これから(中編)
中編です!
ここは帝都中央通りの右側にある、今は寂れた服屋である。
俺の住んでいたスラムは帝都を囲う大壁の外にあるので、入る時に門兵に銀貨1枚を徴収された。
門兵は見るからに汚い格好をしていた俺を見てスラムの住人と思ったらしく、露骨に嫌な顔をされたが問題ない。
問題なのは、ただでさえ数枚しかなかった銀貨が1枚減ってしまったことだ。
「一、二、三…お、これもか、これで四枚っと」
果たして銀貨4枚とその他銅貨、鉄貨でまともな服は買えるのだろうか?
それは今からわかることだ。
「おい、これで買えるふくはあるか」
店番をやっている中年女に有り金を見せて声をかける。
「はいはい、いらっしゃいま…ん?なんだいあんた、もしかしてスラムの人じゃないだろうね」
女は俺をまるで汚いものを見るような目で見る。
「あぁ、そうだ。俺がスラムの人間だと何か問題があるのか?」
ため息をついて、答えの予想できる質問をしてみる。
「当たり前だよ!あんたみたいな汚い男にある服はうちにゃないよ!店が汚れるからはやくでておゆき!」
やっぱりダメか…中年女を軽くにらめつけ、舌打ちをしながらドアを蹴りあけ、店を出る。
「ここでダメならどこで買やいーんだよ‥」
この店が帝都入り口の中でも一番グレードが低そうだったから入ったのに、やっぱりダメだった。
帝都の住民はプライドが高い。
映えあるガルドレイル帝国が帝都ロメイルに住むことが出来る自分は帝国の中でも優れている、という自負があるからだ。
大戦前、帝国は人口2500万を誇り、帝都ロメイルにはその内の百万人が住んでいた。
現在は大戦の影響で帝都の人間も徴兵され人口は70万人ほどになっている。
徴兵と重税の二重苦で、活気を失った帝都の住民は今、心に余裕はなく、多くが殺気立っている。
スラムの人間はもちろん、よその町から来た人間への態度は冷たく、閉鎖的な雰囲気になっているのが今の帝都ロメイルである。
帝都で騒ぎを起こすのはまずいので、もう服は諦めるしかない。
今は拠点に戻って魔法をもっとうまく使う練習をするしかないか。
俺は諦めて帝都を後にした。
◆◆◆
俺が拠点に戻る頃にはもう日が沈みかけていた。
今日は朝から変なもん食ったり、十人のチンピラみたいな奴ら相手に大立ち回りしたりと心も体も中々疲れた。
奴らから奪った食料をありがたく頂いた後、俺は床に寝転んですぐに眠りに落ちた。
翌朝、ボロ屋敷の窓から差し込む朝日で俺は目覚めた。
「朝‥‥か」
ぐっと伸びをして、目をこすって目ヤニを落とす。
「初めてかもな…こんなに気持ちよく目ぇ醒めんのは」
思えば今まで、起きた時に考えるのは決まってその日の飯のことだった。
昨日は何も食べられなかった、今日は何か食べられるだろうか、と。
だけど今日からは、その次の日、またその次の日に何をしようかと考える余裕を持つことが出来る。
これからのことを考える。
まず、近いうちにスラムを出て行って普通に暮らしたい。
俺はゼノンと名乗っているが、これは親につけてもらった名ではない、俺は親の顔など知らないのだ。
ゼノンというのはかつて大陸を恐怖に陥れたと言われる御伽噺の大悪魔ゼノギア=ディルフェンにあやかって自分でつけた名だ。
かの大悪魔は嘘かまことか、破壊の神霊の配下の身でありながら、力を得るために神霊を謀り、その身の一部を取り込んだと言われる。
天界を脱走し、五百年に渡って地上を支配し続けたゼノギアは怒り狂った破壊の神霊との争いに敗れ、その心臓を残し消滅したと伝えられている。
俺は生まれた時から最底辺で、ある程度の年齢になるまで、自分が最底辺であることすら知らなかった。
憎いと思った。
全てが憎い、俺を捨てた親も、俺から食べ物を奪う奴も、俺が泥水をすすって腐った固いパンをかじっている時、ワインを飲んで柔らかい肉を食べている奴らも、――そして現状を覆せない自分自身も。
全てを力で従えて、好きなように奪い、殺し、食らう力を持った大悪魔に俺は憧れた。
そんな力を得ることができたらどんなに素敵だろうか。
そして今、俺は小さいながらも力を持っている。
魔法を使えるやつなんてあんまりいないと聞いているし、普通の兵士や騎士よりもなんだか強いらしい。
この力鍛えれば、かつて憧れながらも諦めていた生き方に一歩でも近づけるのではないか。
だから、まずは魔法を鍛えて普通に暮らす準備をしよう。
読んでくれてありがとうございます(⌒▽⌒)




