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第47話 ダンジョンマスター攻略戦⑥ それぞれの決着

 進化こそが生命の本懐。環境に適応し、未来に適応し。出来ぬ者は排除し。要らぬ物は淘汰され。そうして何もかもを切り捨て高みへ至った時、それは生物という概念を超越した存在となる。少なくとも我々はそう信じている。


 ならば唾棄すべきはなんだ。そう、我々以外の全て。要らぬ物が淘汰されるが必定ならば、他全ては死す定めとなる。運命とは我等であり、我等に出会った時点でそれは『死』以外の運命は辿れはしない。




 ならばその”必要無き命”に意味はあるのか?無いならば与えよう。我々がその意味だ。






「邪魔者は誰も居ません。魔族は初めて見ましたが、精神性が同じならば貴方に勝ち目はありませんよ。今すぐ逃げ帰るもよし、此処で私に切り裂かれて戻るも良しですが、どうなされますか?」


 何の力も働いていないように思える。この世界原産の人間。ヤエは、未だ崩れ落ちていくダンジョンマスターの抜け殻と、宇宙の彼方へと昇天していく数多の魂を見送りながら、目の前で睨みを利かせるターツェルに告げた。


 満身創痍にはほど遠い肉体ではあるが、それでも彼女には些かのブレも無い。心はずっと穏やかなまま剣を構えていた。


 それが彼には解せなかった。


「貴様……あの戦いの現在の生き残りであるならば、何故まだそんな顔を向けていられる」


「さて、貴方側の戦いは分かりませんが、こちらは何とかやれてはいますからね。ゲテモノは少なく、ただ真白な絶望だけが目の前にあるだけなので、冷静に対処するか、それとも発狂して自死するか」


「ふん、奴等の意味の無い自尊心ではそうなるだろうがよ……我々との闘いで新たなる境地を見出したのが心底気に喰わぬな」


 そう、これは戦いなどではないのだから。


「言った筈だ。これは蹂躙だと。お前達はただ震え、心底生きていることに絶望すれば良いだけの存在だと。戦い傷付く必要すら無い。ジワジワと嬲り殺しにされていれば、まだ苦しまずに滅亡出来るのだぞ?残り少ない人生なのだ。無駄に足掻いて消してしまうよりも―――――――――」


 言い終わる前に、右耳が削がれた。


「知りません。関係ありません。これは単に私達が許す許さないの話です。驕り昂るのは結構ですが、人間を舐めるのもいい加減にしてください」

「……」


 ヤエの心にあるのはただ一点の曇りも無い純粋な”殺意”のみだった。


「「―――――――ッッ!!」」


 ステータスで言えば双方意味を成さない。ただターツェルは向かって来たヤエの戦い方、剣も含め、その身体に”仕込まれている物”に目を剥き、ふっと笑った。



「なるほど、確かに人間は恐ろしい。すっかり忘れていた感情だ」



 それを最後に、ダンジョンマスターに巣食っていた者の首が弾け飛ぶ。更に身体が細切れに、否、ヤエが手を翳したと同時に塵となり、大空に霧散していく……


 それを一瞥するでもなく、彼女は直ぐに上を向き、戦いを見守り始めた……


「……お願いしますね。サナリアさん」








 あらゆる世界で唯一無二。森羅万象を司る者をかつて人間達は”神”と呼んだ。そういう世界もあったのだろうと意味は思う。だが、我々に”神”など居なかった。最初から存在もしない者に縋るのは間違っている。必要なのは完膚無きまでに統制された秩序であり、完璧な生産性なのである。


 ならばそこにある命は秤に乗せる必要は無い。ただ永久の秩序を目指す為に効率的に”使われる”1つの”物”なのだ。


 であるならば、我々の秩序に我々以外は必要無い。知的生命体という概念はこの世に必要無くなったのだから。我々さえ居れば良い。


 その為に一切合切を洗浄する。その道こそが、我等の正道なり。





「げ……ご……ぉっ……」

「はぁ……はぁ……はぁ……」


 ケイフルは立っていた。玉の様な汗を流し、疲労の痕はありありと浮かんではいたが、ヨロヨロと身体を歩かせ、己が敵を見る。


(疲れた……わぁ……)


