第46話 ダンジョンマスター攻略戦⑤ 強さを知る条件
「ぬぅぅううぅッッッ!!!」
『――――ッッ!!!』
ダンジョンマスターが崩れ去っている間、地上付近の空では天使の一体とルルが戦いを繰り広げていた。
ルルの戦法は変わらない。様々な幻獣に姿を瞬時に変え、天使の攻撃に対応し、カウンターで反撃するというものだ。スピードも体格も緩急見極めながら戦っているので、天使にしてみれば戦い難いどころの話ではなかった。
相手がドラゴンの様に大きな身体で爪を振るって来たから剣で対応したら、次の瞬間には小指ほどの大きさの生物になって視界から消え失せ、突如後ろに新たな幻獣となって現れ攻撃をしてくるのだから。
しかもルルの『幻獣化』の種類は100種以上。組み合わせれば幾らでも戦法に可能性を見出せる。よって慣れるということはなかった。
(と言っても、こうも相手が強いと、ねっ!!)
「ちぃっ、チョロチョロと面倒なっ!!」
対して天使の攻撃は単純。剣による接近戦と、羽が矢の様に雨となって降り注ぐ遠距離攻撃。相手の攻撃は頑強な盾で防ぎ、どれだけ体重差があろうとも軽々と流してみせる。
何度目か分からないルルの直撃も、天使の盾にゆるりと流されてしまうが、足の痕は刻まれていたので消耗はさせられていた。
単純な戦力だけなら互角。ステータス上でもそれは同じこと。ただ1つ違うことは、”補正”が効いていないことだった。
(こっちとは明らかに体重さがあるのに、どうして潰れない?どういう法則なんだろう……?)
戦いながらもルルは疑問に思う。地上付近で巨人種となって踏み潰そうとした際も、天使は盾で防いだ時、身体が土に埋まらなかった。衝撃全てを吸収できたとしても、体重そのものを受け止めれば地盤が持たない筈なのに。
明らかに理屈を超えている。何かしらの力が働いてるとしか思えなかった。
そして、先程から攻撃を加える度に盾に埋め込まれた宝石の様な物に宿る輝きが、攻撃を防げば防ぐほど増していくのが不気味だった。
「しかし貴様達は謎だな。何故そんな弱い肉体で我等と戦えると思っているのだ?」
『えっ?』
「お前達は不可解だ。魔道具などという物を技術として作っておきながら、実際の戦いにはほとんど役立たない。貴様等は根本の部分で間違っているのだ。我等に勝てる訳が無い」
『なにっを―――――ッ!!?』
相手の懐に入り、ルルが『幻獣:ベリアルクロウ』の漆黒の爪を振りかぶる。それがまた天使の盾に触れた瞬間、
「こういうことだ」
カッッッばごぉぉぉおぉぉぉおおおおおんんんッッッ!!!!!
盾の装飾が開き、爆撃を受けた。
『がぁあぁあぁあぁーーーーーッッッッ!?!?!?』
凄まじい衝撃を咄嗟に『幻獣:ラウンドジェルタートル』の甲羅になって防御したが、容易にそれをぶち抜かれ、ルルは地面を抉る様に転がっていった。直ぐに体勢を立て直すが、背中が焼け焦げた激痛で顔が歪む。
「けっほっけほ……何が……あの盾?」
「耐えたか。だがお前達の運命は結局変わらん」
「……」
直ぐに追随し空から見下ろす天使。ルルは今の現象を即座に解析し、己の記憶と照らし合わせる。
(魔道具の類じゃない……神代でもあんな耐久力は早々有り得ないし。そもそもスキル的にも不可能。オリハルコンなら傷が付く事自体…………まさか)
嫌な汗が額を伝う。有り得ないと一笑に付すには高度になり過ぎた物がある事をルルは知っていた。否、ルルと”サナリア”だけが知っているのだ。それを確かめる為にも、ルルは更に動き出す。
「……――――――ッッ!!!」
ズドッッ!!
「……まだ続けるか。どうやら蛮族であることを自覚したか」
『幻獣:ペガサス』の足で空を駆ければ、人間の眼には瞬間移動した様に見えるであろう速度で後ろに回り蹴りを喰らわせようとしたが、天使は見るまでもなく盾でガードした。衝撃波もものともしない。
「――ッッ!!」
ズドドドドドドドドドドドドッッッッ!!!!
「ぬっ!!?」
そこから連続攻撃。盾に全ての蹴りを集中させ、また宝石が輝きを強くする。だが天使はその連撃を避け後ろに跳んだのを、ルルは見逃さない。
「ちぃっ!!」
「やっぱり、一撃一撃は流せても、連撃で流しきれない攻撃じゃ盾が持たないみたいだねっ!!それならっ!!!」
更に攻撃の手を増やすべく、両腕を『幻獣:ロードマンモス』の巨大な腕に変化させる。彼のスタンプ攻撃は大地震を巻き起こし、その巨体からは想像もできないほど速い足さばきで確実に相手を牙で貫く地上界最強の1匹。
「くらえぇぇええぇええーーーーーーッッッッ!!!!」
ズガガガガガガガガガガガガガガッッッッッ!!!!!!
