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第40話 魔族と血みどろ巫女さん

「……誰?」


 突如現れたそれに、周囲が思っていた事を代弁するサナリア。すっかり頭痛が無くなりコキコキと首を鳴らしている。だが彼女以外には誰も口を出せなかった。


(……なによ、こいつは……ッ)


 ケイフルを含め、ルルもバンデスも続いてそう思った。


 一見すれば普通の人間の青年に姿形は似ている。だが額に大きな眼が1つあること。肌は浅黒い紫色で、翼が付いていること。そして何より、醸し出す”圧”が常識外だった。それは”ステータス”云々の問題ではなく、”魂”としての格の違いだとこの時点で分かっているのはサナリアとルルだけ。


 男はゆっくりとサナリアの前まで歩いて来ると、品定めする様に身体中を見て笑う。


「……お前か。魔王様が言っていた『最高の玩具』と言っていたのは」

「……魔王って、ミゼルの?」

「それ以外にはおらんよ。我が主は。そして不敬だな人間。とりあえず死んでおけっ」


 ―――――ッッ!!


 音も無くスラっと抜かれた剣、突然の戦闘行為に突っ立ったままのサナリアに慌てたケイフルが手を出そうとしたが、ビタッと首元で漆黒の剣が止まる。刃先は首の肌1枚だけを正確に切っていた。


「避けないのか?」

「避けて欲しかった?けど止めたのは正解だね。もう少しでお腹に風穴空いてだろうから。それに、その刃はそれ以上進まないよ」


 男の腹には、中指だけ突出した拳が添えらえていた。それどころか、剣はその首の皮1枚から微動だにしなかった。


「……なるほど、やるにはやる様だ」

「で、呪いをかけてる理由とか聞いて良いのかな?知らない誰かさん?」


「ああ、これはすまない。魔王様に宣戦布告した女ならば名乗るが道理。我が名はターツェル。魔王軍の魔族が1人よ」


 初めて敵が『軍』という形式を取っていると分かったサナリアは驚く。


「軍って……1人じゃん」

「それはそうだ。我が軍のほとんどの戦力は現在貴様等人間相手に遊んでいるのだからな。私は言うなれば勅命を受けし者。世界中のあらゆる種族に”呪い”を掛けるのが仕事なのだよ」

「ペラペラ話してくれるけど……じゃあ、何でそんなことしてるの?」


 最も気になっている事。それは『遠回り』に過ぎる敵の戦い方だった。


 戦うならば圧倒的戦力、物量で押し潰せば良い。この十数年膠着状態を保っているのは、相手が本気ではないからだと分かっていた。何故なら相手の力はこちらにとって”超常”。下っ端である目の前の魔族ですら抗えない力を使えるならば、そもそもその”呪い”によって殺せば良い。


「人間が1番数が多いから最初にあんな宣戦布告をしたんだろうけど、これじゃあまるっきり人間は玩具だよね?」

「その通りだ」

「……」

「怒るか?だがな人間よ。お前達は余りに脆弱だ」


 ターツェルと名乗る魔族は笑う。


「たった数十年の命で無駄に数を増やし。群れなければ戦うことすら危うく。そして何より平和主義者が多過ぎる。そんな惰弱で扱いやすい玩具が、簡単に死ねると思っているのかね?」


 人という最高の玩具に、多種族というスパイス的な存在。だからより面白く出来る様に”呪い”を掛けて混乱させ、混沌の中で滅ぼす。それが魔王の考えだった。蹂躙とは名ばかりの、壊れるまで遊ぶ子供の言い訳の様な話。



「そういう訳で、私は”呪い”の統括を行っているのでね。魔王様に最高の愉悦を味合わせる為、そういったイレギュラーは排除したい。つまり……お前は今死――――――」


「ていっ」


「ね―――――――……???」


 ゴトンッごろごろごろ…………


「「「えっ」」」


 次の瞬間には、魔族であった男の首が床に転がっていた。切り口からは血すら出ず焼かれており、恐ろしい速度で焼き切られたのだと分かる。ターツェルは自分が死んだことを数舜後に理解したが、既に遅かった。


 サナリアは手をハンカチで拭き死体を端っこに蹴ると、何事も無かったかのような顔でしてやったりな表情を浮かべる。


「はい、じゃあ次は10人ぐらいで解呪するから呼んで来て。コツは掴んだっ」

「いやいやいやいやいおめぇ何やってんだっ!!?」


 そこでバンデスに頭を叩かれる。


「何さ」

「なにじゃねーよっ!?捕まえるとかそういう考えがねえのか!?呪いの件だってなぁっ!?」

「え、うん。けどあれ、本体じゃなかったし。ほら」

「は?……あっ」


 指差されると、ガラっと死体だった身体が石くれになって崩れていく。ただの石程度でサナリアが傷付く筈もなく、動きの割りに重いと感じていたのもあって、ステータスを見るまでもなく偽物だと判断したのだ。


