アーバン・スイーパーズ 「ダストシューター」01
どう?首尾の方は?
へえ、結構激烈なリアクションになってんだ。悪くないわね。
ホント、おかしいわよねえ。死にそうな…って実際殺されてんだけど…いじめに遭ってるって何回警察に訴えても何にもしてくれなかったのに、加害者に脅迫状が届いたって大騒ぎして犯人探ししてんだから。
警察の皆さんにはその熱意の一○○分の一でいいからいじめ殺された子供のケアに使ってほしかったわ。
ま、あたしたちの手紙は田舎警察風情が足取り辿れるもんじゃないから大船に乗った気でいてよ。
で?今出してるのは何人?
20人!そりゃ多いわねえ。何よこいつ、まだ生きてんの?あたしが手紙部門にいた時からターゲットなんだけど…。
まあ、人を殺しても何にも思わない様な人間は、週二で血まみれの「死ね」手紙貰っても平気なわけだ。
にしてもこれだけナシの飛礫だとそろそろターゲットを家族に拡大する必要があるわね…。
それはそれとして、約束通り今日は別部門の解説をするよ。
あたしらは、非合法の民兵組織で、色んな「社会悪」を討って来てる。
中でも創設者の理念らしくて「子供のいじめ」に関しては特に熱心なのね。
実は「手紙部門」もその一部で、特に「ダストシューター」(ゴミ捨て屋)と呼ばれる「対いじめ特務機関」が母体なの。
名前は「いじめ」なんだけど、実際は完全に刑事事件ばっかり。傷害罪、暴行罪、脅迫罪、強盗罪…。街中でやれば一発で逮捕なのに、何故か学校の中でやったら無罪放免なんだからどうかしてるわ。
警察に行っても無視されるどころか、警察から学校に連絡が行って、「チクった」ってことで本人が更に暴行されたりも日常茶飯事。
陰惨ないじめをやるような人間のクズどもは「逆恨み」が大得意だからね。自分がやらかした悪行三昧の犯罪行為は棚に上げて「チクった」からといって更に暴力を振るう。やれやれだわ。
でもって、それを放置していた周囲の教師や親、警察は「放置していた」ことを追及されたくないから結託して事実を隠ぺいに掛かる…と。
そこで我々の出番です。
私たちが発見することに成功した「いじめ被害者」は何が何でも守り抜くの。
ポイントは幾つかあって、ここが非常に独特なんでよく聞いてね。
まず、被害者本人の意思は無視します。
聞き間違いじゃないわよ。
被害者の依頼を受けて動くんじゃありません。「勝手に助ける」んです。
どうしてそういう体裁になってるかってことだけど、まず我々は非合法組織なんで表だって動くことが出来ません。看板掲げて商売してる訳じゃないから被害者くんが我々の存在を知る術がありません。
あと、これが大事なんだけどもしも被害者くん、或いは被害者ちゃんが私たちに「助けて」ってメッセージを発したってことになれば、それはつまり「チクった」ってことだから、上手く解決したとしても何年か越しの逆恨みを受ける可能性があります。
で…これが最大の問題なんだけど…いじめ被害者の子って「いい子」が多いから「助けてほしい」って自分から言わないの。
「大勢の人に迷惑を掛けるくらいなら、自分が首を吊るのが一番いいんだ」って思っちゃうのね。
だから本人に「助かりたい?なら助けるけど」って聞いても「助かりたい」とは言わないの。正にそういう子だからいじめられるんだけどさ。
なので本人の意思を無視してまず拉致します。
だから聞き間違いじゃないってば。
いじめは段階にもよるけど、学校外での暴行がエスカレートしてある臨界点を超えるとダイレクトに生命の危機に直結します。はっきり言うと「自殺に追い込まれる」んじゃなくて、そのまんまの意味で「殺される」わけ。
だったら学校行かなきゃいい?
あんた本気で言ってんの?
いじめ軍団は被害者の自宅の場所を知ってることが殆ど。仮に不登校で引きこもっていたとしても自宅を襲撃されます。実際に自宅にいたところを襲われて殺された例もあるので。
え?親は何をしてたって?
親は働きに行ってたりして無人だから。
それにSNSで「開けろ。開けねえとどうなるか知らねえぞ」ってやられるし、それを無視してもピンポン鳴らして「お荷物が届いています」ってやられたら開けちゃうでしょ?
情けない話だけど、親と一緒にいたのに「ボクたち友達なんで」って目の前で連れ出されて殺された例もあるの。自宅は全く持って安全でも何でもありません。
(続く)
*「ダストシューター」(ゴミ捨て屋)
いじめ復讐のための民兵組織。存在は厳重に秘匿されており、表立っては存在しないことになっている。
基本的に依頼を受け付けることは無く、自ら案件を探して活動する(いじめられっ子はそもそも活動的ではなく、復讐をよしとしない性格であることが多いため)。
顔馴染みから依頼を受けることもある。
「無罪のいじめっ子を救う」ことを目標とするため、本人(いじめっ子)の意思は関係なく事態を改善することを行う。
既にいじめ殺されたことが確実と認められる場合、中心的な加害者に対し、季節ごとに自殺者の名をかたって「地獄から」の手紙を送りつけ続けたり、服役して社会復帰している場合、過去の犯罪をこっそり拡散したりする。
非常に危険な状態のいじめ被害者を家族ごと匿う「シェルター」も完備されている。
いじめ加害者及び暴力教師などの行状を盗聴・盗撮・録画・記録する部門も充実している。
弁護士などの法務部門は持たない。表立って活動する分野を持てないため。ただ、一心同体の弁護士事務所が複数存在している。
過酷ないじめに遭いながらも立身出世を成し遂げた大富豪が私財を投げ打って設立した。
「調査部門」「分析部門」の情報部と「護衛部門」の実行部隊によって編制されている。
いじめっ子とはいえ、内実はサイコパス気味の重犯罪者予備軍としか呼びようの無い凶悪な生徒であることが多い。にもかかわらず、モンスターペアレントと化した親、事なかれ主義の学校関係者、隠蔽体質の地域社会など、事態の打開を完遂するには地域社会まるごとを敵に回した大戦争状態となることが多いため、組織化する必要があるのだ。
*「PWプレイヤーズ」
「アーバン・スイーパー」の実行部隊の中の下部組織で、非常に特殊な分野を請け負う。
13歳以下の少年少女で全員が構成されている。出自は刑務所内の少年服役犯などとされているが詳細は不明。
いじめ集団などに対し、転校して編入した後に全員を痛めつけ、大けがをさせるのが目的。全員が少年法の年齢制限に引っかからないために決して刑事告訴されないという「合法的」な「復讐集団」である。
また、学校内での出来事であるため、学校及び地域そして教育委員会が「加害者の更生」を名目に全て勝手に隠蔽してくれるために非常に安全である。
名前は「プロレス・プレイヤーズ」の略称。いじめ相手が死んでしまってすら「プロレス遊びだった」と強弁する教育関係者への皮肉から命名されている。
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【用語解説】
「アーバン・スイーパーズ」(都会の掃除屋)
非合法組織。
「皇法子」
現時点で不明。
「ダストシューター」(ゴミ捨て屋)
「アーバン・スイーパーズ」対いじめ部門。
「手紙部門」
「アーバン・スイーパーズ」の一部門。
「手紙作戦」
加害者に被害者(故人)を装った手紙を出し、精神的に追い込む。
生きている限り何十年でも続く。