もする、と試さずにいるのだ。


 男は、その腕に抱いた、そして男が抱かれている存在に対して声を掛ける。


「メア、リリー、朝だ、起きなさい」

「んー、おはよ、とーや」

「……おはよう、父さん」


 もぞもぞと体を入れ替えて見上げてきたのはメア、背中から男を抱き締めていたのはリリー。どちらもまだ十代半ば頃の風貌だ。


 メアは赤髪赤眼、燃えるような赤髪を肩口まで伸ばしている。普段は頭の後ろで縛っているが、寝る時は解いて楽にしている。


 リリーは黒髪蒼眼、少し青みがかった黒髪を腰の辺りまで伸ばしているが、メアとは逆に寝る時は編み込んで引っかからないようにしている。


「また寝床に入ってきて…」

「だって夜は寒いんだもん。とーや、あったかいし」

「抱きしめてるとポカポカして、朝までぐっすり」


 そう言いながら、メアは前から、リリーは後ろから、身体を擦り付けるように甘えてくる。家族なのだから同じ洗髪洗剤を使っている筈なのに、何処と無く甘い香りがする。


「こらこら、いつになっても甘えん坊だな、全く」

「いいじゃん、とーやとリリーしか居ないんだし」

「父さん、いい匂いする……落ち着く」


 リリーに頭を抱きかかえられ、まるで子供をあやすように髪を撫でられる。あ、ずるーいと言いながらメアは男の手を取って自分の頭に乗せて撫でるように、いやもう自分から掌に頭をぐりぐり押し付けている。


 暫く彼女達の好きにさせていたが、こうなると長くなる事を男は知っている。なので程良いところで撫でていた手を止め、撫でられている頭を軽く横に振り、解くように伝えると抱きかかえていた手が名残惜しげに離れた。


「そろそろご飯を食べて、仕事しないとな」

「はーい、私、とーやのご飯作るの手伝う!」

「リリーもお皿並べる……」

「はいはい、皆でやろうな」


 立ち上がり、見下ろしたメアにはぽんと、見上げるリリーには正面から腕を回して頭を撫でる。なんかリリーだけずるい、と言いながらメアがまた男に抱き着くと、メアも十分ずるい、とリリーが男からメアの身体を引き剥がして、そのまま引き連れるように台所へ向かおうとする。


 寝間着代わりの短衣から覗く肌は、メアが赤、リリーが青--びっしりと生え揃った鱗が覗く。


 そう、二人は--爬虫人類(リザードマン)なのだ。

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