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第41話 足並み揃えて戦闘準備

 誰の心にもある”側面”というものは、魂を表現する為の器、定義でしかない。そもそも魂の持つ感情に”善”や”悪”なんて定義は存在し得ない。何故ならそれ等は、生物が成り立ち、そこに社会が形成されて初めて認識される事象だからだ。社会とはどれだけ小さくても、感情を持つ生物が複数あれば形成されてしまう。言うなれば生物が生まれながらに持っている”原初の法”なのである。


 よって、それをむやみやたらに捻じ曲げてはならない。それを破ってしまえば、その者は最早”生物”という枠が外れ、悪霊や怨霊、悪魔と言われる亡者、更にはその権化へと堕ちる。それは例え、生きていたとしても屍と同等であると言える。



 呪いを解き一晩が経ち、私は1人、寝ている2人を置いて巨人の足元に来ていた。


「予想通りというか何というか、酷い有様だね」


 まるで巨大な壁そのものだと言えてしまうほど、それが生物だとはとても思えない大きさの足。私から見れば左足か。やはり足は地面と完全に同化しており、まるで自然物の一部だと自ら豪語せんばかりだ。こんな異物が自然物とか片腹痛いけれどね。


『サナリア』

「どうだった?」

『やはりうじゃうじゃと居ますね。『領域変化』が全体を包める程形状変化出来る様になって良かったですね。でなければ気付けませんでした。数だけ見れば、この星の表面を丸々包めるぐらいの数が入っていますよ』

「魔物の種類は分かる?」

『言わずとも』

「一応だよ、一応」


 もう既に1度”戦っている”からこそ、そうであって欲しくないと願いながら聞いてみたけど、やはり駄目らしい。はぁ、これはちょっと忙しくなるかな。


 今も空の上で繰り広げられている超常の戦い。エルフの女王、イレオールさんの言葉通りならば、大精霊達が絶賛戦闘中な筈。それに参加することは吝かではないけれど、その倒し方は正解じゃないから行きたくない。


 彼等の場合逆上してるからこそなんだろうけど、もう少し周囲に気を配って欲しいかな。


「それじゃ、作戦とも呼べない作戦も出来たし帰ろうか」

『ええ』





「サナリア、朝何処行ってたのよ?ルルがすっごい剣幕で探してたわよ?」

「そして今はぶーたれてると?」

「むぅ~~~っっ」


 ごめんて。心配してくれてありがとうね。けど大丈夫、今の時点で私の”死”は確定してないって肌身で分かるから。ほらほら、このパン美味しいよ?私の特性酵母で作った秘密のギャラクシー食パン。


「……はむっ―――――ッッ!!!」


 ふりふりふりふりっ!!


 よし、尻尾が喜んだ。やはり美味しい物は偉大だね。私が研究の過程で見つけた特殊な粒子が元になった食パンだけど。そこにそこら辺に生えていたイチゴっぽい何かで作ったジャムをべったり塗ってしんぜよう……ふふ、驚嘆せよ。


「―――――――――ッッ!!!!」


「よしよし美味しいんだね分かった。分かったから尻尾すっごい顔にダイレクトアタックしてるから。く、くしゃみがへっぶしっっ!!」

「何やってんのよ……で、今日は何するの?今度こそ倒す?」

「それはまだ。今日は先に、2人にお使いをお願いしたいの。ああ、私はエルフの里行くから、ケイフルだけバンデスに伝える為にお留守番かな」

「「??」」






 という事で、私は2人に言伝を頼んで、ついでに”ダンジョンマスター討伐作戦”の概要を説明し、それをドワーフとアマゾネスに伝えて貰いに行った。これが上手く行けば、あわよくば結構な戦力を確保出来るだろう。


 そして私は現在再びエルフの里を訪れていた。予想通り沢山のエルフ達に囲まれて……


「さて、報告があって戻って来たんだけれど……どういうことかな?これ」


 門の前でそれはもう沢山のエルフ達の殺気。そして契約している精霊達の、困惑しながらも取っている臨戦態勢。この場所だけ戦略兵器が掻き集まっているかの様な様相だ。私を真っ直ぐに見据えている”女王”とその相棒の精霊の様子が全てを代弁している。


