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人生航路  作者: 智楼
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年末年始⑥

今年は十二月三十日が仕事納め。

三十一日、子供達を迎えに行こうと前々から計画を経てていた。きっと浩一も真由美も楽しみに待っていることだろう。

こうして年末に子供達を迎えに行くのは今年で最後、三月になったら子供達が帰って来る。


三十一日、いつものように朝早く、孤児院へと車を走らせる・・・あの案内看板を通り過ぎると孤児院が見えてくる。

孤児院に着いたのが九時頃、真由美が先生と、玄関で待っていた。

『お父さん、早かったね~』

「そうだよ、飛んで来たんだよ」

『ヤッター』

「浩一はどうした?」

『たぶん友達と遊んでる』

「そうか そろそろ浩一呼んできて。早く来ないと置いて行くぞって」

『はぁ〜い』

真由美が駆け足で呼びに行き

『お兄ちゃん、お父さん来てるよ、早くしないと置いて行くってさぁ』

『分かった、片付けたら直ぐ行くって言って』

駆け足で戻って来る

『お父さん、お兄ちゃんが片付けたら直ぐ来るって』

「せっかく早く来てるのに早くしろよなぁ〜マユ」

少し前までは、いの一番に待って居た浩一だったのに、最近は親離れの時期なのか待っていないで遊んでいる。私が来た事に気が付かないのは少し寂しい。

『あーごめんごめんみんなで遊んでた』

「あと三秒 遅かったらもう行っちゃったよ」

『うぉーあぶねーあぶねー置いてかれるとこだった』

「おしかったなー、もうちょっとで置いてけ堀だったのに」

『うぉ〜あぶなかった』

「アハハハハハ」

先生と大笑いした、浩一と冗談が言えるようになった事が本当に嬉しい。

『ねぇねぇ、お父さん、早くお家帰ろうよ』

「おーそうだそうだ、帰ろうか それでは先生、行って来ます」

「はい、気を付けていってらしゃーい良いお年を」

「あっはい、良いお年を」

『行ってきまーーす』

『行ってきまーーす』

三人は車に乗り走り出す、騒がしい車内、嬉しそうな子供達、私は、たまに寄るレストランでお昼でもと思い途中のレストランへ。

「お前達の好きな物を頼みな」

『僕、カレーライスがいい』

『真由美もカレーライス』

「お前達、レストランでカレーライスでいいのか?じゃぁお父さんはカツカレーにしようかな」

待ってる間も楽しそうな二人、そんな子供達を見てる私も嬉しいと心から思う。

「お待たせ致しました」カレーライスが運ばれてきた。

「さぁ、食べるぞ」

『お父さん、カツ一切れ、ちょうだい』

「じゃぁ、一切れずつなぁ」

『やったね!俺達のもカツカレーになった』

「ゆっくり、食えよ」

『うん』

「帰りにスーパーに寄って買い物してから家に帰ろう」

『うん分かった』

「食べ終わったか、じゃぁそろそろ行くか」

お会計を済ませ外に出ると、さすが大晦日、沢山の人が歩いていた。


三人は車に乗り、家の近所のスーパーに寄って、子供達が食べたいと言うものを買い、我が家に帰って来た。

家に着くなり浩一は・・・

『やっぱり家はいいなぁー、居心地がいいよなー」

浩一も大人のような口を聞くようになった。来年の四月から中学生。

「浩一、そんなに家がいいか?」

『家がいいに決まってるじゃん』

「そうか、あと少しだからな、頑張ってくれよ」

『分かってるって』

「真由美も頑張ってよ」

『うん、大丈夫、頑張るから』

真由美も大人になった。

本当に浩一も真由美は素直で良い子になった。


夜になり、三人で夕飯を食べ、テレビを観たり、色々な話をし、あっと言う間に楽しい時間が過ぎて行く

「今日は特別、何時までだって起きてていいぞーっ」

二人同時に

『やったぁーー』

毎年恒例であるテレビ番組、紅白そして、行く年、来る年を三人で観ながら年越しそばを食べる

やがて子供達は寝てしまった。私は一人静かに考える、三月になればイヤでも子供達が私の傍に居るイヤ!いやじゃない。楽しみでしょうがない。


元旦

私は、元旦だと言うのに早起きした。子供達もそろそろ起きてくるかなと思ってたら浩一が起きてきた

『お父さん、明けましておめでとう 今年もよろしくナリー』

「浩一はコロスケか?おめでとうは一回言えばいいナリよ」

子供達は何かある日は本当に早起きだ。

『お父さん、おはよう、あっ!明けましておめでとう 今年もよろしくお願いします』

「はい、おめでとう、今年もよろしくねって二回目ね」

「そうだお前達、今日は元旦だろ?お風呂沸かしたから順番決めて風呂に入ってこい」

