第43話 ダンジョンマスター攻略戦② 魔族と天使
「喰らえいっ!!」
轟音。原初の炎がダンジョンマスターの顔面に質量を持った火柱となって激突する。だが直ぐに巨大な火柱は額のこれまた巨大な宝石の放つ結界に当たったところから霧散していく。
「ぬぐぅ……何時になったら奴は消耗するっ!!?無尽蔵にも程があるぞっ!!」
「馬鹿っ!!君の炎じゃ湖にマッチ棒沈める様なもんだよ。何回やったって無駄に決まってんだろ!!!小出しで牽制すれば良いんだってっ!!」
「それでは足止めしか出来ぬではないかっ!!」
「だから足止めだけで良いんだってば馬鹿っ!!この馬鹿っ!!馬鹿炎っ!!」
筋骨隆々ながら全身が炎で出来ている大精霊と、全身に風を纏っている大精霊。風は炎の頭ほどしか身長が無いが、その態度は炎よりも大分大きなものだった。
「水が土を助け出すまで耐えるのが僕らの役目だろ。此処で力尽きたら人間達への手助けが出来なくなるっ!」
「その間に世界樹を侵食されたらどうするのだっ!!まずは世界の柱である世界樹を保護するのが先だっ!!!その為にはさっさとこいつを倒すより他に手は無しっ!!」
「だーかーらーーッッ!!」
かれこれ10年以上このやり取りを繰り返している2匹は、その力だけながら世界最上級ではあるが、目の前の規格外相手に成す術を失くしていた。
その光景を同じく10年以上宝石の中から見ている魔族は、退屈そうに椅子に座ってその時を待っていた。
「はぁ……まったく、愚か者にしてももう少し楽しませてくれぬものかな。我が主への供物にしては滑稽に過ぎる」
ダンジョンマスターとの闘いに於いては、正式な”手順”を踏まなければまず不可能。全てが彼等で言うところの”呪い”で繋ぎ合わせてあるピースであるが故に、それを解かなければまず”戦う”という段階にすら行けない。
その上ダンジョンマスターが倒される前には魔族が立ちはだかっている。その力は未知数ではあるが、単体で任されている以上弱い訳が無かった。
それを外で戦っている2匹もひしひしと感じてはいたが、止まる訳にはいかず、止まる理由にもならない。故に戦いは続いていた。
「全く君という奴は―――――ッッ……待て、何か来てるぞ?」
「むっ…………なんだこれは。にん、げん?」
罵り合いながらも攻撃の手を1度も休めなかった2匹が、下からの気配で初めて動きを止めた。猛烈なスピードと迎撃音と共に、ドラゴンの咆哮が成層圏を突き抜け、熱圏という生命が生きられない場所まで猛烈なスピードで登って来た。
白銀の氷を撒き散らしながら、漆黒の龍が翼をはためかせて叫ぶ。
『着いたぁぁぁああああああーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!』
2匹を通り過ぎ、ダンジョンマスターの頭頂部に突っ込んだ。錐揉みしながら頭の上を転がり落ちると、重量を感じさせずフワっと浮き上がり静かに地面に着いた。そして背中に乗っていた少女がその頭を撫でていた。
「よぉーくやったよルルっ♪後は私にお任せだよっ!!」
ほぼ酸素の無い宇宙空間だと言うのに、その人間の身体には一切の異常は無く。地上に居るかの様な健常そのものの肉体で降り立った。
「ほっほう、あれがそうか。でかい。こっからだと見えないね。ルル、此処に結界張っておくから休憩してて良いよ。休めたら先下戻ってケイフル達を手伝ってあげてね」
『う、うん……ふひぃ~~~』
「それじゃあ私は……ご挨拶といこうか」
そう言って、サナリアは『領域変化』の範囲内に空気を固めた足場を作り出し、それを蹴って弾ける様に下へと向かう。宝石の中、遠く離れた魔族とも一瞬だけ目が合うが、それはさておきとまずは大精霊の前まで来る。
まるで2匹がそこに居るのを分かっていたかの様に落ち着いた雰囲気を醸し出すサナリアに、炎も風も無言で彼女を見るが、サナリアは変わらないジト目で相対した。人間とは数百年振りの開墾。
