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「や、やめてっ!」


 そう叫びながらとにかく走った。

 止まったら捕まってしまう。だからとにかく前も向かずに走った。


「おいおい、待てよお嬢ちゃん~!」


 後ろから声が聞こえてくるが、私はそれに耳をかさずにただひたすら走る。


 ――こんな事ならここに来るんじゃなかった……。


「あっ!」


 なんて思った瞬間、目の前に壁が立ちはだかっていた。


 や、やばい……!


 急いで背後を振り返るがどこにも逃げる道はない。

 どうやらここは一本道の路地裏のようだった。


「へっへっへっ、やっと追いつめたぜ~。さぁ、お嬢ちゃん。大人しくおじさん達と一緒に行こうか~」


 やっぱりこの人達も同じ。

 私をさらって奴隷商人に売る気なんだ……。やっぱり皆同じなんだ……。

 やっぱり私みたいな孤児は、この世界では奴隷にされる運命なんだ……。

 この世界に孤児でも助けてくれる所があるなんて所詮は夢物語だったんだ。


「おいおい、泣かなくなったていいんだぜ嬢ちゃん?おじさんたちが今すぐ気持ちよくしてやるからよ~」

「ぎゃっはっはっ、やっぱりお前は幼女には目がねえな!でも、気を付けろよ?あんまし乱暴し過ぎると売り物にならなくなるからな」


 ――やだ……やだ……やだ……。


 男たちの話し声が耳に入ってくる度に謎の腹痛に襲われ吐き気を催す。

 だが、それ以前に目から水の滴がこぼれ落ちる。


 ただただ大きな恐怖が私を襲って動くことも、もう声をあげる事もままならない。


 ――あぁ、私はこれで終わっちゃうんだ……。ここで死んでしまうんだ……。


 もう抵抗する力もなくただただ男達がのばしてくる手をじっと眺めることしかできなかった。


「待てっ!!」

「そこまでよっ!」


 突然、路地裏に二つの大きな声が響いた。

 そしてその声と共に、目の前まで迫っていた手が遠のく。


 一体何が?


 水滴で見ずらくなった目を拭い、私は声のした方を向く。


 するとそこには私と同じくらいの男の子が一人立っていた。




「待てっ!」

「そこまでよっ!」


 路地裏に飛び込み、女の子が追いつめられているのを見て真っ先に俺はそう叫んだ。

 だけど、俺の後に聞こえたは声は一体なんだ……?


「――ちょ、ちょっとあなた何者よ!ここは私がやるからあんたみたいな子供はどっかいってなさいよ!」


 先ほどの声がもう一度聞こえる。

 だが目の前にも背後にもその声の主はどこにもいない。


「ちょっとどこ見てるのよ!ここよ、ここ!あなたの上よ!」


 ――上?


 反射的に上を向く。


 すると俺の真上には、壁から出た小さな屋根のような所に一人の少女が立っていた。


 だがしかし、その少女に目が行く前にまず先に目に入ったのは……。


「…………白だ」


 その少女はスカートを穿いており、ちょうど真上だからという事もあるのかその中身がうっすらと見えた。


 そして真ん中にはくまのようなイラストがプリントされていた。


「ちょっ!ちょっとどこ見てるのよ変態!」


 ――いや、だったらその格好で高い所にいくなよ……。


 と思わず愚痴をこぼしそうになるが、その前にその少女はその場所から飛び降りた。


 ――しかしどういう事だろう?その少女はなぜか俺がいる所に近づいている気が……。


「制裁っ!」


 瞬間、少女の足が俺の頭めがけて落ちてきている事に気づいた。


 ――や、やべっ!


 そう思った時にはもうすでに遅く、少女はすぐ目の前に迫っていた。


「いてっ!」

「いたっ!」


 次の瞬間頭に強い衝撃が走った。


 だが、運が良かったというか悪かったというが、少しだけ逃げようとしていたので少女の軌道がずれ、少女の足ではなく少女の頭と俺の頭がぶつかったのだ。


「痛いじゃないっ!何するのよ!」


 だが少女はすぐに立ち上がり、睨みつけてきた。


「いやっ!君が踵落としをしようとするから悪いんでしょ!?」


 俺も少女に負けずとすぐさま立ち上がり、すぐに反論した。


「それはあなたが私のパンツを覗き見した事が悪いんでしょうが!この変態!」

「いやっ!それは君がその格好であんな所にいるのが悪いんでしょ!スカートで高い所にいったらそら見ようと思わなくても見えるよ!」

「見えるからといってそこを見ないようにするのが男ってものでしょ!」

「いや、そんな事ねえよっ!」


 だ、ダメだ……。この子何を言っても無駄だ……。

 意見が平行線とでも言うんだろうか。

 どちらも折れる気はないから永遠に口論を続けてしまう。

 ここはどうにかして終わらせないと……。


「――おいっ!突然現れたかと思ったら俺達を無視して口論してんじゃねえぞガキども!」

「なんですって~!?」


 おっ、ナイス!そこの男の人!


