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第50話 三大会談と新たな問題

『まずは……貴様への評価を改め、そして敬意を表そう。異次元より来たりし我等が同胞よ』


 まずは一柱。魔王ミゼルが姿を現しそう言った。黒紫の甲冑にマントを身に付け、頭には3本の禍々しい角が出ている男。瞳も全て黒く人間のそれではないと分かるが、何より”気取っている”という雰囲気が似合う。


 だが醸し出す物は人智を超えた理解不能の奔流。理から外れている冒涜的なまでのねっとりとした殺意はそのまま精神を表している。


 紳士的な笑みを浮かべた彼に対して、サナリアも笑った。


「それはどうも。ミゼル。本体で来た様だね」

『勿論だとも。こうして同胞と出会えたのだから。敵であろうとこちらも真摯に対応しようというもの。それが”古き良き”礼であろう。私はそういう物には五月蝿いのだ。特に”同じ立場”と認めた者にはな』

「……そっちは?」


 もう一方を見れば、こちらは正しく清潔。純白のローブを巻いた、一言で言えば万能を騙る神の様な姿だった。だがそのローブの下には黄金色の得体の知れない液体が流動した肉体があり、眼はサファイアの様な宝石で出来ていた。


 こちらも鈍重な粘液性のある得体の知れない威圧感を出し、この場全てを否定する様な雰囲気を見せつける。ハッキリ言えば不機嫌だった。


『我は貴様等に対して考える事は一つ。諸共に消し去るのみということ。その過程に対してグダグダと苦言を申す虫に喝を入れに来ただけのこと』

「私もミゼルも敵と?」

『然り』

『これは驚きだ。彼の者は私と疑似的な共闘関係であると言うのに、まさか面と向かって言われるとはな』

『貴様達とは今のみ。この世界を呑み込み、宇宙領域内の次元範囲の奪い合いこそが本来の目的なれば』


「この宇宙の特異点であるこの星を破壊することが目的ってことね。予想通りの回答で痛み入るよ」


「あ、あの、お姉ちゃん?」

「さ、サナリア。さっきから何の話してんのよアンタ等……」


 2人はその話の内容には着いて行けない。ルルも記憶を見ているとはいえ、専門的な部分で言えばかなり遅れを取ってしまう。サナリアの過去は知っていても、それは全て断片的な、何も知らない自分が見聞きした出来事でしかない。


 そしてケイフルは言わずもがな。


「ああ、そうだね。簡単に言えば、この戦争は2人にとっては前哨戦なんだよ。遊びみたいなもの、かな。なにせ規模が規模だから」

『如何にも。これまで幾つもの宇宙特異点の星は破壊したが、我等と同類項の相手を見つけたのは今回が初めてなのでな。趣向は凝らすべきだろう?』

『我等は元よりこうして試すが役目。そこから同等の存在が生まれるのは望ましきことだ』


「まぁつまり、2人は自分達が率いる者達とあらゆる世界に跳んでは、そこを破壊し尽くしてその世界のリソースを全て奪い取っては違う世界にまた跳んでいるっていう。言ってしまえば宇宙人だよ」


「―――」

「???」

「まぁ混乱するよね。だよねぇ……」


 話しは一気に飛躍し過ぎて絶句するか更に困惑を深めるしか出来ないが、ケイフルは何とか言葉を紡いだ。


「え、えっと……私達は、こいつ等にとって虫ケラってことよね?」

「それ以下だけど、面白いから玩具にしようって感じだね。くっそ胸糞悪いことに」

「ぶっ殺す」

「待てい」

「へぶっ!?」


 殴りかかろうとしたケイフルの首根っこを掴み組み伏せる。ここで戦い出すのは簡単だけれど、それは推奨出来ない。


「な、なによっ!?本体なんでしょっ!!今ここで叩けば……」

「此処で戦えば、数秒足らずでこの世界が崩壊するよ?」

「い―――――ッッ!?!?」

「そういう存在なんだよ」


 そう、でなければ姿など現さないのだ。ミゼルもカルデスも、先程戦ったライフなど話にもならない。サナリアの想像通りであれば、この2人の強さは根源的に次元が違うのだから。