「貴方達が大精霊で良いんだよね?私はサナリア。知らないと思うけど予言の巫女としてこの馬鹿騒ぎを止めない奴等と戦っている者だよ。話は全部エルフから聞いてるけど、ちょっと話を聞いてくれない?」
「「……」」
エルフという言葉を聞いて顔色が警戒から疑惑に変わる。更に炎はより強く燃え上がっていた。
「貴様がただの人間でないのは見れば分かる。だがたかが1人で何をしに来た?」
「言ったでしょ?戦いに、だよ。その前にすることがあって、その為に貴方達の力が必要なんだよね。出来れば大精霊全員のね」
「なんだって?」
「詳しく説明している暇は無いから、今すぐ後2人の大精霊は何処に居るか教えてくれる?」
「無理だよ、それは」
「なんで?」
風が苦虫を噛み潰した顔で巨人を指さした。
「僕達はずっとアレに取り込まれた『土』を救い出す為に戦い続けて来たんだ。けどどれだけ攻撃してもアレの持つ魔力が無尽蔵過ぎて、僕達では戦いにすらならない。それを君がどうするって?」
「なるほど、そういう感じか。じゃあ水は?」
「土を助ける為に内部で探している筈だ」
「今すぐ呼び戻せる?とりあえず3精霊揃ってればどうにかなるから」
「貴様……何を協力する方向で話を―――――――――ッッッ」
ズドドドドドドドドドドドドッッッッ!!!!
数百m級の石杭の連打が唐突に放たれたが、どれもがサナリアに向かって打たれ、彼女に当たる前に捻じ曲がって砕け散った。
ルルが頑張っていた間にディアナが相手の魔力の流れを完全に解析し、使われている力の『概念』を理解し統制したのだ。よって範囲内のより近い力は”魔力”に限りほぼ無敵状態になっている。
その応用で、ディアナが巨人の体内にて2つの存在を検索、探し出した。
『発見しました。どうやら辿り着いている様ですが、”呪い”を引き剥がせなくて困っているようです』
「だと思ったよ。声は届くかな?」
『やってみましょう』
そのまま『通信』を試みると、直ぐに対象の『水』へと繋がった。応対はサナリアが引き継ぐ。
『だ、誰だ!?』
「初めまして水の大精霊。私は人間のサナリア。説明は面倒だから省くけど、今すぐそこから土の大精霊を助けたいなら私に協力して。早くしないとエルフ含め3種族がこの世から滅びちゃうから」
『なにっ!?……くっなんということだ。遂に魔物どもが溢れたのか。分かった、今すぐそちらへ向かうっ!!』
そうして数秒掛からず巨人の肉体から大量の水が隙間隙間を縫って溢れ出し、眼の前に凝縮して水で象られた女性が現れる。サナリアは直ぐに揃った3属性の大精霊達に口頭ではなく『通信』で今からやる事を直でイメージで流し理解させる。
その内風と水は一瞬で頷き了承を得た。今この場で言い争っている暇も無ければ他に方法も無い。
後は炎を見つめる。
「……聖剣、聖鎧の使い手でもない人間に全てを任せるのか?それで本当に良いのか?」
「今となってはあの巨人からそれも解放せねばならないのだ。炎よ、この場に人間が来るだけでも快挙。更には勇者教の巫女なのだ。託すだけの価値はある。数十万年前からの約束を此処で絶やす訳にはいかぬ。今この時だけだ、炎よ」
「…………分かった」
「よし、宜しくね」
簡易的でも、協力体制を結んだ両者。サナリアは作戦通りに事を成そうと準備を始めるが、それをターツェルは未だに何もせずに見ていた。
絶対に来ると思っていた相手が、巨人の防衛を掻い潜って来るだろうという事は分かり切っていた。仮にも自分の分身を瞬殺してみせたあの力ならば、本来のダンジョンマスターが相手が早々負けはしない。
だが明らかに今の状態では無理だと分かっている故に、どういう手段でこちらの手駒を奪うのか楽しみだったのだ。