 ――って、そうだった。俺は元々この悪い人たちを倒そうとここまで追いかけて来たんだった。

 やばいやばい、危うく目的を忘れる所だった。


「――ってそうだわ。あなたはさっさと引っ込んでなさい。ここは私一人で十分なんだから」


 と、どうやら少女もその事を忘れていたみたいで、思い出したように、もう一度俺を厄介払いしようとする。


 だが、俺はそれについてももう一つだけいいたいことがあった。


「――いや。お前も十分子供だろ」


 そう。少女は最初、俺の事を子供っていってたけどこの少女も十分子供といえる背丈だった。

 だって俺と同じくらいなんだから。


「ちょっ!私は別にいいのよ!」

「いや、意味分かんねぇよ……」


 さっきからの発言を聞いてるかぎりでは、まるで低学年か、保育園児を相手にしていみたいだった……。

 それと、なによりも態度が上から目線なのも気に入らない。


「――って、おい!よく見たらあの嬢ちゃんも中々いいじゃねえか!」

「んっ?ほんとだな」

「けっけっけっ、これはもしかして今日はとても幸運な日なのかもしれねぇな!」


 そう男たちが口々に言う。


 だが男たちよ、よく考えてほしい。

 確かにそっちにいる女の子は少女はとても可憐だが、この隣の少女はただのがさつな女だぞ?

 こんな女のどこがいいんだよ……。


「よーしゃっ!じゃあせっかく俺達に合いに来てくれたみたいだから、しっかり可愛がってあげないとな!」


 と男の内の一人がこちらへゆっくりと歩いてきた。


 勿論手には小型ナイフのような物を持っており、腰には恐らく拘束する為だろうロープや布があった。


 くそっ、ほんとにこいつらクズだな。


 でもまぁとりあえずはこの少女を守らないと……。

 なんて思って少女の前に出ようとするとしたが、すぐさま少女の手によって止められた。


「おいっ」

「だから私は大丈夫だって言ってるでしょ?」


 少女の顔は至ってまじめな顔だった。


 でも本当に大丈夫なのか……?


 だが俺はそう心配しながら少女のまじめな顔に圧倒されて、少女の手を振り払うことはなかった。


「へっへっへっ、じゃあおじょうちゃん大人しくしてくれよ~!」


 その声と共に少女に汚らわしい手が差しのばされる。


 これは不味いんじゃ……!

 そう思い俺はすぐ手を向け、魔法を使おうとする。

 だがしかし、手からは魔法が出ることはなかった。


 ――しまった!俺は今攻撃する事ができなかったんだ!

 やばいこのままじゃ……!


 なんて思った瞬間、少女が一歩踏みだし男に近づいた。


「んっ?なんだ?」


 少女は男の腹にそっと手をやる。

 男は突然の事に戸惑ったような顔を浮かべていた。


 だが次の瞬間男の姿はそこにはなかった。


 ドーーンッ!


 そしてすぐさま大きな音が響いた。


「なっ、なっ、なっ……!」


 そう声を漏らしながら少女の近くにいた男は、壁に大きな穴をあけて倒れた。


「なっ、なんだ今の……!?」

「一体何が!?」


 瞬間、男たちの間からどよめきが走る。


 ――今ってもしかして……。


「ま、魔法か?」

「ん?そうよ、よく分かったわね」


 少女はにっこりと笑いながら振り返った。


 ――そんな、確かこの世界には魔法を使える者はそれほどいないってガリルが……。


「く、くそっ!野郎ども一斉にかかれ!」


 そのかけ声と共に男たちは一人を残して、焦ったようにこちらに向かってきた。

 当然皆手には武器をもっている。

 数はざっと四人。


 さて、この少女はこんどは一体何をする気なのか……。

 そう思いながらチラリと横を向くと。


「不味いわね……」

「えっ?」

「私まだ大勢との戦闘ってやった事ないのよ」


 少女はそう言ってにっこりと笑った。


 ――いや!笑ってる暇じゃねえから!


「一体どうするんだよ!」

「うるさいわね!もとはといえばあなたがいけないんでしょ!元々は私はこっそりやるつもりだったのに、あなたが突然でしゃばろうとしたから私もわざわざこいつらに姿を見せることになったのよ!」


 いや、なんだよその理屈、訳わかんねえよ……。

 なんだ?つまりは俺がいきなり現れるものだから、手柄を取られるのを心配し、自分もすぐに姿を現したと?

 ――どんだけ子供なんだよこいつ……。


「まずは嬢ちゃんからだ!死ねっ!」


 不味いっ!

 ついつい戦闘中だっていうのにのんきに口論していた。


 横を見るも少女はまだ俺の方を睨みながら愚痴愚痴言っていた。


 ――くそっ!今はそんな事をしている場合じゃないってのにっ!

 こうなったら俺もさっきの少女みたいに魔法で防御を!


