第34話 親子対決② 神祖覚醒
獣人の覚醒には、通常2種類の道がある。1つはレベルを上げた果て、ステータスが一定の数値に達すると獲得出来るその種族特有の固有スキルの進化である。今現在、9割の獣人の戦士達はこの覚醒をしている。クウソンなら『斉天大聖』。ビートヒートなら『正道』といった具合に。
そして、獣人の中で1%にも満たないもう1つの覚醒。それは、レベルやステータスに関係無く、この世の理から外れた、言ってしまえば『外』から干渉出来る固有能力の発露。
そのトリガーは、この世界を”正しい意味”で少しでも理解してしまった時。
限定的条件下でのみ発生するそれは、文字通り『破格』となる。現在獣人の中でそれが確認されていたのは、国王ヒューリと、その娘フォルナだけ。
そして今日、そこにもう1人名が刻まれる事になる。
「ぐおっ!!ぬぅぅ……こいつはっ中々厄介な物を引き当てたな、ルルっ!!!」
『流石ですね父様っ!!やっぱり凄い……ッ!』
ヒューリの前には今、1匹の”ドラゴン”が居た。群青色の深い色合いの鱗と、その体躯には見合わない程大きな羽と尻尾。空を自在に飛び回り、光線の様なブレスでヒューリを追い詰めているそれは、先程まで戦っていた者と同一人物だった。
ブレスの1撃1撃が破滅的な威力を持ち、大地に深々と穴を穿ち、そして空を貫く光柱が虚空を作った。それは、触れれば塵も残らない程の威力であるのは明らかだった。
ルルの能力上では、少年は今”バハムート”という事になっている。
ルル・フォックス・ミーニャント・ラダリア(10) Lv.55
種族:狐獣人(神祖覚醒)
HP 55/55
MP 55/55
AK 55
DF 55
MAK 55
MDF 55
INT 2100
SPD 55
【固有スキル】 幻獣化
スキル:無し
『幻獣化』
過去に確かに存在した幻獣を憑依させ、その能力を行使する。その際、使用者のステータスは全て上書きされた状態になる。
・上書きステータス
ルル(10) Lv.95万5400
種族:バハムート
HP 9.3E+25/9.3E+25
MP 9.1E+26/9.1E+26
AK 5.6E+30
DF 6.8E+30
MAK 9.0E+35
MDF 9.5E+35
INT 1万2200
SPD 1.0E+36
【固有スキル】 龍鱗 飛翔
スキル:龍魔法(EX)
それは既に絶滅した種。遠い昔、神々の戦争で消失した龍神の内の1匹。つまり、ケイフルの父と同じ世代に存在していた者となる。
ケイフルは目を見開き、血が叫んでしょうがないと言った様子でサナリアの手を握っている。
「あれは……なんなの?」
「凄いね。まさかルル君があんな姿になるとは……というか知ってるドラゴン?」
「知る訳ないじゃない……ただ、何故だか血が凄く喜んでるのよ。まるで、昔の親友に会ったかの様な……凄い喜び様だわ」
「へぇ……」
呑気に話しをしているが、2人が話している場所は。ルルとヒューリの戦っている近くである。当然爆風その他が荒れ狂っている真っ最中なのだが、それ等は全てケイフルの魔法で吹き飛ばしていた。
(……当たらない、どうして!!?)
「さっきがヨルムンガンドの鱗とワーウルフの完全体勢。で、今がバハムートか。よくもまぁ昔の幻獣をこんなに見れるとはなぁ……『先祖』を拝める機会があって感無量だぜ」
『―――ッ!!』
「はは、驚いたか?俺とて血筋を辿る者だ……初代の王の話は知っているさ」
ルルが知った長き狐獣人の歴史。それは最終的に、他の獣人達も合わせて1匹の始祖まで遡る。
「且つて獣人は獣人ではなかった。それは、1人の”人間”が滅びゆく彼等に協力した結果だった。幻獣……俺達獣人が獣人たる証である彼等。その血が、時に覚醒を齎す。フォルナもまたそうであった様に……」
ベヒーモス、リヴァイアサン、ペガサス、カーバンクル、フェンリル。数えきれない程の”伝説”と称された彼等もまた、神代の時代に戦い、そして滅びていった。だが、その血を絶やさない様にする為に、1人の人間が彼等の血を使い、子を生み出した。
それこそが獣人の始まり。人と、幻獣の交配によって生み出された奇跡の産物。その人間は、全ての獣人の細胞の祖であり、そこに全ての幻獣の要素が詰まっている。
そしてその中で唯一、血筋を全て辿り理解した者だけが習得出来た能力がある。
「お前は、それを手に入れた。なるほど、確かにその力を最大限使えれば巫女の旅にも着いて行けるかもしれんな……それでも、そういうのは俺に勝ってからだっ!!」
ドッッッズンッッ!!!!
