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魔物討伐

「きゃーーーっ!」


 ドーーーン!


「くっ!なんだこいつの強さは!」


 獣のように毛で全身を覆われていて、さらに口からは二本の大きな牙が生えている。そしてその爪も鋭利で、全長は5メートル程度ある。


 そんな突如として街に現れた巨大な魔物は、冒険者達が何人もかかっているなかで今も尚暴れ続けている。


 すでに魔物の周りには建物の残骸がたくさんちらばっている。

 だが、幸いな事に魔物がいる場所は広場のような所なので被害はあまり出ていない。


 だがしかし、冒険者達の被害の数は計り知れないものになっていた。


「や、やめてくれっ!」


 そしてまた一人、魔物の爪によって冒険者一人が傷を負う……。


「させないっ!」


 はずだったが、魔物の爪は突然横から現れた剣によって止められた。


「くっ!なんという力……!」


 魔物の爪を止めた人物はすぐさま剣を斜めに向け攻撃をそらす。


「はやく!今の内に逃げて!」

「あ、ありがとう!カリンさん!」


 そう言って冒険者はすぐさまその場から離脱する。


「おぉっ!カリンが来てくれたぞ!ってことは赤薔薇レッドローズが来てくれたのか!」


 カリンさんの姿を見て、冒険者の皆は歓声をあげる。


「いや!あの子達は魔物が他の所にいないか飛び回ってる!」


 カリンさんはそんな声援を受けすぐさま返事をし、次の魔物の攻撃に備えた。


「皆!カリンが来てくれたんだ!ここで頑張らなきゃ男が泣くぜ!」


 とカリンさんの姿を見て、冒険者達の志気も自然とあがっていった。


「よし!じゃあ行くぜ!」

「おぉーーー!」


 そのかけ声で冒険者達は全方位を囲むように魔物に飛びかかる。


「す、すごい……」


 俺はその光景を見守りながら一言漏らす。


 ――この街にはこんなにたくさんの冒険者がいたんだ……。


「――ふんっ、これぐらいまだまだよ。カリンさんもそうだし、皆まだ本気の実力を出してないのよ」


 と横にいるニャロが自慢をするように言う。


 ――これでまだ本気じゃないんだ……。


 自慢をするニャロに対するツッコミをせず、俺はただただこの光景に唖然とした。


 これはカリンさんについていって正解だったかもしれない。

 間近でこんな光景を見ることなんて早々できないからな……。


「それにしてもどうしてこんな町中にこんな魔物が……」


 ニャロがそんな事を漏らすが、それは俺もずっと考えている事だ。


 俺もこの街に入るときにあの高い壁を見ている。

 もしもこの街に侵入しようとしたらまずはあの壁で阻まれるはず。


 そしてもしあの壁を壊して侵入しようとするものならば、すぐさま気づかれる。

 しかし、そんな様子は全くなかった。


 ――一体どうやって……。


「ガキはさっさと避難してな」

「えっ?」


 思考を巡らせていると突然背後からドスの聞いた声が聞こえた。


「げっ、あなたは……!」


 ニャロは後ろを向いて、嫌悪の表情を浮かべた。


 い、一体だれなんだ……?


