別れ
村の船着き場に、朝靄がまだ残っていた。
ラルローディアは身支度を終え、ダンドの舟の前に立っていた。傷はすでに完治し、彼の足取りに以前の不自由さはもうどこにもなかった。
「……ちゃんと治って良かった…」
リーヴァは精一杯笑おうとした。だが、声は震え、笑顔はうまく形にならなかった。
「リーヴァ」
ラルローディアも、リーヴァの顔をまっすぐに見つめることしかできなかった。
「着いたら、すぐに手紙を出す」
「うん」
「それから、必ず、すぐに会いに来る」
「うん……」
「もし…たとえ神殿に連れていかれることになっても」
ラルローディアの声が、一瞬、強く張り詰めた。
「必ず、俺が会いに行く。何があっても」
その言葉を聞いた瞬間、これまで堪えていたものが、リーヴァの中で、崩れた。
「……っ、……」
涙が、次から次へと溢れ出した。声を殺そうとしても、抑えきれなかった。
「リーヴァ」
「ごめ……」
「謝るな」
ラルローディアは、リーヴァの身体をそっと抱き寄せた。
「俺だって、本当はここを離れたくない」
その声にも、僅かな震えが滲んでいた。
しばらく二人はそのまま抱き合っていたが、やがてリーヴァは、そっと身体を離すと、ポケットから小さな貝殻の欠片を取り出した。紐を通し、腕輪のようにしたそれをラルローディアの手に巻き付ける。
「これ……」
「私の力を、少し込めておいたの」
リーヴァは、涙に濡れた顔のまま、小さく微笑んだ。
「お守り代わりに。危ないことがあったら、少しは、ほんの少しだけど守ってくれると思う」
ラルローディアは、その貝殻の腕輪を、じっと見つめた。それから、まるで宝物のように唇で触れた。
「大事にする」
「うん」
そう言うと、ラルローディアはリーヴァの額に、そっと唇を寄せた。
「待ってろ」
短い言葉だった。それでも、そこに込められた想いの重さは、十分に伝わった。
「おーい、そろそろ潮目が変わっちまうぞ」
舟の準備を終えたダンドが、遠慮がちに声をかけた。
「……行ってくる」
ラルローディアは、最後にもう一度、リーヴァを見つめた。そして舟に乗り込んだ。
舟が静かに岸を離れていく。
リーヴァは涙を拭うこともせず、いつまでも遠ざかっていく舟の姿を見つめていた。手首に結ばれた貝殻の腕輪が、朝日を受けて小さく光っているのが、遠くからでも見えた気がした。
その光が見えなくなるまで、リーヴァは、その場から動かなかった。




