手と手
面会室に案内されるなり、ラルローディアは扉の前に控えていた神官に静かに声をかけた。
「すまないが、少しの間、外していただけますか」
「それは……規則上、面会には、必ず神官の立ち会いが」
「自分を、信用できませんか」
低く、しかし、有無を言わせない声だった。
「碧き英雄と呼ばれる俺が、聖女に不埒な真似をするとでも」
神官は、しばらく目を泳がせていたが、やがて小さく頭を下げた。
「……承知いたしました。扉の外で、控えさせていただきます」
ラルの圧力におののいた神官は足早に部屋から出て行く。
扉が閉まり、部屋の中に二人だけが残された。
「リーヴァ」
その名を呼ぶと同時に、ラルローディアは、迷いなくリーヴァの身体を強く抱きしめた。
「……ラル」
「会いたかった」
「…うん…」
久しぶりの彼女の温もり。それを確かめるように、腕に力がこもった。
「会えない間、ずっと考えていた…」
耳元で、静かな声が続いた。
「恐れというのが、どういうことか。ずっと分からなかった。だが、気づいたんだ、俺が本当に怖いのは、魔物でも、死でもない。リーヴァを、失うことだった」
リーヴァは、その腕の中で静かに息を呑んだ。
「これが、愛というものではないかと思った…」
「……私も」
リーヴァは、腕の中からゆっくりと顔を上げた。
「私も、同じだった。ずっと、怖かった。あなたに迷惑をかけるんじゃないかって。この気持ちを伝えたら、壊れてしまうんじゃないかって」
「リーヴァ」
「でも……もう、隠したくない」
リーヴァは、まっすぐにラルローディアを見つめ、少し微笑んだ。
「ラル。……赤ちゃんが、いるの」
一瞬、部屋の時間が、止まったようだった。
「……子供…」
「うん」
「俺の……俺たちの、子供が」
確かめるように、そう繰り返す。リーヴァは、小さく、しっかりと頷いた。
その瞬間、ラルローディアの目から、一筋の涙が、静かに、こぼれ落ちた。
戦場でも、どんな痛みの中でも、流したことのなかった涙だった。それが今、静かに頬を伝っていった。
「……ラル」
リーヴァは、そっと手を伸ばすと、指先でその涙を優しく拭った。
「大丈夫だよ」
穏やかな声で、そう囁く。
ラルローディアは、頬にあてたリーヴァの手にそっと自分の手を重ねる。リーヴァは優しく微笑みながらラルローディアの手を取ると、自分のお腹にそっと導いていく。
「今朝、初めて動いたの」
その言葉に、ラルローディアは、息を止めたまま、その手のひらの下にある、小さな命の気配を、確かめるように、感じ取ろうとしていた。
「……ここに」
「うん。ここにいるよ」
リーヴァは、穏やかに微笑んだ。
その手の下で、二人からもらった命が静かに脈打っているのだった。




