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第48話 ダンジョンマスター攻略戦⑦ ヘイ・マイボス

 ”理”とは何か。その者は知っていた。この世界においてそれは『ステータス』であると。何者であろうと決して逆らうことが出来ず、古今東西、あらゆる物に存在する”真の不平等”とも言える概念。それがあるからこそ、命ある者達は皆己の指標を最初からも持てるのだ。


 もしそれを裏切ってしまえば、世界そのものを拒絶するに等しい。それこそが全てなのだ。”それ以外”の全てが変質してしまったとしても、その1点さえ間違わなければ世界には決して拒絶されないのだ。


 それだけを恐れて”彼”は生きて来た。己の概念がどれだけ捻じ曲がり、汚く疎まれようとも。それを世界が許すのならば、その通りに動くのが道理。



 例えそれで世界が壊れようと、変わってしまった彼は、且つての友を殺す事に些かの躊躇もありはしない。





「グオォオオオォォオォォォオォオォォッッッッ!!!!!!」


 ブァゴォオオオォォオオオォオォォッッッッッ!!!!!!!!


 流体。そういうのが妥当な銀色の滑らか表面が不気味さを醸し出す人型の何か。その右手にはドロドロの白濁に染まった一振りの剣。神造武器である『聖剣』が握られ、その身体には同じ様にドロドロの『聖鎧』が装着されている。


 そしてその攻撃はもはや、星1つを確実に破壊する力を持って空を舞う。ただの一振りが極大の魔力を持って空間を裂き、空全体に光のカーテンを描く。魔力粒子が地上に降り注ぎ形を保つほど濃密であり、それだけで生物が死滅するほどの毒性を放つ。


「――――――ッッッ!!!」

『サナリアっ!!』

「任せたよ相棒っ!!」


 ――――――――――ズアッッッ!!!!


 その毒を、『領域変化』内でまるごと地上を包み防ぐ。結界を物理的な防御とし、その余波を防ぎ切った。サナリアは全力全開、本気ではないマジで戦闘体勢を取る。


「強いってのは分かってるけど、物理MAXは流石にねっとぉっっ!!」

「オォオオォォォッッッ!!!!!」


 バキィイィィンッッッ!!!


「あっ」


 だが、迎撃で出した唯一の武器であるオリハルコンの剣は聖剣に当たったと同時に砕け散った。瞬間、その閃きを間一髪で状態を反らして代わり、蹴りを入れようとするが、


 グニョンッッ


「はいぃっ!?!?あっやばっふんぬっ!!」


 顔だった部分がスライムの様に穴が開き、足がそこを突き抜けた。頭はすぐに元に戻り足を掴んでしまうと、そのまま聖剣で刺突しようとしたところを、何とか聖鎧を蹴って外し間一髪で避けた。刺突はそのまま一筋の光を空に残す。


 明らかに知能の残ってない咆哮を上げているが、ダンジョンマスターはしっかりとした”闘い”をしている。そう確信させる動きにサナリアは唸る。


『中々にやりますね』

「フォルナとはまた違う意味でやり難いね、どうも。けどどうしたものか。剣が無い……とぉっ!?」

「ウオォオオォオオオォォッッ!!!」

「くそ、だったらこうだっ!!」


 有り余る魔力はサナリアも同じ。接近戦が出来ないなら魔法に頼れば良い理論で、大盤振る舞いで発動させまくる。


 うねる様な魔力の渦が空中に氷結の刃を作り出し、その周囲に真空を纏わせた挙句爆破する様に魔力を籠めた物を数万と出し、ダンジョンマスターの周囲を囲う。


「さぁお遊びの時間だよっ!!!久々の体操を楽しもうかぁああっっ!!!!!」



カッッ―――――――――――――!!!!!!