 そう思い、俺も後ろを振り返ると……。


「うわっ」


 思わずそう声を出してしまうほど、強面のおじさんが立っていた。


 右目には大きな傷が一本入っており、その他にも顔のあちこちに傷が見える。

 さらには身につけている服はズボンだけであり、それも短パンだ。そして背中には身の丈ほどある大きな大剣を背負っている。

 露出している肌からはこれでもかというほど筋肉が溢れでていた。


 ――まさに歴戦の戦士。そんな言葉がぴったり似合うほどのがたいだった。


「お前らみたいなガキがちょろちょろしてると迷惑だ。だからとっとと避難しな」


 おじさんはもう一度、低い声で忠告してくる。


「べ、別に私達だって十分戦力になるからここにいるのよ!それに私はもう子供じゃないわ!」


 ニャロはいつも通り、とまでは言わないが少しだけ強い口調で反論した。


 ――いや、正直この人にそんな口がきけるだけですごいと思う……。


「いや、お前達のようなガキは邪魔なだけだ」


 そしておじさんも相当な頑固者のようで、ニャロの話なんか聞きもせずに俺たちを邪魔者扱いしてくる。


 流石に俺も少しだけカチンときてしまったが、その強面の顔を見ては言葉にすることは出来なかった。


 しかしニャロが反論しても聞いてくれないとなると、これは一体どうしたら……。


「まぁまぁ、落ち着けよダイ。そいつらだって実力はちゃんとあるんだぜ?」


 とそんな時、聞き覚えがある声が聞こえた。


「――そうか。お前が言うなら確かなんだな」


 その声を聞いたおじさんは、先ほどまでの頑固さは嘘のように消えた。


「二人ともすまなかったな」


 そしておじさんは軽く頭を下げた。


「い、いえ……」


 急に変わった態度に戸惑いながらもなんとか返事を返す。


 そしてそれで満足したのか、おじさんは魔物の方へと歩いていった。


「大丈夫だったか二人共?」


 そう言って歩みよってきたのは――ガリルだった。


 それにしてもさっきの人とガリルが知り合いだったなんて……。

 ――まぁ、少しだけ雰囲気がガリルと似ているから知り合いでもおかしくはないんだけど。


「ま、まぁ特に何もされてないから大丈夫だよ。それよりさっきの人って一体……?」

「あぁ、あれはダイって言って、この街で一番長く冒険者をやってると言われている人さ。まぁこの街では冒険者の親父と呼ばれているしな」


 冒険者達の親父……。


 そう聞くと、さっきの言葉は俺たちの事を心配して言ってくれたんだと気づく。


「まぁ、見た目はあんなだけど根はとっても優しい人だよ」


 そう言うガリルの目からは、きっとあの人を尊敬しているんだな、なんて思えた。


「それよりこのお嬢ちゃんは一体誰なんだ?」


 とガリルが思い出したように訪ねてきた。


 そういえばニャロがいたことをすっかり忘れていた。


 そしてニャロも忘れられていた事に少しだけ腹がたったのか、少しだけ機嫌悪そうにしていたけど、すぐさま表情を戻しガリルに向かって軽く頭を下げる。


「失礼。私は赤薔薇レッドローズのニャロと言います」


 昨日の幼稚な態度からは想像できないようなきれいな仕草で挨拶をした。


「へぇ、嬢ちゃんがあの赤薔薇レッドローズの……」


 なんて二人で会話をしているが、先ほどから俺はある言葉にずっと引っかかっていた。

 それは赤薔薇レッドローズ

 さっきのカリンさんも言っていたし、ニャロも言っていた。

 恐らく何かギルド的な何かだと思うんだけど……。


赤薔薇レッドローズっていうのはね、カロンさんが作った女だけの騎士団みたいなものだよ」


 なんて考えていると背後から声が聞こえた。


「おっ、ミーニャ。お前も来たのか」

「当然!私もこの街の冒険者なんだから!」


 と元気な声でこちらに来たのは、ミーニャだ。

 話を聞くとをどうやら俺たちが出て行ったを見て、ミーニャも慌てて追いかけてきたみたいだ。


「さぁ、じゃあそろそろ俺たちも行こうか」

「そうね」


 そう言って二人は武器を構える。


 よし!俺も頑張らないと!

 そう思い、持ってきていた木刀を構える。


「いや、坊主はここで待ってろ」


 なんて意気込んでいると、ガリルからストップがかけられた。


 な、なんで!

