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ニャロの過去

「えっ!?呪いのせいで攻撃が出来ない!!?」


 部屋中に響く音量でニャロは叫ぶ。


「ちょっとそれって一体どういう事よ!?」

「い、いやだからさっき説明した通りだって……」


 ――結局は俺はあの後、店に帰るなりニャロの部屋に連れていかれて問いつめられ、結局呪いの事は話すことにした。

 それ以上に、異世界から来た、という事だけは言わなかったけど。


「――全くあなたがそんな呪いを掛けられていたなんてね。それも教会に行っても解いてもらえないような呪いを……」

「ま、まぁそうなんだよ……」


 ようやく、落ち着いてくれたようでニャロは一息付きながらベッドに腰掛ける。


「――それにしてもどうして内緒になんかしてたの?カロンにいったらもしかしたら呪いを解いてくれる人を探してくれるかもよ?」

「そ、それはありがたいけど……出来ることならあんまりこの事を知られたくないんだ……」

「どうしてよ?」

「そ、それは……」


 し、しまった。ついつい話しを進めてしまった……。


 この事を誰かに知られたくない理由。それはとても単純な事だ。

 そう――攻撃が出来ないなんて格好悪くて使えない奴だと思われたくないからだ。


 だけど、そんな事はとてもじゃないけどニャロには言えない。

 もし言ってしまった暁には一生の笑い者にされるだろう。


 だからこそ理由は隠したいけど……。


「早くいいなさいよ!」


 ニャロはベッドに座りながら俺を睨んでいる。


 恐らくこれは理由を話すまでは解放してくれないな……。

 ここは素直に諦めるか……。


「――実は……」


 俺は何も隠すことなくニャロに理由を伝えた。


 ――あぁ、これで俺は笑い者になっちゃうな……。


 これからの事を思い、憂鬱な気分になりながらしゃべり終わる。

 そしてニャロの顔をじっと見つめる。


 きっと今にも笑い出すぞ……。

 そう覚悟を決めていた。


「――なんとなく分かるわその気持ち」


 だがニャロの口から出てきた言葉は予想外の言葉だった。


 ――わ、分かる?そ、それは一体……。


「私も今そんな気持ちを抱いているもの」

「え?」


 同じ気持ちを……?やばい、本当にニャロが何を言っているのかが分からない。


「はぁ~……。マサトって結構鈍い所があるのね」


 とそんな俺の態度を見てか、ニャロはため息を付いた。


「だから、私も今弱いと思われたくないからこうして頑張ってる……っていうか少しだけ強気な態度を取って、誤魔化しているのよ」


 そういいながらニャロはすっと立ち上がり、机の方へと歩いていった。

 そして机の上に飾ってあった一つのペンダントを手に取った。


「それは……?」


 大事そうにそれを撫でているニャロの姿を見て、思わず訪ねる。


「――これは私が大好きだった人の形見なのよ」


 そうしてニャロは、昔話を始めた。




「おはようっ!カスミお姉さま!」

「おっ、ニャロは今日も元気だね~」


 当時、私はこの赤薔薇レッドロースに入ったばかりだった。

 そしてそんな新人な私の指導係はカスミお姉さまだった。


 カスミお姉さまは、わずかながらだったけど魔法を使うことができた。

 だからか、私に魔法の才能がある事を見抜いていたカロンがカスミお姉さまを私の指導係に選んだ。


「よしっ!じゃあ今日もトレーニング頑張ろうか!」

「はいっ!カスミお姉さま!」


 その日も私はいつものようにカスミお姉さまと一緒にトレーニングをしていた。

 そう、そう日もいつも通りの日常なんだと私は思っていた。


「――よし、じゃあ今日はいっちょ街の外へ出てみるか」

「えっ!?いいんですか!」

「あぁ、ちょうどカロンの所にいい感じの依頼が来ていたからそれをやるついでにニャロのトレーニングもしようと思ってな」


 私はその時いつものと違うトレーニングの内容を聞いて心をワクワクさせいたわ。

 それに街の外に出るのは夢だったしね。


 そして私はカスミお姉さまと二人で街の外へと出た。


 初めての街の外はとても魅力的で、新しい物だらけでとてもテンションがあがったわ。

 そしてなによりカスミお姉さまと一緒、という事が私がなにより楽しかった。


「――ニャロ、静かに」


 しばらく街の外を歩いていると一つの洞窟にたどり着いた。


 依頼内容は事前に聞いていて、なんでもその洞窟に最近魔物が住み着いたらしく、それを討伐する事だった。


 その時私はカスミお姉さまさえいれば敵なんかすぐに倒されると思っていた。

 だからだろう。私はそこで調子にのった。


「早速敵を倒しに行こうよカスミお姉さま!」


 物陰で見守っていたカスミお姉さまを差し置き、私はずかずかとその洞窟へと進んでいった。


 ――そして事件が起こった。


 ドサッ。


 剣が地面に刺さる音が聞こえた。

 そしてすぐに声が聞こえた。


「なんだ~このガキは?」


 ちょうど洞窟から出てきた魔物と出くわしてしまったのだ。


 魔物の全長はおよそ二メートルぐらいはあったわ。

