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第7話 その光は流れ星のようで

 この世界でダンジョンとは本来2種類に別れる。1つは媒介にした場所の素材を使っての迷宮型。階層が少ない代わりに、魔物が密集して現れる事が多いとされている形態。魔物との遭遇率も高く、ベテランの冒険者が好んで行く狩場の1つとなっている。迷宮型はその性質上コアが必ず最深部に存在し、その前には迷宮の用意出来る最強の魔物を配置している。またそこに行くまでに幾つものトラップが存在しているのが特徴だ。


 逆にもう1つはフロア型。迷宮でない代わりに広大な1つの大地が広がっている。地形はそのダンジョンが出来た地域に比例しており、限り無く似せてある。魔物はそこに生態系を作っており、縄張りに外敵が入ってくれば即座に大挙して来る。罠が無い代わりに、魔物単体が強い場合が多いが、複数で挑めばそれだけ楽に倒せる相手が多い。


 2つに共通している事は、どちらもその地域にしか出現しない魔物が現れるということ。


 そして、ダンジョンコアは必ず1つしか存在しない。




「ディアナッ!!最大出力のまま宜しく!!!」

『任されました。思う存分暴れなさいな!!』


 サナリア達が突っ込んだダンジョンは、その両方の性質を持ったダンジョンと化していた。そして何より、魔物の質と量が違う。


 現在ダンジョンは迷宮化とフロア化を同時に行っており、広い通路がそのまま広大な迷路となっている。そしてその通路内には人1人が入る隙間も無い程の魔物達がひしめき合っており、まるで軍隊の行進だった。先程の波の一波は、此処から押し出される様にして出て来たと判断したサナリアは、舌打ちしながら突き進む。


 魔物達にとっては、悪夢の時間でもある。


「ギギャッ!!?」

「オゴッ!?」


 正確に刃が急所だけを一撃で貫き、切り裂き、血の一滴すら浴びずに皆殺しにされていく魔物達。その数は一瞬の内で1秒に達することなく数百数千と死んで逝った。通路に詰められた状態では碌に戦えず、轢き潰すぐらいしか出来ないのだが、例え相対していても何も出来る訳がなかった。


 現在魔物はCランクのデザートコング、タイラントゴブリン、Bランクで巨体のサイクロプスやキマイラ。そしてAランクのレッドオーガが居る。だがどれもこれも、サナリアにしてみればただ急所を晒しているだけの獲物に過ぎない。


 彼女の戦い方は至って単純。『領域変化』によって通路内全体を包み、範囲に入った魔物を『増殖』した自分で斬って捨てるだけ。現在半径200m以内であれば数秒で串刺しに出来る状況なのだ。


 更に持っている剣は今までの様にただの鉄の剣ではなく、聖騎士団が使っている最高純度のミスリルの剣である。魔力を十分に遠し、魔力続く限り斬れ味は決して落ちない。そもそも達人であるサナリアが刃毀れする様な剣の振り方など一切しないが、やはり業物である程斬るのにも余裕が出て来る。


 そしてそれ等を支えているのはディアナだった。彼女の『劣化妖精魔法』で『領域変化』に干渉しているからこそ『増殖』という自身の分身を増やせていた。1人1人には『総合無意識』を別けているので、全員が全員最速で最善の動きにより敵を確実に殺していく。



 そうして、あらゆる場所で紫電一閃が起こり、真面な断末魔を上げる事も出来ずに死が蔓延していく。



 だが、やはり問題もあった。


「くっそ、コアは何処よ!?」


 広ければそれだけ時間が掛かる。通常のダンジョンではない故に、山を媒介にしているこの洞窟内は、丸ごと迷宮化されていたのだ。


『魔物がより多い道を選んで来ていますから、間違ってはいない筈です。しかし別れ道であればある程、選ばなかった道の魔物達が入口に殺到していきますから……アンナに任せるしかなさそうですね……』

「あの子は大丈夫さ!!なんてったって私の友達だしね!!!」







「うわぁ、……また沢山居るなぁ……」


 アンナは1人、数百人の戦士達を見送った後ダンジョンの入り口に立っていた。今年で26歳、未だ見習いではあるが彼女の6年間もまた、尋常ではない。


 今も十数体の魔物が飛び出して来たが、アンナはその場から動かず自身の剣を構えて静かに佇んでいた。今から続々と数が増していくのも分かっているが、心は常に一定であり、その眼は相手を見据えている。


 そしてオーガのこん棒がデザートコングの拳が、タイラントゴブリンの剣が振るわれようとした瞬間、彼女は動き出す。


「……―――――――――ッッ!!」


 タイミングも糞もないバラバラの攻撃の中を掻い潜りながら、一閃。教えられた通りの足運び、教えられた通りの呼吸法で、教えられた通りの剣の型を、全て無意識に完遂する。


 ………ズルッ


 魔物達の首は滑り落ち、絶命を告げる音だけが響く。


(……ほ、本当に上手くいったぁぁあーーーーーーーーッッ!!!)