『朝から風呂かぁ~じゃぁ真由美ジャンケンしよ 負けた方が先ね』

言いだしっぺの浩一が負けた

『やっぱ勝った方が先~』

「ほらウダウダしてないで早く入ってこいよ 浩一!」

『分かった』

五・六分くらいで浩一は出てきた。

「随分早いな~浩一は~ちゃんと洗ったかぁ?」

『洗ったよ~』

「それじゃぁ、カラスの行水だっつーの・・・まっいいや、次 真由美入ってこい」

『うん分かった』

真由美はさすが女の子、少し長めのお風呂を楽しんでいた。

『お父さん、上がったよ』

「ゆっくり入ってきたな。次お父さん入ってくるから、その間、ご飯食べて、出かける準備しておけよ」

『今日どっか行くの?』

「まぁーな、それはあとの楽しみ、じゃ風呂入ってくるから」

風呂に浸かりながら・・・浩一と真由美の楽しそうな声が聞こえる。三月になれば子供達が帰ってくる。

きっと毎日が賑やかになる事だろう。

朝風呂は気持ちがいいな~。


風呂から出て、私も出掛ける準備をした。

『ねぇねぇお父さん、どこ行くの?』

「今日は元旦だし、初詣に行こうと思ってさぁ」

『本当に、どこの神社まで行くの?』

「狭山湖辺りドライブがてら所沢の山口観音にでもお参りしようか」

『うんいい、いい、じゃー早く行こうよ』

『マユ、靴下履いてくるから待っててお父さん』

「分かったよ、そんなに焦るなって」

子供達は出かけられる事でワクワクしている。

三人は車に乗り、狭山湖方面へ向かった。元旦だから道路は空いているけど、神社に近付くと人、人、人で賑わっていて、沢山の出店が並んでいた。

『お父さん、凄い人だよ。これ、みんなお参りに来てるんだね』

「そうだな、お参りするのに、あの列に並ぶようだな」

『えっ!あの列に並ぶの?』

「時間はあるし三人で並ぼうよ」

「お前達に、お賽銭 渡すから。今年は良い事がありますように。ってお願いするんだぞ」

『何で、お賽銭17円なの?』

「これには意味があって語呂合わせ11510(いいこと)って事で、一円二枚・五円一枚・十円一枚で17円なんだよ」

『へぇ~そんな事 初めて知ったよ』

「そうだろ、これはお父さんが勝手に思いついた語呂合わせだから」

『な~んだ~ぁ』

「お賽銭なんて、いくらでも良いんだよ。その人の気持ちだからさ」

『ふ~ん』

三十分も並んだ頃、やっと順番が回ってきて、お参りを済ませた。

「浩一と真由美は何お願いしたんだ?」

『真由は、早く三月になりますようにと、お家に早く帰れますようにと、絵が上手に描けるようにと・・・あと何だっけ?』

「真由美、随分いっぱいお願いしたな~でも残念、神様があと二十円足りないからダメだって」

『そんな事言ってないよ~せっかく来たから、これでお願い聞いてくれるって』

「そうか 良かったなぁ~アハハハ」

「ところで浩一は何んてお願いしたんだ?」

『僕?僕のはねぇ・・・内緒。話したら、願い事が叶わなくなるじゃん』

私は何となく浩一のお願い事が想像ついたが、ここは聞かないでおこう。

そして、破魔矢と熊手とお札を買い、夕方、我が家に帰って来た。


「お前達、夕飯 雑煮にしようか?」

『僕、お雑煮大好きぃ、いいねぇ』

『真由も、お父さんが作ったやつが好きだからお雑煮でいい』

「じゃぁ夕飯は雑煮で決まりな」

私は出汁を取り、野菜を入れ具沢山の雑煮を作る事にした。子供達は、私が作った料理に文句も言わず、

美味しいって言ってくれるその言葉で十分

「お前達、いっぱい食えよ後で腹へったなんていうなよ!」

今は、これくらいの事しか出来ないが、私なりに精一杯やってるつもりだが、不敏な思いもするだろうけど、どうか、我慢してくれ。


夕飯を済ませると、子供達も疲れたのだろう直ぐに寝てしまった。

明日は、どこも行かず我が家でのんびりしよう、そんな事を考えながら眠りに就いた。


二日

子供達は、楽しそうに外で遊んでいる。


♪トゥルルルル♪トゥルルルル♪

「もしもし」

「もしもし平田だけど」

「お~平田か、おめでとう、今年もよろしくな」

「おめでとう、こちらこそよろしくな」

「子供達は帰って来てんだろ?」

「帰って来てるよ」

「さっき金井から電話がきて明日みんなで出掛けないか?って誘われたんだけど、どうせ予定ないだろ?」

「あ~何にも予定がなくてどうするか考えてたんだけどさ~ちょうどいいから行くよ」

「そうか、じゃぁ明日、金井の家に十時頃ってことでよろしゅうすか?」

「よろしゅうっすよ、そんじゃ子供達と一緒に行くよ」

「じゃぁ金井に電話しておくからまた明日な」

「おう!よろしく言っておいて、そんじゃぁ また明日~」

私の友人、平田と金井は、いつも子供達の事と私の事を心配してくれ、いつも気にかけていてくれる。私にとって最高の親友である。


