序章は異世界から
投稿は初めてですし、何もかも勢いです。
苦痛に感じ始めたらやめようかなと……
暇な人いたら、読んでみて下さいませ。
【第1話】やっぱりここは目覚めちゃったりするわけだ
さて、ここは何処だろうか。
深い眠りから覚めた男は辺りを見渡す。
しかし、頭がボーっとしているという表現がピッタリだ。
情報に対して脳の処理能力が追い付かない。
徐々に脳の神経が繋がり始める。
針葉樹らしき巨木の下、木漏れ日が僅かに顔にあたる。
どうやら森で寝ていたようだ。
巨木の絡まりあった根の間に、まるでそこから生まれたかのようにもたれ掛かっていた。
男は膝に手をかけて立ち上がろうとして、自分が金属製の甲冑を着込んでいることに気付く。
傍らには肉厚な剣とボウガン、そして革製のナップサックが置かれている。
誰だこんな手の混んだ悪戯をしたのは……
舌打ちしながら立ち上がる。
雰囲気から察するに、どこかの神社の境内だろうか?足元が踏み固められたのか、落ち葉や下草が少ない。玉砂利は無いが。
歩いてみる。
意外と甲冑は軽く動きやすい。
何で出来ているのか素材が分からない。
多分一人では脱げないな。
困ったものだ。
どこに留め金があるのかも分からない。
そこで重要な事に気付く。
そうだよ、俺は死んだはずだ。
人生に疲れ、自分の能力と運命に絶望し、自ら死を選んだはずだ。
ふと、鼻の奥に血の匂いが溢れる。
体は死の瞬間を覚えているようだ。
当然ながら死んだ後の記憶がない。
しかし、今ここに存在している。
理解不能な状況に困惑しながら、座りやすそうな岩を見つけ、腰を下ろす。
ふむ。死後の世界はあったんだな。
丹波哲郎を信じてやれば良かった。
兄貴の本棚にあった「大霊界」を読んでおかなかったことを後悔する。
そして、自分の新たな肉体に驚く。
物体として確かに存在している。
籠手を外して両手の表裏を何度も見直す。
手の甲の傷もそのままだ……
死後の世界ではこれがスタンダードなのだろうか。
確かに生前の苦しみからは解放されたようだ。仕事の納期も心配しなくていいだろう。複雑な人間関係も、ノルマやプレッシャーも忘れていい。
いや、ちょっと待てよ。
実は死んでいなくて……甲冑のなかにはスーツを着込んでいて、胸ポケットに入れた携帯が鳴り出したりするんじゃないか?
あの嫌な客から「さっき納品されたもの、打ち合わせのときとイメージと違うんだけど!」と言われるんじゃないか?
不安が押し寄せ、甲冑にどこか隙間でもないかと探すが。
うむ、諦めよう。わからん。
再度、記憶を辿ってみる。
間違いなく俺は死んだ。
確信がある。
確か……
人里外れた山中に車を止め、泣きながら遺書を書き、ダッシュボードに入れた。
落ち着いたら、ジャック・ダニエルをストレートで喉に流し込む。
半分も飲むと、久しぶりのバーボンは疲れた体に簡単に染み渡り、思考を鈍くさせた。
ふらつく体でロープを木にかけ…………
ここからは思い出したくない。
しかし、死に対する恐怖は強烈に記憶に刻まれている。そして、その恐怖を乗り越えた恍惚ともいえる達成感。忘れるものか。
ここが天国か地獄かは分からないが、死後の世界ではなかろうか。
道らしきものがある。このまま考え続けていてもしょうがない。
取り敢えず何かを探してみよう。
男は荷物を持つと、ゆっくりと歩き出した。
男の名前は 杉山孝行 という。
地方都市の、印刷会社に勤めるサラリーマンだ。
少々珍しい経歴は持っていたが、今は日がな一日顧客回りをして、ノルマに苦しみながら、深夜まで働く……まあ、よくいる営業マンだ。
年は39歳。妻とは33歳のときに離婚した。
離婚の理由は性格の不一致というやつだ。
妻は購入したばかりだったマンションから、ある日突然いなくなった。そこから離婚が成立するまでに丸一年かかったが、妻の収入もあてにし無理をしてローンを組んでいたので、支払いはきつく生活を圧迫した。
さらに、離婚成立後に処分したマンションは数百万円の売却差損という借金を残す。
数年間は苦労して借金を返済しながら、養育費を払った。
子供がいる。
かわいい盛りの5歳だったが、当然のように元妻が連れ去った。
「お父さんが世界で一番好き!」と言って憚らなかった男の子。
名前を尚之という。
彼とは離婚後1年間、月に1日会うことが出来た。
しかし、元妻は何だかんだと理由をつけ、徐々に接見を先伸ばしするようになり、遂にはメールの返事も返さなくなった。
9歳からは一度も会えていない。
弁護士を通じて接見申し入れをしたりもしたが、不誠実な回答しかなく、泣き寝入りをする結果となっている。
また、余りの仕打ちに対し養育費の支払いを止めてもみたが、催促されることもなく、現在に至っている。
男は身悶えするほど……息子に会いたいと感じていた。
死を迎える瞬間には、幼い頃の息子の写真が入ったペンダントを握りしめていたはずだ。
来世では会えるようにねがいながら。
まぁ、カメラのキタムラで800円ほどで作ったものだが。
しかし……この世界で生きていくのならば……本当に死後の世界ならば、二度と会うことは無いのか。
それとも、お盆には帰ることができたりするのか?
