閑話・10 敗北記念の宴
「お?」
「ぬぅ?」
「むっ」
ラダリアの王都内、とある酒場にて同時にカウンターに付いた3人の男達が、互いの顔を見合わせ声を上げる。全員が違う種の獣人ではあったが、それぞれにはある共通点が存在した。
3人とも氏族代表者であり、3人とも人間に負けた者達であるという事だ。
「よう、ロクにビートヒート。お前等も1人酒か?」
「そんなところだ。奇遇だなお主等」
「……ふんっ」
「なんだ連れねぇなぁおい。別にあん時胸倉掴まれたの怒ってないぜ?」
「そんなみみっちぃ事気にしとらんわ!!」
「なら仏頂面すんなや。ほれ、酒の一杯奢ってやっからよ」
「……ちっ、勝手にしろ」
「お前さんはどうだい?」
「何かの縁だ、共にやろう」
という感じで、臨時の小さなが宴が始まった。
全員が同じ酒を一気に飲み干すと、一番お喋り者、猿族のクウソンがやはり最初に喋り出す。
「で、お前等サナリアに惚れたか?」
「「ぶっふぅッッ!!!」」
だが爆弾だった。口に含んでいた酒が目の前に居た酒場のマスターの顔面にぶち当たり、真ん中に挟んだクウソンに両側から眼が向く。
「き、きさ、ま……何を……」
「ぶっこむにしてもいきなり過ぎだろうに……」
「あっはっはっは、すまんすまん。いやぁ、やっぱり惚れたか。そりゃあそうだよなぁ~~♪」
口にしている内容についてはともかく、その意味については正しく禁断に等しい物であるのを承知でクウソンはそんな事を言ってのける。
自分達は獣人、相手は人間だ。通常ならば異端として後ろのテーブルに座っている獣人達に揃って糾弾されるだろう。だが、相手がサナリアだとなれば話が変わってくる。というより、今回の獣闘祭でその意識がガラっと変えられてしまう結果となった。
なにせ彼女は自分の種を『獣人の一種』と公言したのだ。そして獣人社会は強さが第一。自分達よりも強いサナリアに想いを抱いてしまうイレギュラーが発生してしまう。
獣人の美的センスはまちまちだが、少なくともこの3人は人間よりだった。
「あんな小さくて可愛いのに馬鹿つえぇ奴、多分人間の中でもかなり稀なんだろうぜ」
「……否定はせんが、なぁ?」
「俺に振るな」
2人の反応にクウソンは笑いながら酒を煽る。思えば自分自身こそが最も最初にサナリアに惚れたであろう獣人として、彼女の良さを言っておく必要があると思ったのだ。そも、獣人は皆人間を見下して来たのだからと。これを期にそのマイナス部分を少しぐらい払拭させても良いだろうと。
「あいつは良い女だぜ?俺達の全力を引き出させて尚、高みを目指せる様な戦い方をしてくれたしな。しかも完膚無きまでにボッコボコだ。プライドとかそこら辺にも理解があるし、戦士としては極上。そして何より……エロい」
「よし、死ね」
「手を貸すぞビートヒート」
ガタっと席を立ちあがり拳を鳴らすビートヒートと、羽の刃を顕現させるロク。それに命の危険を感じたクウソンは、即座に手を振ってそれを止めた。彼でも2人を相手にすれば流石に死ぬと判断している故に。
「わー待て待てッ!!!ほら、アレだっ!!あいつあんな動けんのにすっげぇ美味しそうな肉してるだろ!?」
「……」
「……」
「そこで黙るなよ!!言い方アレだけど怖くなるだろうがっ!!」
男同士の会話なので下劣さが露になるが、『美味しそう』という点で合致してしまい何も言えなくなってしまう。
雌として見るなら、人間の中でサナリアはかなりモテる。あんな大きな物をぶら下げておきながら言動が何故か男寄りなのもだが、身体付きが余りにメスなのだ。獣人の女性もそうだが、基本的に彼等は豊満で、括れもある引き締まった身体である事が多い。