 私より大きなその魔物を見て私は足がすくんでしまい、その場で尻餅をついてしまった。


「――けっ、なんだのガキ」


 魔物は吐き捨てるようにそう呟きながら、地面に刺してあった剣を抜き取り大きく振りかぶってきたる


 その時、私は恐怖でパニック状態に陥っていた。

 ――今思えばあんな攻撃は避けることが出来たというのに。

 だが、その時のバカな私はこう叫んだ。


「助けてカスミお姉さま!」


 そう叫び、私はカスミお姉さまがいる方を向いたのだ。


 そしてそれは当然魔物には見えており、すぐさまそこにカスミお姉ちゃんが隠れている事に気づいた。


「――大丈夫かニャロ!」


 これ以上隠れることを諦めたのか、カリンお姉さまがこちらに駆け寄ってきた。


「けっ、まさかまだいたなんてな」


 だが魔物は人間が一人増えようとも、全く動揺するそぶりを見せなかった。


 後々気づいたが、その態度こそがその魔物が強敵である事を示していたという事だ。

 恐らくカスミお姉ちさまもそんな事はとっくに気づいていたのだろう。


 しかしカスミお姉さまは私を置いて行こうだなんて思っていなかった。


「ニャロ!少しだけ下がってな!」

「は、はい!」


 カスミお姉ちゃんは剣を構えながら魔物と対峙した。


「ふんっ。人間の、しかも小娘がこのワシをどうにかできると思うなよ!」


 こうしカスミお姉さまと魔物の戦いが始まった。


 そしてこの戦いは誰もが思っていなかっただろう、長期戦になったのだ。


 カスミお姉さまはひたすら防戦一方。

 そして魔物が一つミスをするたびに、その隙をついて攻撃を繰り出していた。


 ――今になって思うが、相手の攻撃をすべていなしながら、わずかな隙を突いて攻撃するという事はとても難しいのだ。

 それこそ長期戦では絶対に向いていない戦法の一つだ。


 だけどカスミお姉さまはそれをやってのけた。


 時間が経つにつれて、魔物のミスが目立ちはじめて、カスミお姉さまの攻撃のチャンスも増えてきた。



 そしてとうとうカスミお姉さまは魔物に勝ってしまったわ。


 ――だけどそれからが不味かった。


「くっ!わ、私がこんな小娘に……!!」


 そんな事をいいながら魔物が倒れていくのを見て、私は安心したのかカスミお姉さまに近づいてしまった。

 その時の私はカスミお姉さまをただひたすら誉めたかっのかもしれない。

 だが結果的に、私の行動がその場を変えた。


「くそっ!小娘がっ!!」


 魔物が倒れる寸前、最後の力という感じで手に持っていた剣を振りかぶってきたのよ。


「――危ないニャロ!」


 それに一刻も早く気づいたカスミお姉さまは私を庇うように突き飛ばした。


 そして。


 グシャッ!


 肉が斬られる音が聞こえた。


 プシャーーーッ!


 そして私の視界が真っ赤に染まったわ。




「それで、結局私はカスミお姉さま形見として、いつも身につけていたこのペンダントだけ持ち帰ったというわけよ」

「そ、そんな事が……」


 終始じっとニャロの話を聞いていた俺としては、何て声を掛けたらいいのか検討がつかなかった。


 そしてニャロの凄惨な過去の話を聞き、今までのニャロの努力がなんとなくだが分かるような気がした。


「って、私どうしてマサトなんかにこんな話してるんだろ」


 ニャロはようやく我に帰ったようで、少し顔を赤らめつつベッドに戻った。


 だが、そんな事はおかまいなしに俺は最初のニャロの言葉を思い出す。


 ――――なんとなく分かるわその気持ち。


 この言葉の通り、確かにニャロは俺の気持ちを分かってくれている。


 たが俺のこの気持ちはニャロは比べて大きく劣っている。まるで劣悪品のように。


「ほんとすごいよニャロは」


 なんて思わず口が開いていた。


「べ、別にマサトに誉められても全然嬉しくないんだから!」


 ニャロはそっぽを向いてまった。


 でも、少し顔が赤くなっている所を見ると照れてるんだな、なんて思ってしまう。

 そしてそう思うと少しだけからかいたくなってくる。


「ほんと、ニャロは誰よりも大人だよ」

「そ、そんな事はないわよ」


 おっ、さらに顔が赤くなった。


「いやいや、ほんとだよ。ニャロはもう立派な大人だよ!」

「い、いやだからそんな……!」


 ふっ、ニャロったら耳まで真っ赤に染まっている。


 あぁ、中々面白いものを見れた。


「――でも身長は俺より低いけどね」


 とここでさらに遊んでみる。


「あんっ?私の方が高いに決まってるでしょ?」


 さっきまでの照れた様子はどこに消えたのか、今度はこちらをにらみ返してくる。


「いや、俺の方がニャロより高いって!」

「いいや!私の方が高い!」

「いや!俺の方が高い!」

「私!」

「俺!」


 やばい、やばい。少しからかってやるつもりだけだったのに、また口論みたいになってしまった……。


 ニャロとはこれから仲良くやっていきたいと思った矢先にこれだ。

 やっぱり慣れないことはやるべきじゃないな……。


「そこまで言うなら実際に計りましょうよ!」

「いいよ。じゃあ実際に計って白黒はっきりつけようじゃないか!」


 っても待てよ?そもそもこの世界に身長を計る物はあるのか?