「……よくも、ドワーフの”祝福”を解いてしまったものですね」

「知ってたんだ。というか祝福?……それってもしかして、彼等が見目麗しい男の子になっていた原因のこと言ってる?」

「それ以外に何があると?」

『イレオール ヤメテ オネガイダカラ』


 ドワーフにあれだけ妄信を抱いていた輩だ。同じ可愛い男の子なら誰だって愛してしまう程の変態ぶりだと言うのに、1種族であるドワーフが元に戻ったらこの有様。咎める程度なら分かるけれど、これは明らかにその場で殺す気だね。


 どうやら、愚かな程に”呪い”が良い様に作用してしまっているらしい。アネモネアが泣きそうな顔でイレオールに声を掛けるぐらいだ。他の精霊も、自分達の契約者がまともな状態じゃないって分かってるんだろうなぁ。


 とにかくこのままじゃ争いになるだけだし、精霊達が可哀想だからさっさとやろうか。幸い、今全てのエルフが集まってるみたいだし。



「イレオールさん、先に謝っとく。ごめん。『拘束』」

「なっ!?」



 全員が『領域変化』の範囲内だったので、そのまま動きを止め、そのままドワーフと同じ様に”解呪”を発動する。ドワーフの時と違って数万人を一気だけど、この程度ならもう負担すら無い。


『むんっ』


 我が頭の中身ながら素晴らしき演算能力。私はもうディアナさん無しじゃやってられませんよ本当に。


 という訳で、エルフ達の頭に根付いてしまっている”呪い”である『価値』という概念に取り付いているドス黒い物を同時に掴む。


「おお、暴れる暴れる……」


 掴んだ瞬間、エルフ達が気絶。同時に身体が青白く輝き始め、頭から黒いモヤモヤが出始める。悪足掻きのつもりなのか、異常に暴れるなぁこれ。ドワーフの時とは違って意思に直結しているからか、もしかして感情の一部を持っているのかもしれない。


 だとすると無理矢理引き剥がすのはムズイ……けど、


「そこをどうにかするのが私流ってね……ッッ!!!」


 スパァーーーーーーーーーーーーーーーンッッッ!!!


 引き抜くと同時に、『隔離』&『切断』でモヤモヤと切り落とし、一ヶ所に集める。どんどんと『圧縮』していくと、真っ黒な塊となったそれを手にして作業終了である。


「はいお疲れ様でしたっと」

「……はっ!!?な、何が。さ、サナリアさん。どうして此処に?」

「色々説明するけど、動きながらでお願い出来る?このままだと、この地に住む3種族全てが滅びちゃうから」

「……?」







「それは本当か?」

「はい、間違いありません。このままだと、確実に3種族とも滅びます」


 一方その頃、ルルはサナリアに言われた通り『幻獣化』を使って急いでアマゾネスの里に訪れ、族長のアブルに事の次第を説明していた。


「ダンジョンマスター……確かにダンジョンであるならば魔物が出ていなければおかしい。だが、ここ等一帯は全て”ダンジョン化”しているというのは……」

「先程上空から見渡していましたが、サナリアお姉ちゃんの言う通り地上の”階層化”が始まっていたのです。このままだと……地上が1度に消し飛んでしまう可能性もあります。あの大きさですから……」

「ふーむ……規模が大き過ぎて想像に難いな」


 ダンジョンとは必ず”階層化”されてこそその存在が認知される。であるならば、ダンジョンマスターもその定義が適当。そして階層化するには必ずその領域内を”ダンジョン化”、つまり自身の腸の中にしまわなければならない。


 だがダンジョンマスターは大地そのものと繋がっている。大きさの規模を考えれば、その領域範囲は言うに及ばず。そしてダンジョンマスターは、通常のダンジョンと違い”場”ではなく”個”として存在している以上、その領域範囲とは個の”周囲”となる。


