真由美の怪我
昭和五十三年十月二十五日の事。
夕方、仕事から帰り夕飯の用意をしていると、一本の電話が・・・由美子からだと思った。
♪チーンチリチリチリチーン♪
「もしもし」
「もしもし、I・Vです。佐山真由美ちゃんのお父さん?」
「はい、そうですがどうかしたんですか?」
「今日の放課後、真由美ちゃんが学校のうんていで遊んでいる時に落ちて、右腕を骨折してしまい、直ぐ病院に連れて行き入院することになりました」
「それで、真由美は大丈夫なんですか?」
「既に病院で治療をして、今は安静にしています。明日 佐山さんは来られますか?」
私は、ビックリした。まさか自分の娘が骨折して入院してるとは・・・
「はい、明日早めに行きます」
「分かりました。それではヨロシクお願いします」
次の日、仕事を休み、孤児院に向かった。
朝、七時ころに孤児院に着き、通学前の浩一が走って来た。
『パパ、真由美の入院しているA病院に行くの?僕もお見舞い行きたい』
「浩一は学校があるだろ、学校おわった頃また来るから、そしたら連れて行ってやるから」
『分かった、じゃ僕、学校行くね。行ってきます』
「行ってらしゃい、気をつけろよ」
『はーい』
出来る事なら、浩一も一緒に病院に連れて行きたかったが、学校を休ませる訳にはいかない。
私は、孤児院の事務の人にA病院の場所を教えてもらい地図で調べ真由美の入院先へ急いだ・・・・・
そして病院に到着 受付にて真由美の病室を聞き急いだ
病室に入ると、真由美の右手が高い位置から吊るしてあって、右手がギプスされ使えず食事も一人では出来ない状態で当分は入院かと思った。
「真由美、大丈夫か?」
『あっ⁈パパがきたぁ!骨が怪我しちゃた』
「も〜う、心配かけやがってこの子は本当にも〜ぅ んで腕 痛いだろ?」
『少し痛いけど大丈夫』
今日は、父として、真由美の父親として少しでも父親らしい事をしてやりたいと思い。
「パパ、後でお兄ちゃん連れて来るから、それで今日パパはここに泊まるから!」
『パパ、泊まるの?どこで寝るの?』
真由美は、寝る場所まで心配してくれた。
「パパ、真由美の横で寝るから」
『ふう~ん』
午後三時頃、一旦浩一を迎えに孤児院へ浩一を連れ真由美の病院へまた戻りいろいろと話しをした時間が経つのは早い、そろそろ浩一を孤児院へ返さないといけない 浩一は真由美が羨ましくて、いいな、いいななどぐずぐずしてる かわいそうだけど浩一を施設へと送り別れた そして病院へ戻る さすがに少し疲れた
病室で一泊二日、真由美の付き添いをした。真由美は言う事を良く聞いてくれる、子供にしたら良く出来た子だ。
真由美は一人でどんなに寂しかった事だろう、どんなに辛かった事だろう。
そんな事を思い、二日間、真由美の傍に付き添い、しかし、長く仕事も休めないから、あとの事は孤児院の先生にお願いした。
寂しさ、悲しさを顔に出さない真由美、何を考えているのだろう?
このような時、傍に居てやれない心の苛立ち、可哀想な真由美、もし出来る事なら、何もかも捨てて真由美の所に飛んで行きたい気持ちだ。
浩一と真由美が大きくなり、一人前の人間になったら何と言われるのだろうか?
何と言われても仕方のない事だが・・・
一度しかない人生を、最愛の子供達は親元を離れ生活しているのだ。
浩一・真由美、これでも一生懸命生きている。たった一人で、お前達二人と一緒に生活出来る事を夢見て。
しかし、私は人間として最低な人間だと思っている。
可愛い二人の子供達を手離し、あの時、父と離れる時どんな気持ちだっただろうか?
それを考えると子供達の気持ちが痛いほど良く分かる。
私も、海上自衛隊に入隊する時は一人ぼっち、家に帰りたくて、帰りたくて仕方がなかったけれど、幼い子供達の事とは話しが違う。
きっと、老いた頃には子供達から見離されるだろう?
今、子供達を見離したように・・・
どのような事があろうと驚かない。私がした事を良く分かっているから。
今度の日曜日 真由美の所に浩一を連れて行こう。
真由美の好きな物を沢山買って・・・
日曜日 仕事が休み
今日は、真由美のお見舞いに行くと決めていた。
いつものように車を走らせ、まず孤児院に向かい浩一を連れて病院に行った。
「真由美、来たぞ!」
『パパー来てくれたの』
「浩一も一緒に来たぞ」
『お兄ちゃん』
『まゆ大丈夫?』
『うん、まだ動かしたり出来ないけど大丈夫』
「そうか、早く治るといいな」
『治ったら、学校行きたい』
まだ七歳の真由美だが、親が傍に居なくても、しっかりした子供に育っている。
私は少し安心し、遅くならないうちに真由美に別れを告げ、浩一を孤児院に送り、一人我が家に帰って来た。




