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「あったあった! これか!」
草原に自生している草を引っこ抜くと確かに薬草と表記されている。採集なんて出来るとは露も知らなかったジジイは、そもそもこれまで採集アイテムを探してもいなかった。
「薬草はこのまま食ってもHPが回復するのか。これもクラフトで回復薬に出来るらしいのぅ」
採集アイテムにはそのまま使用出来る物も中にはある。薬草もその1つだ。ただしその回復量は微々たるもので回復薬とは雲泥の差がある。
「依頼で納めなきゃならんし、使わないにこしたことは無いの」
採集しつつも、時折発見するモンスターに突撃しそうになるが、さすがのジジイも死に戻りを避ける為に我慢している。普通のプレイヤーならガンガン倒してるところではあるが。
数時間の時が流れた。大概のプレイヤーはこんな地味な採集プレイはつまらないのでそこまで長時間頑張らない。
しかしながら便所コオロギはゲーム自体が新鮮であり、採集作業も結構楽しくやれていたのである。
「いっぱい手に入ったわい! アイテム袋がパンパンじゃ」
本来、そこまで時間の掛かる採集でも無いのだが、なにしろスライム相手でも隠れ、潜み、やり過ごさなければならない上、採集作業自体が手探りノロノロなので必要以上に時間が掛かるのだ。
それでも目当ての薬草、火炎草で満たされたアイテム袋にご満悦で帰路に着いた。
ギルドで依頼の報酬を貰うとクラフト工房へと赴く、さすがに数時間経っているせいか、お兄さんはもう居なかった。
クラフト工房へ入ると背の低いマッチョな種族、ドワーフがいた。この工房を経営しているNPCである。とりあえずジジイは話し掛けてみた。
「なぁ、ワシ、癇癪玉作りたいんじゃよ」
「おう、客か! なら先ず工房使用料の100G払ってくれ。……よし、確かに受け取った。今から24時間工房は好きに使用出来るぞ。癇癪玉だったな? 簡単だ。クラフトレベルを3以上にして火炎草をセレクトしてみろ、出来るクラフトの中に癇癪玉が表示される筈だ、それを選べばいい」
ぶっきらぼうだが、意外と丁寧に教えてくれるなと感心しながら、言われた通りにする事にした。
「クラフトレベルじゃな、ステータスから割り振るんだったな。んんと、どれくらい割り振ればいいんじゃ? ええわい、ポイント全部入れちまえ」
ここら辺がジジイスタイルである。初期の割り振りポイントに、スライムを倒したりギルド依頼報酬で入った経験値により、レベルアップ時のポイントもプラスされている。その全てを投入したクラフトレベルは10を越えていた。
「よし、これで作れる様になったはずじゃが…… 確か火炎草を…… おお! 癇癪玉や! 本当に出来た!」
そこからの作業は順調で、どんどんと癇癪玉を量産する。しかし、
「ありゃ、ちと金が足りんのか。どうしたもんかのぅ…… あ! 薬草の余りを売って来よう!」
クラフトには一回毎にGも必要なのだ。火炎草が有るのにG不足で作れない。そこで余ってる薬草を売りに道具屋へとダッシュする。
「姉ちゃん薬草買うてくれ!」
「はい。1つ30Gで引き取ります」
「そんなもんなんか…… ほかに売れる物無ぇかのぅ…… お! 棒切れと服も売れるな。サンダルも売れるのか!」
まさかの装備全売りである。パンツ一丁になったジジイは、いよいよホームレスの風格が漂い始めていた。
「おい! あのホームレスいよいよパンイチになったぞ!」
「追い剥ぎにでもあったのか?」
「この場合ホームレス狩りかしら?」
そんな噂をされてるとも知らずに、ジジイは歯抜け顔でニタニタしながら工房へと戻る。
「おう爺さん戻ってきたのか……っておい! なんでパンツ一丁になってんだよ!」
【Elegant paradise】のNPCはかなり優秀なAIが搭載されており、その対応は人間のそれに程近い。工房のNPCのドワーフもさっきのジジイがパンイチで帰って来た事に動揺している。
「おう親方、売ってきた」
「売ってきたってお前なぁ……」
NPCにすら呆れられるのがジジイである。
それでも金策に成功したので癇癪玉のクラフトを再開する。そして散々時間を掛けて作ったのが癇癪玉20個でしかなかった。癇癪玉1つ作るのに火炎草が2つ必要なのである。
ここら辺がこのゲームにおいて爆弾の使用頻度の低さたる所以である。
実際爆弾系統は強いのである。しかしながらそのクラフトの手間や金額などを考慮に入れると、とてもじゃないが効率も採算も悪いのだ。だから一般にはいざというときの保険に1つ2つ持ってる程度だろう。持ち歩かないプレイヤーの方が断然多いかも知れない。
「おっほー! 20個か! 頑張って作った甲斐もあるってもんじゃ!」
そんな損得勘定なぞ全く頭にないジジイには関係無い話ではあるが。
クラフトを終えたら、癇癪玉片手にパンイチホームレスジジイがフィールドに向かいひた走る。現実世界でやったら2秒で御用になる素敵スタイルだ。
フィールドに舞い戻ったジジイは仇敵スライムを探す。
癇癪玉の使い心地を試す為に一匹でうろついているのを探していると、
「おった! 兄ちゃんは確か3発くらいと言っとったな……」
しっかりと狙って放り投げると、爆発と言うよりは破裂に近いそれではあった。パァンと言う小気味良い破裂音と共に、確かにスライムのダメージゲージは3分の1程削られている。それよりジジイが面白かったのは、スライムが怯んだところだった。
「ほう、これなら連続してダメージを安全に当てられるな!」
続けて2発3発とお見舞いすると、スライムは怯み効果で反撃もままならず倒された。