 とすぐさま反論しようとしたが、それよりも先にミーニャが口を開いた。


「マサトは攻撃できないでしょ?今行ってもそれこそ邪魔になるだけよ」


 そんな……。


 ――いや、でも確かにそうだ……。

 所詮俺は攻撃ができない。


 昨日だって、路地裏では半分はニャロに助けられたわけだし……。


「ちょっと攻撃が出来ないってどういう事よ!」


 ――し、しまった!

 そういえばニャロはまだこのネコミミの事言ってなかったんだった。


「説明してよマサト!」


 とニャロは詰め寄るように近づいてきた。


 ――さて、どうしようか……。


 と思考をした瞬間。


「あ、危ない!」

「「えっ?」」


 突然声が聞こえたかと思うと、目の前に瓦礫が迫っているのが確認できた。


 ――う、うそっ……。


「くそっ!坊主!」


 とっさに反応したガリルが手に持っていた剣で瓦礫を防ごうとする。

 だがしかし瓦礫のパワーが強すぎたのか、それともガリルの体勢が悪かったのか、剣はあっという間にはじかれてしまった。


「いけっ!」


 そのかけ声と共に瓦礫のスピードが一瞬だけ遅くなる。

 ニャロの風魔法だ。


「くっ!」


 だが遅くなったのは一瞬で、すぐさま瓦礫はスピードを取り戻してこちらに向かってくる。


 くそっ、こうなったら俺も!


『ウインド』


 手を瓦礫に向ける。

 その時はすでに瓦礫は伸ばした手に触れる寸前だった。


 頼む!はじいてくれ!


 そう願いながら俺は手に魔力を込める。


 ヒュン。


 瓦礫は進んできた方向に戻るように、先ほどのスピードより速く戻っていった。


「よ、良かった……」

「いや!まて!」


 一人ほっとしていると、ガリルの声が響いた。


 今度は何だ?


 そう思ってガリルの目線の先を見る。

 するとそこには、どうしてか先ほどまで魔物と戦っていたおじさんが立っていた。


 そしておじさんに向かって瓦礫は進んでいた。


「危ないっ!」

 俺は思いっきり叫んだ。


 ――どうしよう!俺のせいでおじさんが!


 頭の中ではとにかくその事で一杯だった。

 俺のせいで死んでしまったら、一体どう悔いたらいいだろうか……。


「ふんっ!」


 ――ガラガラガラガラ。


「えっ?」


 俺は何が起こったのか分からずにただただ呆然と口を開けた。


 おじさんに向かっていった瓦礫が、おじさんにぶつかる前に粉々になって砕けたのだ。


 一体何が……?


