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第6話 救援

 その日から、サナリアの狂気染みたレベル上げが始まった。始まってしまった。


 サナリアは100万回転生した人間であり、その内の99万9999回を全て人間として生まれ変わっている。あらゆる国、あらゆる人種、あらゆる時代で。1回の転生で再誕の死亡記録は数秒。最長では40前半といったところ。そして生まれる場所はまちまちでも、必ず10代前後でそこは『戦地』になる。それが彼女にとっての共通項だった。


 だから彼女にとって戦いとは日常そのもの。そして戦争になるまでは幸せな家庭ばかりで思い出も沢山あった。愛ある思い出が彼女にとってのもう1つの日常。それがあって初めて彼女という存在は成り立っている。



 母の温もりに包まれ授乳を受けた記憶


 父に肩車をされて喜んでいた記憶


 家族でピクニックに行きお弁当を一緒に食べた記憶

 


 数えれば切りの無い数多の家族達。だが例外無く彼等は彼女に愛を注いでくれた。それだけ生まれた環境には恵まれていた。彼女にとって健やかな毎日が約束されていた。そして彼女の前で死に、戦争の銅鑼が鳴り響くのを彼女に伝えるのだ。それもまた約束であるかの様に。


 だが今回は違う。彼女には父も母も居ない。居るのは祖父であるカイルスだけ。戦争は当に始まりを告げており、彼女にとっては生まれる前からゴングが鳴っているのだ。


 つまり準備が足りていない。全くもって足りていない。



(ほんと、まさかまさかだよね……はぁ)



 サナリアは激怒していた。それはもう静かに怒り狂っていた。自分のスイッチとも言える戦場の凱歌を聞けず、また愛するべき家族の時間すら全て奪われている。彼女にとって、この世界は有り得ざる完全なイレギュラーであり、自身のジンクスすら奪った愚かな世界に対してやることは1つである。


『私はっきり言ってドン引きなんですけど?』

「貴方も人間だったら分かったのかもね」

『さてはて、果たして人間の精神構造なのかどうかも不明ですが』


 とにかくサナリアはやる事にした。自身の身体を、ステータスを、レベルを、鍛え上げて鍛え上げて対象を殲滅する為の準備を。祖父の用意したカラクリ屋敷など所詮お遊びとでも言わんばかりに、彼女は涼しい顔して森の中を1人で突っ走り続ける。


 既にアンナに案内された山間にある森の魔物達は『全て狩り尽くして』しまった。今はレーベルラッドから更に離れ、1人広大な森の中を駆け巡っている最中だった。


「ふぃ~~~、ちょっと休憩」

『72時間ぶっ通しで動き続けてちょっと休憩……』


『忍耐』と『苦痛対処』と『持続力』でもって身体を維持し、無理矢理動かせ続けられるというスキルの便利さを活用し、魔物は既に森の半分程殺し尽くしたサナリアのステータスは、常人のそれを遥かに上回り既に人間世界での世界最強に片足突っ込んでいた。



 

サナリア・フォルブラナド・レーベルラッド(9) Lv.1281


種族:人間(覚醒+)


HP 1万0145/1万0145

MP 69億8792万2455/69億8792万2455

AK   ―

DF   ―

MAK  ―

MDF  ―

INT  ―

SPD  ―


【固有スキル】無限転生 統合無意識 統合技『1.14k』 領域変化『第二段階』 予言



 生まれて9年。レベルを上げ始めてから6年。そして戦闘の試行錯誤をしながら年がら年中山籠もりもしていたのだが、遂にHPとMP以外の数値が全てバグっていた。ディアナはお揃いだと喜んでいたが、サナリアにしてみれば戦力比較出来なくなってしまったのでちょっと面倒だった。しかもMPが馬鹿みたいな数値になっているのが(覚醒+)の所為だと気付いて、最早諦めの境地になっている。


