第39話 歪に過ぎる三つ巴
「「「……」」」
『ダイジョブか?』
「大丈夫だけど……中々に事情が混沌としてきたね」
「何がどうなったらそうなるのよっと話ね」
「僕達、本当に勝てるのかな?」
「それは大丈夫だけど」
((大丈夫なんだ(なのね)……))
正直な話、今から話しを聞きに行くドワーフ達に対してもあまり気乗りがしなくなっていた。直ぐ上に絶望的なほど厄介な相手が居るのに、どうも抱えている問題がヘンテコだったり、それぞれから聞かされる追加情報でやることが増えていく。
現時点であれを倒す方法を知るには情報が必要だ。フォルナから教えて貰った事もあるけれど、力惜しの倒し方ではどう足掻いても勝てないってことだけは分かった。
それで、今度はイレオールさんが契約しているという精霊さんにドワーフ達の住む岩山への案内を頼んでいる。精霊はアネモネアという名前で、綺麗な赤いグラデーションの花を頭に乗せた小人の様な存在。今は頭に乗って足をパタパタしている。こんな姿でも年齢はこの世界が生まれた頃からなので相当なものだ。
ただ、本来なら精霊とは話す事が出来ないんだけど、私だけはこうしてディアナを介して話をすることが出来る。
「アネモネア、ドワーフも精霊と契約していたりするの?」
『シテル ジメンズキ オオシ』
「なるほどね。ドワーフもエルフやアマゾネスみたいに初手攻撃とかして来なければ良いけど」
「どうかしらね。なんだかんだ上の方では繋がっているみたいだし」
「お姉ちゃん……」
「大丈夫、今度はちゃんと守ってあげるから」
よほどトラウマとなったのか。尻尾を股の間に入れてケイフルの背中に蝉の様に張り付いていた。
『エルフ 嫌い 来るな ショタコン反対』
「露骨」
「うわぁ……」
「良かった、仲間達だっ!!」
『それはそれでどうかと思いますが』
『ゴー』
まるで要塞の様に、巨大な大砲がこれまた巨大な岩山のあらゆる場所に設置されており、ヘルメットを被った見目麗しい男の子達が子犬の様に震えながら私達を睨んでいた。
皆が臨戦態勢であり、眼に涙を浮かべながら警戒している辺り、どれだけエルフ達がやらかしたのかよく分かるよ、
「だ、だれだーーーっ!!来るなぁーーーっ!!」
「女怖いっ!!大人の女超怖いっ!!」
「そこに君っ!!い、今助けてあげるからねっ!!」
ガタガタと震えながら岩山の鉄門から身の丈に合わない槍やら剣、盾を持ってゾロゾロと出て来る。決死の覚悟、死ぬことを決意した者達の必死の抵抗が見てとれる。
「えっと……私達はエルフじゃないよ?」
「落ち着きなさいまったく。ルル、何とかして」
「う、うん。皆さん落ち着いて下さいっ!!僕達はエルフのあん畜生とは違いますっ!!」
「「あん畜生て」」
ルルの説得により、何とかドワーフ達は話しを聞いて族長ならぬ王様を呼んでくれた。見た目は他のショタ達と変わらないけど、仕草が明らかにおっさんのそれだった。そして猛烈に汚い。鼻とか真っ黒だね。
「お前等か、エルフとアマゾネスに会って来たって奴は……ま、俺達の容姿に関しては気にすんな。追々話してやるから。城に来て話そうぜ……いつエルフの変態どもが来るか分からないからな」
「そんなになの?」
「……まぁな」
面と向かってはショタコン以外は特に普通そうなのになぁ……
「「うわぁ……」」
「石臭いわ……」
『これは絶景』
ぞろぞろと国民達を引き連れ歩くドワーフの王様の後ろを歩きながら岩山の中を進む。そこはもう1つの街だった。建物は全て鉄製。家から配管が縦横無尽に這っておいて、地面も継ぎ接ぎの鉄板だらけ。煙突らしき物はそのまま折れないのが不思議な高さで、岩山の天上までそれぞれ伸びている。
街の中に建っている城も全て鉄っぽく、上から白いペンキで色付けされている様な、とても色褪せた建物だった。
(まるで、余った廃材で作った巨大な秘密基地みたいだ)
戦争時、用水路の中に作った幾つもの秘密基地が懐かしく思える。戦後も使えたから隠れ家には丁度良かったし。
「俺達は独自の鉱脈を持っているからな。国内だけで運用する以上、要らねぇもんもある。それが鉄だ」
「鉄」
王は深く頷く。