 よって周囲を”ダンジョン化”し、”階層化”が進めば、その部分は人の住める場所ではなくなる。


「四方八方、何処からでも魔物が発現する……地上をまるごとモンスターハウスにするつもりか。くそっ!!」


 床板が砕ける程の力で拳を打ち付け、アブルは悔しそうに歯ぎしりする。サナリアに「諦めろ」と言った手前、こんなにも自体が逼迫しているとは夢にも思わなかった自分の甘さ。そして一族が滅びる手前まで来ているという現実を受け入れるには覚悟がまだまるで足りていなかっという体たらく。自分に対する怒りが怒髪天を突く勢いだった。


「今から領域外まで行くのは間に合いません……だから、言伝を伝えます」

「……?」


 ルルは1枚の手紙を開き、読み始める。それはサナリアから、アブルとアマゾネス達に対しての言葉だった。


『”魂”の呪いを解く方法がある』

「――――ッ!!?」

 


『貴方達の先祖代々、且つては数千万は居た戦士の魂全てが、ダンジョンマスターの命の総量であるならば、貴方の、アブルさんのスキルと私のスキルを合わせれば不可能じゃない。どうせ捨てる命ならば、それに賭けて欲しい。そして……受けてくれたらダチになりましょう。私が貴方達の”明日”になれる様に。その力、全て使わせて頂く。』



「………馬鹿な人間だ。ああ、本当に度し難い程に、異端だ」


 アマゾネスは戦士の部族。自らの高める為ならばそれこそ何でもする。そうして磨き上げた1つの矛だった。だが、今回はその矛がまず届かない。どれだけ強くなろうとも、それは所詮”対人対魔物”の範疇なのだ。天災には敵わず、自然にも敵わず、相手は神にも匹敵しうる力だと分かった瞬間、彼等は萎えてしまった。


 戦いに意味が欲しかった。どうしても。死ぬ為に戦うのではない。誇りの為に戦うのではない。戦った後に残る”明日”が欲しかった。


 彼女がその”明日”をくれると言うならば、是非も無し。



 ルルも読んでて可笑しくなったのか、笑みをこぼしながらアブルの言葉に答えた。


「僕もそう思います。けど、お姉ちゃんは僕の国でそれを成し遂げました。そして、何時だって全てを成して前進む。人間にも程がある強欲なんです」

「だな……よし、我等アマゾネス。命の賭ける場所を得たり。今すぐ全員戦闘態勢だ。ルルよ、私はどうすれば良い?」

「狼煙が上がったら、スキルを行使して下さい。それで全てが始めります」

「うむ、心得たっ!!」








「んで、俺達はどうすりゃ良いんだ?」

「出来るだけ早く貯蓄してる鉱石を全部集めて頂戴。貴方達にはこの戦いが終わった後、他の種族の怪我人も担いで一緒にラダリアに行って貰う予定らしいから」

「……本当にエルフは大丈夫なんだろうな?」

「そこは、サナリアが上手くやってくれてるわよ。どうやらあれもあんた等とはまた違う”呪い”ってやつに憑りつかれていたって話だし」

「マジか……」


 ケイフルはいつも通り、興味のあること以外のことは適当で、バンデスに手紙を見せて自分は横になって寝る体勢になっていた。お留守番と言われただけあってかなり気が抜けている。


 バンデスは最初から協力する気でいたので説得は必要無しだが、やることは他の2種族より多い。


 まず『鉄』の回収。国中の家を解体し、使える鉄を全て固めて1つの球体にして持って行く。他の鉱石も同じ様にし、1度しか加工が出来ないミスリルやオリハルコンだけは、その状態で持って行く。


 サナリアが欲しいの彼等の技術。そしてその莫大な鉱石、素材だった。だから出来るだけ戦って傷つけられるのは困るという判断で、彼等の守護としてケイフルを置いたのだ。並みの魔物が相手なら彼女はまず負けないのだから。


「にしても、なんだか不快だわ。私だってアレをやってみたいのに……ふんっ!!」


 しかし、ダンジョンマスターと戦えないのが気に障り、後日改めてサナリアがストレス発散に付き合う事になる……

「にしても……サナリアさん、貴方、とっても乳が大きいのね」

「……ん?」


 呪いが解け、本来の性癖に目覚めたイレオールだった。

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