(所詮こいつが消えたところで、人類に主が施した『波』を越える事は不可能。精々抗える時間が増える程度だろう。それまで楽しませて貰うさ……)
それに、と頭の隅では、サナリア達が動き出した時の為のちょっとしたサプライズがあるのだと笑みを深める……
「……ッ」
「お姉ちゃん?」
「心配無いわ。ちょっと外の様子を見て来るから、静かにしてなさい」
「う、うん」
子供達の様子を見ながら警戒をしていたケイフルがふと顔を上げて空を見た。暗雲だけが包む巨人の足元では数多のゾンビ達が今もドワーフの砦に立て籠もる3種族を滅ぼさんと猛攻を続けているにも関わらず、それ等とは全く別の”勢力”の気配を捕まえた。
足を開き、烈風を宿したレイピアを構え――――――突き放つ。
「ふっ――――ッッ!!!」
砦の唯一空いている天井の空へ放った一陣の風が、山をも貫く威力で対象へ真っ直ぐに突き進む。しかし、彼女の顔は晴れない。
「……ちっ、弾かれたわね。あのクソ魔族かしら?」
戦う以上は本気の彼女にとって、この場では力は出し難い。故に飛び上がって応戦することにした。下の地獄絵図を見守りながら上がった彼女の目の前に、自分の攻撃を凌いだ者達が姿を現した。
天上の翼と光輪。黄金の鎧と兜で身を包んだその存在。
「お前か。我が主に楯突いているという輩の一員は」
見てくれは人の形をした、よく出来た美形の人間。だが感じる威圧感は人ならざるそれであり、その場に居るだけで光が全身から溢れていた。それが超高密度の魔力であり、ケイフルに匹敵する魔力量であることも見た瞬間に理解出来た。
問題なのは数だった。
「我等4人の天使が派遣されるのだから何事かと思えば、戦線から弾かれた龍と滅びかけの汚らわしい種の殲滅とはな」
「人類との闘いに早く戻るぞ。こんな些事に関わる暇は無い」
「ですね」
「……」
「……あー、あんた等は天王側の差し金?まさか魔王側と共闘で潰しに掛かって来るとは思わなかったけど」
当然の疑問だった。今回に限っては既に動いている者は魔王側で決定しているのだから。だがそれは少ない情報から得ていた勝手な思い込みであり、
「我が主は魔王との共闘を結んだのだ。ただ1人、サナリア・フォルブラナド・レーベルラッドの首を討つというただ1つの名目で。でなければ、誰が魔族などの尻ぬぐいをするか」
「ということだ龍よ。早々にとく死ね」
「はんっ!!やってみなさいよっ!!!」
4体の天使と1匹の龍による防衛戦が展開された……
「はぁっ、はぁっ、おいっ!!上でなんかドンパチやってねぇかっ!?」
「知るかっ!!今は目の前の仕事をやれっ!!」
「うおぉぉッッたくアマゾネスのゾンビってのはどいつもこいつも厄介だなっ!!」
「誉め言葉を受け取っておくぞドワーフ共ッ!!」
始まって数分で部隊は半壊。ドワーフ達が肉弾戦に入り更に数分。数万人だった戦士の数は1万以下となり、残り数分で完全に武器も防具も使い物にならなくなるところまで迫っていた。弓は折れ、剣は腐った血糊でボロボロに、防具は罅割れ、破れている箇所が多々見受けられる。
それでも棍棒で殴り、敵の武器を奪って刺し、盾でぶん殴り、体術で応戦する。ドワーフの鉄拳は今もゾンビを頭を吹っ飛ばしていた。その後ろで短剣を構え精霊と共に戦っていたエルフ達も、一切諦める事なく立ち向かっていた。アマゾネス達もそれに負けず、最前線にて盾となって敵を食い止めている。
「気張りなさいっ!!後少し、もう少しで……ッッ!!!?」
その時、奮起の声をあげていたイレオールが途中で止まる。アブルとバンデスも動きを止め、3種族全員も時間差で動きが止まった。全員が目の前で超然の動きで制止してしまったゾンビではなく、その遥か上を見上げたのだ。
「……歌、か?」
「このリズムは……」
「始まったのか……漸く……」
???「……補足したっ―――?誰かと戦ってる?しめた、まだ間に合うっ!!」




