カルガン到着!
『ファイア』
そう唱えながら手のひらを上空へと向ける。
ゴォォォォォ。
すると手のひらから炎が柱がまっすぐ天に向かって出てくる。
「よし、準備はいいぞ坊主」
俺が魔法を唱えるのと同時に、俺の目の前でガリルが今晩のおかずである小動物を用意する。
「じゃ、じゃあ行くよ!」
ガリルに確認を取り、俺は空に掲げた手のひらをそっと小動物へ向かって降ろす。
普通ならこのまま小動物は、俺の炎で丸焦げになってしまうのだが。
ゴォォォォォォ……シュボッ。
「か~、やっぱりダメか~」
「そうだね……」
炎は小動物に当たる前に消えてしまった。
もちろん俺は炎を消そうだなんて全く思ってなかった。
――やっぱり俺は本当に攻撃が出来なくなったのか……。
「お~い!二人共~、ごはん出来たからそろそろ来て~!」
と少し遠くからミーニャの声が聞こえてきた。
そしてそれと同時に、声の方からおいしそうな匂いが漂ってきた。
グゥーーーー。
ん?この音は……。
「はっはっはっ、確かに腹が減っちまったな!」
音の出所を探ると――というか予想はしていたが、ガリルが腹をさすりながら笑っていた。
「じゃあそろそろ行きましょうか」
「おう、そうだな!」
そうして俺とガリルは飯を食べる為、ミーニャの元へと向かった。
ガリルが腹を空かしているので少しだけ早歩きで行くことにした。
「それで……どうだったのマサト?」
時刻は夜。俺が異世界にやってきて、あの魔物達を倒した所から街へ向かってしばらく歩いた所にある森の中にいる。
街まではまだ少しあるらしく、こうして森の中で野宿をする事になった。
生まれてこのかた野宿なんて事は一度もしたことがないので心配だったが、ガリルとミーニャが慣れた手つきで準備をしてくれたので助かった。
そして今のミーニャの問い。それは恐らく魔法の事について聞いているんだろう。
まぁ、このネコミミを付けてきたのはミーニャだが、今更恨む気持ちなんてものは全くない。
だけどミーニャは先ほどからとても気に病んでいる様子だ
った。
だから少しでも、大丈夫ということを伝えないと。
「やっぱり攻撃しようとしたら自動的に魔法が止まるみたい」
「そ、そう……」
ミーニャが一層表情を曇らせる。
「だ、だけど大丈夫だよ!街にいったら呪いを解いてくれる所があるんでしょ?街にはあと一日でつくみたいだから全然平気だよ!」
できるだけ心に傷を残さないように言ったけど、どうだろうか……?ミーニャは少しでも元気を出してくれればいいんだけど……。
「ふふっ、マサトは優しいわね」
どういう事がミーニャが突然微笑んできた。
これは元気を出してくれた、という事でいいのか?
「ど、どういたしまして……」
とりあえずそう返事を返したが、果たしてどうなのだろう……?
「それにしてもその……ネコミミとかいう奴は本当にすごいな!なにせ魔法だけでなく直接的な攻撃さえも出来なくなるなるんだから」
と突然ガリルが関心したように言ってきた。
――って!今ミーニャに心配させないように大丈夫って言ったばっかりなんだから!さらに心配させるような事いわないでよ!
なんて心の中でガリムにツッコんだが、当の本人はそんな俺の考えている事なんて知りもしない様子だった。
チラリ、とミーニャの顔色を見てみた。
……良かったどうやら大丈夫みたいだ。
「それにしても本当にマサトの魔法には驚かされてばかりだわ。まさか雷だけでもなく火も使えるなんて……。おかげで食事を準備するのにとても助かったわ」
「確かにそうだな。マサトがいれば野宿が大分楽になるな」
うぅ……。誉められるのに慣れてないせいか、二人の言葉になんて返せばいいか分からなくなる。
「あっ!マサト恥ずかしがってる~!」
と、そんな俺の様子を見てミーニャが面白がる。
「ははっ!確かに耳が閉じてる」
ガリルも俺のネコミミに気づき笑い始める。
――はぁ……。これがこのネコミミのやっかいな所なのだ。
なんとこのネコミミは、装備している者の感情を読みとって勝手に動いてしまうのだ。
つまりは、犬が喜んでいる時に尻尾を振り回すように、俺が喜ぶと耳が元気に動く。
そしてそれを最初に見つけたミーニャは「マサトはあまり感情を出さなくてよく分からないけど、ネコミミのおかげですぐにマサトがどう思っているのか分かるから、そういう所は便利ね」なんて言っていたが、正直は俺からしたらこれはただの迷惑でしかない……。
「――それにしても坊主は一体いくつの魔法が使えるんだ?」
「あっ、それは私も気になった!マサトって絶対魔法適正が高いだろうし、もっと他に使える魔法があるんじゃないの?」
使える魔法か……。それはまだ俺もよく理解していないんだよな……。
この世界がもうちょっと便利なシステムだったら、使える魔法がすべて分かるんだけど……。
ここでとりあえず俺が得たこの世界の魔法の基本的なシステムを整理してみよう。
まず、魔法は体の内に秘めている魔力を使う。
