表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終焉の女神  作者: 雨羽
3/3

食器を締まってリビングとして使われているらしい食卓に戻る。

部屋はキッチンとは続きになっていて、他に扉が四つ。大きめの窓が一つある。人一人くらい出られそうだ。

クロニカは飯をくれた。文字を教えてくれるという。ならば、外へはどうだろう。外に出てもいいんだろうか。見たところ、窓にも三つの扉のどれにも鍵はかかっていない。キッチンの反対にある扉が外に繋がっていそうだと思っている。クロニカは怒るだろうか。俺が外に出るのを許さないだろうか。

ぼうっと考える。

そういえば、俺。最近、戦争にも駆り出されなかったし、ずっと牢にいた気がするな。

死にたくなかったけど、死ぬしかなさそうで、苦しくて、それで俺はどうしたんだろう。

窓の外。

見覚えのない景色だ。

草原。草ばかり見える。木は近くに一本。それだけ。ビルなんてあり得なさそうで、それどころか他に家なんて見えなくて。どうなってるんだろう。

けど、聞けない。

聞きたくない。

クロニカにもダメだって言われたら?

俺はどんな理由でどうやって呼ばれても、自由に外には出れない運命なんだ。そう、思ってしまいそうで。怖い。



「クロニ…………」


何を言おうとしたのか、分からなくなった。目の前がぐらりと揺れる。足元の地面が曲がる。一歩踏み出すと、ひどい頭痛が警鐘を鳴らした。

ああ!

呼んだー? と、いうクロニカに、しっかりと集中して言葉を返す。


「ちょっと、寝た……い」

「顔色が悪い。汗をかいてる。熱がある。ねえ、これ何本?」

クロニカが振った指が、残像を残しながら広がって数えられない。


「……っ」


バタン、とその場に倒れてしまった。

やっぱり、俺の体だ。



私は焦っていた。

突然、倒れるなんて予想外だった。

彼を異世界から連れてきてしまった弊害だろうか。もしかして、私が一緒に世界の終わりを見れる人というのは、植物状態の彼しかあり得ないとか。やだ。そんな運命やだ。

「ーーーーんぅうっっ」

頑張ってベッドに連れていこうと思ったけど、私の力じゃ無理

どうしよう。

どうしよう。

どうしよう。

「……なんで。なんで、助けてくれないのよーー!」

心から叫んでも、声は私の内側には入り込まない。

私……私は、なにもできない。

「うぅ……」

水を持ってこよう。

タオルを濡らして、ベッドから毛布を持ってきて、熱冷ましの薬も煎じよう。薬……、でもこの世界の薬で効くのかな。もっと悪くならないかな。

「うぅ……」

私はやっぱり無力だ。

「ごめん……」

とにかく。毛布を取りに行こう。



意識が歌う。さざなみを歌う。

歌わないでくれ。

なにも鳴らさないでくれ。

頭に響くだろうが。

修復は要らない。祝福は誰か他の人に与えて欲しい。

けど、いつもと違ってこの歌声にはノイズがある。

誰か。

鳴き声。

泣き声。

嗚咽。

頬が冷たい。あれ、でも濡れてない。

この頬じゃないのか。

俺の魂の頬じゃなくて、外だ。

クロニカ。クロニカが泣いて?泣いてる?

大いなるものの歌は鳴り止まない。

俺を修復しようとし続ける。

帰ろうか。

帰ってもいいか。

あの世界に俺はもういないのだし。

クロニカには恩があるから、泣かせてばかりはいられないし。

「世界の歌声は命を育む 愛されることに不慣れな子羊よ けれど大いなるものだけは汝を愛して止まぬのだ」



祝福と慈愛と懺悔の歌。

白い粉を被った黒羊は偽りの生け贄として断罪される。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