サナリアもその例に漏れず、だがスベスベの肌や男を包み込みそうな胸等が非常にそそられてしまう。
クウソンはそういうのを共感して欲しい訳だが、2人にしてみれば違う意味の『美味しそう』なので本能に従い過ぎだと窘めた。
「だが猿族よ……我等も氏族代表であるならば、種族内で交配すべきだ。そうであろう?」
「正論がお好みかビートヒート?酒が足りないんじゃないか?ん?」
「そうだティラノ族。もっと飲むのだ。この際本音で言ってしまえ。お前のデレは分かり難い」
「うごっ!?」
数分後、そこには出来上がった馬鹿達が居た。
そして馬鹿達は酒の勢いに任せてとんでもない事を言いだした。
”今から夜這いしに行こう”
どういう思考原理でそうなったかは不明だが、とにかく3人は酒樽片手に城に侵入。匂いを覚えていたクウソンを戦闘に見回りの獣人を気絶させながらサナリアの部屋を目指す。
無駄にステータスの高さを活かしたスニーキングは、酔っ払い共でも容易に完遂させてしまう。
「……此処だな」
クウソンが1つの扉の前で止まり、鼻をヒクヒクさせて頷く。完全に不審者のそれだが、後ろから黙って着いて来た馬鹿2人も大概だった。ゆっくりとドアを開けると……
「……zZ」
「くか~~……zZ」
「……むにゃ……おね……ひゃ……んぅzZ」
(((……あれは無理ではないか?)))
3人の心の声は珍しく寸分違わず一致した。サナリア1人なら例え抵抗されても屍が3つ出来上がるだけだが、まさかサナリアを挟む様にしてこの国の王子と暴れん坊風龍が居るとは思っていなかった。どちらを刺激して起こしても首が社会的に刎ねられるか物理的に跳ぶかの2択である。
流石にこれはヤバい。特にケイフルを起こして夜這いだとバレたら、間違いなく城どころか王都が無くなると判断し、3人は一目サナリアの寝姿だけ見て去ろうと決断した。
「うおっ……」
「こ、これは……」
「むぅっ……」
サナリアの姿は、非常に際どいものだった。豊満に過ぎる胸にルルの顔が埋まっており、しかもそれはベビードール一枚という状態。足元の太腿も全露出で、下着も見えてしまっている。染み1つ無い卵肌は滑らかな流線形であり、キュっと引き締まった括れとは相対的にお尻の揉み応えありそうな肉に涎が落ちそうになる。
全員が生唾を呑んでそれを見てしまい、雄としての本能が異常な程に掻き立てられる。が、男達にとってのサービスはそれで終わりだった。
「何をしているのでしょうか?この獣畜生共は」
「「「―――――――――――――ッッ!?!??――――――――」」」
シュンッ
次の瞬間、3人ともその場から存在が消失していた。喋っていたのはサナリアの身体を動かしたディアナ。一瞬だけ身体を乗っ取り、彼等の存在をこの空間内で『否定』したのだ。曖昧故に各自があらゆる場所に共生転移され、王都内の何処かしらに急に姿を現す事になる。
ディアナはそれを見届けた後、この瞬間の記憶だけ『否定』し、再び眠りに付いた。頭の中に居たサナリアは眠ったままに彼女はその守護を完璧に完遂して……
次の日の朝。
「……何があったんだろうな、あの人達」
「さぁな……何かやらかしたのは分かるけど……不思議な埋まり方してやがんなぁ」
「おい、さっさと掘り返すぞ」
「「おう」」
王都の門前には十人程の戦士達が集まり、それを見ていた。一体どうやってそうなったのかは誰にもわからない。土に首だけが出ている獣人3種族の姿がそこにあったのだ。
そして掘り出された3人は後に口を揃えて語った。
「「「夜の巫女には近寄るな」」」と。




