ガーランド砦奪還戦①
今日から戦争編です。
時刻は午前六時少し過ぎ。
俺たち魔道小隊は訓練場に待機している。
他には第十兵団の中から小隊が五つ、一個小隊は三百人で合計千五百人。
そして小隊について行って雑務をこなす民兵が五百人いる。
皆前方の台の方向を向いて、直立不動の姿勢を保っている。
しばらくすると初日に見た兵団長が騎士を二人と、中年のおっさん引き連れて、どしどしと重鈍そうな音を立ててやって来て、ゆっくりと台に登る。
「諸君!二週間、御苦労!国の為、必死の思いで鍛錬に励んでくれたことだろう!だが、本当に忠誠を示すべき時はこれからなのである!今から一週間の行軍ののち、諸君らは憎き魔道国に一矢報いる機会を得るのである!諸君らの忠義に期待するのである!」
「そして、この中隊の指揮官は第三十二中隊長とする。よろしく頼むよ」
「はっ!必ずご期待に応えてみせます!」
兵団長は自分の役割は終わったとばかりに台を降りて騎士を連れて帰って行き、後には俺たちとその上司である中隊長が残った。
「この度、君たちを統括することになったルーアン=シキオルだ。よろしく頼むよ。そちらの魔道小隊は隊長は決まっているかな?」
俺たちは二週間共に過ごしてきたが、隊長が誰かなんて決めていない。
皆で顔を見合わせる。
「決まっていないのなら、出発までに決めてくれ。指示などはその者を経由して伝えるのでね。特に君達には砦の上の魔道士がいるところまで一気に侵攻して撃墜して貰うつもりだから、進行方向は隊長が示さなければならない。身体強化の得意なものが望ましいな。」
隊長…隊長かぁ、やりたいなぁ。
俺が隊長になって、隊が手柄を立てれば必然的に一番金がもらえるんだろうな。
ここは自信とやる気をアピールしよう。
「どうする?お前やるか?」
「嫌だよ…お前がやれよ。」
「バカ言え!俺なんかが先頭だったら一般兵にだってすぐ撃退されちまうよ」
似たような会話がちらほら聞こえて来る。
そんなに敵兵に突っ込むのが怖いのだろうか。
「俺がやろう。身体強化と障壁には自信がある」
一瞬、周りが静まりかえる。
「…おお!えっとー…ゼノンだったか?よろしく頼むぜ!」
「よろしくな!ゼノン隊長」
「はぁ…良かった。ありがとう」
余程嫌だったのだろう、理由はどうあれ賛同を得ることができて良かった。
アピールしなくても行けたんじゃなかろうか?
「早くも決まったようだな、ではゼノン。お前を魔道小隊隊長に任命する。」
「はっ!承りました」
敬語は苦手だが、印象を良くするために頑張って絞り出す。
「うむ、では任せたぞ。小隊長並びに兵達よ!九時の鐘がなったと同時に作戦目標地点であるガーランド砦から二キロの距離にある帝国軍駐屯地に向けて出発する!民兵達は兵糧を荷馬車へと積み込むのだ!量が多いので急いで取りかかれ!後のものは装備の準備と点検。終わり次第、民兵の作業を手伝ってくれ!行動開始!」
そういえば俺たちは何を持って戦うのだろう。
俺はいつも素手で魔法ぶっぱなすだけなのだが、戦争ともなれば身体強化していても流石にモロに攻撃を食らうのはまずいだろう。
「ゼノン隊長、数名を連れて私についてきてくれ。装備品を配給する」
ちゃんとくれるのか、そのまま突撃しろ!と言われるかと少しだけ思っていた。
「はっ!誰か四人ほど付いてきてくれ」
後ろを向いて呼びかけると、比較的体格のいい男が四人出てきた。
結構速く出てきたところを見るに、魔道士の装備品を見るのが楽しみなのだろう。
やはり杖を持っているイメージが一般的だよな。
男達を連れて中隊長についていくとかなり大きな倉庫に着いた。
「そこの箱に三百人分の装備が入っている。手分けして運び出してくれ」
