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第9話 人類からの宣戦布告

「サナリア様……準備が出来ました」

「うん、分かった。今行くよ……」


 巫女の正装を纏い、私はシスターの声に返事をして立ち上がる。今日は私の14歳の誕生日。そして、予言の日でもある。


 あれから5年の月日が流れた。まぁその間にも色々あって大変だったけど、とにかく流れた。


 あのダンジョンを破壊した後、アンナが私を迎えに来て、無事に残った全員でレーベルラッドに帰還。皆が涙を流しながら家族と再会していた。けど40の呪いで会わない間に亡くなっていた人も居て、別れに泣き叫ぶ人も見た。更に5年も経てば、私の知り合い達も何人も逝ってしまった。


 ギルド長のジータ。乳母のシンシア。枢機卿にシスター達。皆死んだ。幸せそうな顔して。悔しそうな顔をして。悔い無しと言って笑って逝ってしまった。


 爺様は嘆いていた。自分こそが死ぬべき人間だと。こんな老いぼれは早く死ぬべきだと。だが私はそれこそ怒ったよ。


「爺様は死ぬまで働くんだよ。爺様より物を知っている人は居ないし、この世界の世代を最後まで引っ張ってって貰うんだから。私よりは楽でしょ?」


 私はこれから15年待たせた戦士達の戦線を救う為に無茶や無理を沢山しなければならないんだから。これぐらいは楽なものだよね。



 これまで何度も歩き、走った大聖堂を通り過ぎて城の演説台へと向かう私に、ディアナも少しだけ感慨深い感情を見せていた。


『色々とありましたね、サナリア』

「だね」

『私も貴方を通して色々人間を見て、感じて、対話をしましたが。やはり人間は愚かしく思えます。それでも中々度し難い気持ちが消えませんでした』

「貴方も案外、人間が向いてきたんじゃない?」

『それは心外ですよ。ただ……人は理解するには難しいですね。貴方の記憶と同じです。何処の世界であろうとも』


 私はそこまでセンチにはなれないけどね……けどまぁ、そういうのは全部フィーリングでも良いのさ。なんとなく分かれば良い。本当に理解しようだなんて意味の無い事は止めて、自分の思う通りに生きるのが一番面倒が無くて良いし。


 そういう訳で、そこら辺は全部ディアナに任せて、私は私のやりたい様に生きるだけだ。爺様にも、他の皆にも、全人類にすらその権利は奪わせない。





 今日は、国中の人間が城前広場に集まり、演説台に向かって祈りを捧げていた。予言の日、謳われた巫女の言葉の通りに訪れた記念すべき日を、皆が称えているのだ。悲しき結末を変える為に、誰もが未来を、明日を迎えられる世にする為に。人間はいつだって祈りの中で生きている。


 私もまた、その1人だ。


「皆さん、今日は集まってくれてありがとう。私は今日、遂に14歳を迎えるに至りました」


 誰もが私を知っている。私も皆を知っている。国民一人一人の顔や名前。どんな人間だったのかもを覚えている。それほどに、私は国中の人間達に接し、その想いを受け取っていた。だから堂々と胸を張って、此処に立てる。


「花屋のジェシーさん。武器屋のゴルドーさんに、冒険者ギルドのジーダ。受付嬢のアマンダさん。冬でも育つ野菜を作っていたミレアさんに、その子供だったリアちゃん。他にも皆、皆、私は覚えています。皆が私の友であり、大切な国民達です」


 だからこそ問わねばならなかった。


「予言の日、私の母であり先代巫女シエロは確かに告げました。私が人類の希望となると……しかし私は今一度問いたいのです。この希望とは、人類にとっての希望とは何か、と」


 爺様には既に言って来た。後はもう知らない。


「私はたった1人でこの希望を託されました。全人類の希望を。だから、それはどの様にすればなれるものなのか、私は生まれて14年間考えました。皆さんにも、今も戦い傷付き、死に行く者達に対しても。どういう希望であれるかを……そして思いました」