「おおぉおおぉおぉぉぉおおッッッッ!!!!!!」
ビキッ……ピキッ……バキャッッ!!
「なんだとッッ!!!?がっーーーーーーーーッッッ!!!!」
盾が連撃に耐え切れず割れた瞬間、残りの蹴りを全て身に受け、鎧を粉砕されながら地面へと落ちる。特に念入りに顔面に蹄をぶち込み、身体全体を巨木の足で踏み潰した。
ルルはそれを見届けると、自分もヨロヨロとした身体で下に降りて行き、地面にへたり込む。背中の火傷が限界で、意識も朦朧だった。傷は治せるにしても、体力も限界に近く、ケイフルを助ける余裕も無い。
「はぁ……はぁ……出て来ては……くれないか………」
妖精は出る様子が無かった。今の戦いに危機感を感じなかった程度ならそれまでだが、大事な局面と見られなかったか。否、それでは”足りない”と感じたのだろうとルルは判断する。妖精にとって最も必要なのは”目立つ”ことだと本能的に察していたというのもあった。
そして、目立つべき者は他に居ると。
(伝えたいけど……まぁ、大丈夫だよね?)
天使との戦いで気付いた事。それを言ったところできっと彼女は止まらないと分かっていたから。そのままルルは寝転がり、広がった青空の向こうを見る。さっきの自分の戦いよりもよっぽど人外の果てにあるその古の存在。それが自分の好きな人と戦っているのだと肌で感じながら……
「やっぱり、お姉ちゃんには追い付けそうにないなぁ……」
「どっせいっ!!!」
「――――ッッ!!」
レイピアと剣がぶつかり合い、周囲のあらゆる物が衝撃で吹き飛んでいく。そんなやり取りが幾度も繰り返され、私の誇る最強の矛は未だ天使を捉えられずにいた。
「くっそ、さっきから何なのよあんたっ!!私の動き真似しまくってっ!!」
「貴様の動きが単調過ぎるのだ。愚かな龍よ。読ませるにしてももう少し頑張ったらどうだ」
素早い剣戟も、流れる様に放たれる一撃も、全てが同じ力で相殺され、全く同じ動きで牽制されてしまう。まるでこちらの動きが読まれている、解析されている様な……だとしても、私にはこれしか無い。
培ってきた力を全て出し切り、真正面からぶち抜く。
「だったらこっちっよっ!!くらえぇっ!!!」
顕現したかまいたちを生み出すトルネード。魔力の半分を使って生み出し、高速で相手に打ち出した。魔法と同じ要領だから、途中でバラけさせ、幾本もの竜巻となって囲う様に襲わせる。
「ならばこっちはこうだ」
そうしたら天使は光の玉を出現させ、竜巻と同じ数だけ生み出しぶつけて来た。猛烈な激突に破裂音が響き渡り、竜巻は掻き消された。
「……」
「分かったであろう。お前に勝ち目は無い。貴様のパターンは私には効かない。どの様な攻撃もこちらの装備を破壊するには至らず。力任せの一撃など言うに及ばず。貴様如きでは「もう分かったわ」……なに?」
人の状態で戦うのは無理。自分の現最強ではどう足掻いても勝てない。それも分かった。けれど、それが私の敗北に繋がる訳ではない。私は単に、食わず嫌いをしていただけなのだから……
「あんたは強い。私の鱗はあんたの剣に貫かれるし、私の攻撃はあんたの鎧には効かないわ。ええ、完敗よ。”古龍としての私”わね」
古龍が何故人の姿で戦える術を持つのか。それはなるべく『手加減』をする為だ。本来の姿は言ってしまえば無防備であり、平和な世を生きる為にあるのだから。
それに、この姿になればもう周囲への手加減は出来ない。獣闘祭の時とは違う。必殺を放てば、私は他の古龍、親の龍神同等、世界を破滅させる力を有してしまうのだから。何より癪だったのだ。
(こんな私が、龍神の力を発現させて良いかなんて、言ってる場合じゃないのにね……)
だけど、もう自分の力を過信するのは止めよう。でなければ、サナリアの旅に着いて行く資格すら無くなるのだから。
「……『宝玉』よ、我が身を持って、発現しろっ!!!」
「……な、んだ?それは……?―――ッッ!!?」
古龍が龍神に至る最大の法とは、龍神のステータスを超え、魔力をある一定の濃度まで高め固定することにある。そうする事によって『宝玉』は古龍の全存在を変換し、龍神へと”至る”のだ。
つまり、存在そのものが変化してしまう。人であるか、龍であるか。その様な定義すらあやふやになる。自分という存在が違う概念に置き換えられることになる。
身体は光に包まれた。私という龍は此処でリタイアする。世界が許すギリギリの、世界を守護する為の存在として真に新生する時が今ならば……
『―――――――……さぁ続きよ糞天使』
エメラルドに輝く鱗と瞳。新たなる龍神となって、私は敵の前に立つ。




