<本日より姉として同居させていただく椿です>
もし契約一つで望んでいる家族を迎えることができるのならばあなたはどうしますか...?
[ファミリー・コントラクト(契約家族)]とはその名の通り契約上で成り立っている家族のことを言う。
あまり珍しくなくなったこの契約家族は今では誰でもネットで契約をすることが可能となった。
しかし契約金は1500万~5000万と家族の種により異なっていくものの相当の額であった。
事故や病気等で家族を失い契約をする場合は政府からの援助が4割程出る。
出生率と結婚率が低下傾向にある今、多くの専門家により[国民の良い暮らしを維持させていくためには家族が第一だ]と考えられ政府により近年普及されていった。
これからの話はそんな世の中のとある契約家族の話である。
***
薄暗い部屋のパソコンの液晶に大きく<契約完了>の文字が映っている。
現時刻は深夜の2時。
作業に集中していたからなのか全く時間を気にしてはいなかった。
長時間にわたっての作業だったため体力的な疲労と共に精神的な疲労がかなりきていた。
もう立ち上がることすら困難なくらいに疲れていた1人の少年は机に突っ伏してそのまま眠ってしまった。
気づけば既に時計は朝の11時を回っていた。
カーテンの微かな隙間から射す太陽の光は微妙に眩しく感じる。
また寝落ちしてしまったのかと自分に呆れながら少年はゆっくりと身を起こす。
「おはようございます。響希くん」
突如女性の声で挨拶され響希と呼ばれた少年は驚き椅子から立ち上がろうとしたが寝起きのためか思うように体が動かずそのまま床に仰向けで倒れてしまった。
「痛ってぇ...」
不幸にも後頭部を強く打ってしまい頭を抱えるようにしてうずくまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
その声の主は慌てるような口調で響希のもとへと駆け寄り心配そうに再び声をかける。
「すぐ冷やす物を持ってきますから少し待っててくださいね!」
慌てるようにして声の主は台所の方へ駆けて行った。
響希は眠気と激痛に見舞われ一体誰なのか確認することはできなかった。
少しすると急いで声の主が響希のもとへと戻ってきた。
声の主はタオルにくるまった保冷剤を響希に渡した。
やっと物事が落ち着き声の主を確認するため恐る恐るゆっくりと顔を上げる。
「誰なんですk....」
響希は最後まで言えずそのまま固まってしまった。
なぜなら彼の目前には目を疑うような美貌の一人の女性があったのだ。
それはあまりにも出来すぎていた。
ストレートの銀色の髪、吸い込まれるような綺麗な瞳、スッと高く整った鼻筋、潤いに満ちた唇。
まるでこの世の全ての美を司る女神ような女性は響希の様子を見るなり安堵の微笑みを見せる。
響希は胸のあたりが急にきゅっと締め付けられるような気がした。
彼女に見とれているとその女性は何かに気が付いたように響希に向き直し姿勢を正して響希の前に正座した。
「挨拶が遅れました。私はファミリーコントラクトサービスより参りました。この先響希くんの[姉]として同居させていただく椿と申します。ご迷惑をおかけすることもあると思いますが、何卒末永く宜しくお願い致します」
椿という女性はそう挨拶を済ませるとゆっくりと両手を床に置き頭を下げる。
響希はその瞬間に昨日の深夜まで自分が何をしていたのかを思い出し今自分の目の前で起きている状況を理解した。
「こちらこそよろしくお願いします。椿さん」
響希は微かに笑みを浮かべそう言った。
初めまして
齋藤律華です。
今回が初投稿となります。
まだまだ至らぬところが多くありますがこの先よりよい作品を作っていけるよう努力いていく所存ですので何卒宜しくお願い致します。