 もう私が生まれる前から戦争は始まっている。つまり、戦場の凱歌は歌われてしまった。ならばどうするのか。



『私には彼等の戦場へ参戦する権利などありません。それは失礼に値する……ならばどうするか。こうするのです」


 手を掲げ、私は高らかに宣言しよう。私が全人類の希望という予言ならば、私はその総意となって戦おう。私が1人で、軍を成そう。さぁ、




「私は此処に宣言する。我が人類の領地を侵した天王カルデス、そして魔王ミゼルに対してッ!!!私という人類がッ!!!!」






『『なるほど』』


「「「―――――――――――――――――ッッッ!?!?!?!」」」


 私の宣戦布告と同時に、それは現れ、その場に居た私以外の全員が謎の力で平伏した。私?気合で耐えたけど。そうしたら現れたそれ等に関心の声が上がったよ。


『確かに我々はまだお前達からの宣戦布告を聞いていない。これが戦争と仮定するなら、お前という個人だけが我々に対して敵対行動を取る事になる』


 私の眼前に立つ2つの白と黒の影。だが余りにも強い何かの重圧が私の身体を軋ませる。だが耐えて、それを見返してやった。そして黒が言う。


『我々はお遊びをしていると思っていたが、どうやら相手の中に駒を動かせる者が居たか。これは良い。とても良い余興だ』

「……あっそう。喜べるんだ?」


 私は発動した。予感を感じて発動した。『領域変化』を使い、彼等が発生させている『領域』に片手を突っ込む。


『『ッッ!!』』

「なる、ほどね……やっぱりそういう感じか……」



 この世界に生まれた時から感じていた物。余りに巨大で、しかし誰も存在に気付いていない。知らなければ分からず、理外から外れれば感じることも出来ない。だからこの世界のステータスだけで物事を見てはならないのだ。


 だから私は、それを理解する為に触れてやったのだ。ディアナの驚き様が面白くて笑ってしまう。そんな顔も出来たんだね。



 2つの影は私から距離を置く。表情は見えないが、雰囲気で警戒対象に認定された様で嬉しいよ。


「そうだ、私はお前達に宣戦布告した。待っていろ。私は私の軍となって貴様等の領地へ土足で入り、必ずやその首を貰いに行く。お前達の笑う時間は御仕舞いだ」

『我等に戦いを挑むだけの器量があったか』

『だが敵としてはまだまだ貧弱極まりない』



『ならばその不敬を断罪しよう』

『そして奈落の底で劫火に晒そう』


 重圧がより高くなる。私に膝を付かせて各の違いでも見せたいのだろう。権力者にありがちなことだ。だから私は最高にイラつかせてあげよう。


 そして大いに勘違いしてやがるこの愚か者達に、自分達が如何に私をイラつかせているのか全力で分からせてあげよう。


「ああそうだ。私はまだお前達にとって木っ端だろう。路傍の石よりも儚き存在だ。だがそれがどうした?私はお前達の倒し方を知っている。お前達の弱点を知っている。お前達に対しての勝機を見出している。どれだけ偉く構えようと、必ず勝つという結果が見えているならば容易い」


 その言葉に微塵の嘘もありはしない。今の一瞬で奴等の正体は判明したのは本当なのだから。


「宣言してやろう。今から1年以内にお前達は私に屈する事になる。尻尾丸めて泣いて謝って懇願する。もう止めてくれと頭を地ベタに擦り付けて人類に情けない顔を晒す事になる。首を洗って待たせると思うか?藁の様に散って死ぬが良い。私は高笑いしながらそれを眺めてやろうっ!!はーーーはっはっはっはっはッッッ!!!!」