一目でいいから……会いたい。
しかし確かな実体を持った現状では、ピューッと空を飛んで元の世界にもどるイメージは湧きにくい。
あらためて、何の先導者もなくこの世界に生きることになっている不親切に嘆く。
三途の川とか、死んだ先祖が迎えに来るとかないのかよ。
毒づいても一人。
川と言えば、先ほどから水が流れる音が聞こえている。近くに沢があるはずだ。
程なく小川を見つけ、渇いた喉を潤す。
確か兄貴は寄生虫が恐いからと生水を飲むことを避けていたが、死後の世界なら気にすることもなかろう。
死後の世界でも、喉が渇くのか……
腹は減ってないが。
小川に沿って森を歩いていると、数分で木々の密度が薄くなってきた。
そして、小規模な貯水池が現れた。
明らかに人による石組みの構造物も見える。さらに道も踏みしめられた赤土にかわり、人里が近いことを想起させる。
用水路らしきものも見えてきた。
この水路を辿れば何かしら発見できるに違いない。
ん?
道端で何やら蠢くものがある。
半透明で、水色の柔らかそうな物体。
なんだ?これ。
剣を抜き、つついてみようとすると……
「ひぇっ!」背後から引きつった声がする。
驚いて振り向くと、老婆が立ち尽くしている。
「お、お助けを……」
あ、この剣、ヤバイよな。
ぎごちなく剣を鞘に納め、はにかみながら、申し訳なさそうに言う。
「驚かせてしまってすいません」
軽く会釈をして顔を見ると。
老婆は少しホッとした表情になった。
良かった。
「たまげた~。ほら、腰さ曲がっとるもんやから、下ばっかり見とったんよ。いきなり、物騒なもん見えて!」
「すいません」
謝るしかないか。
「ところで戦士さ、こげなところでレベル上げか?この辺りでは大した魔物は出んばい?」
思考が停止した。
レベル上げ?魔物?何の話だ?
日本語が聞けて嬉しかった気持ちが、一瞬で吹き飛んだ。
「違うんかい?さっき、スライムば倒そうとしよったんと違うか?」
「え、ええ?スライム?何と言ったらいいのか……実は道に迷っていまして」
ここは正直に答えるべきだろう。
スライム?なんだ?
「あら、そうかい!あたしゃ、てっきり村を襲いにきたんかと思ったよ!そげなカッコばして!怖かね~」
老婆が答えてくれた。どこの方言だ?
それより、俺、怪しいカッコしてるわ。
「いえいえ!怖いなんてとんでもない!こんなカッコしててすいません!」
「そうだね、よく見りゃ上等な鎧ば着けとうし、悪か人じゃなかろうね!」
腰は曲がっているが元気なおばあちゃんだ。背中には編み籠を背負っている。山菜でも採りにいっていたのだろう。
「どれ、一緒に村さ行くか?ちょうど帰り道じゃけん」
これはありがたい。人の良さそうなおばあちゃんだ、何かしら情報が得られる可能性が高い。
「それは是非お願いします!」
即答する。
営業マンだからね、初対面の人にはこういう対応が良いはず。
「じゃあ付いて来んね。なーに、すぐ村につくけ。」
警戒が解けたのか笑顔になった。良かった。
老婆と並んで歩く。歩幅が狭い。
先ほどのプヨプヨしたものは……スライムか、いなくなっていた。
スライムも気になるが、ようやく見つけた情報源だ。色々聞きたい。
「あの~、ここはどこなんでしょうか?」
ニコニコしながら老婆は喋りだす。
「あぁ、そうやったね。ここはザッツ村の裏山よ。あんたが居たのは村の溜め池で、あの道は御神木に続いとる。」
目を見て話す人だ。
でも、歩くときは前を見てほしい。
ほら、躓いた。
それより、雑村?何県だろう。聞いたことがない。
しかし、心を見透かされるような目に、何故か強烈な親近感が湧いた。
何もかも話してみよう。
「そうですか、あの、申し上げにくいのですが…………なぜここに自分がいるのかも分からない状況でして。」
「ん?どういうこつかね」
「そこの森で目が覚めたのですが、記憶が連続してなくて、何にも分からないのです」
「なんぞ悪い病気でも患ったかい」
「いえ、体は不思議なことにピンピンしてるんですが…………ちなみに、ここは天国ですか?」
「いんや、天国ではなかよ。そろそろオラにお迎えは来るかもしれんばってん…………」
老婆は何か思い出したのか、立ち止まる。
「あんた、そういえば御神木の方から来たのんか?」
ああ、あの巨木は針葉樹は御神木なのか、言われてみれば確かに神々しさもあり、また特別巨大であった。
「そうかもしれません。大きな木の下で目が覚めました。どうも、それ以前からの記憶と現在の状況が違いすぎて……もしよろしければ、いろいろ伺いたいのですが」
老婆はひねり出すように語る。
「御神木から来なすったとなれば……記憶も無いようだし。召還者かもしれんね…………ありゃー。うん、村長のとこさ連れていくかね……」
お、新たな情報だ。なんだ?召還者?