 それでもレベル上げを止めないのは、『領域変化』の範囲や効力を増やす為。


「ディアナ、水出したい」

『……』

「ディアナ?」

『今日はもう終わりにしましょう』

「へ?けどまだ」

『駄目です。そろそろカイルスに定期報告する時間ですし、貴方の健康もスキルで維持しているだけで、毎回解いた瞬間に死にかけるのですから。心配する身にもなりなさい』

「わ、わかったよ。もう……」


 ディアナは完全にサナリアのサポートに回りながらも、いつしか彼女の身を案じる機会が増えた。そして夢の中でサナリアを愛でる頻度は天井知らずだった。夢の中でなら『劣化妖精魔法』も使えるらしく、クッキーやら紅茶やらも出せる様になり、サナリアの食べた事のある様々な料理をいつも食べている。


 ディアナのステータスは変わりなく、ただし知識を日々増やしているので、戦闘においての感覚もサナリアに追い付いて来ていた。それが彼女の9年間である。


「にしても、この身体何でこんなんになっちゃったんだろうね……」

『身長伸びませんでしたしね」

「言うな!!」


 せめてもう10㎝欲しかった。140㎝て……戦いではリーチの差が勝敗を分ける事もあるのに。それに、この胸だ。重いし立ってると足元見えないし。後最近皆がえっちぃ感じで見て来る。気にしないけど。


『貴方の容姿は最終的に私に近付く訳ですから、もっと凄いことになるでしょうね……』

「い、いやだ……」


 女としては魅力的なんだろうけど、戦いには向かないよこれ……







 さて、ディアナに怒られてレーベルラッドに帰って来た訳だけど、まずはやっぱり冒険者ギルドだ。狩った魔物達を纏めて納品しなきゃならない。毎度慈善事業だから良いけど、今回は美味しいって言われている魔物も何匹か狩れたから、そのお肉を少し貰って帰ろう。宮殿料理という名の精進料理?は嫌だ。時代は肉です!!


「ということで今日もよろしく受付嬢さん」

「……スタッフが過労死します、巫女様」

「がんば♪」


 可愛く言ってあげたけど、咽び泣いて強面ギルド長とバトンタッチしてしまった。私はいつも正面ではなく倉庫にそのまま行かされるから、他の若い冒険者の人達には会わない。まぁ余計ないざこざはごめんだけれど、本場の冒険者達の営みもいつか見てみたいかな。


 ギルド長が来たけど、今日はなんだかいつもの強面を顰めて私を可哀想な眼で見つめていた……なに?


「どうかしたの?」

「まだ聞いてないのか?」

「なにを?」


 彼は私に耳打ちする様に顔を近付けた。


「……ダンジョンが、決壊しかけたらしい」

「!!」


 それはつまり、国が壊滅する危機に陥ったという事になる。おかしい、ダンジョンが危険になれば私にも報告が行く様に魔道具は持っていたのに。取り出した玉の様な魔道具はそれを知らせる光を発していなかった。


「ジーダさん。それいつ?」

「3日前になる」

(ってことは、私だけ除け者扱いか……)

『直ぐに戻りましょう』


 お肉は放って置いてギルド長の前から即座に疾走。人々の間を縫う様に走り、10秒ぐらいで大聖堂の大扉を蹴り開けて到着。丁度枢機卿と信者達の礼拝が行われている最中だったので、ズカズカと歩いて枢機卿に迫る。


 枢機卿は「あ、やべ」って顔しながら引き攣った顔になるが、私は彼のお腹辺りの服を掴んで止めた。胸元辺りを掴みたかったけど、届かないもん。因みに後ろには私の服を掴んで止めようとしている信者達の山が出来ていた。え?全員引き摺って来たけど?


「ただいま枢機卿。私に何か言うことは?具体的に言えば辞世の句は?秘密主義を巫女にしようとは良い度胸だよ。全員膝を冷たい床に敷き詰めて説教する?良いよ?私まだ元気だよ?」

「申し訳ありません!!カイルス教皇猊下の指示なのです!!なので腹の肉ごと掴むのはご勘弁をばいたたたたたッッ!?!?!?」

「全く貴方はもう少し痩せなさい。真面目の癖に太ってるからそんな人相変になっちゃうんだから」


 毎度のことだが、初対面だとこの枢機卿どうにも怪しさプンプンでよく疑われる。小食なのにおデブさんだし、シスター達にはいやらしい眼で見られるとか言うけど、本人は子煩悩のめっさ優しいお父さんよ?真顔だから許してあげてほしい。


 さて、それじゃあ元凶の爺様の所に行こうか。



 バンッ!!


