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少年は、今日も彷徨う。

作者: 軋本 椛


 久しぶりにようやく文を書く気になったので調子に乗って投稿ですww


 ……設定はちょっと面白い気もするけど文章がなぁ…w

 こんな駄文でも呼んでくれるという心の広い方に感謝m(_ _)m




 ふと気がついたら、おれはそこに居た。


 建造されてそれなりの時間が経ったような古びたアパートの一室。壁に罅こそ入ってはいないが、畳は随分と傷んで変色し、ところどころ捲れて毛羽立っているようになっている。

 部屋は一人暮らしを主体とした一部屋に付属がついたような造りであり、多いとも少ないとも言えない家具が几帳面に整理整頓されていた。

 何人か囲んで座ることが出来そうな座卓の前に腰を下ろして座っていた俺の目の前には、冷めているのか湯気の出ていない緑茶。意味がわからないこの現状に頭を捻っていると、おれの手が畳の上に転がっていたバスケットボールに触れて、その存在に気づく。

 拾ってみるとそれなりに重いので、どうやら似せたおもちゃではないらしい。

 どうして部屋の中に転がっているのだろうか、と疑問に思って見上げれば、おれのやや頭上辺りにボールを吊るすネットが引っかかっており、その一部が千切れて破損しているのを確認して納得した。

 どうやらそこから落下したもののようである。

 そこまで考えて、思考の戻ったおれはどうしてこのアパートでくつろいでいたのかという疑問点を思い出した。冷めたお茶を放置して立ち上がり、部屋を見回す。


 ……ここはおれの部屋か?


 いや、違うだろう。という自問の答えはすぐに帰ってきた。

 おれはこんなふ風に几帳面に整えることは苦手で、掃除を始めるとむしろ汚していくタイプである。

 そもそもそんなだから一人暮らしなんてさせられないと言われるため、家から少し離れた中学へ入学しても寮には入らず実家から通っている。

 ならここは何処なのか、と考え、無意識に脳裏に浮かんだ光景に小さく微笑んだ。

 曖昧な記憶を探りながら、現状の理由をようやく見つける。


 ――――信じられないことに、おれはこの2週間の間記憶を失くしていたらしい。


 記憶が途切れる前に憶えているのは、何が原因か階段から突き落とされる光景。突き落とす相手の顔も浮かんでこないので、もしかしたら突き落とされたというよりは事故のようなものなのかもしれない。あまり段数があったわけでもないようで、病院に行った記憶もないから、おそらくは誰かに手当でもしてもらったのかもしれない。

 ……探ったところによれば手当してくれたのはこの部屋の住人である可能性が高いのだが。


 この部屋に住む、記憶をなくしたっぽいおれを受け入れてくれた彼は、どうやら高校生のようだ。明るいうちは学校に行っているようで、中学生の時にバスケをやっていて現在は軽音部に所属しているらしいよくわからない先輩である。

 発言がどことなくおかしいおれを病院に連れて行くのも戸惑われたようでホームステイを許認してくれたのだが、ご飯の作り方もすっぽり憶えていなかったらしいおれが相当不安だったようで、部活の時間を削って早めに帰宅してくれていたようである。

 ……学校にいくのだと言った彼に学校って何? とかとんと離れた発言をしたときの彼の顔は、今思い出すととても面白い。


 ―――と、それはともかく。


 そっかー、2週間かー。それだけの時間行方不明だったら親も心配しているんだろうな、と考えたおれは、記憶も取り戻したのだし帰らないといけないと結論付ける。

 一瞬お世話になったのだし先輩が帰ってくるのを待って、あいさつしてからのほうが良い気がするが、一度思い出してしまえば両親に会いたくて堪らない気になってきたのか、それまで待っていられなかった。