その魔力には制限があり、基本的に一日寝たら魔力が回復するといわれている。
しかし俺は女神さまから魔力の即時回復のチートをもらった。
だがこれは少しだけややこしいものだった。
まず魔力を回復するタイミングだが、これは魔力が完全に尽きてしまった時に発動する。
つまりはさっきみたいに適当に炎の魔法を使っただけでは魔力は回復しないということで、さらには魔力が完全に回復していない状態で大きな魔法を使うことができないということらしい。
次に連続での速度回復をする場合は、魔力が回復する量が減るという事だ。
これはどういう事かというと、俺があの魔物達に使った魔法のように、連続して、つまり長時間その魔法を使い続けると、いくら魔力がゼロになって回復してもその回復する量が少ないということだ。
つまりは魔法を連続して使っているといずれは魔力がゼロになって倒れてしまうということだ。
だがこれに関していえば、一度その魔法をやめればいいだけなので大したデメリットにはならない。
と、ここまでが俺がもらったチートスキルだ。
――現在はこれに魔法、近接問わず攻撃出来ないという事が加わってくるが。
そして次にやっかいなのはこの世界の魔法システムだ。
なんでもこの世界には魔法使い自体があまりいないらしい。
運良く魔法を使うことが出来ても、魔法を使える力、つまりは魔法適正が高くなければ高度な魔法は使えないので、魔法使いとして活動することはないらしい。
さらには魔法を使えると分かってもどのような魔法が使えるか分からないのだから困ったものだ。
だから俺は現状、どんな魔法が使えるか分からないのである。
「試しになんか見せてくれよ坊主」
時は戻り、二人に何か魔法を見せることになった。
しかし何か見せてくれって言われても……。
何をすればいいのか……。
雷は最初に見せたし……火もそうだし……。
でも、なんでもいいからって言って適当にやって、もし危ない魔法が出たら駄目だし……。
――安全な魔法……安全な魔法……。
あっ!そうだ!
「それじゃあ『ウィンド』!」
そう唱えながら、中央の焚き火に向かって手のひらを向ける。
瞬間、手のひらから風が吹いた。
「おおっ!」
ミーニャが声をあげる。
だけどこれだけでは終わらない。
「それっ」
そう言って手を動かす。
その次の瞬間……。
「おおっ!!」
「ほぉ」
今度はミーニャだけではなくガリルも声を上げた。
そう、中央にあった焚き火の火が小さな渦を巻いて、炎の竜巻が発生した。
「これは中々すごいな……」
「ほんといつの間にこんな上手くなったの!」
「い、いや~」
ほんとは火を出すだけだったんだけど、なんでかこんな事も出来てしまった。
やっぱり魔法は想像力なんだな。
改めて実感した。
そしてその夜はしばらく魔法を披露したあとすぐに眠りについた。
「さぁ、ここが俺達の街、カルガンだ」
次の日朝起きてからすぐに森の中を移動し、数時間後俺達はようやく街にたどり着いた。
確かにガリルの言うとおり中々な大きな街だ。
街の周りは大きなコンクリートの壁に囲まれている。
そしてここから入り口らしきものが見え、簡易的なようだが簡単な検査をしているようだった。
俺みたいな新しい者であっても普通に入れる所、本当に簡易的なものなのだろう。
もしくはガリル達が顔馴染みの様子だったから通れたかもしれないが……。
「よし、俺達はとりあえず一回魔物達の事を報告してくるからしばらく外で待っててくれや」
街の中に入りしばらくガリル達について歩いていると、一つの大きな建物についた。
その建物は横に大きく広がっていて、中から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「それじゃあマサトはおとなしくここで待っていてね?」
「う、うん」
二人はそう残して建物に入っていった。
――俺も一緒に連れて行ってくれれば良かったのに……。
なんて不思議に思いながら俺はひとまず待つことに。
にしても一体どのくらい待てばいいのか……。
街の外見はよくある中世のヨーロッパに出てくるような、レンガ造りの建物がならんでいた。
街行く人々は様々で、普通の人間や、耳がはえた――よくいう人獣もいる。
その人獣もさまざまで、全身に毛がはえている人もあれば、さきほど言ったように耳だけの人もいる。
と、そんな事を考えていると。
「や、やめてっ!」
ふとそんな叫び声が聞こえた。
声が聞こえた方を向くと、路地裏に男性が数人ニヤニヤと気味悪い笑みを浮かべながら入っていくのを見た。
「もしかしてあれって……」
頭の中で嫌な事を思い出す。
どうしかしないと……。
もはや俺の頭には声の少女を助けることしかなかった。
恐らく強い力を持って、今の自分ならなんでも出来ると思っているんだろう。
でも実際俺にはそれだけの力がある。
そう、俺には力があるんだ!
そう決意を新たにした時にはもうすでに路地裏に向けて走り出していた。