どうしようもない
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二見が、笑ってくれない。
前からそんなに表情の明るい方じゃ無かったけれど、最近ではあまり目も合わせてくれなくなった。
二見が俺を見ない。
盗むようなあの視線が好きなのに。
口よりも饒舌なあの瞳が好きなのに。
こっちを見ろ。
「二見クン」
この呼び方をすると、彼は露骨に嫌がる。
今もトイレから出て来た一人のタイミングで名前を呼ぶと眉間にシワを寄せた。
ただ「二見」と呼ぶより彼の表情が動くから、楽しかった。
「なに」
「呼んだだけだよ」
「あっそ」
最近、お前が俺を見てくれないから、それでも名前を呼べば無視せずに俺を真正面から見てくれるから。
だから呼んだんだよ。
放課後の勉強会から、原が二見に話し掛けているのをよく見かける。
それに二見が笑い返しているのも見かける。
二見は、決して人付き合いが悪い訳では無いし、性格も悪くない。
話し掛けられれば答えるし、助けを求められたら手を貸す。
口が悪いのは多分俺にだけだ。
表情が凍るのは俺に向ける時だけだ。
俺は、二見に嫌われているんだろうか。
「二見、俺の事好きだよね?」
愛してくれると思った。
子供のような独占欲で俺だけを見ていてくれると思っていた。
その問い掛けに、彼は面食らったような顔をしたかと思うと、表情はすぐに歪んだ。
「うるせえな」
引き絞るような声だった。
「馬鹿にしてんじゃねえよ、なんなんだよ」
「え? 馬鹿になんて」
「してんだよ! いつもいつも。俺が、どんな気持ちで、お前を!」
なんで二見は怒っているのだろう。
今の俺の何がいけなかったんだろう。
俺がなんだ?
「もう、もういい。しんどい。くるしい」
「ちょ、ちょっと、何が。何がもういいんだよ」
二見が俺の肩を押して、距離を取った。
意味が解らない。
なんで勝手に一人で話を進めているのだろう。
「解って欲しいなんて思ってないから、良いよ。何焦ってんの」
二見が口端を上げて笑んだ。
でも、俺が見たかったのはそんな笑顔じゃない。
「二見?」
恐くなった。
二見が俺を見ない。
どこかへ行こうとしている。
そんなのは嫌だ。
そんなの、嫌だ。
「二見」
手首を掴むと振り払われた。
振り払われたからまた掴む。
そんなどうしようも無い事を何度か繰り返す。
「木崎」
彼は静かに俺の名前を呼ぶと、手首を掴んだ手の上から反対の手を重ねてきた。
「今までだって、彼女達は離れて行っただろ。同じだよ」
同じ?
同じだろうか。
彼女達から「別れよう」と言われて引き留めた事は無かった。
こんなに必死にはならなかった。
俺の感情は今どこをさ迷っているのだろう。
予鈴が鳴り、二見は俺の腕をやんわりと放した。
それからの事はよく覚えていなくて、もうどうしたら良いのか解らなかった。