 幾本の魔法の刃が襲い掛かろうとした傍から、全てが届く前に掻き消されていく。サナリアは次から次へと魔法で射撃しながら逃げるが、どれだけ放ってもダンジョンマスターには当たらない。というより、効果が無かった。


 ダンジョンの勉強はある程度している故に、それが”魔法無効化”のスキルであることは容易に分かった。


「チートッ!!あそこにチートが居るよねぇっ!?」

『貴方も同じ類でしょうに。しかしダンジョンのスキルを全て使えるとすると厄介ですね。人智ではどうにもなりませんよ』

「こっちはまだその人智内でやってるってのにねっ!!人間ってのはいつまでも面倒なこったっ!!」

『喋り方が変わってますよ。もっと女性らしく』

「はいはいはいっ!!っとぉ危ないっ!?」


 1撃1撃が山を消し飛ばす勢いの攻撃が連撃で放たれ、それを全く迎撃出来ずに躱すしかなく、そしてどんどん攻撃が多様化していく。腕はスライムの様に伸び、巨大化して振り被られ、剣は長大化して羽虫になった気分でサナリアは跳ぶ。


 とにかく数秒よりも更に先、一瞬毎に更に向こう側へ、加速度的に強くなるダンジョンマスター相手に、この世界の人智では対抗出来ない。



 力では、技術では、スキルでは、この化け物には勝てない。だから、


(本当は最後の最後にだけ使うつもりだったけれど、やるしか無い、か……?)



 ガギィイィィインッッッ!!!!


「くぅぅぅ……」


 小惑星でも相手にしているかの様な質量。足に高密度の魔力を籠めてそれを迎え撃つが、ステータスで何とか持っているものの、”補正”というものが何よりも厄介だった。


(人間大の大きさでまるで星そのものだねっ!!これは……重いぃぃぃ~~~~)


「くぉんなくそぉおおぉぉーーーーーーッッッ!!!!!」

「―――――ッッ!!! ぐひゅうっっ!!!」


 にゅわっ!!


「んなっ!? うわっ!?」

『サナリアっ!!』


 迎え撃っていた腕をその場で変形した相手の腕に取られ、真っ逆さまに下へ。


(やばい、この速さで堕ちたら私でも死ぬっ!?―――――――――――――んなろっ!!)


 ダンジョンマスターは笑う。冒涜的な見た目に変化しつつ、音速を遥かに超えた速度で地上へ落ち――――――叩きつけられた。



 ドゴォオオォオォォォォオォオォオッォォオォーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッ!!!!!!!!!









「「サナリアッッ!!!」」

「な、なんという……」

「も、森が……」

「……やべぇなありゃぁ」

『これが今の彼なのか……?』

『あいつ…』


 森に住む全ての者達が、その光景を見ていた。自分達が住んでいた場所が、彼等のシェルターでもある砦を除き、ほぼ全ての森がクレーターと、その衝撃破で消えて無くなった。あの樹齢数万年の大樹達が、精霊と共に消滅したのだ。


 エルフやドワーフ達の精霊とは全てそこの自然を媒体として生きている。よってその瞬間に9割が死滅。彼等の絶望は計り知れなかった。


 そして大精霊達も、特に地上の土を媒体にしている土の大精霊はかなり悲痛な顔になる。


 全ての霊を輪廻に送り、その殻を打ち破った。魔族も天使も倒した。それでも戦いは集結しない。


 太古の昔から存在する、史上最悪の汚染源。



 それを倒せるのはサナリアだけだと思っていた彼等の顔。その中で、まだ諦めていないのは2人だけだった。


「ケイフル……どう思う?」

「……落ちて来る時、一瞬軌道が変わってたわね」

「ってことは」

「「まだ戦ってるっ!!」」




 本気とは全力と違う。サナリアは且つて、その本気をずっと見せて来た。その為に磨かれた”知識”であり、それを活用する為の”技術”だったのだから。サナリアの長年夢見た”呪い”の除去。ただそれだけの為に、世界を事故で1つ消してしまったりもした。


