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人生航路  作者: 智楼
10/63

由美子から電話

母が実家に帰り、一人で部屋にいた。


♪チーンチリチリチリチーン♪

「もしもし」

「もしもし、私」

「由美子かなんだ 急に電話なんかやこして」

「浩一は無事に小学校に入学できた?真由美は幼稚園に入れたの?私も行きたかったなぁ」

「二人共ちゃんとできたよ」

「そう 無事に終わったなら良かった」

子供達の入学・入園を忘れずにいた事は、やっぱり母親だと思った。

「じゃあ、もう三人で大丈夫だよね? 家の事は大変でしよょ?」

「当たり前じゃねぇか 大変に決まってんだろうがぁ」

三十分ばかり話ししたが、由美子は何を言おうとしているのだろうか?

この家に帰って来たいのだろうか?

電話を切り 一人考えた。

やっぱり由美子の言う事が理解出来ない。

帰ってきたいとも聞こえるし、そうでないようにも聞こえる。

本当の気持ちは、二人の子供達のためにも家に帰ってきてもらいたいのが本心だが、電話では一言も帰ってこいとは言わなかった。

由美子から電話があると気持ちが乱れ、その日の夜は殆んど寝る事が出来ず・・・昨日もそうだった。

由美子の気持ちが、あっちに飛んだり、こっちに飛んだりで私の気持ちさえしっかりしていれば、気が乱れなくて済むのにと責めた。

由美子と別れて七ヶ月 何をして来たのだろう?

三月・四月にかけて体が急がし過ぎたのは本当である。

今、出来る事は何か考えて決心したが、その決心が直ぐ頭から消えてしまい考えがまとまらない。やっぱりダメ人間かも、まるで心の中が腐ってしまったのかと思う今日この頃だ。


もう四月下旬、春だと言うのに心の中は寒々と風が吹いているようだった。

浩一・真由美が生まれた時の事を色々考えていると頭の中が運動会のようになる。

本当に弱い人間、何をしたいというのだ?

妻・子供を中心に考え、一円の金でも多く家に持ってくる事を喜びとし、妻や子供を最愛した。


この世の中には、神も仏もないのだろうか?

また明日から仕事だけれど、こんな事を考えていたら仕事に行くのが馬鹿らしくなってきた。

一生懸命やっているのに、こんな苦しみ、悲しみを味合わなければならないのか?

もう気持ちが決まっているのに人間ってみな同じなのだろうか?

一人で静かに考えているとこのように思える。

人前では口に出さず皆とバカを言っている。


これから先 何をやれば良いのか、一番先に何をすれば良いのか分からなくなってきた。

ただ、由美子には帰って来てもらいたい。

由美子をこの世の中で一番愛してる、これが本音だ。

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