 ニヤニヤと笑うミゼルは。鼻息1つして肩を上げる。


『別に私は構わないぞ?そちらには多次元を渡るナノマシンが居る。その技術は懐かしさすら覚えるがね』

『骨董品の中の骨董品の技術など話にもならぬ。この世界の神とやらも無駄な転生をさせたものだ。滑稽に過ぎる』

「……」


 サナリアの切り札の一つであるナノマシンですら”古い”と断言される。超常などとは生温いと一蹴してしまう。それは自負であり。確かな自信。


 だからこそ分からないことをルルは質問した。


「……何故此処に、という話は置いておくけど。何故、何故貴方達は違う世界を脅かすんだ……その為の悲しみに興味さえ抱かないの?」


 確かな感情の起伏があるのならば、それはそのまま”悪意の中の善意”に直結する。ならば心を痛める”民”だって居る筈だと。


『『ハハハハハハハハハハハハハハハハッッッッ!!!!!!』』

「――――――ッッ」


 その嘲る様な大口開いた笑い声は、世界に響き渡る。冒涜的、人間の尊厳を全否定する様なその声。


『ああ、すまん。本当にすまんっ!! ぶくくっ、ま、まさかその様な質問をされるとは思わなんだぁ……ぶぼっ。違う違うのだこの世界に生きる弱き者よ…………我々に人間の定義を当て嵌めてはならんよ。我々は”人間ではない”のだから』


『いささか勘違いをしている様だ。よもや人間にとってそういう認識の下であったか。これは再考の余地がある。大いに……だが説明したところで理解は出来ぬだろうよ。そこの者以外は……』


「……お姉ちゃん」

「んー、おいで。怖い奴等だよねぇほんと。ほらほら」

「うぅ……」


 怖がっているルルを抱き締めて、ケイフルの頭を撫でるサナリア。その眼には動揺は無かったが、悲しみを滲ませてはいた。


 確信、諦め。同情、怒り。そしてほんの少しだけある、困惑。


「貴方達は……人間じゃない。もっと言えば。遠い昔に人間が残した、”AI”か」

『『……』』


 今まで意志のあった眼から、ふっと全ての威圧と殺意が消えた。代わりに、全身が震えあがるほどの悪寒。絶望と死が溢れ出す。


 そこでサナリアは言及することを止めた。そこから先は『侮辱』になると分かったから。


『……遥か、本当に遥か昔の頃の話だ。今はその様な詰まらぬ者ではないのだよ』

『貴様は必ず殺すぞサナリア。この世界の人間諸共ゴミの様に死んで逝け』


 ミゼルは言葉を崩さなかったが、カルデスは冷たく言い放って即座に消えた。


 サナリアの言葉を聞いていた中の存在。ディアナはその単語を聞いた瞬間に大きく狼狽えていた。



『……AI……………A、I…………ッッッ』

(ディアナ?)

『……』

(ディアナ、どうしたの?大丈夫?)

『……いえ、大丈夫です』



 大丈夫には程遠い声をしているディアナに気に掛けたいが、まだ目の前にもう一柱が居る為に意識を傾き切れないサナリア。そして彼女は更に思考に埋もれていく。


(なんですこれは……?懐かしい?悲しい?苦しい?憎々しい?分からない。何故こんなにも心がザワつくのでしょうか。心………ここ、ろ……?)


 そもそも自分という存在の正体さえ知らない彼女にとって、それは本当にあるのかも怪しい概念だった。何故なら自分という存在はサナリアという記憶媒体を元にして自分で作り上げた『人格』という構成を自意識としてハッキリ認識してしまっている。


 であるならば、この思考パターンもそこから生まれた物であり偽物だった。まるで、先程の敵と同じ様な――――――――――――っという所で、事態は動く。


『今日此処に来たのは、我々がその宣戦布告を受けようという、そういう話だ』

「へぇ。侵略される覚悟はあるんだ」

『無論全力を持って迎え討とう。我々の作り出した”波”に対してどう戦うのか楽しみだ。この滅びかけている世界で、どれだけの力を示せるのか……可能性を見せてみよ、人間。さらばだ』