「はーい爺様!!その重そうな全く似合わない甲冑を今直ぐ脱ごうか!!」

「……帰って来てしまったか」

「巫女様……まだ森に居られる筈では?」

「やっぱりそういう感じか。この狸さん達め」


 爺様は丁度騎士団長に甲冑を着る手伝いをして貰っているところだった。あーそうだよ、私は少なくとも後3日は森から帰って来ないつもりだったよ。効率が良いからね。


「爺様、ダンジョンが決壊しかけているってギルド長から聞いたよ。枢機卿もゲロった。で?どうするつもりなのかな?」

「……」

「マリアニ騎士団長」


 一言で「お前が話せ」と促すと、彼女は甲冑を置いて私に向き直った。


「現在、ダンジョンは『波』に晒されています。既に今日で2日。兵や騎士、冒険者達は飲まず食わずで戦っているのです。なので私と教皇、そして残りの騎士や冒険者を連れて今直ぐに救援へ向かうつもりです」

「救援?救援だって?」


 それはつまり、食い止めて死ぬだけの話だ。レーベルラッド最強の騎士団長が行っても間違いなく死ぬだろう。それぐらいの死線に、教皇が自ら向かうだって?


「何の冗談なの?」

「冗談ではありません。巫女様には急ぎ馬車へ乗り国を出て頂き来ます」

「って言ってるけど?」

「……私は、この国を纏めている者だ。経典を読み、信徒を導くのならば、戦いに於いても後ろに居る訳にはいかぬ。そして、まだお前を出す訳にも……奴等が暴走させている可能性を考えれば、何が起こるか分からんのだ。万全ではないお前を出すことは出来ん……」

「――――ッ!!」


 パンッと私は初めて、爺様に手を上げた。拳が軋み上がる程の怒りは、久しぶりだ。


「爺様……貴方が死んだら、私も死ぬよ」

「何を……」

「家族が自分から犬死にしようとしたら、止めるに決まってるでしょうが!!!」

「ぐっ……」


 もう1回叩く。そしてその頭に抱き着いた。


 爺様は馬鹿だ。どうしようもないぐらいの馬鹿だ。娘の為に、孫の為に、世界の為に。『予言』を信じて私を育て、全てを賭けて国を維持し続けた。沢山の手を借りて、それでもどうにもならない現実を決して見捨てずに胸を張り続けた。予言だけ信じて、頑なまでに歩き続けた。


 その果てがこれで、その責任を取るべく命まで捧げるのが人間だと言うならば、私はその人間こそを否定する。


「爺様には、立派になった私を見て貰わなきゃならない。老後は揺り椅子で本を読みながら、毎日美味しい紅茶を飲んで過ごす様な、そんな日々を送って貰わなきゃならないんだよ」

「……夢、だな」

「そう、夢だ。爺様の夢。きっと母様も父様も望んでいた夢を私が叶えてあげるんだから、諦めの境地に至るには早いよ。マリアニ、今までずっと隠していたダンジョンの場所を今直ぐに吐きなさい。い・い・ね?」

「……はい」


 さて、それじゃあ助っ人も用意してさっさと向かうとしよう。時間は有限、間に合うかどうかは運次第だ。







 レーベルラッド北部:ダンジョン『アルダヒオの洞窟』


 およそ数百年前に出来たダンジョンであり、小規模で魔物も弱い、誰にも知られていなかったそこは、今や国1つを滅ぼすのに十分過ぎる程の戦力を持っていた。


「くそ……いつまでこんな……」

「言うな!!波を越えればまだ耐えられる!!」

「馬鹿言うなよ!!もう2日此処で耐えて、まだ止まらないんだぞ!!?」

「ちくしょう……逃げ場なんてもうないんだぞ」


 悲観、諦め。どの様に言葉を尽くしても、戦っている彼等の士気はもう上がり様が無かった。


 森を切り開き、洞窟ダンジョンの前に拠点を張り、数千という数で10年間ひたすら魔物を狩り続ける日々。狩った魔物はその日の内に彼等の胃袋へ収まり、レベルは上がり続け、国へ帰る日を夢見続けた10年。彼等の仕事は、本来ダンジョンを食い止める事ではなく、ダンジョンそのものの討伐にあった。


