気持ち
家に戻ると、ダンドはリーヴァの無事な顔を見て、ほっとしたように息をついた。
「無事だったぞ、心配すんな」
「父さん……」
「俺は、あっちの様子も気になるから、ちょっと顔出してくる」
そう言うと、玄関から上がることもせず、ダンドはすぐにまた家を出ていった。彼女――村はずれに住むマンディのことを気にかけているのだろう。その気遣いが、いつもより少し急いた足取りに表れていた。
家の中に、リーヴァとラルローディアの二人だけが残された。
「リーヴァ」
ラルローディアが、剣を提げたまま、こちらへ歩み寄ろうとする。
その瞬間、リーヴァの足が、後ずさった。
「……っ」
自分でも、止められなかった。頭では分かっている。彼が、村を守ってくれたこと、それなのに体が、勝手に距離を取ろうとしてしまう。
ラルローディアの足が、ぴたりと止まった。
「大丈夫だ」
「……ごめん…あの…」
リーヴァは、震える声で、そう答えた。目の前にいるのは、確かにラルローディアのはずだった。だが、その手に握られたままの剣が視界に入るたび、恐怖で目が眩んでしまう。
ラルローディアは、リーヴァの強張った顔を見て、自分の手の中の剣に、視線を落とした。
「剣を持ってる男は……誰だ?」
静かに、そう尋ねた。
リーヴァは、答えられなかった。ただ、震える瞳で、彼を見つめ返すことしかできなかった。
ラルローディアは、その言葉の意味を、自分自身に問いかけるように、もう一度、剣を見た。
それから、静かに、それを床に置いた。
「俺だろう」
一歩、また一歩と、ラルローディアはゆっくり近づいてきた。
「リーヴァを傷つけるようなことは、絶対にしない」
「……」
「誓うよ」
その声には、迷いも、誤魔化しもなかった。ただ、静かな確信だけがあった。
リーヴァは、その場から動けずにいた。恐怖は、まだ胸の奥に残っている。それでも、目の前で、まっすぐにこちらを見つめる彼の目には、剣を握っていた時とは違う、優しい光があった。
震える足で、リーヴァは、一歩、彼の方へ踏み出した。
その一歩を、ラルローディアは、静かに待っていた。
もう一歩。また一歩。
やがて、リーヴァの身体が、ラルローディアの腕の中に、そっと収まった。
「……っっ…!怖かった」
その言葉に、ラルローディアの腕に、力がこもった。壊れ物を扱うような、それでいて、決して離すまいとするような、確かな力だった。
「好きだ」
耳元で、静かな声がした。
「リーヴァが、好きだ」
その一言に、リーヴァの目から、涙が溢れた。恐怖のためか、それとも、別の何かのためか、自分でも分からなかった。
「……私も…ラルが好き…」
小さく、そう呟いた。
窓の外では、いつもと変わらず、波の音が響いていた。だが、抱き合う二人を包む空気だけは、これまでとは、確かに違うものになっていた。




