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第31話 サナリアVS慈悲の暴君フォルナ③ 終着無き闘争の果てを見た女

 人間ほど複雑怪奇な生物はこの世に存在しない。この広大な宇宙の中で自らの存在意義を自問自答し続け、見つからない真理を求めて外宇宙の果てまで行ってしまった。彼等は森羅万象を創造する力を身に着けてさえその真実には辿り着かず、延々とその意味を探し続けた。


 その間に幾つもの争いがあった。血は流れ、星は滅び、銀河は呑み込まれ。遂には宇宙すらも死んだ。それでも人の争いは決して尽きなかった。


 限りなき正と負の感情。人は人を利用し続け、人は決して明日への欲望を諦めない。醜く汚い生き物。そして、愛や絆という言葉を決して捨てない素晴らしき生き物。彼等は総じてそのどちらも持ち合わせている。


 狂気とも言えるそれは、見果てぬ夢と共に幾つもの偉業となった。これからも、それは続いていくものだと私は思っていた。



 誰かがまた、今日悲しみや絶望に打ちひしがれながら涙を流し、悲しみ、死んでいくのだろう。


 誰かがまた、幸福の中、潰えぬ明日に希望を抱きながら笑い、生きていくのだろう。


 誰かがまた、誰かを殺し、誰かを愛し、誰かを貶し、誰かを利用し、誰かを捨てて、前に進むのだろう。



 果てはあるのか。人の歩みに終わりはあったのか。


 私はそれを知っている。1つの終着点を見ている。だから……








「はっはぁッ!!やっぱりまだまだ隠し持ってやがるなぁおいっ!!そのパターンを全部読み切ってやるぜぇえええーーーーッッ!!!!」

「ハイテンションだなぁもうっ!!」


 2人の戦いは熾烈を極めた。フォルナの9本の尻尾は、全てが数十メートル程の巨大な武器に姿を変え、それぞれが全く違う精密な動きでサナリアに襲い掛かって来た。9方面からの一斉攻撃。クウソンの分身とは精度も威力も桁外れなそれは、器用にもサナリアの居る部分だけを削り取ろうとしてくる。


 だが巨大故に、その質量相手でも潰されそうな戦いの中、更には空いての動き全てをフォルナは観察し『学習』していた。1つとして同じ動きをしないサナリアのそれを自らの戦いのプログラムに組み込み、更に激烈な攻撃を加える。武器の形も刻一刻と、サナリアの強さに合わせて姿が変わり続ける。


 強さとは、個では限界が必ず訪れる。無限に強くなるなど有り得ない。何処で必ず頭打ちになる。


 フォルナはそれを身を持って思い知っていた。


(だが……やっぱ一筋縄じゃいかねぇなぁこの女……)


 フォルナも正直舐めていた。度重なるこれまでの戦闘でサナリアの全ての動きを『学習』し、まだ底が知れないと思ってはいたが、それでも本気となった自分に対して此処まで食い下がる戦い方が出来るとは思っていなかった。


 そもそもがフェアではない戦いなのだ。その上でもこれは屈辱だった。


「うっはぁっどんどん形が禍々しくなってるんですけどっ!?」

「そんな形になるまで耐えやがってっ!!テメェどれだけ力を隠し持ってやがんだこの野郎ッ!!!?」

「まだまだあるさっ!!見せたい物が沢山ねっ!!!」


 最早武器なのかも怪しいそれ等に対して、まだ足りないとサナリアは叫ぶ。既に今使えるスキルの類は使い終わった。今やっているのは、そこから組み合わせで使える物で対処していた。


 拳で粉砕、蹴りで、肩で、膝で、頭で、手刀で、踵で、身体のありとあらゆる武器となり得る場所を使って迎撃し続けた。


 その規模は広がり、9本の尻尾の間に数多の焔火が散弾となって降り注ぐ様になり、尻尾は異形な形となって最終的に人型になっていく。サナリアの強さが、どんどんフォルナの予想を超えて彼女自身の強さを引き上げていく。


 また先程言い当てた、自身の体内で流体させている魔力。その威力もまた各段に跳ね上がり続けていた。そも、サナリアがこの戦い方をしているのも今回が初めてであり、元々この技術は武器に付与して使われる物なのだから。



 だからか、自分がその武器になったという自覚で戦っていられるのが楽しかった。



(それに、負けられない理由があるし、応援もされてるし?)


「頑張れサナリアおねえちゃーーーんッ!!!」

「私に勝っといて負けんじゃないわよちょっとーーーッ!!!」



 他の全員がフォルナを応援する中、たった2人だけサナリアにも応援が付いていた。それを無碍にするつもりは毛頭無く、そろそろ次のステップに行くつもりだった。


「そろそろ……フォルナも身体動かそうかっ!!」

「やっと来やがったかっ!!おらぁッ!!!」


 ズッッガンッッ!!!!

