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第27話 ストームレディ② 反転領域 共闘の標

「…………」

『流石に黙ったようね』


 龍の手に現れた1本のレイピア。それは人間状態だった彼女が手にしていた武器と同じ物だった。だが、大きさが圧倒的に違う。


『龍装』とは本来人間状態で扱うスキル。その身に龍たる証である龍鱗を変形させて鎧とし、牙を武器へと変換する物だった。だが、ケイフルのそれは更に1段上。ドラゴンの状態でそれを出せる。


 凝縮された武器はそのまま彼女のAKと同等の力を持ち、ステータスは単純に2倍。顕現しただけで空間も概念も歪ませる程の力を持っていた。


『サナリア!?』

(平気。ちょっと骨が数本逝ったけど、もう治るよ)

『……貴方は』


 両腕、両足が折れていたというのに、サナリアは悲鳴すら上げない。ビートヒートの時もそうだが、彼女は余りにも痛みに対して鈍感過ぎた。その慣れは、慣れてはいけない感覚だと知っていながら。


 つくづく人間を逸脱し過ぎている。そう感じざる負えないと思ってしまう。


「はぁ……まさかそんな奥の手を出すなんてねぇ」

『貴方が出させたのよ?本当なら最後まで出す気なんて無かったわ……これは、余りに自然を破壊し過ぎるから』

「まぁ、この状況を見れば気持ちは良く分かるよッぐぁっ!!?」

『だったら、とっとと死になさい』


 爆風にも似た巨大な風の刃がほぼノーモーションで振るわれ、ギリギリで防御が間に合いながらも脇腹に嫌な音が鳴りフォルナの尻尾に突っ込む。


 風の刃はそのまま壁を切り裂き、巨大な亀裂を作った。



 現在、フォルナが尻尾を使って隔てた壁。その壁にそって地面も丸々消失している。無くなった土は微粒子まで切り刻まれ、塵以下となってこの世から文字通り無くなったのだ。概念すら歪ませる危険過ぎる力。


 それが余波だけでなされたのなら、振るわれればどうなるか。久し振りに胸に昂りを感じるサナリアでも少々戦慄する。防御がまるで役に立たない。


「―――ッ!!」

『何度でも言うわ。遅い』

「やっば―――――――――ッッ!!!!!」


『転移』を付与してケイフルの真後ろに跳んだが、出た刹那に感知されレイピアの突きを喰らった。ギリギリで拳で逸らしたが、甲が砕けた。


 それが十数発。全てを直撃でなかっただけでも奇跡だが、それでも身体はズタズタになる。


(武器があれば楽勝なんだけどなぁ。素手は……まだ勝てなくはない……けど)


 倒すだけならば訳はない。『領域変化』を更に拡大して使えばその道筋は見つけられるだろう。だがどれを選んでも、おそらくフォルナのこの尻尾をぶち破って戦闘の余波によりラダリアはこの世から無くなるだろうと容易に判断出来た。


『もう止めませんか?』

(……?)


 ディアナの声が、ふと頭の中に響く。


『サナリア、私と代わりましょう。今の状態ではどう足掻いても全てが無傷では済みません。出るならば、此処です』


 ディアナの声は、とても心配しているものだった。何時も諦観者であり、観測する事でしか外を見られない彼女の声。あらゆる未確定の未来、だがどれを考慮しても今現在のサナリアでは防げない以上、懸念事項を無視してでも『それ』を使う必要がある。


 サナリアが心配している事は1つだけ。


『戻って来られますよ。私が絶対に、そうします。それに、彼女を説教しておきましょう。貴方流に』

(……うん)



 それを、彼女に託す事にした。


「この戦い、後は任せたよ、ディアナ……」

『任されましょう。私の可愛いサナリア』



「『反転』」





 ゾワッとした、氷をそのまま背中に流し込まれたかの様な嫌な予感がケイフルの背筋をなぞった。


『何を……何かするつもりねっ!!』


 その前に倒すとレイピアを一振り。空気を引き裂き、概念をぶち破る風の刃が迫るが、2人がその言葉を呟いた時点で、全ては既に始まっていた。



「……まずは、私の愛し子を傷付けた罰です」


 カッッ!!!!しぃぃいぃぃ…………ッッ


 眼の前まで迫っていた風の刃は、意識の『反転』したディアナによって掻き消された。そして、ケイフルの手元にあったレイピアを、


 バキャァッッ!!!



