孤児院の運動会①
今日は、孤児院の運動会、子供達を孤児院に預けて初めての行事。
朝五時に目が覚め、朝食も食べずに一路、浩一・真由美の待つ孤児院へと車を走らせる。
約三時間、二人の子供達に会うのが嬉しくて、嬉しくて胸のドキドキを感じた。
一日も早く何とかしなくてはと、いつも考え、イヤ!毎日考え目が熱くなる。運転しながら、そんな事を考え、子供達の待つ孤児院へ急いだ。
やがて、車は、孤児院の坂の下に着く
そして、その坂を少し登った所で考えてもない事が、あっ!!
浩一が早くも坂を転げるように走ってくる。
私はその場に車を停めた。
『パパがやっと来たぁ』浩一が息を切らせて走ってきた
「浩一、良ーくパパが来るのが分かったなぁ」
『うん 上からずっーとパパの車が来るの待ってたぁー』
「そうかそうかぁ さぁさぁっ早く車に乗れ」
『うん!』
浩一を乗せ、車は坂を上がり孤児院へ、そして施設内の中の駐車場に停めた。
「浩一、すぐに真由美を呼んでこい」
『うん!分かった』
浩一は走って真由美を呼びに行き・・・
『パパー、パパー』
浩一よりも早く真由美が走ってきた。
『パパーパパー』
何回もパパと呼ぶ真由美を抱き、頬ずりをした。
会いたかった二人の子供達、目が霞んで見えなくなる。浩一と真由美に沢山のお土産を渡した。
こんな事で、この二人の子供達に対する罪は消えるはずもない。
運動会が始まった。
☆パン食い競争☆
ピストルの合図で一列に並んだ子供達が走りだした。
浩一は真ん中に居た。
30メートル走ったところに袋に入ったパンがぶら下がっている。
「浩一!頑張れ!あと少し」
応援したかいもあって浩一は一番、次の競技リレーでも一番になった。
真由美も一番になり嬉しくて涙が出てくるのをこらえるのにとても大変。
きっと、一人だったら大きな声で叫んでいた事だろう。
☆お遊戯☆
音楽に合わせて、真由美が一生懸命 踊っている。こんな姿を見ていると、すまない、申し訳ない、もう少し我慢してくれと心の中で思った。
運動会、午前の部 終了
☆昼食の時間☆
浩一と真由美は「何でも食べられる券」を持って走って来てイスも三個用意してくれた。
『パパは、ここに座って待ってて!」
「おう!」
『真由美、行くぞっ!』
『うん』
二人は券を持って走って行き、その間、一人イスに座って見ているだけだった。
『パパ、持ってきた』
おにぎりに焼きそば、みそ汁など、沢山持って戻ってきた。
三人で沢山、色々な物を食べ、私は何もしていないのに、二人の子供達が全てしてくれ、後片付けまでしてくれた。
「なんか便所に行きてぇなぁ」
『パパ、僕もトイレ行きたくなった 一緒にいこ?』
「おーう行こう行こう!」
腹いっぱい食べて少し遊んだら午後の部が始まる。
☆ダンスの時間☆
「お父さん、お母さん、良かったらお子さんと一緒に踊って下さ~い」 と、アナウンスが入った。
浩一と真由美は、音楽に合わせ、みんなと楽しそうに踊っている。みんなと踊ろうかと思ったが、少し恥ずかしくて勇気がなく、踊りたくて仕方なかったが、最後まで踊る事が出来ず、バカみたいに見ているだけで、ダンスは終わってしまった。
☆休憩☆
ジュースを飲みながら、少しだけの時間だが遊んだ。
しかし・・・・・
刻一刻と帰る時間も近付いていた。そんなことを考えていると
その事を察したのか、浩一は
『もう、帰るの?』
「あーもう…そろそろだなぁー」
『僕も一緒に帰りたいよ~』
『まゆも一緒に帰りたい』
「そうしたいんだけどな……」
私は、そう言われても返す言葉が見つからない。
子供達の頭の中に、帰ってしまう事が分かっているようで、同じ事を何度も何度も言ってくる。その度、二人の子供達が可哀想で何とかしなくてはと思った。
運動会も終わり帰る時間がきた。
『パパと帰る』
『まゆもかえる』
「パパも明日は仕事があるし、いつまでもここに居たら、怒られちゃうから帰らなきゃ」
『こっそり帰ったら分からないよ』
「それこそ、そんな事をしたら、みんな怒られちゃうよ」
浩一も真由美も車の中に入り込み隠れて出ようとせず、二人の子供達は、私を困らせた。
私が全て悪い、だらしないから こんな事になるのだ。
十月二日には浩一の小学校の運動会がある。
「また学校の運動会のときは、必ず来るから」
『本当?学校の運動会にも来てくれるぅ?ヨシッ!やったぁ~』 真由美も『やったぁ~』
「じゃ約束な!それまで、いい子で待ってろよ」
『分かった、それまで頑張るよ』
『まゆも分かったぁ~』
そう約束して、二人の子供達は車から降りた。
きっと、一緒に帰りたかったのだろう、どれだけ家に帰りたかったかは痛い程 良く分かる。
いざ別れる時、子供達の目が赤くなっていた。それを見た時どうしていいか分からず。
「必ず十月二日の運動会に来るからまたなそれまで元気でいろなっ」
そんな一言だけ伝え車を走らせた。浩一と真由美がずーっと見てるのが分かった すぐに小さくなり見えなくなる。
孤児院の坂を下り県道に出た所で、もう誰も見ていないと思って大きな声で、出るだけの大きな声を出して泣いた。もう誰も見ていない・・・・・
家に着く間、子供達の声が頭から離れようとしない、かわいそうな二人、最愛の二人の子供達、浩一・真由美 一日も早く戻って来てくれ。
このような姿の子供達を見ていると、由美子を殺してやろうと言う気になる。今度会ったら殺してやる!
これは、頭の中に浮かぶだけで、今あの女に気を取られている時ではない。
人生を踏み外し、我が子を我が子と思わないのは、母親でもなければ、私の妻でもない。一番考えなければならない大きな事は、どうしたら子供達が人並みに、一人前に幸せになれるのかを考えるだけだ。
我が子の幸せを祈るのが親である。
しかし、由美子は違う。あれは人間ではない。
我が子が可哀想だとは思わないのだろうか?
我が子に鉛筆一本すら買ってやろうとしない。
由美子に子供達の話をすると聞きたくないのか、気を紛らわすかのように酒を飲む。
由美子の気持ちが分からない。




