由美子から電話
もう十月になってしまった。
私は仕事の疲れか深い眠りに就いていた。
深夜三時。
♪トゥルルルル♪トゥルルルル♪トゥルルルル♪
こんな時間に電話してくるのは由美子しかいない。眠たい目を擦りながら受話器を取ると。
「はい、もしもし」
「もしもし私」
「由美子かぁ、こんな時間にどうした?」
「相談があるんだけど」
「相談?」
「浩一と真由美を孤児院から出して、私が育てたい」
「え?なんでどう言う心境で?」
その時の由美子は女ではなく一人の母親になっていた。
「由美子がそう言うなら、喜んでOKだけど」
「ありがとう。最近の子供達の写真あったら送ってくれないかしら?」
「あーあるよ、分かったよ。良いやつ探して送るから待ってて」
「ありがとうお願いね」
子供達と別れるのは、とても辛いが自分勝手な事など言ってられない、浩一・真由美が母親の元で幸せになるなら仕方がないと自分に言い聞かせた。
「子供達の幸せは、俺たち二人で考えなければならないんだよ」
「本当にそう思う、もう時間が時間だから、また電話するから」
「分かった詳しい話しは、またじっくりしよう」
「それじゃ おやすみ」
「ん、じゃぁ また おやすみ」
そう言って電話を切り、この女も母親なのだと思った。
その日から、私は一日 気分が良く仕事が出来て、心も体も弾んだ。
しかし・・・・・一週間後
♪トゥルルルル♪トゥルルルル♪
時計を見たら深夜三時半だった。由美子から電話と直ぐ分かった。
「はいもしぃ~」
「もしもし私、寝てるとこごめん、この間の話しだけど」
「あー寝てたけど、こんな時間にどうした?」
「私が子供達を育てたいんだけど二人の親権をこっちにくれない?」
「ハァーこっちに?・・・・どうして、この二人の子供達俺の宝だぞ!親権までやれるものか」
つい気が荒立ってしまい強く言ってしまう。
「これは、私の考えじゃないのよ」
「由美子が生んだ子供なのに、他人の考えなどで左右されては、たまったもんじゃない。確かに他人の考えも大事だが、それを決めるのは俺たちだぞ!本当に我が子を愛しているなら、もっと違う考え方があるだろう?」
話しをしているうちに、話題があっちにいったり、こっちにいったりで話の内容が掴めない。
もう少し、時空のいい女と思っていたのに・・・
「そんな考えなら由美子に、浩一と真由美を決して渡すものか」
それだけを言い、私はいきなり電話を切ってしまった。
いきなり電話を切った事が悪いと思い、すぐ二度ほど掛け直したが、由美子が電話に出る事はなかった。
それから床に就いたが寝る事が出来ず朝になってしまった。
由美子から子供達の写真を送って欲しいと頼まれ、封筒に入れ速達で出すつもりだったが、昨日の電話で気が変わり出すのをやめた。
そして、仕事から帰り、由美子へ出すつもりの写真を抜いて封筒を破って捨てた。
いくら愛している女でも、少しはケジメを付けなければと思うが、やっぱり由美子を愛している。
大きくなって、浩一・真由美は、きっと必ず母親の所に会いに行くだろう。決して悪いとは思わないし、自分の母親だからあたり前の事かもしれない。
あと二年、浩一が中学生、真由美が五年生になったら必ず親子三人で生活しよう。
そして、由美子が真剣に二人の子供達の事を考えてくれるなら、イヤ!考えた時、二人の子供達を由美子にやろう。
悲しい事だが、母親の方が良いと思う。母親と父親を比べたら遥かに母親の方が上、二人の子供達に気を使っても母親には敵わない。
今思えば、由美子との電話の会話はまるでケンカをしているようだった。
二人の子供達を孤児院に預ける前から、ずっと幸せのために長く考えてくれと言っていたのに知らん顔、横浜に何回も行って話ししたのに・・・・・
やっと由美子を忘れかけようとしてきたのに今頃になってこんな話しをするなんて本当にどうかしてる。
その時なぜその事を責められないのだろうか?