「そんな危ない物はこうです」



 彼女に気付かれる前に近付いて握り潰す様に手を動かしただけで、レイピアはひしゃげて粉々になった。訳も分からず武器を眼の前で破壊され、ケイフルは驚愕の眼差しでそれを見つめる。


『!?!?』

「ふむ、こうなるのですね……」


 その身体は変わらないのに、雰囲気がガラリと変わった彼女に、



 2人がやった事は1つ。互いの意識を反転させ、身体をディアナに明け渡したのだ。だがサナリア自身の意識は現在消失し、全ての機能がディアナの為にある。


『反転』。それは単に意識だけを入れ替える物ではない。その元となった『領域変化』の能力も真逆になる。


「自己紹介をしましょう。私の名はディアナ、この身体に住まうもう1つの意識にして、貴方を倒す者です」

『……今、何をしたの?』

「自らの武器を壊されたカラクリを聞きたいと?戦場でそれはまかり通る訳もありません……ですが教えましょう。冥途の土産に……・」


 ディアナはこの状態に初めてなったが、正直サナリアの身体を舐めていた。外見上は普通の少女なのだから当然ではあるが、ステータスの補正というものはやはり凄まじいものがあると分かる。


「私には特定の空間の『概念』を『否定』出来るスキルがあります。名は『反転領域』と言いますが……まぁ、有体に言えば望んだ全てを否定するのです。貴方と私の距離を否定し、貴方の武器を否定し、貴方の力を否定した。それだけの事です」


 そんな馬鹿な話があるかと、ケイフルは首を振る。


『そんなの……神の所業だわ』

「勿論、これにも代償があります。それは重く、そして人間には余りにもキツイものです。なので速く終わらせましょう」

『――――ッんなろっ!!』


 壊されたならば創り直せば良いと言わんばかりに振り向きながらレイピアを創造し、有らん限りの力で一閃…………しようとした腕を、止められた。ドラゴンの腕が、人間の、少女の柔腕に指で添えられ、ビタリと動かない。


 ディアナは彼女の『ステータス』を否定した。


「数秒で元に戻りますが、その数秒があれば十分です」


 ケイフルの上空を取ったディアナはそのまま『質量保存の法則』を『否定』し、その場で『時間』を『否定』し、ケイフルの龍鱗をぶち破る為のエネルギーを足に溜め、




「平伏しなさい、トカゲッ!!」


 ごしゃぁあぁあああああああああーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!


『――――――――――ッッ!!!!!!!』


 ケイフルの頭上に踵落とし。頭は弾け飛び、その身体は穴の奥に激突し、大量の砂塵を巻き上げながら地表に数多の亀裂を生やした。



 それを見て、ディアナは戦闘の終着を迎えた判断し臨戦態勢を解く。


(……)


 最小限の力と最低限の被害で全てを終わらせたが、また『反転』する為には、ディアナ自身がサナリアを呼び覚まさなければならない。


 懸念とは、これをディアナがするかどうかという物だった。この『反転』はしている時間が長ければ長いほど呼び覚ますのに時間が掛かる。その匙加減は全てディアナに掛かっているのだ。


 期間で言えば10分につき1時間と長く、1日過ごすだけで144時間と非常に重い。なのでさっさと終わらせる為にディアナは最適解だけで行動する。


「……ふぅ、戻ったぁ。ありがとうディアナ、早かったね?」

『ええ、私ですから』


 掛かった時間は30秒にも満たない。速攻で戻って来れたサナリアは身体の調子を確認すると、落ちて行ったケイフルの『本体』まで行き、話し掛ける。怒らせた事への謝罪と、真相を聞かせる為に。


 そのドラゴンの額に付いている『人間が丸々1人入りそうな程大きな宝石』こそが、彼女の核だった。淡い光を中心から発し、今となっては揺るやかなものである。



「あの手紙の内容、知りたい?」


 宝石は僅かに強く光る。肯定と受け取り、サナリアは手紙の内容を一言一句違わずにそれを伝え始める。






『初めまして、レーベルラッドの予言の巫女よ。


 私の名はフォリア・フォックス・ミーニャント・ラダリア。ラダリア王の王妃です。この手紙を読んでいる頃には、私は既に人間達と肩を並べ、東の最前線にて戦っている頃でしょう。


