ゴキブリによる殺人未遂事件簿
Gが出た
黒くテカる侵入者を見つめながら、スーッと息を整えた。
部屋の隅に背中を寄せ、警戒態勢をとりながら硬直するビーバーのような自分がそこにいた。
エイリアン
そう喩えるに十分なほど、異常な殺気をGは放っていた。
到底この世のものとは思えない風貌をしていた。何本もの細長い脚が床へ伸びている。
この人工的な無機物から構成される領域に侵入した異物。駆逐せねばなるまい。
やる!
脳の底に眠っていた野生の本能が呼び覚まされる。
Gを凝視しながら、瞬間的にフローリングワイパーの方に目を流した。
こいつで仕留める。
再度Gの位置を確認しながら、武器の方へ手を伸ばす。
チッ。擦れるような物音を立てながら床に置いたカバンの隙間に隠れた。
こいつ・・・速い・・・
なぜだ、まだ近づいてすらいないのに。顔を苦々しく歪めながら、息を吸い込み再度決意を固める。
計画はこうだ。まずは玄関の扉を開ける。その後、Gを部屋の奥から武器を使って外に追い出す。
よし!
武器を片手に、忍び足で玄関の方に繰り出すと、玄関の扉を少しだけ開け、ストッパーで固定した。
再度部屋に戻り、カバンをフローリングワイパーの先端で恐る恐る動かす。
いない!
十数秒前までいたはずの場所から奴がいなくなっていた。背筋が凍るのを感じる。部屋の四方を見渡す。時間の流れが遅くなるのを感じる。
ふと天井に目をやると、ロフトに続く傾いた天井にヤツが張り付いていた。何てこった、そこは俺の神聖な寝床だぞ。
フローリングワイパーを天井に伸ばして、上から降りてくるように誘導を試みた。しかし期待とは裏腹に、あろうことかロフトの奥に素早く姿くらました。緊張が高まる。
ロフトに続く梯子に手をかける。片手に武器、もう片方の手で手すりをしっかりと握りながら、慎重に上へ登っていく。
ロフトの上を覗き込もうとしたその瞬間、目の前を黒い閃光が通り過ぎる。
反射的に身体が後ろに仰け反った。手すりを堅く握りしめていたはずの五本の指は、一瞬の恐怖で大きく開いてしまう。
時が止まる
身体がゆっくり後ろに落ちていく
全身が風を切るのを感じる
グシャ
気づけば床に転げ落ちていた。
焦りながら起き上がると、手のひらが鈍く痛むのを感じる。見ると赤くなっていた。なんとか受け身はとれたみたいだ。
臀部をさすりながら振り返ると、すぐ隣で未開封の段ボールの箱が、無残にもひしゃげているのが目に留まる。
段ボールの箱がクッションになってくれたようだった。床に腰から落ちていたら一体どうなっていたかと想像すると血の気が引くのを感じた。
ふっ、ここまでにしてやろう
そんなフレーズが口からこぼれ落ちていた。
【その後】
ゴキブリ駆除の業者はほどなくして家に到着した。
結局大小五体ほどのゴキブリが見つかったようだ。
ゴキブリに殺されて異世界転生は相当笑い話(。•̀ᴗ-)✧




