大空は高く、遥か彼方。
それは突然の出来事だった。
ごうごうと唸り声をあげ、水が流れ込み土砂を運んでくる。
建物の2階はベランダから眺めるに、斯くも大自然の前には人間は無力なのかと思わざるを得ない。
時折、森でひっそりと暮らしていた動物が流木と一緒に悲鳴をあげている。
自分が助かっていたのは確かに嬉しいことなのだが、その光景はまさしく地獄そのもの。
大雨がもたらした悲劇。
もう数週間が経ったというのに、いくら暮らせども心が安らぐことは全くなかったのだった。
「ふぅ……ふぅ……」
日は高く、照り付ける陽射しを浴びては懸命に除去作業にキリがない。
睡眠時間や食事を限界まで削っても、安心な居住空間を得る事は出来ないのだ。
ひとつ、また、ひとつと邪魔な物を撤去する作業が続き、もう諦めてしまいたかった。
だが、先祖代々行き継がれてきた家を毛頭捨てるなど。
そんな気持ちは更々無かった。
行政は何をしているのか。
援助とは形だけのものなのか。
報道を見るに、確かに我が家より酷い目に遭っている地域はある。
しかし、いくら血の涙を流したところで誰も同情などしなかった。
年老いた身体に鞭を打ち、これでもかと動く。
汗が大量に溢れ、水分補給も間に合わない。
痩せ細った身体は更に気力を失っていく一方だ。
それでもやらなければならなかった。
生きて行く為には。
一頻り作業を終え、まだ片付いていないが僅か数分間の休憩を挟む。
そんなひととき。
ラジオから流れてきたのは、まるで悪魔の嘲笑のような報道だった。
「台風が発生しました」
なんの冗談なのかと鼻で笑わざるを得ない。
しかし、遥か彼方は上空に聳える雲は逞しく、悠々とその権威を以て見下しているかのようだった。
まだ……悪夢は続くのか。
今でさえ、明日が見えないというのに。
被災地は戦慄に怯える暇すら無い。
どうか、神様。
救いの手を。