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第32話 共闘の契約

 場所は城の大広間。全国民が集まった中、私達もそこに居た。


 さてさて、困った事になったよ。私は反則負け、けどフォルナも負けを認めてしまった。こうなった場合の獣人達の掟は、どうやら存在しないらしい。だから実質どちらも優勝で良いのではないか?という話になっている。


 その場合、2人とも王に対しての挑戦権を得る事になるのだが……


「いや、勘弁してくれ。どっちか1人でもヤベェのに、2人相手にしたら確実に俺が死ぬんだが。いや、1人でも死ぬんだけどよ」

「「えぇ~~」」

「え?そこ合わせてくるのお前等?」

「フォルナ姉様、一気にフランクになりましたね……」

「もう、何も隠し事してませんからね♪」


 あのやっべぇフォルナの方だけど、状態異常を私が使った技で破壊してしまった。あの剣そのものが『九尾モード』の根源だったらしく、根本から叩き折ったら固有スキルの方も無くなり、危険過ぎるあのステータスも消失した。今はまぁ、ケイフルの方が強いかな。


 そんなフォルナさん、現在私を抱き締めたまま離れない。もっと言えば持ち上げられているので足がプラプラしている。ちくせう。身長差30㎝は伊達ではない。あの、おっぱいごと持ち上がっちゃうので止めてくれない?周囲の目も痛いの。


「ちぇっ……」

「いじけるほど!?……あー、フューリ王?この際なんだけど、私は元々部外者だった訳だし、挑戦権の代わりに幾つかのお願いだけ聞いてくれれば良いよ?今なら出来そうな願いだし」

「あー……一応言ってみろ」


 何を言うのか分かっているのだろう。諦めた感じで促されたので、自分の声を『劣化妖精魔法』で拡大し、話す。



「皆さんこんにちわ、私の名はサナリア・フォルブラナド・レーベルラッド。故郷、レーベルラッドからやって来た巫女です」



 突然喋り出した私に、獣人達の目が全員こちらに向いた。よしよし、後はディアナの用意させたカンペ通りに……

『全く、考えた内容ぐらいインプットしておきなさい』

(無茶言わないでくんない!?)



「私は今回、この獣闘祭に参加させて貰えた名誉をとても嬉しく思っています。それに、この国来て沢山の事を知る機会を得られました。それは獣人達の人間には無い強さや志。氏族事の営みや、戦士としての協調性。どれも私達人間と似ている様で違う、そんな印象がありました。虎族の華麗な演舞、パンダ族の作る雅な工芸品。そして皆が協力して作る革新的な魔道具。他にも各氏族様々な唯一無二の特徴があり、どれもが魅力的で目が回りそうなほど」


 私は自分の見た物。感じた事をそのまま話す。


「そしてまた、この国で私は友人が出来ました。それは心で、戦いで、語り合いで。形は様々ですが、どれもが良き出会いだったと思います。獣人と人間の間にある確執、且つての『魔王』問題については私も知っていますが、そんなものを容易く乗り越えられるぐらいには、割とあっさり友達になれたのです」


『魔王』問題。神代が過ぎ去り、つい数百年前まであった『魔王』と呼ばれた存在による世界侵略。且つて神と邪神が対消滅し、邪神の因子がランダムに魔王を生み出すという世界に残った呪い。


 その第一被害者は獣人達だった。彼は数万年に渡り、1族、また1族とその中から『魔王』が感染し、その1族で特に強い物達が『魔族』となって悪逆の限りを尽くす。


 今に至るまで、ラダリアの獣人達は全てその系譜に当たる。全ての氏族から、魔王と魔族が一度は出ている。逆に人間からは一切出ていない。


 それが確執だった。それも、人間からの一方的な。


 だから獣人達も彼等を嫌ったのだ。至極単純な理由から始まった溝が、今では複雑になってより深く。人間を最早興味も無いといった様子だった。



 そこで始まった世界侵略。そこより齎された予言の巫女。その人間の戦いに深く心打たれてくれた彼等は、1人として私の言葉を止めはしなかった。



「過去、貴方達に訪れてしまった不幸を人間は呪いと呼びました。貴方達にとってもそうでしょう。だけどこれは、決して獣人の所為じゃない。そもそもこんな事になったのは他でもなく邪神の所為です。人間だって、元々は貴方達と共に、神代の国で神と戦った仲間達だった。それもまた真実です」



