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第21話 サナリアVS暴虐のビートヒート

 何故だか分からないけれど、魔道具を通して聞こえて来たルル君の声で「お姉ちゃん」と言われた瞬間から、身体が嫌に軽くなった気がする。なんというか、心が凄く踊っている気がする。熱くなって、キュンキュンして、凄く顔がにやける。


 私どうしちゃったんだろう……今、凄くルル君に会いたいな。


『なら、とっとと倒してしまいましょうか』

(そうしよう)



ビートヒート・ティルノス(485) Lv.1512


種族:ティラノ獣人(覚醒++)


HP 3547億0040万/3547億0040万

MP 11億1062万/11億0062万

AK  1兆0001億

DF  8996億5420万(+996億)

MAK 1512

MDF 745億3620万

INT 250

SPD 3200億9733万


【固有スキル】:竜鱗 正道


スキル:爪術(EX)牙術(EX)

    

称号:暴竜



『正道』

 対象が1人である際、正々堂々と戦う限りDFに補正が一定時間毎に加算されていく。その逆をした場合、マイナス補正となる。



 ビートヒートは白だ、それは間違いない。だからこそ私は申し訳無かったんだ。彼の戦意が、戦士としての誇りが、個人の勝手な欲望によって穢される原因が自分にあるのを。私も何度も経験したからこそ、どんなに理不尽な状況に追い込まれてもそれを感じずにはいられなかった。


 けど私にも負けられない理由がる以上、もう手加減はしない。彼は私の本気が見たくてこんなパフォーマンスをしているのだから。



「ふぅ……」

「しゃぁああああッッ!!!」


 ズッ……ガァアアーーーーーーーーーンッッ!!!!


「貴様、また!?」

「次はこっちの番だよ」


 彼の攻撃は単調に過ぎる。スキルがあっても、それは副産物だと言わんばかりな攻撃だった。それが彼なりの、相手を殺さない為の手加減なのだと分かったから。私はそれをしなくても良いんだよって、安心させてあげなければならない。何故ならば、


 バギィッボッッッゴォッッ!!!


「ぐっぼぉえ―――――――――――ッッ!?!?!?」


 貴方の眼の前に居る人間は、貴方が本気を出しても壊れない生物なのだから。



 彼は私に打たれた箇所に拳の跡を刻みながら、観客席の間にある道を突っ切ってコロシアムの外へ、数キロ先の枯れた山肌に激突して漸く止まった。魔道具のカメラがそれを追い掛けて行った。私もコロシアムの外へ行く。もう舞台なんて小さな場所では戦えないだろうから、しょうがない。


「さぁ、ビートヒート。貴方の戦い易い場所に来させてあげたよ?これで、何も心配せずに、思う存分暴れられるね」


 身体を『劣化妖精魔法』で治しながら、私は悠々と歩く。遠く離れた彼の息遣いが手に取る様に感じながら、笑みを深めて戦いの凱歌を告げる。今からが最高だと、今からが本気だと。出さねば殺す、それだけの戦いだと。


 返事は容易に届く。ティラノ族最強の男は、もうそこまで来ていたのだから。


「あーーーーーーーーはははははははっははははははッッッ!!!!しねぇええええええええええええええーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!」

「死ぬかっての!!どっせいッ!!」


 狂喜乱舞。そう言うに相応しい狂った笑みで突撃してきたビートヒートは、砂塵を巻き上げながら爪と牙、両方を向けて突っ込んで来た。だがその動きには一切の隙は無かった。圧倒的な威圧感と、クウソンの様に洗練された動きは、相手を正しく殲滅する為に繰り出された。


 それに真っ向から、最適の動きで蹴り上げる。お互いがソニックブームを放ちながらぶつかり、その衝撃でまた空気が振動し、空間が歪むが、双方一歩たりとも引きはしなかった。


「くっは、ははは、さいっっっっこうの気分だッッ!!!!」

「そいつは良かったよ。気兼ねなく、殺り合えそう?」

「おうともよッッ!!!くおぁあああッッッ!!!!」

「ッ!?」


 空間が歪曲する程の力で引き裂いた爪に、空気が引っ張られる様にして持って行かれる。そこには当然私の身体もあって、避けたその爪に空間ごと引っ張られた。地面から足が離れたと同時に、何百万もの魔物を屠ってきた牙が、私に向かう。


「ガァアアアッッ!!」

「おおっとッ!!」


 当然噛まれれば私であろうと死ぬので、その牙を殴って押し返しながら、上顎に足を引っ掛け、脳天に踵落としを逆に喰らわせる。


「つぇあッ!!」

「――――ッ!!!がっはぁッ!良い気持ちだぞぉッ!!」

「ならたんまり喰らわせてあげるよぉッ!!」


 頭が地面に突っ込みそのままクレーターが出来上がるが、彼は笑顔のまま顔を上げて、直ぐにでも戦闘再開する。ああ、良いよ。その身が立てなくなるまで、遊ぼうか……






 コロシアムの外に出た2人の戦いは、それこそ数百m範囲内に入れば即ミンチになるであろう程の暴力的技の応酬が開始されていた。その戦いを魔道具を通して見ていた者達は、これまでの超常の戦いにも何度も驚いていたが、此処まで『徹底的』ではなかった。


