真由美が帰ってきた
九月二七日、夜になって急に雨が降ってきた。
「なんか、凄い雨降ってきたねぇ」
「う~ん、これじゃ~ 明日も雨かもしれないね」
「明日の仕事はどうかなぁ」
少しして、眠そうな浩一を母が寝室へ連れて行った。
私は一人テレビを観る
♪トントン♪
玄関をノックする音が聞こえたような・・・・・
♪トントン・トントン♪
雨音にまじり、気のせいかな?
耳を澄ましてみる。
♪トントン♪
あれ?やっぱり誰か来てる。
誰だろうと思い玄関のドアを開けてみると、傘をさした真由美と義姉が二人で立っていた。
孝は一瞬、目を疑った。真由美は顔を見るなり。
『パパーただいまー』
そう言って飛び込んで付いてきた。
「良く帰って来た・良く帰って来た」
突然帰って来た真由美を抱き、流れる涙で目が霞み顔が見えない。
「孝ちゃん元気?」
「あぁ~元気だけど、まぁまぁまぁとにかく早く入って入って」
孝には聞きたい事が沢山あるようで・・・・・
「昨日さぁ、由美子が家に来て真由美を孝ちゃんの所へって頼まれちゃってさ、真由美が居ると仕事が探せないとか出来ないとかで、由美子は自分じゃ川越へ連れて行く事が出来ないから、私に連れ行ってくれないかって勝手な事ばかり言うのよ~まったく私も忙しいのに・・・・・孝ちゃん、何の連絡もしないでごめんなさいね」
「あっいやいや義姉さんが謝る事じゃないよ、とりあえず真由美が元気で良かった、由美子は元気で居るのか?」
「由美子は元気よ!」
「そっかー、ちょっとそれも心配だった」
母は浩一と一緒に部屋で寝てしまったようだ。起こそうと思ったが明日、今の事を報告しよう。
しばらく、そのような話をしていた そして、
「孝ちゃん、私はこれで帰るね、何かあったら連絡ちょうだいね。真由美の事お願いね」
「あー分かった、今日は本当に、すまなかったね ありがとー」
やがて義姉はもう今日は遅いから帰ると言い帰った。
「真由美、今日はパパと一緒に寝んねしよう」
『うん、パパとねんねする』
次の日の朝
浩一が起きて来た時、真由美が居るのでビックリした様子で、
「あっマユが居た???」
あれから一ヶ月が過ぎようとしている。
こんなに我が子の事を思っているのに、由美子は何も心配しないのだろうかと思っているうちに、自分で自分が馬鹿らしくなったと同時に、由美子に対して悔しくなってきた。
朝、会社に行って夕方 家に帰って来る、毎日その繰り返し、何の楽しみもなく これから先どうしようか、こんな毎日だったら、いっその事 死んでしまおうか・・・・・
イヤ!子供達だけは道ずれに出来ない。死ぬなら一人で、そんな考えが頭を霞めた。
ただ、唯一の救いは、浩一と真由美のあの笑顔。
仕事から帰って来ると「パパー」と言って抱き付いてくる我が子、なんて可愛いのだろう。
そして、母は気を使って家の中を少しでも明るくしようとする姿に「お母さん、ありがとう」と心に思う
浩一と真由美は、私達を頼りにこの世の中に出て来たのに、一人が欠けてしまい頼りに出来るのは一人になったわけだ。
暗い気持ちで居たら子供達まで暗くなる。
浩一が生まれて六年、この子供達を残して自分の好きな道に行こうなど思った事はない。
結婚し子供が生まれ、もはや自分一人の体ではないし、子供達を一人前にする義務があるし責任もある。
苦しいから家庭や子供を捨て、面白くないから、嫌になったからと言って家を出る事が、何のための結婚か分からない。
母親が居ない事に対して、これから先、子供達は不敏な思いもするだろう。
この世に生まれて、浩一六年・真由美三年しか母親の傍に居られなかった。
子供達よ!お前達が大きくなった時、母親の事を話して聞かそう。
大きく、大きく明るい人間になってくれ、この父のような人生を歩んでくれるな。お前達二人のためなら、どんなに苦しい事でも努力をおしまない。
そして
もう三時だー。
随分、遅くまで起きていたな。
しかし、床に付いても また考えていた。
由美子!お前と別れて月日が流れ、やがて他人となる。それから別れたその日から苦しく長い毎日だった。
お前は人間として間違った道を歩んだ、長い人生、掛けがえのない短い人生、幸せの人生とは言えない。
この人生が終わりに近付くにつれ、きっとお前にも分かる時が来るだろう。
しかし由美子、その時はもう遅いぞ!