 

 雨あられの攻撃の中から砲弾の様に飛び出したサナリアと、それを待ち受けていたフォルナの拳が衝突する。周囲に展開していた尻尾が全て彼女の下に戻った。ミキミキと鳴る拳の音が、その拮抗状態を知らせている。


 圧倒的に攻めていた筈でも、これはには笑うしか無い。まだまだ上があるのだとフォルナは笑った。


「久しぶりだぜ。これだけ『学習』して底が読めねぇ相手はよ……」

「最初はやっぱりアレ?」

「……」

「ねぇフォルナ。もう良いんだよ?」

「……るせぇ」



「戦うの、怖かったんしょ?」



 バゴンッ!!


 その言葉を言われた瞬間、また1つ、フォルナの頭の中で何かが切れた。何処までも、何処までも、この女は自分を見透かす様な言葉を吐くと、憤怒の感情が溢れ出す。尻尾の一撃でサナリアは空高々と殴り飛ばし、自分もそれに追随する。


「うるせぇんだよ……テメェに……何が分かるってんだよッ!!!!」


 ボコボコと蠢く尻尾が、歪な膨張をしながら、空中のサナリアを囲った。


「私は”アレ”を見た時点で既に分かっていたんだっ!!他の誰にも相手させる訳にはいかねぇってなっ!!家族にすら見せられる訳がねぇ、あんな化け物、見ただけで大概の奴は絶望しちまう……それでも、私だけは戦う事を止める訳にはいかねぇんだよッ!!!その為に、この身体がどうなろうが知ったこっちゃねぇッ!!!」


 囲っていた尻尾の一斉打撃が始まる。今までの『学習』を元に組まれたそれは、サナリアを包囲網から出さずに一方的に殴り続ける様に仕立てた物だった。


 流石に死角だらけの空中になり、対処に微妙に遅れるサナリアは、防戦一方となる。


「――――――ッッ」


「私がこうなったんだ……あんな奴に闘争を仕掛けるんだったら、狂喜に身を任せた方が良いんだよっ!!怖い?当たり前だっ!戦場はいつだって恐怖に支配されているっ!!それを忘れた奴から死んでいくんだよ。誇りを持てば強くなれるなんざ幻想だっ!!!私は……私はなぁッ!!」


「だったら……1度でも泣き言を言えば良かったんだよ」

「―――ッ!?」


 ゴシャアッッ!!!


 尻尾の1本が、無造作に砕け散る。


「フォルナはさ……優しいから、自分すら誤魔化して、怖いのに立ち向かっていた。怖かったから、それを誤魔化す為に力を手に入れた。けど、1人で出来る事には限界があるって、貴方は誰よりも知っていた筈でしょ?」

「そ……れはっ」


 ブシャァッッ!!!


 また1本、真っ二つに切り裂かれる。


「貴方はその宿命を自分の物だと強く思い込んで、自分以外には無理だと他者を斬り捨てて。だからこそ得た力でも、尚勝てないと知ってしまった。なら、何で他の誰かに相談しなかったの?どうして……私にそれを言ってくれなかったの?」


 そんなのは友達じゃない。苦しいとバレているのに何も言わないのは欺瞞だ。



 また2本、圧縮されて消された。


「テメェじゃ……あれに勝てるとは……」

「つまり」


 残りの5本、一度に穿たれ砕かれた。全ての尻尾が、またフォルナに戻る。2度目の驚愕をしながら、フォルナはまたそれを踏まえて『学習』することを……止めた。


「貴方に圧倒的な差で勝てば、貴方は私に頼れるんだね?」

「……本気か」

「本気だよ」


 自分もまた、試されている。友人として、良きライバルとして、自分は吊り合えるかどうか。元々必要無かった要素を、付け足して合わせて示してしまったそれを、フォルナもまた試されている。


 どちらも挑戦者。なら、フォルナもこの状態で本気を出さざるを得なかった。というより、既に引き摺り出されている。


 2人が地上に着地する、フォルナが腰を深くして構えた。


「良いじゃねぇか……試してやるよサナリア。お前が私の全身全霊の一撃を、圧倒的な差で返せたなら、私の全てをテメェに託してやる……」

「上等」



「ふぅー…………『九尾モード』……発動っ!!」


 構えた手元に、尻尾の全てが光となって集約する。それは1本の剣と鞘となり、黄金色となって流体していた。莫大な魔力の奔流は、そのまま切れ味に直結する。


「こいつが、私の力の全てだ」


 抜き放った刀身はまるでガラスの様に薄く、向こう側の景色すら見える程透明度が高い。だが、抜き放っただけで、サナリアの遥か後方にある”山”が斜めに斬れていた。そのスピードはサナリアの眼でも見えなかった。


「そして、今から使う技を防げば……テメェの勝ちだ」


 つまり、この一手で全てが決まる。



 サナリアは暫くそれを見て、空に顔を向けた言い放った。


「ヒューリ王、この試合、私は反則負けで良い。だから武器の使用許可を願うッ!!」


 返答は数秒後に、拡声魔道具によってされた。


『許可する』


 言うな否や、サナリアは、『領域変化』により異空間に手を突っ込み、自らの剣を取り出した。


 エメラルド色の非常に滑らかな刀身。一目見てそれがオリハルコン鉱石で出来た業物であると確信出来る。それを何度か振るい感触を確かめると、サナリアもまた、見た事のない構えを取った。