 その力は、その技術は、この世界に見せるべきじゃない。なにせ”相手も使っている”のだから。手の内は見せたくなかった、しかし……


「ここまでやられたら……そうも言ってられない、よねぇ……」


 クレーターの原因は、ダンジョンマスターの攻撃ではなく、サナリアのなんてこともない”受け身”が原因だった。それは物理に寄る物ではなく、れっきとした”現象”によるものだった。


『領域変化』などというスキルによるものではない。彼女が元来持っている、スキルにも無ければ遥か昔の神々にも無い、世界の摂理から外れ切った”異能”だった。




「久しぶりの仕事だよ『サウダージ』まだ”そこ”に居るかしらっ!?」

【ヘイ、マイボス。久し振りのお仕事かい?】

『ッ!?』

「――――ッッ」








 その瞬間、世界の時間は止まる。良かった、まだ”そこ”に居てくれたらしい。私が95万5247回目に作った『全次元異空間移動多目的デバイス』は、この世界でも正常に起動した。


 私の作った人工ナノマシンAIは重力制御を獲得し、自らを増殖しながらあらゆる次元に跳び、そこに散布されていく。そのスピードは鼠算式であり、材料は宇宙空間に漂っている『暗黒物質』を重力制御化でクエーサーの中で化学変化させることで出来上がる。だからその宇宙にクエーサーが無いとそれ以上は広がらないのだ。


 だがそれさえ存在するならば、それを媒体にして瞬く間に、それは電波の様に広がっていく。


 その人工ナノマシンを巡って昔は宇宙戦争が数万年続いたぐらいの代物だ。私が指導者を皆殺しにしなければ止まらなかっただろうけれど。その効果のほどは、以下の通り。


 条件さえ整えば”その宇宙の概念に干渉出来る”というシンプルにして最強の”一つ”だと思う。それでも、単体相手にしか使えないのが玉に瑕だが。少なくとも、ダンジョンマスターには刺さったようだね。


『あの……これどういう?』

【おやおや、新人さんかな?ヘイ、マイボス。いつから浮気なんて器用な真似が出来る様になったんだい?】

「ディアナ、これはAI。私が過去に作った物だ。この世界の宇宙にまで散布されていた様で助かったよ。空気中には幾らでも居るからね」

『……なる、ほど』

【おや、生まれたてなのかな?それともソフトが古い?レトロとはアンティーク効いてるじゃないか】

「無駄口叩かないの。残り空白時間は?」

【ん~~もって数分かな。急いで来たけれどまだ集まり切ってないからねぇ。皆頑張って宇宙の果てに殺到中。ここに居るのは数千那由他分の1だよ】

「十分多すぎだよ馬鹿」


 しかしそうか。それだけ居れば十分勝てるね。


「今増えてる分も合わせて、どれくらいでこっちに来れる?」

【数日あれば十分さ、マイボス。差し当たっての仕事は?】

「”いつもの”よろしく」

【あいあいさー、良きバトルを、マイボス】


 それで、空中からナノマシンが集束した剣が出て来た。それを掴み、その場で振る。空間が切り裂かれ行く音が子気味良い。見た目は古ぼけたただの剣だけど、これが私の”原点”だ。


『むぅ……』

「あの、なに膨れてるの?」

『私、アンティークではありませんが』

「え?あ、う、うん。ディアナはAIじゃないでしょうに」

『全く、外のことなど放っておいて早くその時点まで辿り着きたいところですが……』

「ごめんね。長いでしょうブラックホールのくだり?」

『ええ、それはもうっ!!それはもうっ!!』

「たはは、これが終わったら暫くは大丈夫だろうから。もう少し頑張って」

『……ええ』


 それじゃあ相棒の機嫌が取れたところで、


――――――――――――――――――――ッッ


キィィイィィイィィーーーーーーーーン


「そんな物にいつまでも縋ってないで戦いなよ」



 まずは、その聖剣と聖鎧を斬り落とした。

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