僕が作った世界は、僕が責任を持って捨てなきゃ、ね?
真っ白な、何もない“無”の中で、それは漂っていた。
ふと上体を起こし、周囲を見回したそれは、突然声を上げた。
「…よし!決めた!おもちゃを作ろう!」
それの言う“おもちゃ”は、それが作り出したおもちゃの部品達によって、“宇宙”と呼ばれるもの。
おもちゃの部品は、青い星に、“人間”という形で置かれたもの。
そして、それは、いつしか、おもちゃの部品達によって、“神”と呼ばれる、絶対の存在となる―――。
神は、人間達に生命を、意思を授け、戯れに、水を動かし、風を動かし、そして人間に知能を与えた。
いずれ人間は、我が身を産んだ神の存在を知ると、“神話”を創り出した。
ただ、人間は間違っていた。神は、いくつも居ると思っていたらしい。
ただ一つの、絶対神によって作られたものとは、考えられなかったようだ。
神が作らなかったものを、人間は勝手に創った。
天国と地獄なんて、作ってない。
神は面白くはなかったが、人間の想像力に感心し、人間の動向をみて楽しんでいた。
かなり姿形が変わった辺り、人間は青い星を飛び出した。神は驚いたが、それでも楽しんだ。
そしてほんの一瞬、神は大地を動かし、海を動かし、山を動かした疲れか、その目を閉じた。
目を開けると、世界が汚れて、青さを失っていた。
神は焦り出した。人間同士を争わせた時とは違う、明らかな、星の終わりを予感し始めた。
「そんな…僕の最高のおもちゃが、おもちゃに壊される…!?」
全てを平等に作った筈なのに、どうして人間だけが一人走りしてしまったのだろう。
神は、一つ、解決策を見出だした。
「…なら、一度壊して、作り直そう!」
人間と同じような容姿に変化した神は地球上の島国に降り立った。
神の国と呼ばれた場所から、神は世界を壊す準備に入る。
全ての山を、大地を動かし、風を動かし、海を動かして全てを平等に飲み込む神の意思そのものを、人間はなすすべなくただ逃げ惑い、荒廃する世界をを神はただ無表情に眺めていた。
「つまんないなあ…」
物足りなさそうな神のもとへ、駆け寄る動物が一体。
「人間の創った奴…なんだっけな、首が三つの、地獄の…なんとかっていう奴?」
神は、気づくべきであったのだ。この三つ首の動物が、
自分に仇を成せるただ一つの生命であることを。
「ああ、そうだ、ケルベロスだ。こいつは、ケルベロス…」
突然、神を襲ったのは、ケルベロスから放出された炎。
ああ、と神は思った。
思い出した神は、情けもかけなかった。人間が思い浮かべるほど、神は甘くなかった。
ケルベロスは“神殺し”を成せる動物。プルトンと呼ばれる炎は、神をも蒸発させるほどの力だった。
「…まあ、意味ないけど、ね」
神にとってはおもちゃのおもちゃで、意に介すほどでも無かった。
全てを壊した神は、地球を壊そうとしたが、手を止めた。
「壊すのももう飽きたなあ」
神は、目を閉じた。
人間は案外つまらなかった。思ったより弱かった。
神は、次の考えが浮かぶまで、今まで通り漂うことにした。
どうでも良くなった。そして、漂いながら、考えた。
「…あれ、そういえば、僕は何で僕なんだろう。誰かに作られたわけでもないのに、僕はここにいる。なんで、かなあ?…ねえ、誰か知ってたりする…?」
生命の気配を失った広大な宇宙に、それは一つ、問い掛けた。
返ってくる声は、無い。答える声は、聞こえない。