 だが最初のアタックの時点で最大戦力がダンジョンに呑まれた。聖騎士団の精鋭、マリアニ以外の半数以上の聖騎士団が消息を絶ち、事態は膠着状態へ。


 そして日々ダンジョンから這い出して来る魔物の大群を数で圧倒し続けてきたが、ここにきて、『波』が遂に発生してしまったのだ。


 総数1万体のCランク、500体のBランク、10体のAランク。今までの数が嘘の様な悪夢が襲い掛かり、拠点は半壊。砦も粉砕され、戦力の3割は押し潰されて死んだ。残った者達で何とかその第一波を凌ぎ切ったが、そこから来る更なる波が到達し、最早力は残されていなかった。


 砕け散った鎧も、折れた剣も捨てて。残ったのは祈りだけ。


 目の前には凶悪な殺意を滾らせた魔物達の咆哮。残った戦士の数は、数百人。生き残れる道理など無かった。


「はは……ははは。これで終わりか」

「食われるのは嫌だよな……」

「妻と子の顔も見れず死ぬとか、やってられんなまったく……」


 崩壊した砦の壁を背にした彼等を囲い、ジリジリと寄って来る魔物達に目を向けながら、乾いた笑みや溜息を零して歴戦の勇士達は己の末路を幻視する。食われていった仲間達の様になるのだろうと、心は冷え切っていた。


 そして最後の攻防が始まろうとした。その瞬間、




「「「――――――――――――――――――ッッ!!!!!!!!!!」」」





 断末魔が鳴り響いた。1つではない。無数の断末魔が、増える。


「な、なんだ……?」


 増える。


「だ、誰か戦っている?援軍か?」


 増える。


「待て……断末魔が近付いて……」




「此処かぁああーーーーーーーーーーっ!!!!」

「しぬぅぅぅぅうぅ~~~~~~~~~ッッ!!!!!」



 そして1人の少女と首根っこ掴まれた聖騎士見習いが、魔物を皆殺しにしながら彼等の前へと参上した。








「はぁ……はぁ……流石に山を3つ人を抱えて全力疾走するのは疲れるね」

『お仕事はこれからですよ』

「あ、生きてる!?私生きてるっ!?」

「生きてるよ」


 流れる汗をそのままに、私は今さっき斬殺した魔物達に目もくれず、目の前で最後の時を迎えようとしていた者達を見渡す。たったこれだけ……これだけしか残らなかったの……?


「あ、貴方は?な、何故こんな場所に……それにアンナも」

「……」

「あ、あはは……その……」


 1人の聖騎士がこちらに近寄って来る。傷と血潮でボロボロの鎧を身に纏ったその女は、副騎士団長だった。当然私の事についてもある程度は知っているけど、こうして会うのは初めてだろう。


 なんにしろ魔物をこんな少女が1人で理解不能な手段で殺し尽くしたのだ。当然剣は握られている。他の者達も彼女の後ろで構えていた。



 なら、安心させてあげるべきだね。

『原稿は必要でしょうか?』

(不要だよ)


「……私の名はサナリア。サナリア・フォルブラナド・レーベルラッド。先代巫女の娘であり、人類救済の救世主として予言された者!!」

「なんとっ!?」

「マジか……」

「あんな小さな少女が……」


 言い放ったと同時に聖騎士団達数十人が跪いて頭を垂れた。だが私はそれを良しとはしない。まだ疑っている者達にも目を向けた。


 皆この9年間、一度も国に帰らず支援を受け続け、戦い続けた者達。身体中が傷だらけで、誰もが笑っていない。戦場を駆ける者達の顔ではなかった。戦いに疲れ、生きることを諦め、明日を見なくなった者達だった。死んだ者達の冥福すら祈れなかった。そんな者達にこれ以上は戦わせてはいけない。


