いざ異世界!なんだけど……
「ギャッハッハッハッ!これで貴様等ももう終わりだな!」
「くそっ!やられた!」
辺りを見渡すも魔物だらけ。
私たちは魔物達にはめられてしまったのだ。
「これは流石にやばいな……」
目の前で頼もしく大剣を構えている相棒でさえも、この状況には完敗のようだ。
それもそのはず。魔物達の数はざっと見ただけでも百体以上はいる。
そんな中私たちがこいつらと全員戦って生き残れる可能性なんてゼロに等しい。
それこそ誰か助っ人がこない限り生き残ることは出来ない。
なんて、淡い希望を抱いても無駄か。
第一、助っ人が来たとしてもこの数を相手に出来る人なんてそうそういやしない。
――さて、これはどうしようか……。
なんて生き残るために思考をあれこれと巡らす。
だが、そんな時私たちの目の前に一つ筋の光の柱が現れた。
「なっ、なんだこれは!?」
魔物達が一斉にどよめく。
だがこれは私たちにとっても全く知らない事だ。
目の前の男を見るも大剣を抱えたまた目を見開いていたからきっと相棒の仕業でもない。
となると一体これは……。
そう考えている間に光の柱は上の方から徐々に徐々に光の粒になりながら消えていく。
そしてその光が完全に消え去るとそこには一人の少年が立っていた。
「げっ、何あれ……。――も、もしかして魔物!?」
その少年はどこかか細く、そして怯えた表情を浮かべて
いた。
俺の名前は上村雅人。どこにでもいるただの小学五年生だ。ただし俺は普通の小学生と違う所がある。それは学校に全く行っていないという事だ。
――つまり不登校ということだ。
どういうわけか俺は他の人と感性が少しずれているようだった。なので俺は教室ではいつもはぶられていた。
そんな俺がどうして不登校になったのかというと、きっかけは非常に簡単なものだった。ある日学校に行く意味を考えたら、「行く意味はない」という結論が出た。だから俺は学校に行くのをやめた。ただそれだけだ。
そして不登校になってからは毎日が楽しくてたまらなかった。
毎日毎日ネットを漁り、ゲームをし、まさに天国のようだった。
しかしその天国は長くは続かなかった。
その日もいつも通り昼に目が覚め、昼食を食べようと一階に降りようとした。しかし寝ぼけていたせいが、不運にも階段から足を滑らしてしまった。そしてそのまま大きな音をたてながら真っ逆さまに落っこちた。
しかし不運はここで終わることはなかった。
なんとその日は家に誰も人がいなかったのである。
なので自分で救急車を呼ぼうにも、意識がもうろうとしていて動くことすら出来ない。
そうして俺はそのまま意識がなくなり、同時に命もなくなった。
――だが、俺の人生はここで終わることは無かった。
次の瞬間、意識が強制的に戻ったのだ。
さらに驚いた事に、意識が戻った場所が、自宅ではなくただただ広い空間が広がっている場所だった。
そしてあろうことか女神を名乗る女性に出会った。
――この瞬間俺はある事を確信した。
そう俺は異世界転生をするのだと。
そこからの話は早かった。予想通り異世界に行くように女神に言われ、ついでにチート能力も授かった。
そうして俺は準備万端のまま、新たな人生へ期待に胸膨らませて異世界へと旅だった。
だがしかし、人生はそんなに甘いものではなかった。
「げっ、何あれ……。――も、もしかして魔物!?」
女神に異世界に送られ、真っ先に目にしたものが魔物だったのだ。
しかもその数たくさん。
うぅ……どうしてこんな事に……。いや、そもそもこの世界の魔物は敵という認識でいいのか?
そうだ、魔物だからっていっていきなり敵認定するのは流石に可哀想だろう。
生物皆話し合えば分かりあえる。
そうどこかで聞いた事があるしな。
「おいっ!貴様どこから現れた!」
魔物の一人がそう行って手に持っていた剣を向けてきた。
――うん。前言撤回。魔物は皆敵だ。
「お、おい坊主!お前は敵か?それとも味方なのか?」
「えっ?」
び、びっくりした……。まさか後ろにもいたなんて……。
「――えっ?」
背後を向いた瞬間俺はもう一度驚くことになった。
まさかこんな所に人間がいるなんて……。
てっきり後ろにも魔物がいるとばかり。――いや正確には後ろにも魔物はいたんだけど。
「おいどうなんだ坊主!お前は魔物達の仲間なのか?」
うおっ!よく見たらこのおじさんけっこう顔がいかつい……。
それによく見たらおじさんの後ろにももう一人人間が。しかも女の人だ。
その人はおじさんと比べてとても小さな体をしており、その短い銀髪といい整った顔つきといい、とても美人さんだった(日本語がおかしくなったけど、それだけ美人さんという事だ)。
って、とりあえず何か返事を返さないと……。
「え、えっと僕は魔物の味方ではありません。だ、だから多分味方だと思います……」
日頃まともに人と話していないせいで少し音量が小さくなってしまったが、どうやらちゃんと通じたようで少し安心した。
にしてもこの状況は一体なんなのだろうか……。
四方八方を魔物に囲まれたまさに絶対絶命の大ピンチのように見えるけど……。
「よし、味方なら分かった。……なら聞くがもしかして坊主はこの状況をなんとかできるか?」
そう聞くところを見るとやっぱりこれは絶体絶命の大ピンチのようだ。
それにしてもどうしてこの人達はこんな状況に陥ったんだろう?