「くらえっ!」


 そう男が叫びナイフを振り上げる。


「……えっ?」


 そう叫んだところで少女はようやく気づいたようだ。

 だが今気づいたところでどうにもならない事は俺にでも分かった。

 だから俺は少女の前に立ち片手を男に向ける。


 ――最悪はこの手で受け止める。


『ウィンド』


 そう唱える。

 全神経を使って。

 体にある魔力を全て使うように。


 そして――後ろの少女を守る為に。


「グハッ!」

「なんだ――グヘッ!」


 魔法を唱えた瞬間、幾人かの声の叫び声が響く。

 そして少し遅れて。


 ドゴーーン!


 まるで隕石でも降ってきたかのような音が響き渡った。

 見るとさっきまでこっちに向かって来ていた男たち全員が壁にめり込むように刺さっていた。


 そして大きな音が聞こえた事に反動するように辺りは静かになった。


 だが、すぐにその静寂は破られた。


「ちょ、ちょっと!何よ今の魔法!?」


 後ろにいた少女がいきなり前にくるなり肩をゆらしてきた。


「い、いや君がさっきやった魔法をそのままやってみただけだけど……」


 ゆらしてくる手を肩からどかしながら答える。


 にしても力強いなこの子。

 危うくほどけないかと思った……。


「だ~か~ら~!私が言ってるのは魔法の威力よ!なんであんたみたいな子供があんな威力の魔法を使えるのかって聞いてるのよ!」


 ま、また子供って言った!

 だからお前も子供だろ!と言おうとしたが危うく我慢した。

 いや正確には言おうとしたのだが、その前に別の声が響き渡った。


「き、貴様ら動くな!こいつがどうなってもいいのか!?」


 見ると路地裏の奥で男が女の子の首のナイフを当てていた。


 ――くそっ!やられたっ!また油断してしまった!


「ちょっと卑怯よあんた!男なら正々堂々勝負しなさいよ!」


 なんて少女が叫ぶ。

 だがそんな事を叫んでもしょうがないことは分かっている。


「うるせえっ!大体魔法なんか使うやつに正々堂々なんか言われたくねえよ!」


 やっぱりだ。


 ――さてどうするか……。

 このまま魔法を使おうとしたら確実にばれる。

 流石にばれずに魔法を放つなんて事は出来るわけがない。

 それにそもそも攻撃出来ないからどちらにせよ出来ない。


「くっ、卑怯な……」


 なんて隣で悔しそうに少女が呟く。

 だがその気持ちはすごく分かる。


 元々少女を助けに来たのに、結局少女をさらに怖がらせてしまっただけだ。


 くそっ!ほんとにどうしたら……!


「はっはっはっ!よ、よしこれで逃げられるぞ!いいなお前たちついてこようとしたらこいつの命はないからな!」


 そういいながら男は一人で女の子を連れて俺達の隣を通りすぎてゆく。


 ふと、隣を見ると少女は手から血を出しながら全身をプルプルと震わしていた。


 こいつ、こんなになるまで……。


 ――くそっ!俺にもっと力があったら……。何が転生者だ!何が力があるだ!

 くそっ!くそっ!くそっ!


「……助けて」


 ふと耳にわずかながら小さな声が聞こえた。


 振り返ると女の子がこちらを不向きながら小さく口を動かしていた。


 それに気づいた瞬間、俺は男に向かって飛びかかっていた。


「グハッ!!」


 だがそのわずか前に、男がこちらに吹き飛んできた。


「――えっ?」


 い、一体何が……?


 何が起こったか訳がわからずにいると、突然腹に何かが衝突した。

 驚きながらも顔を下に向けると。


「あっ!」


 するとそこには――捕まっていた女の子が抱きついていた。


「あ、ありがとう」


 そう女の子が小さな声でお礼を言ってきた。


 突然のことでなんて言えばいいのか分からなかったが俺はひとまず女の子の頭をそっと撫でた。


「大丈夫だったマサト!」


 そういってやって来たのはなんとミーニャだった。


 そしてその隣には知らない女性が一人立っていた。


「全く……あなたは勝手な行動し過ぎよ」

「は~い、以後気を付けま~す」


 と、となりの少女に話しかけていた。


 一体何が……?


 ほんとに色々と突然過ぎて頭が追い付かなかった。


 だが皆はそんな俺をほっておき。


「ここじゃあなんだから、どこかゆっくり出来るとこで話さない?」


 となりの少女に話しかけてきた女性がそう言ってきた。


 俺はもう何が何かが分からなかったので、とりあえず頷くことに。

 まぁミーニャが一緒ってことは大丈夫な人だろう。


「ありがとう。じゃあ悪いんだけどミーニャ先に行っててくれない?」

「うん!了解!」


 そうして俺はしがみついたままの女の子を連れてミーニャについていった。




「それにしても……これは一体……」


 路地裏に倒れている男を回収しながら、壁に突き刺さってる男を救出する。


「これは私じゃなくてあの子供がやったのよ!」


 相手のことを子供というわりに、自分もまだ子供なんだけどな。

 まぁどうしてこの子が背伸びをしようとしているのかが分かっているから、今回の事も含めて深く言うつもりはないけど。


 でも今はそれよりも……。


「あんな子供がこんな事を……」


 なるほど、ミーニャたちの報告は正しかったってことね。


 ――ふふっ、これからこの街もまた楽しくなりそうね。

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