 人間達は怖かったのだ。獣人達は頼れるが、それだけに敵になれば強過ぎる。だから数に任せて追いやってしまった。そうする事でしか守れないと思ってしまった。間違いがあるとすればそこだった。


「今日も戦って分かりました。獣人は強い。そして昔と同じく、彼等は戦士としての誇りを昔よりも遥かに強く持って戦っているのだと。なればこそ、私はその力と共闘したい。この世界を覆わんとする無慈悲の光と、悪逆の闇に対して」


 そこで、初めて彼等はざわついた。だが言葉は続ける。私の手を握ってくれているルル君は、静かに頷いてくれていた。


「皆、この国の問題に対して一丸となって立ち向かっている中、こんな事を言うのは馬鹿だと思われるかもしれません。ですが、私のそもそもこの国に来た目的はそれなのです。その上でこの問題を知った時、双方に利益のある選択をする事にしました…………そう、今から私が行うのは、私という可能性の価値を、皆さんとの『契約投票』なのです」



 指を鳴らすと『劣化妖精魔法』が発動し、上空にこの世界の文字が魔力で浮かび上がった。


『領域変化』内に入った国民達の名全てを『検索』と『抽出』で出し、『劣化妖精魔法』を使った結果だった。全ては私の想像通りに。


「今此処に、この王都内の全ての獣人達の名を魔力で込めて浮かび上がらせました。皆がこの選択に賛成した時、その者の名に色が灯ります。私はその名に命を懸けて、この契約を果たすと此処に誓います」

「待て、巫女よ」


 そこに、ヒューリが遂に声を上げた。むぅ、そう簡単にはいかないか。


「お前のその願いを聞き届ける事は決して吝かではない。何故なら、俺もそれには賛成だたらだ」


 更にざわつく。まさかそんな言い方されるとは思ってなかったので、私も驚いたよ。


「だが1つだけ問題がある。大いなる問題だ。果たして我等の共闘とは、その後にどのような結果を齎すのか。その最果てには何があるのか。それが聞きたい」


 結局の所、私は人間だ。あの戦線を獣人達に手伝って貰うという事は、結果的には人間全体に協力する事になる。それに、戦線は2つあるのだ。獣人達をどちらに集中させるかでも話は変わって来る。


 彼が知りたいのはそんな所だろう。明確なビジョンが欲しいのなら、尚更この投票は必要だ。


「王よ。私は貴方達の共闘は、何処まで行っても私と貴方達だけの物。つまり、貴方達は人間と共闘する必要は無い。戦線に行こうとも、彼等を無視して構いません」

「な……にぃ?」


 両手を広げ、今ある世界の地図を大空に浮かび上がらせる。今、この世界の領土は奴等によって3分の2を奪われている。こんな切羽詰まった状態で、いきなり足並みを揃えて戦うなど不可能だ。


「そも、嫌いな者同士の共闘は不可能です。世界滅亡を前にして共闘が出来るというのは夢物語。文化が違う時点で即軋轢を生みだし、仲間内での殺し合いに発展しかねません。それに彼等がしているのは侵略者からの”防衛”であって、戦争ではないのです」


 私は既に、宣告したのだ。奴等に向かって。






 サナリアは告げる。己が歩む道の有り方を。


「私が望む戦いとは、奴等への”侵略”以外の何ものでもありません。奴等の奪った世界の”領土”を、私が作った戦力で”奪う”のです。もし共闘の果てを示すのであれば、その”奪った領土”こそが、獣人達の物になるというだけの話。私は奴等に宣戦布告した身。これは私の戦争なのです。この必勝する戦争に、貴方達はただ乗っかり、暴虐の限りを尽くして奴等を殲滅すれば良い。その為の用意を、その為の知識を、その為の必勝法を、私は既に持っているのだから。必要なのは、それを成す為の数だけ」