まぁ、今はそんな事を気にしている暇はないのか……。
とりあえず返事は返さないとな。
「――絶対とは言えませんけど……。多分どうにかなると思います……」
「それはほんとっ!?」
うわっ、びっくりした。
さっきまでおじさんの後ろでただただ縮こまっていた美人さんがいきなり飛びついて、肩を強く握ってきた。
「え、えっとほんとに絶対とは言えないですけど……」
「お願い!私たちを助けて!」
美人さんは俺の言葉を最後まで聞かずに頼み込んできた。
みると美人さんの顔は涙でくしゃくしゃになっていた。
――きっといままでずっと怯えていたんだ。
「わ、分かりました!任せて下さい!」
「すまねえ。こんな年端のいかない坊主に頼ってしまって……」
「い、いえ大丈夫ですよ」
なんて言うけど、正直本当にこの状況を絶対打破できる自信なんてのはない。
ていうかむしろさっきからジロジロ怖い目で見てくる魔物を見るだけで足がガクガク震えてしまいそうなんだけど……。
「もういい!野郎共奴ら全員血祭りにあげるぞ!」
ついに我慢の限界がきたのか、魔物の一人が声を上げた。
すると、そのかけ声を待ってましたと言わんばかりの勢いで魔物達がこちらに向かって走ってきた。
――やばい……。
こんなに一気に魔物が押し寄せてくるものだから、小学生の俺に対しては少しショッキングすぎる。
つまり、怖くて体が動かない。
「ちょ、ちょっと大丈夫!?」
するとそんな俺の様子に気づいたのか美人さんが声をあげた。
「おい、坊主ばかりに頼ってないで俺達でもやるぞ!」
そんな俺の様子を見てかおじさんは手に持っていた大きな剣を構えた。
「そ、そうだね。私も今出来ることをしないと……」
そう言って美人さんは腰に差していた短剣を手に取った。
――この人達はこの魔物達が怖くないんだろうか。
その勇敢な姿を見てついそう思ってしまう。
だが、本当はそうではないことはなんとなく分かった。
そう、怖いのは自分だけじゃないんだ……。
「だ、大丈夫です!僕が全員倒してみせます!」
俺も一度やれると言った以上、その責任を果たさないといけない。
それが真の男だっていうしね。
「二人共僕の近くに寄って下さい」
「お、おう」
「うんっ」
二人は少しだけ不安そうにしていたが、すぐに俺の指示に従ってくれた。
――ほんとこの人達がこんないい人で良かった。普通見ず知らずの人にここまで信頼するなんてないからな。
まぁ、今はこの魔物達を倒す事を考えよう。
そうこの魔物達を……。
――えっ?
「…………」
いつの間にか美人さんが俺の手を強く握っていた。
その手は不思議と暖かく、どうしてか魔物に対しての恐怖心が少しだけ和らいだような気がした。
「もう大丈夫です」
そう言うと美人さんはにっこりと微笑んで手を離した。
――さぁ、異世界で初めての戦闘だ。ここはいっちょかっこよく決めてやる!
心の中でそう思いながら俺は手のひらを空に向け、魔力を込める。
そう俺は今から魔法を使うのだ。
実は女神さまのところで少しだけ使い方を教わっていた。
「魔法はとにかく頭の中で想像することが大事なのよ!」
女神さまの言葉が頭の中で再生される。
大丈夫だ。俺には女神さまからもらったチート能力があるのだ。
それはズバリ、魔力の即時回復だ。
つまりいくら魔法を使おうがすぐさま魔力が回復するのだ。
そう俺はそんなチート能力を持っているんだ!