三日

「浩一・真由美 出かけるぞ」

『どこ行くの?』

「それがお父さんにも分からない、金井おじさんが何か計画してるんだってさぁ」

『え~?ホントに~』

浩一と真由美がコソコソ話しを始めた。

『ねぇ、お兄ちゃん、どこ連れて行ってくれるんだろうね?』

『どこだろうね?僕、遊園地だったらいいな~』

『真由も遊園地だったらいいな~』

『どこか やっているとこあるのかな?』

『分かんない』

三人は準備をし金井家に向かった。十時前に着くと平田家族も来ていて、車三台でアスレチックへ。

金井の車の後ろを付いて行った。

アスレチックの駐車場に着いたものの、車は一台も止まっておらずガラガラ、とりあえず、みんなで入り口辺りまで歩いて行くと門が閉じられていた。

【年末年始 休業のお知らせ】

十二月三十一日~一月三日までお休みさせていただきます。


こうして門に看板が立てかけてあった。

「な~んだ、休みかよ」

「三が日なんか、やってる訳ないよな~」

「金井、それ知ってて来たのか?」

「俺、そんな事、知らねよ」

『え~休みなら遊べないじゃん』

『真由も楽しみにして来たのにな~』

「お前達、残念だったな」

金井と平田三人は顔を見合わせて笑った。

「これが、今年一発目の初笑いだな、アハハハハ」

「アハハハ、そうだな」

『ちょっとラッキ~じゃぁ仕方がないから遊園地にしようよ』

「遊園地はやってるかねー」

「多分やってねぇな どうするか?」

「じゃぁ、これからみんなで家に来いよ」

「平田の家にみんなで行ったら煩くなるぞ」

「気にするなよ、いいから来いって」

『え~~』

休みなら仕方がない、そのまま平田の家に向かった。


私と平田、金井と三人は久しぶりに昔話に花が咲き、子供達は子供達同士で楽しんでいた。



「今日は、大勢居るから夕飯カレーでいいかしら?」

「俺達は何でもいいよ、平田の奥さんに任せるから」

「平田さん、私も手伝うわ」

平田の奥さんと金井の奥さん二人はキッチンへ行ってしまった。

カレーのいい匂いがしてきた。

「みんなカレー出来たから夕飯にするわよ」

『うわ~美味そう』

「沢山作ったから、おかわりしてね」

「佐山さん、カレー辛口だけど、浩一君と真由美ちゃん食べられるかしらね」

「あいつらなら辛くても食べちゃうよ」

「うちのカレー本当に辛いのよ、主人が辛くないとカレーじゃないって言うもんだから」

「カレーは辛い方が美味いもんな」

「どう?浩一君も真由美ちゃんも辛くない?」

『うわっ辛~い』

『真由は平気~』

浩一は辛くて辛くてヒーヒー言いながらも何とか食べ終えた。

「お前達、食べ終わったら自分でお皿もってけよ」

『はーい』

『はーい』

友人達とこんなに騒いだのは何年ぶりだろう 今は楽しいのに心のどこかで明日のことがチラチラする事があり顔には出さないが時間が経つにつれて気持ちが暗くなる。時計を見るともう四時を過ぎてる

「うちは、そろそろ帰るかな」

「まーだ早いんべよ」

「そうだよ、せっかくの正月なんだから、ゆっくりして行けよ」

「そうしたいんだけど、明日は子供達を孤児院に送って行かなきゃならないからさ」

「あーそうか。じゃぁ仕方ないな、また今度遊びに来いよ」

「おぅ、そうさせてもらうよ」

「浩一・真由美 そろそろ帰んなきゃだ、おじさんとおばさんにお礼言って」

『は~い。おばちゃんごちそうさま~』

『おばちゃんカレーすごく美味しかった。また来るねぇ』

「じゃぁ、平田帰るから、金井またな」

「おー気を付けて帰れよ」

『おじゃましましたぁ~』

「気を付けろよ」

『みんなバイバーイ』


三人は我が家へ帰って来た。

「浩一も真由美も、もうちょっとしたらでいいから、明日の準備しておけよ」

『うん分かった』

『真由はもう出来てる』

「真由美は偉いな、浩一、早くやっちゃえ」

『あーはい 後でする』


四日

今日は、子供達を孤児院に送って行かなければならない。あと少しの辛抱と自分に言い聞かせた。


『ねぇ、お父さん早く三月にならないかなーそしたらお家に帰れるもんね』

「そうだよ、真由美の終業式が終わったら必ず迎えに行くから」

『あと三ヶ月か~ 長いよな~』

『真由は、このまま ずっとお家に居たいよ』

「な~に、浩一も真由美も五年の間 頑張ったんだから あっと言う間に三月になるって」

子供達は、あと三ヶ月ならもうここに居ても良いよねと言いだしそうだった。しかし決まりは守らないと、

午後 子供達を孤児院へ送って行った。 


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