 そう言ってミゼルも消えた。


 一気に空気が軽くなった空間で、深呼吸をするルル。


「……ほんと、とんでもないもんと戦ってんのね。アンタ……」

「私だって、戦わずに済むならそれが良いんだけどね……どうも、そういう宿命からは逃げられないみたいだよ。はぁ……」

「けど、今回も1人じゃない」

「……うん」


 サナリアにとって戦いは他全てが邪魔。戦うならば一人が最も効率が良いという極端な最適解を出してしまっている。戦力の突出とはそれだけで孤独を生み出す。


 だがそれでは納得出来ないのが人間だった。感情持つ生物の業。大切な者と共に戦いたいという業欲。それを否定する言葉を彼女は持たない。だから。


「頼りにしてるよ。2人とも。私だけじゃ勝てないからね」


 ニカっと笑い、そのどちらとも言えない言葉で濁す。一番巻き込みたくない大切な狐耳の少年を抱き締めて。その温もりを失くしたくないと祈りを込める様に包む。








「終わったのか?」


 帰って来ると、3種族達が全員が砦の中に入った状態で待っていた。入口には族長、王女達が私達を待っていた。心なしか全員が疲れた顔をしているのはきっと気のせいではないだろうね。


「終わったよ。なんでみんな砦の中に?」

「馬鹿、お前例のアレと会ってたんだろ?戦い始めたらどうなるか分からんしな」

「全くよ……それで」

「大精霊達の件?」

『そうだ』


 そこに4体の大精霊が姿を現す。


 誰も彼もが決心をした顔。覚悟を決めた顔をしているところを見ると、進む道は決定したらしい。


『俺達大精霊は、今この地に住む者達との契約を果たした』

『ボクはエルフと』

『私はアマゾネスと』

『我はドワーフと』


「つまり、共に戦線への参加をしてくれるってこと?私との共闘と受け取るけど良いのかな?」

『その証として、俺がお前との契約を結ばせて貰う』


 ズイっと出て来たのはモキュモキュした見た目のモグラである土の大精霊。私と契約?それは……


『……』

「ごめん、既に1人凄い嫉妬しているのが中に居るからいいや。代わりにルルとしてくれないかな?」

「えっ!?」


 え、じゃないよ?ルルは幾ら強くなっても良いし、大精霊が居れば戦略の幅が増えるだろうしね。大精霊自身も中々強いし私としては是非とも壁にして欲しいね。ケイフルじゃ喧嘩になるだろうし。


「いつ死ぬか分からないからね。保険は掛けておくべきだよルル。私に守られるのは嫌なんでしょ?」

「―――ッ」


 その言葉に少年は表情が変わる。卑怯かもしれないけれど、2人の間にだけある呪いの様な絆だからね。繋がった運命がある以上、私はそれすらも断ち切らなければならない。それが望んでいることに繋がると信じているから……


「……分かったよお姉ちゃん。大精霊様、ボクと契約してくれますか?」

『良いだろう。では新たなる契約者ルルよ。本来ならば勇者にのみ与える物ではあるが、今回は特例だ』

「はいっ」


 大精霊は大きな手を翳すと、ルルの身体が光に包まれる。


『星司る世界樹が大精霊『レドグラス』の名に於いて、新たなる主ルルに加護を授けんとする。ルルよ。俺はお前を守る盾となり永久の豊穣となろう……『精霊契約』』


「……これで終わりかな?」

『ああ。我等の同盟は結ばれた。共にこの世界を救済する為戦おう』



 よし、これでこの地でやることが全て終わった。後はラダリアに全員集結させて戦線から人を―――――――――


『大変だッ!!』

「……おん?」


 いきなり声を上げたのは水の大精霊、オチュアニア。全員がそちらを向くが、彼女も含め沢山の精霊達がブワッと出現する。


 エルフやドワーフ達の契約している精霊も騒ぎ出したのを見ると、どうやら種族総出での困りごとらしい。契約したばかりの大精霊達も大いに慌てた様子だった。ああ、問題が発生したらしい。例に漏れず。


「いいよ困ってるんでしょ?言ってみ?」

『……世界樹が』





『この世界の根本を司る世界樹が、奴等に見つかった』


 それは予想より遥か上のヤバヤバ案件だった。まだ決戦までの道のりは、遠のきそうだ……

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