そう思うと妙に自信が出てきた。
「こい!『暴風雷』」
そう叫ぶと同時に体から力が一気に抜けた。
それこそ今にも意識が飛んでしまいそうだ。
――これが魔力消費か……。
そしてそれと同時に、ピカッ!という音とともに各地でゴ
ロゴロゴロと雷が落ちる。
せ、成功した。
「こ、こりゃすげぇ……」
「こんな魔法初めて見たよ……」
そんな二人の声が聞こえないほど、空から雷は容赦なく降り注いだ。
「いやーすげえな坊主!まさかこんな大魔法が使えるなんて!」
あれから数分間雷は降り注いだ。
そして雷が止むと同時に辺りには黒い塊――おそらく魔物の死体だろうが衛生上あまりよくは見ていない――が転がっていた。
そして全身の力が抜け続ける感覚がやっと終わりを迎えたところでおじさんが頭をさすってきた。
「あ、ありがとうございます」
なんていえばいいか分からず、とりあえずお礼を言っておくことにした。
「いやいやお礼を言うのは私たちの方だよ!ありがとね……え~と……。そういえば自己紹介してなかったね」
そうだ。とてもそんな事をしている暇が無かったので忘れていた。
というか今でも思うが、名前を知らない、しかもこんな子供の事をよく信じてくれたと思う。
なんて関心している間に美人さんから手が差し出された。
「私の名前はミーニャ!よろしくね」
「よ、よろしく。お、俺は上村……いえマサトって言います」
「うん!マサトね!よろしく!」
最初は本名を言いそうになったけど、やっぱりこの世界の名前はカタカナのようなのですぐさま下の名前に訂正した。
「おれはガリルだ。よろしくな坊主」
「よ、よろしく」
どうやらおじさん……いやガリルは俺の名前で呼ぶ気はないらしい。
まぁ、別にいやではないからいいんだけど……。
「それにしても坊主は一体何者なんだ?あんな大魔法を使える奴なんて聞いたことないが……」
「そうだよ!あんな魔法を使える人なんてのはもれなく国の英雄なんだけど。マサトって名前も、子供の英雄がいるっていうのも聞いたことないし……」
う~ん……これはどうしようか……。
素直に事情を説明した方がいいのか?
まぁ、この人達は悪い人ではなさそうだから、別に言って損になることはないんだろうけど……。
うーーーーん。
――しばらく悩んだ末俺は正直に話すことにした。
「何っ!?こことは違う世界から来ただってぇ?」
「ほ、ほんとなのマサト!?」
とりあえず事情をすべて話してみたけどやっぱりすぐには信じてもらえないか。
「待てよ……でも確かにそれならあの魔法にも納得がいくっちゃいくな……」
「うん……そうだね……」
あ、あれ?
もしかして二人とももう信じてくれた感じ?
この世界ってもしかしてこんなお人好しみたいな人がいっぱいいるの?
「まっ!とりあえずは早く街に戻ろう。このことを早く報告しないといけないしな」
この事とは……。あぁ魔物達の事か。
確かにこの近くに街があるんなら、すぐにでも報告しないといけない事だな。
でもこれってもしかして……。
「もしかして僕も一緒に着いていっていいんですか?」
「あぁ?もちろんだよ!このまま命の恩人に何もしないまま帰せるわけねぇだろ!」
「うん!そうだよマサト!それにマサトは他に行く所はないんでしょ?」
行く所……。確かにないけど……。というか女神さまから特別これをやれっていうのを言われてないから、本当に何もないんだけど。
「じゃ、じゃあよろしくお願いします!」
「うん!よろしくねマサト!」
――こうしてこの世界で初めての仲間が出来たのだった。
「あれ~?見てみて何か宝箱が落ちてるよ?」
しばらく魔物達の死体の中を歩いていると、ミーニャが宝箱を発見した。
――いや、宝箱って。まるで敵を倒して出てきたみたいな感じだな……。ここはもしかして異世界じゃなくてゲームの世界なのか?
なんて一人思考を巡らせている中、ミーニャとガリルは早速宝箱を開けていた。
「――ん?これは何だ?」
とガリルは宝箱の中身を見てなにやら不審な声をあげた。
ん?何か不思議な物でも入っていたのか?
そう思って俺も宝箱の中身をのぞこうと近づく。
だが、身長が足りず中身を見ることができなかった。
二人はそんな俺に気づかずただただ宝箱の中身を見ていた。
――だから何が入っているんだよっ!
そう必死に訴えかけていると。
「あっ!これって……!」
とミーニャが不意に声をあげた。
そしてミーニャは宝箱の中に手を入れ、それを取り出した。
「それって……」
ミーニャの手に握ってあったものを見た瞬間、思わず呟いてしまった。
――一体どうしてそんな物がここに?
「これって頭につけられる耳の飾りじゃないの?」
そう、なんと宝箱に入っていたのは――ネコミミだったのだ。
いや!おかしいだろ!っていうツッコミは果たして入れていいのか。そもそもこの世界にはネコミミという物があるのか?そしてネコなる動物はこの世界にいるのか?
なんて色々と思考を巡らせていると。
「ほらっ!すっごく似合うよマサト!」
「えっ?」
そう言ったミーニャの手にはすでにネコミミは握られていなかった。
――まさか……。
だがそう思った時には時すでに遅し、俺の頭の上にはネコミミがちょっこりと乗っかっていた。
「か、勝手につけないでよ……」
「え~、可愛いからいいじゃない~」
可愛いって……。俺一応男の子なんだけど……。
ってあれ?それにしてもこのネコミミ全然とれないんだけど……。
「ん?宝箱の中にまだ入ってたぞ?」
一人ネコミミと格闘している間にガリルは宝箱の中から一枚の紙を取り出した。
って今はそんな紙よりこのネコミミを取らないと……。
なんて思っていた俺は、次の瞬間氷漬けにされてしまったようにその場にカチコチに固まってしまうのだった。
「このネコミミは一度装備したら二度ととれない呪い装備であり、さらには攻撃が一切出来なくなる効果もあります」
「……………」
ガリルが読み上げた瞬間、俺、さらにはこの場の空気ですらカチコチに固まってしまった。