『『―――――』』


「1と40の呪い?私には聞いてませんが?お前等は人類を追い詰め過ぎて神様が私を呼んじゃったことをまだ分かってないようだな?絶対に呼んではいけない人選を選び取ってしまったことをまだ分かっていないようだなこの糞影共がッ!!追い詰められた人類がどんなとんでもないこと仕出かすか教えてやるぞ搾りカスっ!!!分かったらとっとと本体に帰るがいいッッ!!!王様気取りのエイリアンもどきがッッ!!!!!!!!」


 止まらない。消え始めた奴等の重圧と共に国民達が顔を上げ始める。ならばこれも言っておかねばならない。


「それとだ。貴様等私が生まれた頃から監視しやがって、ロリコンの気でもあるのか?水浴びまで見やがって。鬱陶しいんだよ覗き魔がッ!!!全世界に触れ廻って晒してやるぞッ!!ふわーーはっはっはっはッッ!!!!!」


 物凄い勢いで公の場で言ってはいけない巫女の言葉を全力で言い切った気がするけど。国民の9割ぐらいが笑いを堪え始めていた。いいぞ皆。よくぞ私色に染まったそれでこそだ。


 奴等は黙らせられない私に何も言えなくなったのだろう。影は消えて行った。


 あいつ等は私という存在にずっと気付いていた。あのまだ見ぬ穴の向こうから私を見ていたのを。それがウザくて面倒で文句の1つでも言いたかったのだ。だからディアナ、真顔で爆笑するんじゃない。


『ぶっふっふ……いや、いや、サナリア。最高でした。グッジョブです。あの覗き魔共、戦場を見続けるのが飽きたのか、この世界を色々と見ていたようですが……まさかサナリアを見つけた瞬間四六時中覗いていましたからね』

「いやぁ超スッキリしたよね。気付いていない振りするのも楽じゃなかったよ」


 羞恥心なんて無いから耐えられたけど、乙女の柔肌を延々と覗いている奴等だ。とてもじゃないが正気では無いだろう。しかも視点が移っていくのもモロばれなので、最早エロガキにしか思えなかった。


 あんなのがこの世界を蹂躙しようって?ちゃんちゃら可笑しい。あれでは力を持つだけの子供だ。負ける気など毛頭しない。


「というか昔の言葉遣いが結構出ちゃったよ恥ずかしい。あ、みんな~~これから私旅立つけど、元気でね~~~♪」



 口々に「自由過ぎる」「相変わらずね」「お元気で」と言葉を貰いながら私は演説台を降りて行き、爺様の前に立つ。これが、下手をすれば別れになるかもしれない最後の相対。


「爺様」

「サナリア……よくやったっ!!我が自慢の孫よ!!!」

「でしょ?」


 爺様は満面の笑みで私の頭を撫でてくれた。爺様も大笑いしてたもんね。長年の怒りとかそこら辺も含めて痛快だったろうし。私も嬉しい。


 私達はもう塞ぎ込まない。私達はもう絶望しない。諦めない。そういう宣言を私はしたんだ。だから笑ってこの国を旅立てる。悲愴なんて知ったことではない。そんなの人間には似合わないのだ。


「お土産は何が良い?」

「吉報が来れば良い。お前の無事が、私の無情の幸せだ……」

「分かった。とびっきりな感じで知らせてあげるからね。それじゃ、行って来ますッ!!!」



 魔力を足に留め、小規模の爆発で跳び上がり、私は上空から国を見下ろす。


 美しい国だ。これまで転生してきた全ての国で一番美しい。人の想いも、在り方も。残酷なまでの現実も。全て含めて一番だ。


「この世界に生まれて良かったよ。今度こそ、私は後悔無く逝けそうだ」

『呪いを解くのは相当難しいと思いますが?』

「それはいつものことだよ。この国は……覚えていたいと思えるけどね」






 希望の光は今日此処から放たれた。そしてこの日、戦線を守る全ての者達の耳にこの言葉が届く。



『予言の巫女は宣戦布告した。この世界を侵略する全ての者達へ』と……

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