 かといって無言で消えるのは本当に失礼なので手紙を残していくことにする。


「“お世話になりました”…っと」


 目につきやすいように座卓の上に置いて、完全に常温になったお茶を一気に煽る。

 湯のみを洗って片付けるまで終えてから準備をしようと動きかけるが、そういえばおれは何も持っていなかったと思い出して、洗面台の前に立って髪を整えるだけにしておく。

 洗面台の電気をつけて、その瞬間おれは首を傾げた。肩に触れるほどに長く伸びた髪が頬をくすぐる。


 ――――あれ? おれってこんなだったっけ。


 身長も、体型も、髪の長さも、顔つきも。

 こうだと思っていた記憶にある姿とは、ほんの少しずつ、違う気がする。

 いままで普通だと当たり前だと受け入れて鏡の前に立っていたはずなのに、何か気持ち悪い。

 ……記憶が戻って、認識とかに齟齬ができたのだろうか。

 うん。そうだ、そうにちがいない。

 そう納得させて、おれは逃げるように鏡の前から立ち去る。

 記憶が無くなる前は裸足だったおれの為に先輩が買ってくれた靴を履くのが申し訳なくて、裸足のままで外に出る。ただでさえ今来ている服も先輩がくれたものなのだから、これ以上迷惑をかけるのも満足行かない。……結局あまり外に出なかったので使わなかったんだよな、と感慨深く思いながらおれが手を離した扉は、重い音を立てて閉まった。




 しばらく、あてもなく歩いて、ようやく重要なことにおれは行き着いた。

 ……ここ、どこだろう。

 実家からどれほど離れたどこであるのかが全く検討もつかず、歩き疲れたおれは適当に段差に座り込んで道行く人を眺める。

 おれの住んでいた辺りより都会であると断言できるこの街は、馴染めるような気がしない。

 道行く人が時々こちらをみて何かしらかを言いながら去って行ったり立ち止まったりするのだが、おれが裸足だからだろうか。そうでなくとももしかしたら田舎者だと馬鹿にしているのかもしれない。実際に田舎者であるため何も言えない。


 ――――実家の住所ってどこだったかな。

 最悪の手段としてその辺の通りがかりの人に住所を言って教えてもらうということを視野に入れつつ、おれは暗くなり始めた空を見る。

 街灯がつき始めた街中では完全に闇を見ることはないが、星が見えないのだと思うと少し残念だった。

 ……先輩はもう帰っているだろうか。

 今日も部活を切り上げて帰ってきているなら、既におれの手紙を見つけているかもしれない。

 意外とあの生活を楽しんでいたのだと自覚して、自嘲気味におれは笑った。


 ――――――あんなことがあったのに、お気楽なことだ。


「…………あれ…?」


 自然と思考が紡いでいた言葉に、疑問を持つ。

 ……あんなこと?


「なにが……あったん、だっけ…」


 靄がかかったような、霧がかかったような、ぼんやりとしたおれの記憶。

 曖昧で抽象的で断片的な、完全じゃない記憶。

 まぶたに焼き付いた光景を再生するかのように、ノイズまじりな映像が画像が頭の中で展開した。




――――先輩の家で見た、過ぎた日をチェックしてあるカレンダー。


――――歩いていたところを人とぶつかって落下していく瞬間。


――――見覚えのない人に笑顔を向けるおれ。


――――ぼうっとしていたおれの手を引く女の人の後ろ姿。


――――しきりに話しかけてくる泣きそうな顔。


――――白と黒の中で、おれを見てひそひそと同情と蔑みの会話を続ける親戚。


――――“忘れろ”と言って不気味に笑った歪んだ顔。


――――家の床に横たわる二つの身体。


――――真っ赤な、水溜りのように足元に広がる、なにか。




 頭の中が真っ白になっていくような感覚が、おれを襲った。


 まるでノートに消しゴムをかけるような、ごちゃごちゃになった黒板を消すような、大量の服が入ったタライに漂白剤をぶち撒けるような。

 そんな、全てが消えていく感覚。


 …………ぽつりぽつりと、冷たい雨が降り注ぐ。


「きみどうしたの、具合悪いの?」


 と、呆然と座り込んで濡れそぼったおれを見かねたのか、仕事帰りに見えるスーツ姿の若い女性が声をかけてきた。

 これ以上濡れないようにと傾けてくれた傘に、ふいにおれは涙を流す。


「おねーさん、だれ」




 ――――“おれ”の始まりは、10月下旬の雨だった。















『7月3日―――県で夫婦の殺害事件が――――唯一生き残った長男―――君は事件後行方不明に――――殺害事件犯人による誘拐かと言われており――――――…』




 “俺”ってちょっと荒っぽい気がしてギャップ以外での使用を避けていたというのが本音。

 先日平仮名での“おれ”に出会い不覚にもかわいいと思ってしまったのが主人公の一人称の理由ww


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