 目の前に広がるは、天災が降り立ったかの様な酷い有様の森痕だった。


 数千m四方で木々はなぎ倒され端に追いやられ、土は抉れ草の1本も根こそぎ消えていた。


 やった事は単純明快で、『龍神』となったドラゴンの身体で全力で戦っただけである。だがフルに戦ったと言っても、星が割れる様な攻撃だけはしなかったのが救いだった。それでも巨大かまいたちの竜巻でこの被害ではあるが。


 そして、その中心で何もかもがボロボロになっている天使が1人、血反吐を吐き散らかしながらケイフルを睨んでいた。


 こんなはずではなかったのだと、心の中で何度も何度も訴えながら。最早口すら真面に動かせずに。


「ふぅ~~……私の勝ちね。糞天使。あんたらにやられたアルカンシェル達の分、少しは返してやったわよ」

「……」

「何で負けたかって顔ね。あんたたち、防具はそれなりに強いけど、生身っていう考えに縛られ過ぎなのよ」

「ッ!!」


 天使達は最初から最後まで、ケイフルに対して決して生身部分への攻撃を許さなかった。幾ら鎧で身を隠しているといえ、当たれば危ないという基本的な防衛本能は必ず働く。逆にそれが無いのがドラゴンの考え。


 攻撃など喰らって当たり前。全身どこから攻撃が来ようと関係無く相手もぶっとばすのみ。だから相手はいつだって四方八方から攻撃を浴びせてくるのだ。


 だが、それはケイフルにも出来ること。更に言えば、どれだけ硬くとも衝撃全てを吸収し尽くすには足りない物がある。それは”概念”の壁。


「この世界ではどれだけ頑強だろうと”補正”が付く。ドラゴンの全力をガードだけで受けて、ただで済むと思っているの?それに……風は全てを通り抜けていくものよ」


 どんなに小さな隙間からでも風は必ず入って来る。ケイフルのドラゴンブレスは、風という”概念”そのものにカマイタチが付与されている。特に龍神ともなれば、その威力は高密度のオリハルコンですら両断出来る程に。


 ケイフルはまたドラゴンに変化し、トドメに入る。


『さぁ糞天使。命乞いを述べなさい?』

「ッッッくっぞがぁあぁぁあああああああああああっっっっ!!!!」



 最後の雄叫びの後、何かが踏み潰された様な音が響き渡った……







「はぁ、はぁ、はぁ、ケイフル、無事!!?」

「あー、ルル。うん、無事よ。疲れたけど」

「遠くから見てたよ。凄かった」

「あっそ……サナリアは、上よね?」

「うん……」


 2人は砦で合流し、直ぐに3種族に出迎えられた。そして全員で空を見上げる。満点の星空に、魂の昇る川と、その直ぐ下で繰り広げられている。この世界で生きる者達全員に関係のある戦い。


 その席には、大精霊達も来ていた。十数年振りのエルフ達と精霊達との再会もあるが、今はそれを置いておくほどに。その戦いは魂を揺さぶられるのだ。


『かつて、我々大精霊は奴とは旧知の間柄だった』


 そして土の大精霊が語り出す。遥か大昔にあった本当の話。この世界の歴史に隠されてしまった、出会いと別れ。


『奴は龍神と同じく、全ての生物を愛していてな。自らの子も大層可愛がっていた。奴にとっては全ての生物が「友」ではなく『子』という認識故に、どんな生物であろうと等しく愛を与えていたのだ。それが奴の、今やダンジョンマスターと呼ばれている者の本当の姿だったのだ』


 全ての生物が集まり、1つの国を成していた神代。何も無ければそのまま永劫の平和が約束されていた黄昏の時代。


『だが、奴はその役割故に真っ先に狙われた。奴の子は生物を集め豊かに育てるのが役目。その統括者である奴が”浸食”された時、全てが一気に破綻した』


 故にその名は与えられた。魔物を統括する者として。


 そして長年誰もが手を出せず、何処に居るのかも掴めなかった存在だったからこそ、こうしてまた、狂った状態でも姿を見られた事が嬉しかった。


『頼む、人間よ。残された希望は残り僅か。そして奴を止められるのは、世界が選んだ貴様だけだ……』







 虚空。空と宇宙の狭間で、あらゆる者に託され続ける人類の代弁者と、世界に混沌を運ぶ魔物の王が、星を巡る戦いを開始した。


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