 剣を真っ直ぐに相手に向け、顔の右横に沿えた状態で、左足を前に出す。顔は既に、フォルナを見ていなかった。


 だが、彼女の背筋に冷たい物が通る。初めて、初めて武器を構えた彼女のその動作は、自分よりも遥かに洗練され、美しい程に完成されていた。だからこそ残念に思う。


(お前の業を見られなくて……残念だよ……)



 もう言葉は必要無かった。溢れ出るほど互いに魔力が空間を満たし、次元を歪ませ剣気を震わせる。




「……――――――――ッッッ!!!!!!!!!!」



”カチッ”



 瞬間、全ての”事象”が止まる。事象とは世界が認識した瞬間から始まる全ての動作の根源。それが”止まった”と認識出来るとすれば、それは世界から”隠れた”状態だと言える。


 フォルナはその中を走り出した。”事象停止”こそが彼女の『九尾モード』となった剣の能力。この状態であれば、相手がどれだけ強かろうと、どれだけ数が多かろうが関係無い。一方的に斬れるのだから。


 自らの身体を置き去りにして、音も空気も発生していない、空間の圧を無理やり抉じ開け、彼女は走る。


「ぐ……う……おっ……」


 それは時間の認識さえズレる程の、否、事象が止まった中で時間という定義は意味を成さない。全てが主観のエゴだけで生み出された空間で、世界に反逆しながら進むという事は、それだけで精神を極度にすり減らす暴挙となる。



「おっ……うおらぁああああああーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」



 だからこそ、かなぐり捨てた物に用は無しと斬り捨て、目の前の世界を相手に戦いを挑み続ける。その一歩目が踏まれれば、後は突き進める。


 次に瞬きをすれば、もう彼女の目の前だった。握り潰す程力のこもった腕を振り上げ、その黄金の剣を彼女に向けた。


(勝ったッ!!!)


 後は悠々と、ゆっくりとこの腕を振り下ろせば、それが勝つ。


 やはり、無理だった。彼女では不可能だった。そんな安堵にも似た気持ちが胸中を埋め尽くす。


 この技を使っても、フォルナは勝てなかった。なのにサナリアに託す訳にはいかない。これで良いのだと。諦めて緩やかに滅びを迎えようと…………











 ”カチ”


 シャッ――――――――――――――――



 音が聞こえた。直ぐ近くから”世界の止まった音”がした。


 ならばおかしい、何故、何故。



 ―――――――何故、彼女は普通に動き出した?



「そう、そこが限界なんだね」

「……は?」


 事象が停止している筈の世界の中で、サナリアはなんてことなく、肉体も一緒に動き出した。身体という概念を置いて来た彼女とは違い、肉体がしっかりと連動し、世界の事象から”隠れずに”動き出していた。


 意味が分からなかった。自分は今、何を見ている?フォルナは、眼だけをサナリアに向ける。言葉にしようとするば、口が動かない。既に、限界まで酷使し過ぎていた。そして振るっていた筈の剣も、根本から両断されている。



 サナリアはフォルナの頬を撫で、額を合わせた。


 精神的な摩耗が、全て晴れ、代わりにサナリアの”歴史”が流し込まれる。



「フォルナ、貴方は世界そのものを、と言っても星の一部を切り取って止めるっていうやり方だからそんなに辛いんだと思う。この星を守りたいという想いがそうさせたんだろうね。やっぱり優しいよ、フォルナは……けど、私は違う」



 星に執着など持たない。そんなのは、数千億年前に既に捨てているのだから。



 よって、サナリアは世界ではなく、自分だけを切り離して”事象が認識されている世界”の中をリアルタイムで動いていた。


 それはつまり、世界から簡単に切り離される程、サナリアはこの世界との因果が余りにも希薄なのだ。


「うそ……でしょ?」


 出た言葉は、ギリギリでそれだけだった。後は、流した涙が物語っている。


 自分の闘争など可愛く思える程の、地獄の数々。夥しいという言葉では済まない惨劇の血。星単位で失われる、生命の虚無。行き着いてしまった、人という種の果て。


「私なら、出来る」


 フォルナを負かした絶望の元を、断ち切れると断言する。


「この戦争は、この闘争は、この惨劇は……私が全部持って行くから」


 だから、貴方は皆と一緒に戦って欲しい。それが、友人からの最初で最後の願いだった……彼女はそれに、頷く。









”カチ”


 獣人達の時間が動き出した瞬間、サナリアの後ろにあった山の上から半分が全て消し飛んでいた。だが2人ともその場から動いていないので、何があったのかは誰にも分からない。


 ただ、互いに武器を仕舞って近付き、抱き締め合うと、フォルナが一言だけ……魔道具カメラに向かって呟いた。



「私の……負けです」

 

 彼女の歪んだ闘争は、此処に終わりを迎える事となる。

「……何が、起こったんだ?」

「え……?終わった?えっ?」

「どっちが勝ったの?」

「わ、わかんない……」

「……どうすんだこの空気」


 余りにも静かに終わってしまい、総員暫く唖然としていた。

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