「「「……」」」


 嘘を言っている眼でも、嘘を言っている顔でも、嘘言っている声色でもなかった。彼女の全てが、その心が言っている事を『真実』だと獣人達の本能が叫ぶ。


 だが信じられない。行っている言葉は、まんま暴君なのだ。


「私は貴方達と共闘する為に……アレを倒す」




 指の先には、この国に入ってからずっと見えていた”山より遥かに大きい魔物”に向けられていた。




「今日戦ったフォルナでもまるで太刀打ち出なかったアレを、私は倒して帰って来る。アレが消えた暁には、貴方達と私は一丸となり、この奪われた世界全てを、奴等から奪い返す”侵略戦争”を始めるのです。さぁ、選びなさい、全てのラダリア国民達よ」


 ”誇り”を選ぶか。”停滞”に徹するか。どちらにしろ、サナリアはアレを倒すつもりだが。



 静まり返る大広間で、サナリアは待った。1時間か、1分か。それとも数秒か……



「あ、あたしは、この子を信じるよっ!!!」

「……おばちゃん」



 最初に手を挙げたのはサナリアが串肉を買いまくった屋台の獣人だった。彼女は「なんたって、うちのお得意様だからねっ!!」と良い笑顔を返す。


「僕も共闘します」


 次に文字に色が入ったのは、ルルだった。


「私もよ」

「私もです」


 ケイフル、フォルナも手を挙げる。


「俺もだ」

「我も共闘しよう」

「無論私もだとも」

「「私達も」」


 サナリアと戦って来た者達も、賛同の意を示す。敗北し、健闘し合い、認め合った者達の声が響き、戦士達の声が上がり始めた。


 声は波紋となって広がり、手を、声を挙げる者達が続々と出て来る。やがてそれは怒涛の荒波となり、国中に広がる大歓声となった。



「「「我等の誇りは、戦いなりっ!!!」」」


「「「我等の死地は、此処にあらずっ!!!」」」


「「「我等は歌う、戦いの凱歌を永久にっ!!!」」」



 全ての名に色は入り、その全てがサナリアの胸に流れ込んで来る。その色は、人の想いその物だった。願い、祈り、希望。そういった想いの集まりだった。それが余さずサナリアとの『契約』となり、渇望は力となって還元されていく。



「……分かったよ、戦友。私達は今より、肩を並べた同士だっ!!!」


「「「うおぉおぉぉおぉおぉぉぉぉおーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!」」」




 その怒号の中で、ただ1人参ったと言わんばかりに頭を抱えている男が居た。


「まーったく……獣人の弱いところ突いてきやがってよぉ……はぁ、やれやれだぞ本当に」


 サナリアの言っている事は、ほとんどが『夢物語』である。現実問題、本当に”アレ”が倒せる保証など無いのだ。それでもフォルナを倒した事でその『可能性』だけは示してしまった。だからこそ、獣人達は信じる。己の本当の戦いの場は、あんな物ではないと。


 ヒューリは思う。自分もまた、今此処でその力を解放する時ではないのだろうかと。それならば、この案には……既に乗ってしまっている以上、契約は破棄出来ないが。


「くそ、信じるしかねぇのか……」

「お父様」

「……フォルナ」


 いつの間にか手を両手で覆われていた。横には、愛する娘の1人が笑っている。長年の疲れが取れた様な、スッキリとした笑みを。


「お前のそんな良い笑顔、久々に見た気がするよ俺は……」

「サナリアが、全ての呪縛を解き放ってしまいましたから……だからこそ、私は打算も何もかもを捨てて、彼女を信じる事にしました」

「……そうか。なら」


 俺も腹を括ろう。いつか来る戦争に備え、万全の準備を整えようと、決意は新たにされた。



 巫女は新たな戦力を加え、世界に新たな勢力図を築く事になる……


「あーそれでは、略式ではあるが獣闘祭の閉会宣言をだなー……」

「父様、既に皆飲みに行ってしまいましたよ?」

「ええ、姉さん達も行きましたね」

「私は御飯食べに行くよ、じゃ」

「なら私も行くわ、じゃ」

「あ、ぼ、僕もっ!!父様それではっ!!」


「……飲むか?フォル――――(手元に紙切れ『私も行って来ますお父様』)……ふぅー……」


 城から王都を見下ろしながら、1人チビチビ飲む事にした……

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