「く……あっ!!」
ブレスを身を振る返して避けてからの尻尾の魔力ブーストで懐に入り、ヒューリの鉄拳がルルの腹を貫く。錐揉みしながらも空中で体勢を整えるが、その肉体であってもダメージは確実に蓄積されていた。
ヒューリは400年間王で在り続けた強者ではある。だが、それだけでは説明が付かない程の強さが確かにあった。それもやはり、彼だけが持つ固有スキルが原因である。
ヒューリ(621) Lv.5400
種族:狐獣人(神祖覚醒)
HP 300万9600/300万9600
MP 5.2E+60(+57)/5.2E+60(+57)
AK 512万2900
DF 500万5440
MAK 655万2110
MDF 701万6630
INT 2500
SPD 945万9800
【固有スキル】 貯蓄 狐火
スキル:体術(EX)浮遊(EX)
『貯蓄』
自らの魔力(MP)を生きている限り自動で溜め込める。また、魔力をステータスに還元できる』
現在貯蓄魔力数:1.0E+57』
単純にして強力。自らを高め続ける忍耐を鍛えた男の集大成。貯蓄が指数表記になった瞬間から爆発的に貯蓄量が増えた男が、いつか国が滅亡の危機に陥った時の為に使おうと溜め続けた力。
それは消費してしまえば、また膨大な時間を掛けて溜めなければならない。だからこそ使った時の爆発力は凄まじい。
更にヒューリの場合、その力を鋭角化させ、集中的に使えるので攻撃の重みが違う。単純な肉弾戦だけならフォルナをも超えるのだ。
「どうしたどうしたっ!!もう終わりかっああっ!?」
『くぅ~~~~っ!!!こんのぉぉっっ!!!』
打撃の嵐を真面に喰らい続けるルルの龍鱗はボロボロに。どれだけ体格差や能力差があっても、針の様に細い攻撃がレーザーの様に撃たれれば防御など意味を成さない。血だらけになったバハムートを止め、ルルは次の手を打った。
「うおっ!?なんだこりゃっ!!」
『……』
『幻獣化』を使った瞬間、周囲に緑色の煙が噴出し、ヒューリはそれに入らない様に咄嗟に後ろへ下がった。
「ふんッ!!――――――……くそ、晴れねぇか」
蹴りの風圧で煙を吹っ飛ばそうとしたが、後から後から噴出してくる為、ルルの姿を視認する事が出来なかった。だが、その煙の出し方と一瞬触れた箇所が痺れているという点で、やはりヒューリは言い当てる。
「……ドリアードの毒か。そんなものにまでなれるとは思わなかったぜ。なんせ、そいつはまだ現存してるからな」
『これもバレバレですよね……けど、父様も攻撃は出来ないでしょう?』
「おいおい、俺達が何族が忘れたのか?狐族の基本戦法は……遠距離だぜっ!!」
呼び出したるは狐獣人の十八番、『狐火』である。フォルナには及ばないが、ヒューリのそれも数が多く、ルルを囲う様にして火の玉が整列し、突っ込む。
ズガガガガガガガガガッッ!!!!
『うっああああああああああああっっ!!!!!』
怒涛のマシンガン斉射に、煙の壁は瞬く間に削られ、その中心に居るであろうルルに向かって爆炎を広げていく。緑の煙は黒い爆炎のものに変わり、空に広がっていく。数十秒で数千発を打ち込むと、漸くその喧騒が止み、ヤレヤレといった様子で額を拭った。
「ふぅ、流石に久々の全力は身体に響く」
「その割にはウキウキしてるね?」
「あったりまえだろ?愛しい息子と夢だった試合が出来たんだからなっ!!」
心底嬉しそうに彼は笑う。姉妹達とは幾度となく戦ってきたが、それは全て模擬戦。本気の戦いでもなければ、命を賭けたものでもない。それに娘は基本的に愛でるもので可愛いのだ。
だが、ルルという小さな息子。この世界でもしかしたら育つ前に滅びるかもしれない、何時死ぬかも分からない状態。ほとんど諦めていたのだ。いつかルルが戦士として育ち、獣王祭を勝ち抜き、自分の前に立った時をどれだけ夢想したか。
そのルルが、可愛い一人息子が。妻の残した宝が。1人の男として自分の前に立ち、確かな信念を持って立ち向かってきている。
「嬉しいに決まってるじゃねぇか。最高の気分だっ!!!」
うねる様な魔力の奔流。弾ける様な闘志。ヒューリは息子に、王となった男の全てを見せるつもりだ戦うつもりだった。
「さぁ来いルルっ!!まだ全部を出し切っちゃいないだろうっ!?」
爆炎が急速に無くなっていく。先程まであれだけ晴れていた空は曇り、雨が降り注いでいた。冷たい雨が肌を打ち、急速に冷えていく戦場。だがヒューリの周囲は魔力の渦で水は蒸発し続ける。
その闘争が、一瞬で消えた。
それを皆が見た瞬間、全員が”嘘だ”と思ってしまった。
それは且つて、幻獣達の中で一際変わり者であったこと。誰よりも争いを望まない種族であること。
「あろ~~は~~~♪」
誰よりも、楽しいことが大好きな者達。『妖精』がそこに居た。




