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人生航路  作者: 智楼
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孝の気持ち

一月の連休も仕事に出た。

体がキツイとか、休みたいとか言ってはいられない。

最愛の子供達が、どのような想いで孤児院に居るかと思うと私の都合で仕事など休めるはずがない。

遊んでいるより仕事をしてる方が子供達に対して許しをこう事が出来るような、仕事をしていれば少しは、ほんの少しは、子供達に言い訳出来るような気がした。

それは、私の考えだが、子供達だって、きっと言い訳を理解してくれている。

浩一・真由美がついこの間までここに居たと思うと何でもないのに涙がこぼれて、子供達に会いたくて会いたくて、せめて孤児院に電話をしようと思ったが出来ずにいた。

浩一・真由美 父さんは、お前達が居なければ寂しくて仕方がない。

毎日、毎日 お前達の事を考えては涙を流し、これから先どう生きて行けばいいのかも分からない。

今日も、浩一・真由美の事を考えると会いたい、我が子に会いたい。

何故、我が子と別々に生活するのだろう?

何故、父子が別々に生きて行かなければならないのだろうか?

分かるような、分からないような、何が何だか分からない。


あっ!今日も浩一と真由美の声がする。

子供達!父の気持ちが分かったなら、勉強など出来なくてもいい。横道にはそれず、一人前の人間になってほしい。そのためなら、どんな努力もする。

浩一・真由美のためなら命を捨ててもいい、それがお前達のためなら。


浩一・真由美、父さんも若い頃は横道にそれた時もあったけど、これは人間の行く道ではないと気付き元の道に戻った。

そして・・・

お前達の母親に出会い、お前達の母親に惚れ、この小さな命をかけて泥沼から母親を救った。

それから一緒に生活するようになり、浩一・真由美が生まれ、人一倍働き、一円でも多くの金を稼ぎ、お前達と母親にやりたい気持ちが強かったのに・・・

仕事一途な事に嫌気がさしたのか?

家庭を帰りみず、仕事ばかりしている事に不満だったのか分からないが、私・浩一・真由美を捨て出て行った。

そんな中、お前達の母親と幾度もなく会い話し合ったが、子供達の事、これから先の事など全然 考えておらず遊び半分でお前達を生んだような事を言う。

本当かどうかは分からないが、馬鹿な女に惚れたものだ。

お前達の母親の悪口を言っていると悲しくなるから、このくらいでやめよう。

いつも言っているが、お前達の母親を今でも愛している。

お前達の母親は、この広い世界でたった一人しか居ない母親。


浩一・真由美 これから先、もっともっと苦しい事、悲しい事が色々あるだろう。

この父は出来る限り、お前達の話し相手になるつもりだ。何でもいい!この父に話してくれ!


天気は晴れ、日曜日だが仕事に出た。

楽しそうな家族連れの車、それを浩一・真由美に例え横目で見ながら都内をトラックで走っていた。

何と心苦しい、惨めなひと時だろう。

車の中で楽しそうに話してる家族、数年前の我が家もこれと同じだったのに、今の私に羨ましさの気持ちで

映るとは・・・

何を言ってる、私にだって可愛い、浩一と真由美が居る、二人の父親じゃないか。

少しでも多くの物、少しでも多くの金が子供達のためになるならと思い仕事に励んでいる。そして、悲しくなるのを防いでいる。


日曜日だと言うのに子供達に会いにも行けず、浩一と真由美は恨んでいるかもしれない。

お前達が辛い日々を送っているからと言って、日曜日だからと言って、仕事を休んでのんびりなど出来るはずもない。

早く、一日も早く、浩一・真由美と一緒に生活出来る事を祈らずにいられない。

明日も仕事、まだ太陽が上がらないうちにトラックで都内に向かう。

今日も同じ、明日も明後日も、同じ毎日が来るだろう。

面白くもない何ともない毎日、一人で居る時が一番イヤだ!

きっと、私みたいな男は、悲しがり屋で寂しがり屋なのだろう。口では強い事を言っていても、いざ一人になると寂しくて、寂しくて・・・

数年前は、あんなに賑やかだった我が家、その時は気が付かなかったが、一人の時間が増えると色々な事を思い出す。

愛する浩一・真由美、元気で居てくれ!

二人の子供達は、今日も学校に行っているだろうか?

正月以来、毎日毎日 子供達の事ばかり、今度いつ子供達の所へ行こうか?そればかり考え、これが生き甲斐。


人間として、男としてこの世に生まれ、人並みに人の親になりながら、人並みの親になれないとはきっと、この世の中で不幸な人間の一人に入るかもしれない。

妻も居れば子供も居る、なのにみんなと別れて生活しなければならない。

子供達と別れて生活するなら死んでしまった方がいい。

何の楽しみもなく、仕事まで面白くない それなら仕事などしない。毎日遊んで暮らしたらいい。

何故、仕事をするのだ?

目的もなく仕事をしている人間が馬鹿みたいに思える。

自分も馬鹿だから仕方がないか?

こんな事を思っていても、浩一・真由美と早く一緒に生活したいから、お前達と苦しい時も悲しい時も、そして楽しい時も共にしたいから、一日も早くその日が来るために一生懸命に働く。

本当に、お前達には親らしい事を何もしてやれず、悲しい思い、寂しい思いをさせてしまった事に私は何と言っていいのか分からない。

これで少しは私の気持ちが晴れた気がする。

一月二十九日 東京は大雪だった。





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