 諸々の疑問に関して言う暇も時間もありませんので、申し訳ありませんが早速本題に移りたいと思います。



 私がこの手紙を送る切っ掛けとなったのは、貴方に渡させたケイフルという古龍ではなく、彼女の出会う前、戦線から一度帰って来た時に遭遇した他の”4匹の龍”です。


 彼等は既に”奴等”によってほとんど汚染された状態で空を飛んでいたのですが、その内の一番大きな古龍の1匹が『龍神』アルカンシェルと自身を呼称し降りて来たのです。彼もまた身体の半分以上を”汚染”されており、戦線にて他の冒険者達に迷惑を掛けない為に此処まで来たと話していました。


 そして唯一先に戦場にて戦っていた古龍だけが未だ汚染を受けず、だが重症だと聞かされた。会う事も出来なかったし助けたいが、間もなく理性を失くし暴龍に成り果てるから、違う次元を開きそこに閉じ籠ると。



 私は彼の要請を受け、その古龍を探しました。幸いな事に地面に落ちていたので苦労はしませんでしたが、当時疲労していた彼女を見て、これは下手に回復すると暴れかねないという事で、助ける序でにラダリアに連れ帰り、彼女に助けた礼として国の守護をどんな形でも良いから引き受けて欲しいと願ったのです。


 そして私はこの手紙を彼女に託しました。いつか必ず、私の『親友』が産み落とした娘が来る事を信じて。



 神が居るならば、彼女の予言に狂いは無いから。


 そして、ケイフルにアルカンシェルからの言葉を残します。この手紙を読んだら、どうか貴方の口から伝えて下さい。おそらく獣闘祭にて顔を突き合わせるでしょうから。




『我が子ケイフルへ、君を心より、子として愛している』と……』





「……ぅ……うぅ」


 ケイフルは泣いていた。宝石から人の姿へと変わり、自らの身体の上で泣き崩れた。


 欲しかった言葉が、これほどまで絶望的に聞こえてしまう。今更になって親含め、兄妹全員がどうしようもない状況に追い込まれていたなどと。自分の考えていた事が余りにも馬鹿らしく、自分勝手な物だと思い知ってしまった。


 そして人間に私を託す程切羽詰まっているのに、こんな生温い戦場で身を腐らせていたという誇りを穢す行為に、彼女は泣くしかなかった。


「愚かね、私」

「そうだね。親不孝さんだ」


 サナリアが怒っていたのはその部分だけだった。知らなかったとはいえ、自らの環境を気に喰わないと言いながらも甘え、依存していた娘という立場。



 それは、サナリアが最も欲しかった物の1つ。人間でいう『怠惰』なのだから。



 戦いのみが人生だった彼女には、どう足掻いても手に入らない物だった。そうせざるを得ない彼女にとっては羨むには十分な『罪』なのだ。



「ケイフル、貴方はドラゴンだ。人間じゃない。だから人間の価値観は通じないのかもしれない……けど」


「一緒よ」


 例えどれだけ価値観が違っていても、感情という物がある以上、それは生まれる。


「愛しているわ。私は親も兄妹達も、皆愛している。逃げたのは私だけ。この穢れた誇りは、私だけの物。だから……」


 自分の知らぬ所で、皆が命を賭けて戦っていた。それが分かっただけで、彼女のやるべき事は完全に更新される。やるべきは1つだった。


 問題は、そのやるべきは何か、だった。だが道標は分かっていた。親の託した人間が更に託した相手が、自分よりも遥かに強いであろう人類最強が、目の前に居るのだから。



「貴方の力になるわ。予言の巫女サナリア」

「それは嬉しい申し出だね、龍神の子ケイフル。これから……宜しく」



 繋ぐべき最初の共闘は、ここに結ばれた。

「にしても貴方……本気出したの?」

「え……?……だ、ダシタヨー」

「……嘘でしょ?」

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