「はっ、流石ダイさんだな……」


 流石?一体どういう……。


 ドサッ。


「ふぅ、まさかこれほどまでやるとは。ガリルの言う事は本当だったというわけか」


 おじさんはいつの間にか背中に差していた大剣を地面に突き刺していた。


 ――もしかして……。


「今のを防いだの?」


 そう言おうとする前にニャロが先に口を開いた。


「あぁ、そうだよ。あの人は本当に恐ろしい人だよ」


 ガリルが若干恐れたような表情を浮かべて答える。


「いやガリル。これぐらいの事で驚いてちゃまだまだだぞ」

「……俺も少しは成長したと思ったんだけどな」


 ――今、なんとなくだけど、おじさんが冒険者達の親父と言われてる理由が分かった気がした。


 おじさんはそれだけ言ってすぐに魔物との戦闘に戻った。


 そしてどうやら、その戦闘ももうすぐ終わりそうだった。


「ちぇっ、結局俺の出番はないままか」


 戦闘の様子を見てガリルははじかれた剣を拾い腰に戻す。


「ほんとだね」


 それに続いてミーニャも武器をなおす。


「ふんっ、お前はこれから忙しくなるだろうが」

「まぁ、そうなんだけどね。でもやっぱり冒険者なんだから戦闘で活躍したいよ」


 ミーニャは少しだけ寂しそうな表情を浮かべながら答える。


 ――ん?これから忙しくなる?街の復興でも手伝うのだろうか。


「――ちょっと、マサト後でさっきの事聞かせてもらうからね」


 ギクッ。


 いつの間にか耳元に近づいていたニャロがそっと呟く。

 まるで悪魔のささやきのように。


「じゃあ、私は後処理があるのでこれで」


 ニャロは外面を浮かべたままカリンさんの所へ行った。


 ――子供かと思っていたけど、中々侮れない奴だ。


 なんて頭の中でニャロについての考えが少しだけ変わった。


「ギーーーーッ!」


 と、それと同時に広場の魔物は倒された。


「さぁて、それじゃあ俺は街の片づけでもしようかな」


 ガリルが魔物が倒されたのを確認した後に腕をぐるぐる回しながら冒険者達に近づいていった。


「さぁて、じゃあ私はこれから頑張りますか!」


 俺の横でミーニャがそう意気込んだ」


「ミーニャも街の片づけを?」

「いやいや、私はそんな力仕事はできないよ~」


 あ、あれ?違うのか?


 じゃあ一体何を頑張るつもりなのか?


「あれ?そういえばマサトに言ってなかったっけ?――私実は回復魔法が使えるんだよ」

「え?」


 回復――魔法?


 それってつまり……。


「ミーニャも魔法が使えたの!?」


 広場に俺の声が大きく響いたのだった。




「どう思うかねカロン?」


 薄暗い会議室で、私の主に一つの問いが投げかけられる。


「――恐らくは内部の者が何かしら関わっているでしょうね」


 もはやこの場にいる全員が分かりきっているだろう事をカロンは確認するように言う。

 そしてその発言を聞き皆は口を閉じ下をうつむく。


 ――きっと誰もが今日のこの出来事を予想してなかったのだろう。


 何しろ、この壁に囲まれた街に魔物が現れるなんてのはこの街始まっての大事件なのだから。


「して、予想は付いているのか?」


 うち一人が再度カロンに問いを投げかける。


「まぁ、完全に……とは言いませんが目星はいくつか付きました」


 もはや、この会議での中心はカロンだ。


 なにせここにいる者でこの街の冒険者達と一番密接に関わっているのがカロンただ一人なのだから。

 つまりカロン以外は事冒険者や魔物については専門外なのだ。


 だからと言って皆おかざりではなく、それぞれ立派に仕事をしている。


 ……少なくとも表では。


「まぁ、皆さんもお思いかと思いますが今回のこの事件。これで終わりというわけではないでしょう」


 静まり返ったこの場に再度カロンの声が響く。

 そしてもう誰も発言する様子がなく、ただただカロンの言葉に耳を傾けている。


「恐らく、近いうちまた何かが起こる。――勿論我々も対処はします。ですが敵の目的がまだ何か分かっていない以上対処できない場合があると思っていてください」


 最後の言葉を聞き皆生唾をごくりと飲み込む。


「――ですので皆さんは今以上に冒険者達に支援をお願いいたします」


 その日の会議はその言葉によって終わった。




「ふぅ~……。ほんとこの会議は毎回毎回肩が凝って仕方がないよ」

「お疲れさまです」


 会議が終わり、店への帰路へ就いたところでカロンが疲れたようにため息を吐く。


「それにしても、今回の目的は本当になんなのでしょうね……」


 そう私は一言、何気なく口にすると前を歩いていたカロンはふと立ち止まった。


「もしかしたらあの少年が……。いやなんでもない、気にしないでくれ」


 そう言ってカロンは再び歩きだす。


「まさか……」


 だがしっかりカロンの言ったことは聞こえていた。


 そして確かに偶然とは言え時期は重なる。


 ――これは少々気が乗らないけど、監視の目を強化する必要があるわね。


「よろしく頼むよカリン」


 何がとは言わない。

 だけど私は、その何が分かる。


 だからこそ。


「はい」


 そう返事を返せる。

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