 そして当の本人は顔の表情を一切動かさずに全身汗だくになりながら、成功した喜びに打ち震えていた。

 


アンナ(26) Lv.551


種族:人間(覚醒+)


HP 4540/4540

MP 5106/5106

AK  5588

DF   6002

MAK  3565

MDF  4670

INT  1800

SPD  4977


スキル:先読み(C)剣術(EX)サイレントキル(B)縮地(C+)



 この6年、事あるごとにサナリアの訓練という名の裏技講座を聞きながら狩りをし続けたアンナ。しかもサナリアがひたすら数で狩りし続けたのと違い、アンナはいつも狩場で最も強そうな古代種という珍しい魔物だけを相手にしていた所為で、そこら辺の冒険者では容易には到達出来ないスキルも身に着けてしまっていた。幸いなのは、サナリアと違い理解が中途半端なので、ステータスがバグっていないという事だ。


 そしてアンナがサナリアに教わった戦い方はただ1つ。相手を見て斬る、これだけである。


 だがアンナは単純故に、それだけをひたすら続けた。それ以外の考えを一切無くし、その言葉だけを信じる様にした。疑問も多々あったが、最早経験値が仙人みたいなサナリアのやり方に意を唱えてもしょうがないので諦めていた。


「しかし、相手が格上でもしっかり倒せるんだな……やっぱりサナリア様凄いよ」


 本当ならば、自分よりもレベルが倍近く高い相手ならば即逃げが道理。どう足掻いてもステータス差をひっくり返せる程の戦いというのは難しい。それは種族差も関係しているし、死闘に対して誰もが死を賭して戦える訳ではない。


 ならばどうするか。サナリアの示した解決策は1つ。


「せぁっ!!」

「グゲェッ!!」

「そこぉっ!!」

「グェボッ!?!?」


 1匹1匹のステータスがアンナを凌駕していようと、ステータス通りの動きが出来るかと言われればそんなことは無い。無駄な動き、隙、稚拙な戦い方、どれもが足を引っ張る要因となるならば。


(こっちが随時、最大速度で戦い続ければ良い!!)


 多対一の戦い方は既に熟知している。どれだけ数を多くして潰しに掛かろうとも、今のアンナは捉えられない。自身を理解し、敵を理解し、意識の裏を掻い潜って静かに殺す事だけを目的にした彼女の戦いは、魔物達が想定している物とは全くの逆なのだから。


 よってアンナは此処に聖騎士として立ち、本来の役目をしっかりと務める事を達成出来る。


 既に後ろには死体の山が築かれ始めているが、アンナの真価はまだ序の口。格上の相手を倒すという事は、それだけ自分のレベルが上がるのだから。


「サナリア様に鍛えて貰ったこの剣で、私は私の為に!!」


 彼女は自身の決意と共に、眼前の大群へ咆哮する。


「レーベルラッドを、守るッッ!!!」






 外でアンナが魔物と接敵した頃、サナリア達は地下奥深くまで階層を下がり続けていた。


「ディアナ!!まだ!?」

『もう少しです。なるほど、領域変化の範囲が広がるに連れて分かってきましたが、どうやらかなりの深度までこのダンジョンは活性化している様です。最早1つの世界ですねこれは……』


 猛烈なスピードで突き進むこと数十キロ、周囲の空気すら薄くなってくる程の地下で魔力も濃く、サナリアも流石にこの世界の物理的な壁にはキツくなっていた。魔物はより密度濃く、ダンジョン自身の限界が近いのか、偶に原型の留めていないものもチラホラと見えていた。


 もう少し、あと少し、その言葉を信じて一心不乱に敵を斬り捨てながら奔る。咽喉は乾き、疲労で身体は重く。最初は躱していたが、疲れて面倒になったので結果的に返り血で白無垢の身体は真っ赤に染め上がっていた。


 だが心地良かった。本当の戦場を、仲間を気にせず戦えるという環境が。死を賭して本懐に集中出来るという初めての体験が。孤独な闘いこそが、本当に望んでいた彼女の生き方だったから。


「はは、限界を気にせず戦えるって楽だ!!」

『ダンジョンコアを破壊するまでは余力を残す様に……捉えました。次を左に抜け、直進200mで右の壁を破壊してください。それで到着です』

「りょうっかいッ!!!」


 領域変化の応用で、レベルが上がり続ければそれだけ範囲が拡大するのを利用してソナーの代わりにすれば、ダンジョン内で最も魔力密度の高いコアを発見するのは容易だった。ただしダンジョン自体が余りにも広すぎる為、探すのに数分を要してしまったが。