 いやあってもおかしくはないんだけど、そもそもこの世界の身長の単位って何で表されているんだろうか……。


「じゃあいくわよ」


 なんて考えているとニャロがそっと近づいてきた。


「えっ、えっ、えっ?」


 突然近づいて来たニャロにびっくりし、思わず後ろに下がってしまう。


「ちょ、ちょっとじっとしててよ!」

「え、で、でも……」

「でもなんでもなんでもじっとしてなさい!」

「は、はい……」


 ニャロの気迫に圧されて下がりかけの足を止める。


 そしてニャロはまだまだ近づいてきている。

 その距離僅か3cm。


 い、一体なにをする気ななのだ!


 そう思って再度、後ろに下がろうとするがニャロに肩を捕まれ動くことも出来なくなってしまった。


「――じゃあ行くわよ」


 ニャロは少しだけ頬を赤らめながら言う。


 い、いやだから一体なにをする気で……。


「ふぅ~……」


 ニャロがそっと息を吐き、さらに距離を近づけてくる。


 ――こ、これってもしかして……!


 頭の中で、ドラマなどでよく見るあのシーンを思い出す。

 そう、男女のカップルがよくやるあれだ。


 ――まさか、ニャロは俺の事……。


 コツン。


「え?」


 なんとぶつかったのはおでこだった。

 相変わらず距離は近いまが、それでもニャロはおでこ同士をぶつけたままじっとしていた。


 ニャ、ニャロさん?一体何を……?


 そう思っていた瞬間。


 ガチャ。


「マサト~。そろそろ寝る時間…………よ……」


 そんな時、ふいに扉が開けられてそこからミーニャが入ってくる。


 や、やばいこんなところを見られたら誤解だけじゃ済まないぞ!


「あ、あのミーニャこれは……」


 なんてすぐさまミーニャの方に顔を向け、弁解をしようとしたが。


「ちょ、ちょっとじっとしててマサト!」


 ニャロに肩を掴まれているので思うように動けない。


 そしてしばらく時間が流れ。


「――あ、ははは……なんかお邪魔しちゃったみたい。んんんん

ね」


 それだけ言い残してミーニャは去っていった。


 そしてそれと同時に、ミーニャは俺からそっと離れた。


「うっ……悔しいけどやっぱりあなたの方が少しだけ高いわね」


 と悔しそうにこぼす。

 あっ、今のは本当に身長を計ってたんだ。


 だが、今の俺はそんなどころじゃなかった。


「今ミーニャが来たわよね?何か用事でもあったのかしら?何も言わずにどっか行ってしまったけど」


 ――これはニャロがただの天然なのか、それとも何か計算してやっているのか……。


「さて、そろじゃあ私はそろそろ寝るから出て行ってちょうだい」

「あっ、う、うん」


 ニャロの言葉に対して、まともに返事をすることがで

きず、俺はただただ呆然としたままニャロの部屋から出た。


「緊張した……」


 俺はそうつぶやきながら、さきほどの光景を思い出すだけで顔が真っ赤に燃えるように熱くなる。


「ま、全く……。あれを素でやるとかどんな天然キャラだよ……」


 なんて愚痴をこぼしながら、俺も就寝につくため自分の部屋へと戻るのであった。




「もぉ~!私のバカバカ!」


 時は少し戻り、マサトがニャロの部屋を出て少し後だ。


 ニャロは自分のベッドの上で枕に顔を埋めていた。


「……それにしても途中でミーニャが来たのはびっくりしたわね」


 思い出すだけで頭から火が出るように恥ずかしくなるが、私はそれでも思い出す。


「はぁ……。ほんと何やってんだろ私……」


 ニャロそれからしばらくの間ベッドの上で悶え続けていたが、やがて疲れが出たのかすぐに鼻息が聞こえてきた。




「まさかマサトとニャロちゃんがあんな関係に発展していたなんて……」


 時はさらに戻り、ニャロの部屋にミーニャが来た後。


 ミーニャは自分の部屋へと戻りながら頭の中で何度も先ほどの光景を繰り返す。


 ――もう!いままでニャロとマサトは喧嘩ばかりしていたじゃない!

 それなのにどうして……!


 って、マサト君の恋愛とか全然興味ないけどね!


 そう心の中に言い聞かせながら私は部屋に戻るとすぐさまベッドに潜り、あの出来事を忘れるようにす

ぐに寝たのだった。

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