見ると剣や鎧などが大半を占める中に混ざって大きな木箱十個が置かれていて、中から棒状のものがちらほら覗いている。
「わかりました。よし!運ぶぞ、一人で二個ずつだ」
それぞれが二個ずつ持ち上げるが、皆辛そうではない。
見た目だとかなり重そうなのだが、涼しい顔でひょいと持ち上げている。
「鉄製の盾一つだけでも七キロ、それを六十個纏めてとは…身体強化とは強力なのだな」
本当にそうだな、少し体格がいいとは言え一般人がこれだけの膂力を得るのだ。
中隊長と別れて部下達の元へ装備品を届ける。
装備はローブ、大楯、杖、皮鎧だった。
大楯…これは魔道士っぽくないなぁ、でも属性盾も障壁も全員が使えるわけじゃないし必要なんだよな。
結構でかいし金属製なので重いけど、身体強化で多少の重さなら平気だし、魔道士にもってこいではあるな。
そして安っぽいローブと杖、薄い皮鎧。
杖の先には魔石と思しき赤い石が申し訳程度に埋め込まれている。
…よく見ないとわかんないくらい小さいぞ?
だが満足!装備を与えられるだけマシと思おう。
大楯だけは役に立ちそうだから大丈夫。
「なんだこの皮鎧、薄っぺらいし着る意味あるのか?」
「俺の杖何処に魔石ついてんだ?」
「バカお前、よく探せよ、すごく小さいんだから近くで見ないとわかんねーぞ」
…部下達は不満たらたらなようだ。
文句を言うな文句を!
「よーし、各自装備は確保したか?杖で簡単な魔法を使って、不具合がないか確かめてみろ。終わったら整列して待っていてくれ」
俺も杖のテストをしてみる。
光源の魔法を使うと、普段より少しだけ明るい気がする。
杖は魔力を増幅し、魔法の威力を高める効果がある。
先端についている魔石の大きさや色によって性能が異なり、今持っている杖についているのはおそらく最小で色は赤。
つまり最下級の魔石だ。
使えるのは各属性の初級の中でも一部、初級の中でも消費魔力の大きいものや中級以上の魔法を発動しようとしても発動せず、許容魔力量の二倍以上の魔力を込めると砕け散る。
魔石は魔物の心臓の横にあり、心臓か魔石を砕かれると魔物は絶命する。
部下達が大体確認作業を終えて整列したのを確認して、民兵達の兵糧積み込み作業を手伝いに向かう。
◆◆◆
作業が終わり、鐘がなると乗馬した中隊長を先頭に行軍を開始する。
俺たち小隊長以下は歩いたの行軍なのでそこそこ疲れる。
夜になり野営の準備をしている一般兵を見るとかなりへばっているように見える。
身体強化ありの俺でさえ少し疲れているんだから、無理もないだろう。
俺たちはどうやら少しずつ援軍を送っていたうちの最後の陣らしく、到着すると同時にガーランド砦に攻め入るらしい。
一刻も速く砦を落として戦局を有利にしたい帝国軍は、中隊長に急いで来いと伝令をよこしているのだろう。
帝都からは第七、第八兵団への物資の補給も行なっているので、速く届けて欲しいと言う意味もあるのかもしれない。
必死な行軍のおかげで俺たちの中隊が駐屯地に着いたのは行軍開始から5日目の夜のことだった。
中隊長が多くの天幕の中で一際大きな物の中に入っていく。
しばらくすると出てきて、朝日とともに攻め込むことと、各小隊の役割について説明された。
俺たち魔道小隊は身体強化を使い、一気に砦の上にいる魔道士の少ないところに移動して、魔道士を殲滅し味方兵士が砦に取りつきやすいようにすることだそうだ。
明日からは気の休まらない日々が続く。
俺は部下達に作戦を伝達した後は戦いに備えてすぐに天幕に入り眠りについた。
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