『そこです』

「こんなくそぉぉおぉぉぉおおーーーーーーーーッッ!!!!」


 全力の足の打ち込みと背中でのぶちかましで周囲の魔物を吹っ飛ばし、ミスリル剣が金属疲労でブチ折れるのを承知で壁に叩き付けて粉々にする。直ぐに『領域変化』の『収納』から最後の1本を取り出して最終フロアに突っ込む。


 中には人間体に似た黒い甲殻で全体の覆われた魔物と、そのフロアの半分を埋め尽くす程巨大な魔物が、殺意を持ってサナリアを睨んでいた。



スケアール(―) Lv.3000


種族:竜人亜種


HP 1600万/1600万

MP 5500万/5500万

AK   6000万

DF   1億5000万

MAK  300万

MDF  3億2020万

INT  50

SPD  33億6000万


【固有スキル】龍鱗


スキル:龍魔法(EX)



 

オールドベヒモス(―) Lv.4500


種族:古龍亜種


HP 3億4500万/3億4500万

MP 9億2500万/9億2500万

AK   6000万

DF   1億5000万

MAK  5億7000万

MDF  3億2020万

INT  20

SPD  1000万


【固有スキル】龍皮


スキル:龍魔法(EX)



 どちらも本来なら生まれてはいけないレベルの化け物であり、この世界の根幹を揺るがしかねないステータスをしているのは、『領域変化』の『開示』で分かった。だがサナリアに止まる理由にはならない。何故ならその2体が守っている物は、紛れもなくこの戦いを終わらせる物なのだから。


 それを確認したサナリアは、取り出した1本のエメラルド色に輝く剣の投擲体勢に入る。この世で最も硬い鉱石。その昔、まだ人間と他の種が交わっていた時代に作られたレーベルラッドの宝剣。オリハルコンで出来た剣を。


『標準固定。対象、ダンジョンコア』

「全部つぎ込むよッ!!」

『了解。『劣化妖精魔法』発動。さぁ、想像のお時間です』


 籠めるは全ての魔力。例え相手がどれだけ強かろうと関係無い。ただ1点、たった1つを破壊する為だけに全てを捧げ、望む全てを助けるのだと願い。




「く、ら、えぇぇぇぇええええーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!!!」




 ――――――――――――――放った。


「GuuuuOOOOOOOOOOOOOOーーーーーーーーーーッッ!!!!!!!」

「―――――――――――――ッッッ!!!!!!!」


 流れ星。そう言える程に眩い光を放ちながら投げられた宝剣は、サナリアの全ての魔力を受け取り、一筋の光となって迫る。当然それを2体の最終防衛機構が受け止めたが、最強種と言われる龍の鱗を、外皮を悉く貫き、光はダンジョンコアへぶち当たった。



 ガギギギィィィイイィィィィッッッッ!!!!


 ダンジョンコアは最後の足掻きとして、ダンジョン内に放出していた魔物達を根こそぎ吸収し、その分の魔力で障壁を張った。それを削り取る様な音が木霊し、一瞬の膠着状態を生み出す。


 宝剣は魔力の衝突と身に受けた衝撃で罅が入る。



「往生際がッ!!」

『悪い』


 ゴシャァッ!!


 そこに、最後の力を振り絞って放たれた飛び蹴りが、剣を押し出し、黒色に輝くダンジョンコアに突き立てた。同時に溜め込まれた魔力が爆散し、


『―――――――――――――――――――――――ッッ!?!?!?!?!?』


 コアの断末魔と共に、剣は貫き、その勢いのまま、山に風穴を空けて空の彼方へ消えていった……






「はぁ……はぁ……いつの間にか……夜が来そうだね」

『なら、一番星は貴方の放った剣ですね』

「はは、あれは……どちらかと言ったら流れ星だよ」


 剣は魔力の粒子を放出し、光の筋を描きながら空へと昇って行く。なるほど、確かに流れ星ですね。それも、とても長く光り続ける流れ星。


『サナリア……貴方の願いは何ですか?』

「……」


 改めて私は聞いた。この子の願いを。たった今一国を救った救世主の願い。生まれてまだ9年と少しの子供に。100万回目の転生者の想いを。


 彼女は意識朦朧としている中でも、しっかり現実を見て、私を心の中で見据えて……笑った。


「生きて、死ぬこと。万感の想いで、例え惨めで無残だっとしても。どれだけ無念が残っていようと。必ず目一杯生きて、人間として死ぬこと。それが私の願いだよ……ディアナ」


 人間として、人間として、人間として。何度願ったか分からない彼女の絶叫の想い。最早何度摩耗しても魂が擦り切れて消えてくれないサナリアの想いは、人間が願える物ではない。それでも彼女は人間として死にたいと願う。


 なるほど、これも人間か。


『願い叶う時が、来ると良いですね』

「うん……だからまずは、世界でも救おっか?」


 私は私を再定義する。理解するだけでなく、共感を持てる様に。私は私を理解しようと思う。他の誰かをもっと理解出来る様に。


 そしてサナリア。貴方の支えとなれる様に……

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