私がどうかしてるのかもしれない。
[仕事終え 家路に急ぐ 心虚しい 誰も待つ者なし 暗い我が家 何と寂しい
一人思うは我が子の事ばかり あー!心寂しい 身も悲しい 我が子思い 一人涙ぐむ]
あれから二ヶ月、由美子から何の連絡がないまま、あっと言う間に十二月、今年も残り一ヶ月、年末年始には子供達と過ごす予定を経てていた。
日曜日の深夜二時だった。
♪トゥルルルル♪トゥルルルル♪
直ぐ由美子からだと分かった。
「もしもし」
「・・・・・・・・・」
すすり泣く声、由美子は泣いていた。
「どうした?」
「一日も早く、そっちに帰りたい」
泣きながら言う由美子、本心だと思った。
「由美子が帰って来ると言うなら、一日も早く親子四人、ゼロからやり直そう。帰る用意が出来たら直ぐに迎えに行くから、そしたらその足で浩一と真由美を迎えに行く」
「そうしてくれるなら助かる 話しがはっきりしたらまた電話する」
「OK 連絡待ってる それじゃまた」
「うん おやすみなさい」
「おやすみ」
そう言って電話を切った。
私は本当に嬉しかった。
次の日、銀行へ行き、お金を下ろしていつでも迎えに行ける準備をした。
仕事をしていても嬉しくて仕方がない。来年の正月は親子四人で迎える事が出来ると思っていた。
それから三日経った日・・・
♪トゥルルルル♪トゥルルルル♪
「もしもし」
「もしもし私だけど、やっぱり帰る事が出来なくなったの」
「あ?! またかぁ?」
その時、私は自分の事が馬鹿に見えて仕方がなかった。もう、あの女の事は信じまい、いくら愛していても、これほど馬鹿にされ、どうしたらいいのか悩んだ。
「お正月に帰って来い、一月十日まで子供達居るから、浩一と真由美と三人で待って居るから」
「・・・・・・・・」
由美子は何も言わなかったが、それだけ伝え電話を切った。
そして十二月二十八日、浩一・真由美の待つ孤児院へ行き三人で我が家に帰って来た。
子供達は地元の友達と楽しそうに外で遊んでいる。
私は、もしかしたら由美子から電話があるかもしれないと思い一度も外出しなかった。
元旦
♪トゥルルルル♪トゥルルルル♪
「もしもしぃー」
「もしもし佐山?俺だけど」
「おー平田か~明けましておめでとー」
「おめでとう、今年もよろしくな!」
「こちらこそ よろしくな!」
「昨日の夜、由美子から電話きたぞ」
「平田のとこに由美子から電話がいったのか」
平田には、あえて詳しくは聞かなかった。
「子供達 来てるんだろ?」
「来てるよぉ 十日まで一緒に居るよ」
「そうか、子供達、喜んでるだろう 楽しい正月にしてやれな」
「おう!ありがとうな、それじゃまたな」
なぜ由美子は家に電話を掛けてこず、平田に電話したのだろうか?
そんな事をしているうちに、一月十日、子供達を孤児院に送って行く日になってしまった。
由美子が帰って来ると思って親子三人で待っていたのに・・・・・
子供達が帰った次の日
また、いつものように深夜だった。
♪トゥルルルル♪トゥルルルル♪
「・・・・・・・・・」
いくら愛しても、愛すだけの値のない女と思ったから無言で受話器を取った。
「もしもし私だけど」
「・・・・・・・・・」
「ごめんなさい やっぱり帰れない、私、自分の事でいっぱいいっぱいなの もう迷惑かけないから」
由美子は、一方的に自分の事ばかり話し、子供達の事は何一つ聞こうとしなかった。
この女の事、本当に嫌いになった。
「もう、由美子と話す事は何一つないから」
「では、電話を切るわね」
「あーいいよ」
「話しがあるなら、また直ぐ電話をかけてきて」
「もう話は何もない」
そのまま電話を切り、二度と私から電話する事はなかった。