「レブナント鉱、ミスリル、オリハルコン。スチナールにアミール鉱、アダマント鉱。全てが魔道具や最高の武具を作るのに最高の素材達だ。鉄は生産性こそ高いが、重いし魔力の伝達性が悪い。俺達はそういうのは好かねぇが、耐久性だけは無駄に高いから、こうして適当に板やパイプにして使ってんだ」
「……」
「お姉ちゃん、ドワーフの技術って凄いね」
「うん、此処だけ文明レベルが可笑しい」
「そうなの?」
「ケイフルはドラゴンだからね。人間が一番使う物って鉄だからさ。それが適当に使われているって結構凄いんだよ」
あそこには無かった鉱物の数々。いや、発見されず、されても使い道を示せなかった宝の山。それをドワーフ達はいとも容易く加工して使っているというのだから。
冷蔵庫、クーラー、コンロに水道。あらゆる機器が魔道具で作られ便利化されているのを見られる。異世界の人間が来たら此処から出たくなくなるだろうなぁ……
城の中に連れて来られると、流石に中は綺麗な大理石で覆われた王の間があった。その王座にショタが腰を降ろし、足をプラプラさせながらふんぞり返る。
「改めて、俺がドワーフの国を纏めている。バンデスってもんだ」
「サナリアです」
「ケイフルよ」
「えっと、ルルです。ラダリア出身です」
「おう。とりあえずもてなしてやるから、そっちの目的を話してくれい」
「分かったよ、バンデス」
「そうそう、そっちの方がやり易い」
ニカっと笑う彼に、ああ、やっぱり気さくな感じだなと思った。
と、その前に私達の状況について話しておく。予言の巫女、ラダリアの王子。龍神の娘。最終的に天王と魔王を潰す宣言と、”呪い”について。
「もしかしてだけど、ドワーフって元々そんな姿じゃなかったんだよね?」
「御名答、お前さん等とは毛色が違うが、これもその”呪い”の類だ」
室内で警備を行うドワーフ達が一斉に口元を抑えて咽び泣き始める。
15年前から始まった”呪い”により、ドワーフ達は元々小さいおっさんで、想像そのままの姿だったのが人間の子供の姿になってしまったという。力は昔そのままだが、とにかく容姿が全員変わってしまったのだ。
それまでエルフとアマゾネスとそれなりに貿易を重ねていたのだが、姿が変わっても彼等はそこまで悲観しなかった。そもそも普段の生活から見た目を気にせず。技術至上主義者の研究狂なのだ。むしろいつもボロボロな男がカッコイイと言われるぐらいだった。
そんな彼等に対して、狂気的に変わってしまったのがエルフ達だった。
「何がそんなに嵌ったのか、奴等俺達を飼い殺そうとしてきやがったんだ。それで貿易品持ってった奴等が1度襲われたしな」
「「「えっ」」」
「半年後に漸く助け出して帰って来た奴等が、女を見るだけで発狂するほど追い込まれていたからな。力だけならエルフよりも遥かに強い俺達の種族がそうなるんだ。謝罪はあったが、何回やっても同じ事件が起こりやがる。そりゃあお前、誰だって嫌になる」
こ、これは強烈だ。聞いた話では、帰って来た彼等は全員何らかのコスプレで『男の娘』にされていた挙句、様々な方法で男としてのプライドを完全に破壊されたらしい。暴力行為はされてなくても、エルフ達の眼がヤバ過ぎて誰も逆らえなかったのだとか。
「俺達だって、事の事態は把握している。だが、こんな姿で人前にも出たくねぇ。歯痒いがな……」
んー……これは、キツイか?いや、今ならいけるかもしれない。
「あの、それだと共闘とかは……無理だよね?」
「そりゃあ無理だ。顔合わせた瞬間戦争が起こるぞ。俺達は奴等を根絶やしにしたいしな」
「じゃあその容姿を元に戻したら良い?」
「……おい嬢ちゃん、今何て言った?」
「その姿、元のおっさんにしてあげるって言ってるんだよ」
はい、話しを通して、現在全てのショタドワーフがこの地に集まりました。城の前にショタの群在り。私達はそれを上から見下ろしている。ああも整った顔立ちの男の子が多いとちょっと不気味でもある。
そういえば女の人は?と言ったら、彼女達は普通の姿なんだとか。それ聞いて安心したよ。
ルルもケイフルも「どうやるの?」といった顔で私を見るけど、ルル、この方法は貴方の『幻獣化』した『妖精』に習ってるんだからね?
