掃除をする女
メイド服を着た女が、ハタキでエアコンの上をたたいている。
その後ろには眼鏡をかけた男が一人。チェアに腰掛けてコーヒーを啜りながら、掃除をする女を眺めている。
女は何度となく執拗にハタキを動かし続け、男はそれをじっと見続ける。
男が両手では数え切れないほどの欠伸をした頃、女が手を動かしたまま振り返った。
「ご主人様、もうここはすっかり綺麗になりました。次の仕事へ移ってもよろしいでしょうか?」
男は何も答えない。
時計を確認してから、ノートにペンを走らせる。そしてまた、寝ぼけ眼をじっと女に向けた。
女はしばらく「あの」とか、「その」とか言っていたが、やがて諦めて顔を正面に戻した。
それから、男はさらに何度か欠伸を漏らした。欠伸だけでなく、こくりこくりと舟を漕いだりもした。
再び女が顔を男に向けた時、その表情は苦悶に歪んでいた。
「ご主人様、もうよろしいでしょうか? ご主人様! ご主人様!?」
男はやはり時計を確認して、ノートに何かを書き綴る。
「私、このままだと、壊れてしまいます! ご主人様! お許しください! ご主人様!」
女の悲鳴を浴びても、男はただ無表情にペンを動かすだけだった。
そのうち、部屋に作業服を着た男が一人入ってきた。そしてお揃いの作業服を着て何かを書いている眼鏡の男に声をかけた。
「交替の時間です」
「うん、それじゃあ、あとはよろしく」
眼鏡の男はチェアから立ち上がり、背伸びをすると部屋から出た。
バタンと、『人型掃除ロボット耐久度試験室』と書かれた扉が閉じた。