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再契約

「今の、なんだよ、コノカから出たやつ……っていうか、食べ……」


「ベル、一体何を企んでるの」


「そう怖がるな、なあに貴様にとっても悪くない話だ。 我輩は嬉しいんだぞ、もう食べ尽くしていたと思っていたお前の(ジュエル)が食べられてな」


「……え?」


 一瞬、何がなんだか理解できなかった。


 こいつが、食べた?

 ……コノカの心を?


 余計こんがらがる頭の中、助けを求めるようにコノカを振り返るが、コノカのリアクションは相変わらず無いに等しい。

 けれど、確かに、僅かにコノカの表情は強張っていた。



「……ベル、約束が違う」


「違うも何もあるか、確かに我輩はジュエルを貰えればよしとしていたが、最近の貴様は不調ではないか、コノカ。 それならば、御土橋少年に協力してもらえばいいのではないか」


「ベル……」


「まさか忘れてはおらんだろうな……自分の立場を」



 あどけなさの欠片もない、ベルと呼ばれた少女が浮かべる笑顔は残忍で、睨まれたコノカはそれ以上何も言わない。

 けれど、俺にはコノカが納得していないのがわかった。

 それでもコノカは口出しすることができないようだ、押し黙るコノカの代わりに、鎌を手にした少女は打って変わって幼い無邪気な笑顔を浮かべてた。



「改めて自己紹介させてもらうぞ、少年。 我輩はベル、貴様は我輩が何者か想像ついてるのではないか?」


「……死神」


「クク、そうかそうか、まあ似たようなものだ。 我輩は貴様らで言う、悪魔と呼ばれる類のものだ。 ……そして、契約者はこやつ、コノカだ」



 えっへんと偉そうに胸を張るベルに、コノカは何も言わない。

 ただ、俺の顔を見ようともしなかった。



「我輩はこやつの願いを聞き入れる代償として、先程のようなジュエル……そうだな、まずはこれについて説明しておくか、ジュエルとは感情が昂ぶったとき、人間の体から溢れるエネルギーを結晶化したものだ。 我輩はこれを蓄え、魔力を貯めておるのだ」



「コノカの願いを叶えるのと引き換えに、コノカには代償として我輩にジュエルを提供してもらってるのだ」 正直、ベルの話はシラフで聞いて「はいそうですか」と受け入れられるような話ではなかった。

 けれど、実際に具現化したジュエルを見て、この少女が人間でないものと理解してしまった今、受け容れざるを負えなかった。

 そして、ベルの言葉から嫌なものを感じた。

 それは想像したくはない一つの可能性だった。



「もしかして、その、あんたが木乃香のジュエルを食べたせいで……コノカがこんな風になったのか」



 喜怒哀楽激しかったが、それ以上にコロコロ変わる表情が魅力的だった木乃香のジュエルは色とりどりに違いない。

 それをこの得体のしれない子供が食べたのだと思うと、ゾッとした。



「ああ、そうだ。 こいつのジュエルは美味だった、特に――」



 そう、ベルが続けるよりも先に手が出ていた。

 目の前の子供に掴みかかろうとした瞬間、体は地面に放り出されそうになったところをコノカに支えられた。

 ベルの実体すら感じなかった。

 気が付けば俺の背後にベルはいて、「血の気が多いぞ」と楽しげに笑う。



「っ、木乃香に、ジュエルを、感情を返せよ! お前のせいで、木乃香は……っ!」


「おお、何事かと思えば。 そんなことか。 別に構わんぞ」


「……なんだと?」


「ああ、交換条件だ。 御土橋少年、貴様、コノカに協力して我輩に極上のジュエルを用意するのだ」


「……極上のジュエルって……」


「なんでもよい、コノカのジュエルは絶品だった。 我輩はこの子以上に美味なジュエルを知らない。 だから、貴様が教えてくれ、御土橋少年。 とっておきの極上のジュエルを用意し、我輩の腹を満たすことができれば……この子のジュエルは返してやろう」


「っ、できるのかよ、そんなこと……」


「なんだ、自分から啖呵切っておいて今更怖気づくのか? 我輩を誰だと思っておる? 今の我輩では再構築する力もないが、貴様がそれなりのジュエルを用意してくれればいずれ出来る。 今は訳あって魔力が底付きでいるところをなけなしのジュエルで補って保っているが、昔は大悪魔と魔界ではブイブイ言わせていたのだからな」



 得意げなベルは続ける。

 正直、後半頭に入ってこなかった。

 コノカを、木乃香を、昔の木乃香を取り戻すことができる。

 それが聞けただけで、俺にとっては十分だった。



「俺も手伝う」



 考えるよりも先に、口を動かしていた。

 無味乾燥な日々に、希望と言う名の色が蘇ったようだった。

 恐怖や不安なんて考える余裕もなかった、昔の自分が戻ってきたみたいに、俺は、昔の木乃香に出会えるその可能性を信じ切っていた。


 そしてそれが、俺とベルの出会い、いや、再会だった。

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