解ってきた。
これは…………
あまり詳しくはないが、もしかして異世界召還モノか?
死後の世界とは違うのか。
最近、漫画やアニメで見たことがある。
年間数千人が異世界に消えている換算になるくらいライトノベル界を席巻しているらしい。
なぜ自分がそんなライトノベルのような状況に?疑問が多すぎる。
ただし、村長に会えるということは、婆さんより確かな情報が得られるだろう。
老婆が続ける。
「聞いたことはあるけど、私ゃ初めて見るね!」
どことなく嬉しそうだ。
「それじゃ、色々説明しながら行こうかね。」
ありがたい。
半信半疑ながら聞いた内容は以下の通りであった。
ここはザッツ村。
エストリア王国のダナン島にあるらしい。
なお、日本などという国は聞いたことがないという。
ダナン島は山がちな国境の島であり、島民の大半は半農半漁の生活をおくっている。
島の主要産業は交易で、国境を越える商人達が停泊し、市場が開かれることで島を潤している。
島は代々、アルダン家のものが領主が治めており、国王は本土にいる。
ここまで聞いたところで、現実なのか不安になってきた。
季節は春で、そろそろ山には薬草やキノコが湧くとのこと。
老婆は早朝から山に出かけ、一仕事終え、自宅に帰るところだった。
老婆の名前はトリーという。年は85歳。
貴重な薬草が採れたと喜んでいた。
「春先しか採れないものもあるのよ~♪」
「これだけあれば1000ギルは稼げるの~♪」
ウキウキだ。
誰かに話したくて仕方がないのだろう。
自分は「タカユキ」と名乗った。
「聞いた話だけど、大昔、御神木から召還者が現れたことがあるらしいわ。」
村の伝承では、かつての召還者は国境を越えて来襲した隣国の大軍と戦い、島民を守ったとのことだった。
俺にそんな才覚はないが。
「そのバッグ、魔法のバッグやろ?便利なもん持っとるね~。」
魔法?何だって?
頭がついていかない。
このナップサックのことだろうか。中を覗きこむと……真っ暗で何も見えない。
手を入れてみるが……底がない!
途方にくれて、目線を上げると、目の前に……ウィンドウが開いていた。
なんだよ、これ。
手を抜いてみると、ウィンドウは閉じる。
入れると開く。
抜くと閉じ…………もう、いいわ。
わかった。入れると、中にあるらしいアイテムの名前が列記されたウィンドウが開く。
中で手を動かすとカーソルが動き、アイテムが選択できる。試しにボウガンの矢を1本取り出す。
また、入れてみる。
アイテムの数字が変わる。
これが魔法なのか。
windowsぽい配色のウィンドウだな。
よく見ると、左端にお金らしき数値もある。
かなりある……よね。9がいっぱい並んでいる。
「あんた、なんばしよっとね?」
怪訝な顔で話しかけられた。
トリーばあちゃんには見えていないようだ。
「いえ、使い方がようやく分かりまして」
苦笑いしながらナップサックを肩にかけ直す。
「まぁええわ。ほら、着いたよ。」
ザッツ村に着いた。
村は、どこか懐かしさを覚える、まるで絵にかいたような村だった。
高さの低い木製の家屋。
屋根は、薄い石のようなもので葺いてある。
瓦ではないようだ。
家屋の周囲には畑があり、軒先には魚が干してある。
猫が寝ている。
日本で言えば、江戸時代って感じかな。
キョロキョロしていると、トリーばあちゃんを見失った。
途方にくれる。
「こっち、こっち!」
ばあちゃんが手招きしている。
上から下へ。
間違いない、日本語が通じることに加え、手招きの方法が和風だ。
なんらかの日本文化の影響下にある。
小走りにトリーばあちゃんに駆け寄る。
さあ、ドッキリの種明かしを聞きに行こうか。