「ディアナ、準備は良い?」
『ええ、参りましょうか』
「バンデスさん」
「おう」
渡されたのは拡声器の形をした魔道具。摘まみを回し、全開で声を放った。
「おっさんに戻りたいかぁぁあぁああーーーーーーーーッッ!!!!!」
「ぐおぉぉおおーーーーっ!!?」
「み、耳ぃっぃいい~~~~!?!?」
「あ、頭が割れる!!」
キィーーンとするほど馬鹿でかい音に全員が頭を抱える。だが私は構わず続ける。
「私の名はサナリア。とある国にて勇者教の巫女をやっている者です。私は皆が掛かっている”呪い”の元凶を倒す為の旅をしています。そして、皆の頭の上に居る、あの巨人も倒します。その為の力を貸してくれる、皆の様な存在を求めているのですっ!!」
とにかくまずは耳を傾けて貰う為、私の目的を話す。人間とはほぼ会ったことないから皆眼を向けるけど、私が女というだけで凄い恐れられる。体格差的にけっこうエルフと違う筈なんだけどなぁ。
「そして、皆の恐れているというエルフとも、私は共闘を申し出ている。ですがこのままではとても貴方達と手を結ぶのは不可能です。なので、私の力で皆の呪いを解き、エルフ達との確執を無くしたいと思いますっ!!」
「だ、だが奴等、俺達が元の姿に戻ったら怒り狂うんじゃないのか?」
「それは向こうの都合。こちらには不利益しか無いのだから問題ありません。ショタに会いたいなら子供を産んで育てれば良いし、森から引き籠りを止めて人間と交流すれば良いのですっ!!」
反論は即座に論破する。こういう時は疑問すら持たせてはいけないね。
「皆は堂々とした顔で、世界の為に戦うんだ。それを自分の性癖と本能で遅い掛かるのはもはや魔物と変わりませんっ!!!」
これがトドメとなった。皆の眼の色が変わる。即興だが何とかなって安堵の息が零れるが、ダメ押しにもう1回。
「皆、おっさんに戻りたいかぁぁああーーーーーーッッッ!!!!!」
「「「うおぉぉおおぉおぉぉおおおーーーーーーッッッッ!!!!」」」
城の中まで伸びる長蛇の列。その最前列にて、私は1人のドワーフの前に居た。
「じゃあ今から”呪い”を解くから」
「は、はい」
「バンデス、約束は守ってね」
「任せろ」
私の目的は3つ。1つは勿論ダンジョンマスターの討伐。それを成す為に、その足元に居るアマゾネス、エルフ、ドワーフ達との共闘と避難。が必要だから、彼等との共闘もそこに含まれる。2つ目はドワーフの技術。彼等の鉱物を自在に加工できる能力が欲しい。時間は無いけど、その”概念”を学べれば私にも同じ様に使える様になるだろう。都合の良いことに、そういった事が出来るだけの力があるからね。
最後の3つ目、それは、ダンジョンマスターの前に使う機会が訪れた、この力の可能性を確かめることだ。
「ふぅー…………」
集中し、『領域変化』を発動する。同時並行で使える”概念”は6つ。『浄化』『神聖』『解除』『破壊』『清浄』『削除』『解呪』を設定し、まずはこれでどうにか出来るか試す。
光が同時に6つ空中に出現し、ドワーフの中を素通りしていく。
「わっ、わっ」
「動かないでね……」
(……駄目か)
光は全て通り抜けた。”呪い”に接触すれば発動出来るのだが、全て素通りしてしまう。なら次の本命だ。
(頼んだよディアナ……想像しろ……)
先程の『領域変化』を、能力としてではなく想像だけで”有るもの”とし、『劣化妖精魔法』を発動させる。私の能力そのものを”概念”として定義したことで、その力の全てが『劣化妖精魔法』によって発動したスキルになる。
「――――ッッ!!!」
「えっ、ちょっとサナリアっ!?」
「お姉ちゃんっ!?」
「だい、じょうぶ……」
「大丈夫って、血垂れ流しじゃねぇかっ!!」
頭のいたる場所から血が出始める。負担、というやつなのか。眼、耳、鼻から血が流れ出した。けど魔法はしっかり発動し、先程よりも虹色に輝いている光が、同じ様に身体の中へ入り、
ビキィイィッッ!!!
「捕まえたっ!!……―――ッッ!!!」
光が”呪い”の概念を特定し、ドワーフの身体の中から追い出し、消し炭にする。おどろおどろしい色をしたそれは、塵になって空間に溶けていったのを確認。
「……お、おおっ!!」
可愛らしい男の子は、見事な3頭身のおっさんになっていた。頭から熱や痛みも引き、血も止まる。ふぅ、何とかな―――――――――
「お前か?俺の与えた”呪い”を解いた奴は」
どうやら、問題は次から次へと来るものらしい。
「因みにこれがドワーフの女だ」
「……綺麗な髭だね」
「あ、ありがとうございますっ!!」
「ケイフルも付ける?」ガツンッ!!
「ぶん殴るわよ」
「殴ってから言わないでよぉ~~」




