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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

祖父の話。

作者: みなみ
掲載日:2015/06/07

あなたが帰らなければ、私は今ここに居なかった。

あなたが生き残らなければ、私は今ここに居なかった。

ふとしたときに、そう思う。










私の祖父母の話をしよう。

祖父は祖母と二人、田畑の続く小さな村から工場がひしめきあう町へとやって来た。

二人はお見合い結婚だったそうだが、祖母は祖父に出会う前…何度かお見合いをしたものの相手が嫌だと断ったこともあった人なので、何かしらびびっとくるものがあったのかもしれない。

祖父は兄弟のつてもあり名の知れた大きな工場に就職した。

二人は三人になり、四人となり、忙しいながら楽しく時が過ぎていった。

しかし戦争が起きた。

戦火は激しさをまし、とうとう祖父は徴兵されていった。

それは終戦間際の事。

祖父は南ではなく、隣国に送られた。

そこから北の国へと抑留される。

極寒の地シベリア。

その地につくまでの事を話すことは生涯無かった。

もしかすると殺し殺されそうになるやり取りをしたのかもしれない。

シベリアでの出来事は悪酔いするとよくこぼしていた。

今でも覚えているのは、


『あそこの寒さはひどくてなぁ、氷が溶けることもないんだ…

仲間が死んでも土に埋めてやれない。

死んでまで寒い思いしなきゃならないのがかわいそうで悔しくて…

せめて土に埋めてやりたかった。

埋めてやりたかった…』


『掃除をするんだけどな、つまようじて溝のごみをほじくって、汚れているってぶん殴られるんだ。

必死にやっても同じだ。』



という二つ。

泥酔するほど深酒してしまい泣きながら話す祖父を、ああまたかと流す家族の中、幼い頃の私は固まり耳を傾け悲しいなって思うのだった。

家族が薄情なわけではない。

過ごした年月の分、その話を繰り返し聞き、泥酔後の面倒をみなければならなかった事もあったからだ。

祖父は酔うと死ねばよかったんだ!と道路に寝転びに行く事もあったから。転んで怪我をすることも多かった。


幼い頃、シベリアで寒い思いして死んじゃいそうになったり殴られたり戦争は嫌だな、位にしか考えていなかった。

しかしながら成長し戦争の話、原爆の話、沖縄での話、そしてシベリア抑留の話を読んだり、テレビなどの映像で見て祖父が帰れたのがどんなに幸運だったかが分かった。

祖父の現実はもっと悲惨だったのだろう。

記録に残らない悲惨さや非道も数多くあったに違いない。


死んでしまった人たちの上で、苦しんでいった人たちの上で私達の現在は成り立っている。

その時代を生きていなかった者でさえやりきれなさを感じるのだから、その時代にいた人の苦しみや苦悩はどれ程のものか。


祖父が生きて帰れたのは幸運であった。

祖母は死んだものと思っていたらしい。

そういえば幼い頃、シベリアからお手紙書けばよかったのにと言ったことがあった。

丁度幼稚園の先生から暑中見舞のハガキを受け取ったからだろうと思う。

今思えばなんて残酷なこと。


しかしながら、帰って来た後は幸運とはいえなかった。

今でも名の知れた企業である所の工場は首になった。

社会主義思考に染められたからと。

理不尽な話。

命からがら帰ってきて、寒さに耐え苦しさに耐え、みとることしかできなかった悲しみに耐え、その結果がそれ。

ようは体のいいリストラであった。

たくさんの人が死んでしまったがたくさんの人が職にあぶれた結果だった。


なんとか親族の小さな工場で働く場を得られたが暮らしていくには困るほど。

祖母も働きようやく生活が成り立っていたと聞いた。

私の父が生まれたのはそれからしばらくしてだった。



祖父が祖母が生き残らなければ私は今ここに居なかった。

そう思うと、なんて幸運なこと。

しかしながら、幸運は苦悩と理不尽悲しみに支えられている。

それを忘れてはいけない。

今は故人の二人。

いつか死を迎える時までに、祖父の戦争の事を誰かに残していきたい、夏が近づくたびそんなことを思う。



夏に大きな終わりはきたけれど、そこから始まってしまった祖父の話。

もう二度と、戦争が繰り返されませんように。


平和は尊い。

平和な時代に生まれたからこそ、趣味につっぱしる事もできる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 戦争論を展開するつもりはありません。 ただ、ご先祖様が命がけで残した、いまこの国に生きる人たちは、どれだけ他者に気を配れるのだろうかと、すこし心配になりました。 どこかの国で行われている、…
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