 そして繋がっているチャンネルが何処から伸びているのかも分かったので、何かする前に破壊した。


 それが分かって渋い顔をするハンデスのショタ頭を撫でる。直ぐに叩かれたが。


「そういう訳で、アレが何であろうと、目的が目的だから付き合う必要無し。子供の様な理由でこんな事してるって分かっただけで十分だよ。そもそもこの戦争は、明確な”利益”を目的としていない。本来の人間のやってる”戦争”とは真逆なものだし」

「そ、そういうもんなのか?」

「お姉ちゃんの言う通りだね。けど、本当に娯楽の為だけにこの世界を壊そうとするなんて……」

「イカレた奴等に目を付けられたものね、本当に……」


(これで天王側も加担してるってんだから、どっちもどっちだよね)

『私としては、力を有益に扱えない者は等しく愚かだと思いますがね』



 そうこう言っている間に、今度は声が響き渡る。


『やってくれたな人間―――ああ待て。1つだけ言っておきたくてな。お前達に私と魔王様が創造した『エイリアス』は絶対に倒せん。大精霊であろうと龍神であろうと倒すことはできん。諦めることだな』


 そう言って声は消える。


「……マジか。大精霊でも倒せねぇって」

「らしいね。じゃ、続きしよっか」

「軽いっ!!」

「なにさもう……ぶっちゃけ、倒せるとか倒せないとか、今のアレにはそういう次元の話は出来ないよ。とにかく、貴方達が直ぐ動ける様になる事が私の第一目的なんだよ。もっと言えば、貴方達があのでくの坊の下から退いてくれないと、私も動けないの。だから早く呪いを解かせて。ハリーハリーハリーッッッ!!!」







「これで最後の1人ね……あーつっかれたぁ」


 約半日を掛けて、私は最後の1人であるバンデスをおっさんに戻し終わり、鼻血を拭い取ってルルを抱き締めながらケイフルに飛び付く。胸の中にルルを埋め、ケイフルの胸の中に自分を埋め、クルクル回りながら壁にもたれ掛かって座り込む。


「お姉ちゃん大丈夫?床が血溜まりになっちゃったけど……」

「入って来る度に悪魔の儀式か何かだと勘違いするドワーフ達が少し痛々しかったわね……」

「ええ~~安心出来るかなって思って笑いかけてたのに」

「顔から血流しながら笑い掛けるって怖すぎるわよっ!!」


 しょうがないね。どう足掻いても『劣化妖精魔法』を使ってる間はどうしても負担で頭の中で何かしらの出血をしてしまうみたいだし。


 まぁ何にしろ数千回使えてすっかり”呪い”について解析が完了したし。より効率的に解呪出来る様になった。とりあえず今日はもう寝て、後は明日、必要事項を伝えて出るとしよう。


「おい」

「ん?」


 疲れた目を開くと、目の前でバンデスが小さい身体を折り曲げて頭を下げていた。


「ありがとうよ。お前が来てくれなかったら、俺達はずっと怯える日々を過ごしていた」

「何言ってるのさ。対価はしっかり貰う予定なんだから。それに、呪いはまだ残ってるんだよ。”エルフ側”にね」


 エルフ側だって、元々ショタ狂いだった訳じゃない筈だし。後あの男の言葉が本当ならアマゾネス達にもある筈だ。この世界の理の外に存在する”呪い”だからそれを察知する手段は数少ないけど、それも私が強くなれば楽になる。


 後は……ルルとケイフルが居れば、今のところは頑張れるかな。あー、そもそも私は戦ってない期間の方が総合で長いから、本来なら研究だけをしていたいのに。


 戦う方法を提示する為に戦わなきゃならないなんて、本末転倒もいいところだ。


「私は明日、エルフと、そしてアマゾネスの”呪い”も解きに行くから。ドワーフさん達は、私に技術を渡す覚悟だけしておいてね。特に『オリハルコン』の加工技術は」

「おう、任せとけ。今日はとびきり美味いもん食わせてやる。今日は盛大に酒盛りだ」

「なら良し」







 ダンジョンマスター:心臓部


「ふぅ、やれやれ。まさかあんなにも強いとはな。ステータス上ではあの場に居たトカゲよりかは上にしていた筈なのだが……それに、五月蝿いコバエ共も中々どうして、案外に粘ってくる。まぁ意味は無いがな」


 成層圏より遥か上。熱圏300㎞に位置する頭部。その額に埋め込まれた直径10㎞ほどの巨大な”ダンジョンコア”。その内部にて悠々とした姿勢で外の様子を見ているターツェルの眼には、絶望に抗う者達の姿が映っていた。


 コアには八角形の多面体結界に覆われており、そこには3種の魔力によって練り上げられた力がぶち当たっている最中だった。



 大気の凍る世界で燃え尽きることの無い獄炎、水流、風速。



 彼等の怒り狂った攻撃の嵐を受けても尚、巨大過ぎるそのコアの結界には些かのダメージすら与えられていなかった。反撃も受けていないことから、まるで相手にもされていないのだ。


 だからこそ、世界を守護してきた者としての矜持が、怒りに変わって彼等を突き動かし続ける。共に戦って来た『盟友』を奪われた純粋な憎しみも込めて……


「可愛いものだ……そうさ。あの者達こそ間違っているのだよ」


 魔族は笑う。自らが定義された心の基準に則って……

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