「頭を上げ、立ち上がれ聖騎士達よ。そして冒険者や傭兵達よ。お前達の雄姿、人類への献身、そして死地での活躍。どれもが我が国にとって英雄足り得る行動である。だがもう戦う必要は無く、残り全ての敵を私とこのアンナに任せよ!!」


「な、なにを仰っているのですか!?」

「既にマリアニが救援を率いて来ている。お前達はそれに合流しまずは傷を癒せ。私は今よりダンジョンへ特攻し、元凶を潰しに行く」

「危険です巫女様!!」

「そうです!聖騎士の精鋭が成せなかったのです。幾ら予言の救世主でも……それよりも早く逃げるべきです!次の波が押し寄せる前に!!」


「やだね」

「「ッ!?」」


 いきなり言葉遣いが変わって驚かれる。柔和な笑みで、その血だらけの手を握った。小手の上からでも分かるぐらいボロボロで痛みに震える手だ。全てを投げ打って戦った者の手だ。きっと皆同じ手の筈だ。


 なら私は引き下がってやらない。絶対に。


「私は今生き残っている皆を救う為に此処へ来たんだよ。その為の力を得る為に頑張って来たのに、その皆を放って死なせるなんて在り得ないよ。それに大丈夫、爺様もマリアニも公認だし、アンナは秘密の特訓で皆が相手でも圧倒出来るぐらい強くなったから」


 それは聞き捨てならない言葉だったことだろう。此処に居る者で、レベルが2000より下の者は居ない。全員が10年前の世界最強の冒険者を超えるレベルであり、誰もが勇者並みのステータスを誇っている。その死線を彷徨い続けた全員を圧倒する程の力を、聖騎士見習いが得たと言うんだから。


 だが実際に、隣に立つアンナの姿を見て、何人もの人間が驚愕していたと思う。だってただの聖騎士見習いならば、この場に立っているだけで濃密過ぎる淀んだ魔力で死に至り兼ねない。


 彼等でさえ顔しかめるのに、アンナはケロっとした顔で私に肩車させられているんだから。


『何故に?』

(皆の顔が見えないからだよ。まったく……)


「とにかく、アンナにはダンジョン入口を。私はダンジョン内に行くから、貴方達は此処から離れて待機ね。アンナ、後任せるよ」

「私だってそんなんでもないんですから、直ぐ戻って来て下さいね!?」

「努力するよ」



 私は最後にまた皆に振り向く。精一杯の笑顔で。


「皆、行って来ます!!」



 そうして走り出した。一寸先が暗闇のダンジョンへ一目散に。心を怒りに染め上げながら。



 皆愛する家族が居たのだ。恋人が、親友が居たのだ。争いは何時だってそうだ。利益だけを求めてその他大勢を斬り捨てる。これは仕方のない犠牲なのだと首を縦に振る。ふざけるな。ふざけるな。私は認めない。そんな死に方絶対に。


 ああ、相手はただの知能も倫理も理屈も無い畜生達だ。ならば纏めて私が締め殺そう。誰の手も汚させず、私の手で決着を付けてやろう。それで皆が笑顔になれると言うなら、喜んでこの身を差し出そう。


『って考えですね』

「分かるんだね」

『筒抜けです……駄目ですよサナリア。許しません。貴方の半分は私なのですから』


 ……今回の私は、残念だが1人じゃない。


「そうだね……家族が居るのに、憎しみだけで戦っちゃ駄目か」

『そうです。貴方がする戦いは、優しい想いに包まれていなければならない。それは、私が担いましょう……』


 心が温かくなる。冷え切った頭が熱湯に溶かされていく。だが意識はハッキリしていて、身体のあらゆる感覚が冴え渡った。


 もう目の前には数多の魔物達の姿があった。けれど、不安は無く。恐怖は無く。


「ディアナ、背中は任せたよ」

『よしなに、私の愛するサナリア』



 私は白き剣を構え、敵に突貫した。

『(劣化妖精魔法……初めて1人で発動させられましたね)』

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