 なまじ通常の獣人よりも硬さが段違いのティラノ族を倒す方法は、獣人も人間も良く知っている。


 それは魔力攻撃。彼の持つ竜鱗を、氏族代表の持つ固有スキルの幾つかならば突破する事が出来る。また、唯一参加しているドラゴンは例外にしても、それ以外でビートヒートの鉄壁を崩せる者この世で数える程しか居ない。


 その1人に、サナリアは人間として対峙し、人間として戦い、人間として勝とうとしていた。



 戦いは既に日の入り近く、夕陽が山の向こうに沈み込もうとしていた。それを横目に、サナリアは目の前の巨体に目を向ける。その両の拳と足はボロボロだったが、未だ健在。息も切らす事無く、落ち着いた様子だった。


「がはっ……はぁ……がはっは……」


 そして、ビート―ヒートはそんなサナリアを見下ろしながら、膝を付いて荒々しい息で笑っていた。だが身体は血塗れであり、爪も何本か折れた。牙も片方半分程が手刀で切断されている。鱗のいたる部分が罅割れ、粉々になっており、どれだけの打撃を受け続けたか分かる。まるで数多の砲弾に晒された様な、そんな有様。


 それでもビートヒートは、血走った目で戦意だけは失わない。身体が動かなくなろうが、決して敵に対して殺意を失わない。腕が、足が、身体中の骨が折れていようとも。


「我は……我、は……死ぬ、まで……負けぬッッ!!」

「……そうだね。貴方は、まだ負けていない」

「我が獣人達の栄光は我等の手で繁栄を続けるのだ!!相手がどれだけ強大であろうと、我等の歩みは決して止まらぬッ!!故にッ故にぃッッ!!!」


 サナリアは、動けなくなったビートヒートの目の前で拳を構えた。彼はギラギラとした戦士の眼で見つめる。威圧感は増すばかりで、敬意など知らぬ、敵は殺すと断じ続ける。そこに一切合切の私情を挟まずに。


 だが、急に彼は落ち着きを取り戻す。スッと眼から力を失くし、強い語気でありながらも、どこかさっぱりした喋り方になった。


「全力で、戦い……全てを叩き潰された。容赦無く、慈悲無く、結果我は全てを失った……だが、負けぬぞッ!!絶対にだッ!!!」

「うん、それで良いよ。私は貴方の意志は最後まで砕けなかった」

「く、くく……――――――」



 彼は、水晶でも拾えない程小さな声で、サナリアに何事か言う。それを見て申し訳なさそうな顔で笑ったサナリアは、


 ズッガンッッ!!


「ぶっはぁっ!!………うっ……ぉ……」


 ズゥン……


 ビートヒートの顎を砕き、今度こそ地面に倒し切った。それでも彼は気を失わないが、もう立つ体力が残っていなかった。



 そして日暮れが訪れる間際、遠くのコロシアムの方で、地鳴りがする程の大歓声が聞こえるのを、お互い笑って聞いていた……







「ふぃ~~お風呂気持ち良いわぁ~~♪やっぱり最高だねぇ広いお風呂♪」

『全く、爺臭いこと言わないで下さい。それよりサナリア、痛いところはありませんか?』

「大丈夫だよ。ディアナが全部綺麗に治してくれたしさ」


 王族用のお風呂に入って1日の疲れと心労を癒しながら、ディアナも一緒に入れればなぁと1人考えを巡らせる傍ら、私は今日のことを思い出していた。ビートヒートは本当の意味で、ルル君の事は何も知らなかった。聞いた瞬間、捕まえた連中を八つ裂きにすると静かな声で宣言した時とか、戦力の重要性を唱えて重罰で許させたけれど、それ以前に王族達の謝罪の言葉が凄かった。


 彼等の伝統である獣闘祭を穢さずに済んだというのもあるけど、ルル君に対してここまで骨を折った私に家族として感謝する、と。


 けどなぁ……私結局また情に付け込まれて死にかけただけだし。何度生まれ変わっても、こういう甘いところだけは直らない。というか。私が無闇に仲良くなるからいけないんだけどね?


『人は人間関係を尊く思う者が多いらしいですが、それが弱みとして機能する人間も多い。特に他人への情の深い人間ほど、それを利用され利益を得ようとする者が現れ易い。そんな簡単なことを分かっているならば、せめて表面上だけでもそれを抑えようとは思わないのですか?』

「思わないよ。だって、それって自分を抑えるって事でしょ?残念だけど、この私にそういう系の我慢はご法度だよ。その昔、ある事故で余りに1人の時間が長くて精神的に孤独死しそうな時があったからね。あれ以来どれだけ人との触れ合いを尊く思った事やら……」

『実体験込みですか……』



 どのくらいだったかな。まだ半分いってないぐらいの時だと思うけど。人が地球を飛び出して数万年ぐらい経った頃、宇宙船でエンジニアをしていた私は次世代開発の最先端に居た。吃驚したものだけど、この世界にもあった『レヴナント鉱石』を、こちらでも発見したのだ。それを使った新技術の実験をしていたんだけれど、あの事件を切っ掛けにまた戦争が起こり、その礎として私はブラックホールに呑み込まれた。一番近かったから、多分誰よりも速く、そして彼方へ。あの暗黒の世界で自らの意識を引き延ばされて死ぬ事すら許されなかった中、人との会話に飢え切ってヤバかった。




 それよりも問題がある。ある意味私の存在意義に関わるレベルでの問題が。


『何が存在意義なものですか。子供に迫られただけでしょうに』

「ふぐぅっ」

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